2025年01月23日

998Rレストア-8

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 エンジン始動確認と調整を一通り終え、車体を組み立てています。各部品を綺麗に掃除しながら作業を進めていきます。しかしこのような部品(フューエルタンクとエアボックス間のガスケット)は経年劣化で要交換ですね。同様にブローバイのキャッチタンクからエアボックスに繋がるホースも交換しました。



DSC02309 こちらはフューエルタンク内部の燃料ポンプ関係の部品です。燃料ポンプ本体、燃料フィルター、燃料ホースの3点は新品に交換しました。レベルゲージのナットもお約束の通り割れていたので、TFDオリジナルのアルミ製ナットに交換しました。




 プラグコードですが、入庫時にはオリジナルではない(当時流行っていた?)社外の部品が取り付けられていました。オリジナルに戻したかったのですが、998系の純正プラグコードは既に廃番になっており、入手困難な状況になっています。
 当時の社外品は、これを付ければ性能アップ、みたいな謳い文句のものが多かった印象でしたが、自分の意見としてはプラグコードはノーマルで十分だと思います。当時のレーシングマシンのRSにもノーマルに準じたものが使われていましたし、そもそもエンジンの調子が悪かったとすればそれはプラグコード以外の問題であることが殆どで、それを、プラグコードをこれに交換すれば調子良くなりますよ、という話の持って行き方はおかしくないですか?

 DSC02322しかし無いものは無いので代わりのものを取り付けるしか方法がありません。そこで今回はこれを使用しました。永井電子の製品で、大昔からたまにお世話になることがあったシリコンプラグコードです。今となってはプラグコードを必要とするのは4輪2輪共に主に旧車ということになりますが、需要は少なからずあると思うので頑張って造り続けて欲しいと思います。998R用という既存の製品が存在しましたが、注文時にそれを基に長さを変更して製作していただきました。こういった小回りが利くのも良いと思います。

DSC02325 取り付けるとこんな感じになります。自分の好みとしてはやはり色はクロが良いと思うのですが、選択肢はこの色しかありませんから仕方ありません。まあ、カウルを付けてしまえば見えませんし。





DSC02334 ということでその他にもいろいろとありましたが、バイクは完成し、無事に予備検査も取得しました。現在は登録中で書類が所轄関係機関を行ったり来たりしていると思われます。

  

Posted by cpiblog00738 at 18:53

2025年01月01日

998Rレストア-7

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シリンダヘッドの組み立て作業に取り掛かりました。まず気になるのがカムシャフト軸受けに残された痕跡で、カムシャフトとの当たりの強さが気になります。この痕跡はカムプーリー側の軸受けに散見されます。理由は明白で、タイミングベルトのテンションで2本のカムシャフトが内側に引っ張られてその結果軸受けに強く押し付けられるからです。ベルトの張り過ぎ?とも言えますが、メーカーの指定値で張り調整するとだいたいこんな感じになりますから、メーカーとしては想定内なのかもしれません。これが原因となって壊れてしまうことは無いと思われます。しかし軸受けの状態を目の当たりにしている自分としてはやはり気持ち悪いので、ベルトのテンションはかなり弱めに調整することが多いです。
 テスタストレッタエンジンの場合はカムが軸受けに直接載っていますが、デスモクアトロエンジンの場合はカムをボールベアリングで支持しています。この場合でもカムを支持しているベアリングが内側に押し付けられて、その結果ベアリングのハウジングの内側の当たりが強く、ヘッド側のアルミがツルツルピカピカになっている場合が多いです。そうなるとおそらくハウジングの真円度も崩れていると思われます。


DSC02227DSC02228 シリンダヘッド組み立て中です。この眺めは随分昔にフェラーリのエンジンの写真で見た記憶があります。何のエンジンだったかは記憶にありませんが、もしかするとプロトタイプで実際に車体に載って公道を走ることは無かったエンジンなのかもしれません。フェラーリの場合は片バンク6発ですから、これが6連装ということでかなり凄い眺めだった記憶があります。要するにテスタストレッタは元々フェラーリのテクノロジーだったということになるのでしょうか?


DSC02229 シリンダヘッドが完成しました。組み立てにかかる時間はデスモクアトロヘッドよりもこちらの方が短時間で済むことが多いです。それは構造上テスタストレッタヘッドの方がバルブクリアランスの調整がやりやすいからだと思います。




DSC02230 エンジンの腰上を組み立てます。シリンダスタッドボルトの溝にはオーリングが取り付けられてエンジンオイルがスタッドの穴に侵入しないような構造です。しかし稀な例ですが、クランクケース内の内圧でエンジンオイルがこのオーリングのシールを突破してスタッドボルト内に侵入し、結果としてヘッドナットの周りからオイルが漏れることがあります。
 使用されている純正のオーリングの規格はAS568-011で内径φ7.65mm、線径1.78mmです。似たような大きさのオーリングでP8という規格のものが存在していて(こちらの方が一般に良く知られていると思います)、こちらは内径7.8mm、線径1.9mmです。こちらの方がちょっと太い感じですよね。ちょっときついかな?くらいのフィーリングで普通に組めるので、自分の場合はこのオーリング(材質はFKM-70、所謂バイトン)を使って組み立てることが多いです。随分長い事使っていますが、効果は有るみたいでヘッドナット迄オイルが上がって来るトラブルは今のところ皆無です。勿論オーリングが収まる場所に異物が入り込まないように気を使って組みたてるのが大切なのは言うまでもありません。

DSC02232 腰上が組み上がったところでバルブタイミングの計測と調整を行っています。いつも言いますが、この作業は非常に重要です。






DSC02233DSC02234 ということで漸くエンジンが完成しました。外観も綺麗になってレストア前と比較すると見違えるほどです。ウォーターポンプのホースユニオンはアルミ製のものに交換済みです。オリジナルはスチール製で錆びるのが早く、何時も何とかしたいと思っていましたが、2000年代後半からアルミ製の純正部品が入手可能になり、それからはデフォルトでアルミ製部品に交換するようにしています。


DSC02235 早速エンジンを車体に載せています。冷却水のホースはサムコのシリコンホースです。デフォルトの色は青ですが、やはり黒の方が雰囲気が良いと思います。高価なホースではありますが、今や純正部品だと廃番で入手不可なものも混在しますし、有ったとしても価格は税込みで6万円を超えますから選択肢としてはサムコをはじめとする社外部品とならざるを得ません。
 写真ではエアボックス無しの状態でファンネルやインジェクターが装着されていますが、この状態でとりあえずエンジンの始動を試みます。この状態であれば調整ともし不具合が出現した場合への対処が容易であるからです。
 そして先程外部の燃料タンクを接続してエンジンの始動を試みましたが、やはり初期トラブルは出現しました。想定内のトラブルでしたが、前側気筒のインジェクターが燃料を噴きません。目視できる状態で作業しているので一目瞭然です。もしエアボックスとタンク等が装着された状態であれば不具合の原因の特定にかなり余計な時間を費やすことになったでしょう。トラブルの原因は長期間放置されたことにより燃料通路内部に残留していたガソリンがガム化してインジェクターノズルが固着したことによるものです。重症の場合はインジェクターを取り外して清掃することになりますが、今回は無理やり片肺のままエンジンを始動させるとエンジン始動とともに眠っていたインジェクターの方も目を覚ましました。クランキング時のインジェクターへの開弁信号の数はたかが知れいていますが、エンジンが始動すれば送られる信号の数が桁違いに多くなるのでびっくりして目覚めるんでしょうね。(笑)

 ところで申し遅れましたが、

皆様、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。

 今日は午後イチからエンジン始動に向けていろいろと作業をしておりました。スロットルボディーの初期セッティング中にスロポジの不具合が発覚し、部品を交換したりと想定外の事態もありましたが結果的に無事にエンジンの始動と調整を終えることが出来ました。
 作業が遅れてお待たせしてしまっている仕事が多々あり、お客様にご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。遅れを取り戻すのがとりあえず年初の目標となります。何卒宜しくお願い申し上げます。

さ〜て、酒、酒、と。
  
Posted by cpiblog00738 at 18:13エンジン/メンテナンス

2024年12月29日

998Rレストア-6

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 分解したシリンダヘッドを点検していてちょっとした問題が発覚しました。写真には穴が5個写っていますが、左右両端はスタッドボルト用の穴で、それ以外の3個の穴は冷却水の通路となる穴です。相手側のシリンダーに設けてある水穴の位置が冷却水による変色ではっきり認識できます。中央の穴以外は明らかに穴位置が合っていません。


DSC02206 特にこの穴は完全に塞がれている状態です。998Rの場合、ヘッドガスケットは溝にはまったウイルスリングでシリンダーとヘッドの面はアルミが直接接触していますからこのように冷却水が触れていた痕跡が明白に残ります。穴がずれているとはいえ、かろうじてシリンダー側の溝に存在しているオーリングの内側に位置しているので水漏れが発生していないのは何よりですけど。


DSC02207 対策として水穴のとば口を削って広げ、冷却水の通路を確保しました。実は998Rの場合このトラブルの頻度は高く、同様な例を幾つか見ています。前述した、新車のエンジンでも幾つかのトラブルを抱えたまま組み上がっている場合があります、というのは例えばこういったことなのです。




DSC02208 カーボン等の汚れを落とし、ヘッド面もすり合わせをしたシリンダヘッドです。ちなみに水穴の大きさですが、インテーク側の3個は小さくエキゾースト側の3個は大きいのが判ります。インテーク側は燃焼前の混合気で冷やされ、エキゾースト側は燃焼ガスで熱せられるのでこのように水穴の径を変えることで冷却水の流量を調節し、ヘッドの温度が均一になるように調整しています。とはいえ穴が塞がっていたらダメですけど。


DSC02210 バルブステムシールを取り外しましたが、ステムシールの一部のゴムががる部ガイドに焼き付いています。わざわざステムシールを取り外したのはガイドを抜く時にガイドを燃焼室側に抜きたかったからです。ステムシールが付いた状態だと燃焼室側に抜くことが出来ません。何故燃焼室側に抜きたいかというと、特にエキゾーストガイドの排気ポート部分にはカーボン等が付着していてそれを完全に除去するのは困難で、その状態でガイドをカムシャフト側に抜くとシリンダヘッドのガイド穴にガイドに固着したカーボンによるキズが発生する可能性があるからです。


DSC02211 こちらはバルブです。カーボン等の汚れを磨いて落とし、バルブフェースをバルブグラインダーでリフェース済みです。バルブの単価が安ければ新品バルブを使用するのが妥当ですが、バルブの新品価格は万単位ですから、バルブステムが明らかに痩せているとか曲がりがあって首を振っている等の不具合が無ければリフェースしての再使用が妥当です。


DSC02212 既存のバルブガイドを取り外したシリンダーヘッドです。







DSC02214 シリンダヘッド内部の部品も洗浄点検し、特に問題の無い状態であることを確認しました。






DSC02220 新しいバルブガイドを取り付け、ガイドの穴径をバルブステムの径に合わせてリーマで広げて合わせます。リーマは6.95mmから初めて、次に6.96mm、6.97mmと0.01mmずつ大きくして行ってバルブが通って自由に動くようになったところで終了します。ということでバルブガイドとバルブステムのクリアランスは0.01mmと言って良いと思います。実際にはもう少し大きい感じがしますが。
 この狭いクリアランスを確保できるのはバルブガイドがベリリウム銅合金で製作されているからです。この材料はクリアランスが小さくても焼き付いたりせずにスムーズにバルブが摺動します。他の材料でこのクリアランスは危険かもしれません。
 そしてその後にバルブシートをリフェースします。ガイドを交換してバルブの角度がそれまでとは多少なりとも異なるので、そのままではバルブフェースとバルブシートが密着せず、圧縮を確保できません。写真のリフェース中以外の3ヶ所は既にリフェースとすり合わせが終了して、バルブフェースとバルブシートの当たりが良好であることを確認済みです。


DSC02221DSC02223 ガイド交換、シートのリフェース、すり合わせ等の一連の作業が終了したシリンダヘッドです。ノーマル状態のままだとインテークバルブシートのポート側はポートの内側に出っ張っている状態なので、混合気の流れを阻害しないようにその部分を修正してあります。これでヘッドの組み立て準備が完了です。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:58エンジン/メンテナンス

2024年12月28日

998Rレストア-5

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 さて、これはクランクシャフトギアを取り付けているM24のナットです。こういったナットの表裏って考えたことがありますか?一見表裏の区別は無く見えますし、ぶっちゃけどっちから組み付けても大差ないと言えばその通りです。





DSC02192 でも端面をすり合わせてみると、こちら側はちょっと擦り合わせただけで綺麗に面が出ます。






DSC02193 反対側はというと、あまり平滑とは言えない状態で、ちょっとくらい擦り合わせてもなかなか面が出ません。
 おそらくこうしたナットは元々はとても長いナットで、それを切り落として製作しているのだと思います。端面を仕上げて突っ切りの刃物で切り落とし、端面を仕上げて突っ切りで切り落とし、の繰り返しなのではないでしょうか。端面を仕上げた面が綺麗に仕上がっていて、反対側は切り落としたままの状態、ということではないかと思います。
 何はともあれ、自分の場合はナットの平滑な面を対象物に向けて組みようにしています。実際問題としてはどっちの面を対象物に向けて締めても大差ないと言えば大差ないと思いますし、気持ちの問題と言えばそれまでですけど。


DSC02195 エンジンの右側です。1次ギア、オイルポンプ等が存在します。クランクシャフトギアはクランクシャフトのスプラインに挿入して固定されています。昔のタイプのエンジンはシャフトとギアの穴がお互いテーパーになっていて、ギアを取り付けてナットを締め付ければ勝手にセンターが出ますが、スプラインだとシャフトとギアの間に隙間というかガタがあるので、何も気にせずにナットを締め付けるとギアのセンターが出ません。その結果1次ギア(クランクシャフトギアとその相手側ギア)のバックラッシュが狭いところと広いところが出現してしまい、極端な場合はクランクを回転させると一か所だけ回転が重く回りにくくなる場所が出現します。なのでクランクシャフトギアを締め付ける時はギアのセンターが出ているかどうかを気にしながら作業することになります。


DSC02196 こちらはセルモーターです。走行距離が少ないので問題は無いと思いましたが、念のため分解してチェックします。その結果、ブラシの残りも十分で特に問題はありませんでした。コミュテーターは研磨仕上げ、断面が潰れてきし麺状態になってしまったオーリング類は交換します。




DSC02197 スターターのフリーホイール、ワンウェイクラッチとも呼ばれている部品です。こちらも走行距離が少ないので大したダメージはありませんが、予防整備の観点から新品に交換することにしました。右側が新車時に組まれて今迄使用していたもの、左側が現在の新品です。仕様は時とともに進化していて、形状が異なります。最新の部品の方が性能的にも進歩していると思われる点も、あえて交換する理由です。


DSC02199 エンジン左側も組み上がりました。タイミングギア、フライホイール、シフトコントロールアーム等が存在します。







DSC02202 DSC02203シリンダーヘッドを分解しました。特に問題らしき要素はありません。ただやはりバルブガイド、特にエキゾースト側は低走行にもかかわらずかなり消耗しており、ガイドとバルブステムのクリアランスは大きくなっていました。
  
Posted by cpiblog00738 at 23:39エンジン/メンテナンス

2024年12月27日

998Rレストア-4

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 こちらはクラッチ関係の部品です。スリッパークラッチではなく、ノーマルクラッチです。ノーマルクラッチはクラッチドラムの内部に12個のゴム製ダンパーが存在し、それらによって加減速のショックを吸収する構造になっています。これはこれで優秀です。




DSC02178 ミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。特に問題はありませんでした。サークリップ全てとグルーブワッシャーの痛んだものだけを交換します。





DSC02179 ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも特に問題はありません。同様にサークリップと痛んだグルーブワッシャーは交換します。このシャフトのセンターは穴が貫通していてその中をクラッチのプッシュロッドが通ります。そのプッシュロッド用のニードルベアリングとオイルシールも交換です。


DSC02180DSC02181 クランクシャフトからコンロッドを取り外しました。コンロッドに問題は無く、状態は良好です。しかし大端メタルの状態を確認したところ、こちらはそれなりの消耗具合です。走行距離にしてはメタルの状態は良くありません。原因は不明ですが、使用していたオイルが原因でしょうか?それともメタルクリアランスが正しくなかったのでしょうか?今となっては原因は不明です。

DSC02183 こちらはクランクシャフトです。状態は良好です。クランクピンの内部はプラグを取り外して洗浄します。内部には結構なスラッジが溜まっていることが多いです。





DSC02186 メタル合わせを行い、適正なメタルクリアランスでコンロッドをクランクシャフトに組み付けました。今回のメタルクリアランスは0.051mmと0.050mmでした。レース専用車の場合は0.055〜0.060mmにとりますが、街乗りメインであればこのくらいが適正だと考えています。スチールのコンロッドであればもう少しクリアランスを狭く取りますが、チタンコンロッドの場合は熱膨張が少ないので数値は大きめです。


DSC02188 クランクケースに内部部品を仮組して各シャフトの位置をシム調整によって決定します。どのように調整するかと言いますと、クランクシャフトの場合は適正なイニシャルプリロードがかかった状態でコンロッドがシリンダーの中央に位置するように、ギアシャフトの場合は各ギアのシフト時にドッグの嵌り具合が適切になるようにです。ミッション関係はシフトフォークの曲がりが無いか、曲がっていてもシム調整の範囲で正しく機能させることが出来るかどうか、この辺は経験値がモノを言います。


DSC02189DSC02190 内部部品の調整が終了したところで、左右のクランクケースを合わせて組み立てました。

  
Posted by cpiblog00738 at 12:14エンジン/メンテナンス

2024年12月21日

998Rレストア-3

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クランクケースを洗浄して点検しています。何も問題はありません。通常モデルの金型のクランクケースと比較すると、砂型のクランクケースは無骨な印象です。



DSC02165 こちらはエンジンの右側に付く部品群です。既にメンテナンス済みで、交換する消耗部品は取り外されています。左下の部品はオイルポンプ本体とカバーですが、カバーの取り付けに問題がありました。それ以外は特に問題はありませんでした。



DSC02167 オイルポンプ本体とそのカバーですが、この個体はカバーの取り付けボルト6本の締め付けが異常に弱かったです。ボルトを緩めた時に受けた印象だと、おそらく締め付けトルクは3Nmくらいだったのではないでしょうか?何が原因でそうなったかは不明ですが、カバーが外れなくて良かったです。カバーが外れかかってオイルがその隙間から逃げるようになると、急激な油圧低下が発生しますから、その結果エンジンに重大なダメージが発生します。

DSC02168 こちらはエンジン左側のカバー類です。特に問題は無く、状態は良いと感じます。冷却水ホースが刺さるスチール製のユニオンはアルミ製の部品に交換します。スチール製の部品は時が経つと必ず腐食して酷い状態になるので苦労が絶えなかったのですが、アルミ製の純正部品が手に入るようになってからは問答無用で交換です。


DSC02161 さて、シリンダーの作業に取り掛かりました。まずはシリンダーヘッドガスケット、というかリング状のシールリングを取り外します。以前の記事で「こういうのはやめてください」みたいなのがあったと思いますが、このガスケットリングをどうやって取り外すかといいますと、私はこのように作業しています。
 リングは内部にガスが封入されている状態なので構造としては中空です。そこでドリルで小さな穴を2ヶ所開けて細い針金を通します。


DSC02162 そして通した針金をプライヤーでつかんで引っ張れば、この通りです。簡単に取り外しが可能です。ちなみに使用しているドリルの径は0.8mm、針金の太さは0.6mmです。





DSC02170 シリンダーとピストンです。状態は良好で問題ありません。ピストンリングも問題無し。このまま再使用します。


  
Posted by cpiblog00738 at 23:15エンジン/メンテナンス

2024年12月16日

998Rレストア-2

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 車体周りもとりあえずは全バラで行きます。スイングアームピボットのベアリングはエンジンを降ろした状態でないと出現しませんのでこの機会を逃すわけにはいきません。それととにかく掃除して磨いて綺麗にしないと。




DSC02142 DSC02143スイングアームです。チェーンスライダーはお約束の加水分解で跡形もありません。 
 ベアリングこそ取り外しませんが、まずは分解して綺麗にします。走行距離が少ないので個々の部品の消耗は殆どありません。


DSC02144 スイングアームの作業はひとまず終了です。さすがにいくら磨いても除去できない汚れはありますが、これは致し方ないですね。ここには写っていませんが、リアサスリンクのロッドも分解しました。上下にピローボールのロッドエンドが付いた部品ですが、やはり錆て固着しており、バーナーで加熱したりと結構手間がかかります。取り外した後はタップとダイスでネジ山をリフレッシュしてからグリスを塗布して組み立てました。

DSC02145 リアショックユニットです。走行距離が少ないので内部のダメージは少ないと予想されますが、バンプラバーを見るとさすがに朽ち果てかけています。ということでリアサスはオーバーホールします。





DSC02147 こちらはフロント周りの整備中の様子です。ステアリングヘッドのベアリングの分解点検、フロントフォークのオーバーホールを行います。
 ステムベアリングは新車時から締め付け過多の場合が多いのですが、この個体は以前に分解整備された形跡があり、前作業者の適切な整備の施工によって非常に良い状態であったことが確認できました。でも使用していたグリスは少なくとも15年以上前のものですから、洗浄して古いグリスを除去し、新たにグリスアップして組み立てました。


DSC02148 フロントフォークのオーバーホールが終了したので、再び車体を組み立てました。フォークは走行距離が少ない割にはオイルの汚れが著しい印象を受けました。もしかすると使用していたオイルによる影響かもしれません。





DSC02154 車体周りがひと段落したので次はエンジンに取り掛かります。とりあえず分解です。エンジンの外見は綺麗ではありませんが、内部は走行距離が少ないのでさすがに綺麗です。内部の状態が良好であるなら外側だけ掃除して綺麗にすれば?というのもアリかもしれませんが、今回は内部もちゃんとやり直します。何しろ15年以上固まっていたエンジンですから。
 それと、新車時のエンジンが状態として一番良い状態である、と今の時代の人達は認識している場合が殆どだと思いますが、少なくとも約20年前の当時はそんなことも無かったのです。(今もそうかもしれませんが)
 新車のエンジンを分解た経験から、新車のエンジンでも何かしらの不具合を抱えた状態のままであることが少なくありません。もちろん多いとは言いませんが。
 何故新車のエンジンを分解したことがあるかというと、例えば90年代後半に新車のコルサが納車された時には、実際に走らせる前に一度分解して状態を確認するのが常識でした。新車のコルサのエンジンでさえ、バラしてみたら部品が足りなかったり組み付けの不良があったという経験があります。
 また街乗りバイクに於いても、当時は新車が納車されたらまずはエンジン、車体、ともにオーバーホール、という志の高いお客様も何人かおられました。お客様曰く、「調子が良いのか悪いのか判らないバイクを最初のオーバーホール時期まで、少なくとも2万キロとか乗るのはイヤだ。俺は最初から調子の良い設計者が目指した本来の状態のバイクに乗りたい」
 現在の電気仕掛けの塊のバイクではこういう話にはならないと思います。バイクとしてどっちが優れているかはオーナーが何を望むかにより異なりますが、エンドユーザーにとっての評価基準が、新しい、古い、とか、速い、遅い、では無いのがバイクの面白いところだと思います。


                                                                         
  
Posted by cpiblog00738 at 16:56

2024年12月15日

998Rレストア-1

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 現在取り掛かっている大仕事は15〜16年間放置されたバイクのレストアです。そのバイクは998R。オーナー様が仕事の関係で海外を飛び回っているうちに、気付いたらいつの間にかバイクは放置状態になってしまっていたという状況です。海外で活躍されている方の場合、このパターンは多いように感じます。走行距離はたったの7,036km!これは何が何でも綺麗に仕上げないといけません。


DSC01849 入庫したのは数か月前の事でしたが、他の作業はさておき、何よりも優先で行ったのはガソリンタンク内の状態確認です。場合によってはタンク内部に残っていたガソリンが腐って物凄い異臭を発し、内部のホース類は融けて崩壊、ポンプ本体も腐食で再起不能、おまけにタンク内部に施してあるコーティングが腐食して丸ごと剥がれ落ち、と言った悲惨な状態になります。しかし幸運なことに、この個体に関してはそんなに悲惨な状態になってはいませんでした。

DSC01850 DSC01851ガソリンタンク裏のフューエルゲージのナットは当時モノのお約束で割れています。アルミ製のものに交換ですね。
 純正のプラスチック製フューエルコネクタも金属製に交換します。リアのシリンダーヘッドの上にガソリンが滴った痕跡が明らかなので、燃料漏れが発生していると思われます。


DSC02125DSC02124 とりあえずタンクのフランジだけ綺麗に処理しました。その他、燃圧レギュレーター、デガッサー、フューエルゲージ本体、といったところは再使用出来そうですが、それ以外のものは交換になります。 
 タンクの内部は意外に状態は良好で、安心しました。


DSC02127 車体を分解して行くと、まずエアボックス裏に張り付けてある純正のパッドが崩壊しています。不用意に取り扱うと内部のスポンジが粉になって降り注ぐので掃除が大変です。





DSC02128DSC02132 エンジンの前後気筒間のクランクケース上にはこんなものが。
 リアウインカーの配線もかじられています。どうやら放置期間中にネズミさんが出入りしていたようですね。



DSC02133DSC02134 さて、無事にエンジンを降ろしたところで、今回は車体周りのメンテナンスから作業を開始します。

  
Posted by cpiblog00738 at 14:12エンジン/メンテナンス

2024年12月09日

中古車のご紹介です

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 お客様から委託でお預かりしたビモータdb1です。以前に私がイチから製作したバイクです。当時、ちゃんとした、調子良い、プレミアムなdb1が欲しいというお客様のリクエストがあり、それにお応えするために中古車を仕入れ、製作しました。エンジンのフルオーバーホールは勿論の事、エンジンはオーバーホール時に部品ごとにニシムラコーティング(当時の)で耐熱黒でオールペイント、フレームの再塗装、外装の新造、文字やラインの段差無しのツヤツヤペイント、その他あらゆるところに手が入っています。燃料のインナータンクはビーターのアルミ製、キャブレターはFCRのφ35。カムシャフトは敢えてノーマルで、750ccの排気量にマッチしたFCRφ35との組み合わせで走行時の安定感は抜群、非常に乗りやすい状態です。
 バイク完成後はワンオーナーでしたが、この度諸事情により引き継いでいただける方にお譲りしたいということになりました。メーター上での走行距離は30,824kmですが、バイク完成後の走行距離は1万キロ以内です。車検は2025年1月まで残っています。現車は現在TFDでお預かりしておりますので、お越しいただければ現物をご覧になれます。
 上記でご紹介したこと以外にもあらゆるところに手が入っており、一見の価値がある仕上がりなので、ご興味のある方は是非現車をご覧いただくことをお奨めします。詳細はそのうち商品情報でご紹介しようと考えておりますが、多忙ゆえにそれにはお時間を頂くことになりそうです。
 価格は税込み¥3,300,000-です。ご興味のある方、ご連絡をお待ちしています。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:49商品情報

2024年11月14日

あたり前田のクラッカー

DSC02045 先日関西方面に出張で出かけた際に、休憩に寄った道の駅でお土産を買おうとしてこれを見つけました。ちょっとびっくり。自分らの世代の人なら絶対になじみがあると思います。思わず購入しました。  
Posted by cpiblog00738 at 11:40雑記

2024年10月26日

851SP3

IMG_4010 先日この欄でご紹介した851SP3を商品情報欄にアップしました。改めて写真を見ると、上手く表現できませんが今時のバイクにはない高級感というか独特な雰囲気を感じます。お問い合わせをお待ちしています。  
Posted by cpiblog00738 at 09:22商品情報

2024年10月15日

888コルサエンジン再生-9

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 エンジン左側のカバーを組み立てます。写真は発電機のコイルです。クランクシャフトに取り付けてある発電機のローターはコルサ専用の幅が狭い軽量タイプなので、本来であればカバー側にもそれ専用の幅の狭い専用のコイルが使用するべきなのですが、今回はあえて幅の広いストリート用のコイルを組み合わせることにします。コルサ純正の発電機の出力は180Wということになっていて、現在においては若干出力が不足している印象が否めません。メーター、ラップタイマー、シフター、等の装備を後付けするのが一般的になっています。最近使われることが多いリチウムバッテリーも鉛バッテリーと比較して高めの充電電圧を要求してきます。180Wの発電量だと発電不足で、例えばコースインゲートでアイドリングさせながらコースインを待っていたらバッテリーが上がってエンジンが止まってしまった、というような実例も幾つか見ています。かといってローターまでストリート用にしてしまうのは気分的に躊躇してしまうので、今回はコイルのみ大型にしてみました。少しは発電量が多くなると期待しています。使用する916系アルミ製のカバーもストリートバイクの部品なのでそのままコイルが取り付け出来るのも都合が良いです。コイルからのケーブルは新たに引き直しました。

DSC02011 組み立てが終了したエンジン左側カバーです。ウォーターポンプのローターとカバーは916系のものを使用しています。それ以前のモデルの部品からローターの翅の形状が改善されて特にエンジン回転が低めの時の冷却水圧送効率が上がっているということです。翅の形状が変わったのでウォーターポンプカバー内部の形状もそれに合わせて変更が施されています。


DSC02016DSC02015 クラッチAssyは何を使用するかまだ未定ですが、ひとまずこれでエンジンが完成です。
 それとお伝えし忘れていましたが、エンジンマウントボルトの太さが888はφ10mm、S4は12mmです。ということでこのエンジンのクランクケースに開いている穴の大きさはφ12mmです。性能の事だけ考えるとフレーム側の穴をφ12mmに広げてφ12mmのエンジンマウントボルトを使用するのが良いと私は認識しています。経験的に車体剛性がかなり上がる効果があるようで、888系レースバイクの持病であるストレートでの振られ等も明らかに改善されます。しかしまず今回はオリジナルのコルサフレームに改造はしない方向性で進めたいので、クランクケースの穴にカラーを挿入することでオリジナルのφ10mmのマウントボルトを使用することにします。

 以上で今回のレポートは終了です。次はまた別の話題性のある?バイクについてのレポートを掲載する予定です。


  
Posted by cpiblog00738 at 10:09エンジン/メンテナンス

2024年10月11日

888コルサエンジン再生-8

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 こちらはクランクケースのシリンダー取り付け面に存在するオイル通路です。実際には使用されていないのですが、何故か2001年前後のエンジンには車種によってはこのオイル通路が存在している場合があります。実際にこのオイルラインは生きていて油圧がかかる場所となっており、そしてここに取り付けられるシリンダー側にはオイル通路が存在せず、オイル通路はここで行き止まりとなっています。しかしシリンダーベースガスケットに塗布された液体ガスケットのみでシールしてあるためにオイル漏れのトラブルが頻発します。そのトラブルの原因をつぶしておくためにこの穴にネジを切ってボルトで封印しました。


DSC01999 シリンダーヘッドガスケットです。シリンダー径がφ94mm用ですが、右が当時モノ(当然ですが現在は廃番)、左が現行品です。ご覧になるとわかりますが、厚さが異なります。旧タイプの厚さは約1.2mm、現行品は約0.45mmです。オリジナルを優先するのであれば旧タイプを使用するべきなのでしょうが、今回は実際にレースで走らせようというエンジンですから信頼性が高いメタルガスケットの現行品を使用します。


DSC02000 現行品を使用するとヘッドガスケットの厚さが約0.75mm程度薄くなり、その結果スキッシュクリアランスに問題が発生します。それに対応する調整はシリンダーベースガスケットの厚さを変更して対応します。写真のようにシリンダーベースガスケットには数種類の厚さが異なるものが存在します。コルサの純正部品にはこの他にも0.25mm、0.35mm、というものが存在しましたが、現在は廃番になっています。目指すスキッシュクリアランスを得るためには複数枚を重ねて使用することもあります。この手のベースガスケットはガスケットというよりはスキッシュ調整用のシムとして認識した方が正しいかもしれません。


DSC02001 今回は厚さ1.0mm(正確には0.99mm)のベースガスケットを組んでスキッシュクリアランスが約1.03mmとなりました。これに関しては実際に組んでスキッシュクリアランスを実測しながらの調整が必要で、結構手間がかかります。今回は前後とも同じベースガスケットとなりましたが、前後で異なる厚さのガスケットが必要になることの方が実は多いです。


DSC02002DSC02004 スキッシュの調整が終了したのでシリンダーとヘッドを取り付け、エンジンは完成が見えてきました。






DSC02005 タイミングベルト周りの部品を取り付けて、バルブタイミングの計測と調整を行っています。この手のバイクの場合、バルブタイミングはカムシャフトとタイミングプーリーの位置決めを行う特殊な形状のキーを使用します。スタンダードのストレートなキーを使用することもありますが、段差が設けられていてプーリーの取り付け位置を故意に変化させるオフセットキーというものを使用する場合が多いです。
  
Posted by cpiblog00738 at 12:16エンジン/メンテナンス

2024年10月10日

888コルサエンジン再生-7

DSC01982
 シリンダーヘッドの作業を開始します。分解したシリンダーヘッド構成部品です。緑色の陽極酸化処理が施された部分がある部品はマグネシウム製です。ロッカーアームのスリッパー面のメッキ剥離はありませんでした。ただしロッカーアームに関しては外観の色がまちまちで、メッキの剥離のために後から交換されたであろうものも幾つか混在しています。


DSC01983DSC02007a バルブです。綺麗に磨いた後にリフェース済みです。この当時のコルサのバルブには「C.MENON」の刻印が入っています。憧れの部品でしたね。材質はニモニックと呼ばれる耐熱鋼で、耐熱温度は900〜1,100度と言われています。そういえば昔エンジンダイナモでコルサエンジンを回していた時に、排気温度をモニターしていたら軽く900度は超えていましたからバルブの焼損を避けようと考えるとこういった材質のものが求められたのだと思います。ちなみにバルブの傘径はINがφ36mm、EXがφ31mmです。


DSC01985 バルブシートのリフェース中です。この写真は一番外側の段差になった部分をなだらかになるように切削しているところです。このエンジンのバルブシートはポートの断面積を広く確保する目的のためだと思いますが、特に当たり面の内側に余裕がなくギリギリです。そのためにガイド交換をしてバルブの角度が少しでも変化すると当たり面の確保が難しかったです。


DSC01986 バルブガイドの交換、バルブシートのリフェース、バルブとシートの擦り合わせ&当たりの確認が終了したシリンダーヘッドです。すいません、写真がピンボケでした。




DSC01991 シリンダーヘッドの内部部品を組み立て、ヘッドが完成しました。ヘッド組み立て中の写真も紹介したかったのですが、すいません、撮り忘れました。






DSC01997 ピストンリングです。合口のピン角を黒染め?の色が落ちるくらいに軽く耐水ペーパーで磨きました。左側がオリジナルのまま、右が磨きを行った合口です。ごく稀にですが、このピン角が何かのきっかけでリング溝に食い込んでトラブルが発生した経験があるからです。




IMG_5024 これは前述したトラブルの写真です。このエンジンではなく別のエンジンに使用していたピストンです。オイルリングの溝に問題が発生しているのが判ると思います。リング合口のピン角がリング溝に食い込んで行って、その結果リングの合口が重なるという結果になりました。そうするとリングの張力は保てませんから盛大なオイル上がりが発生します。


  
Posted by cpiblog00738 at 18:27エンジン/メンテナンス

2024年10月04日

888コルサエンジン再生-6

DSC01955DSC01956
 左の写真はメンテナンスのためにセルモーターを分解したところです。セルモーターはTFDに在庫がかなりあるので、その中から時代的に合致するもので程度が良さそうなものを選択しました。
 右の写真はメンテナンスが終了し、組み立てる直前の写真です。コミュテーターは研磨してリフレッシュしました。オイルシール、ブラシセット、オーリング類は新品に交換です。

DSC01964 エンジン左側の部品は一通りメンテナンスが終了したので組み立てました。タイミングギアが軽量穴も無くコルサっぽくないですが、コルサの純正部品なのでそのまま再使用しています。シフトアームとシフトリターンスプリング2個は新品に交換済みですが、これらに関しては調整に苦労します。特にシフトアームは当時の部品と若干形状が変わっていて、そのまま組むとシフトダウンが上手く作動しない例も見受けられます。それについての調整は現物合わせとなり、苦労します。

DSC01969 オイルポンプです。左がS4、右が888コルサの部品です。取り付けや外観はほぼ同一と言って良いですが、細かい相違もあります。ギアの形状が異なるのは一見して判りますが、矢印で示した穴の大きさが違います。この部分はオイルの吸い込み口で、オイル吸い込みの効率を上げて油量を確保しようという意思が現れています。ちなみに内部の通路も広がっています。


DSC01970 こちらは反対側からの眺めですが、こちら側から見た双方の形状は大きく異なります。左のS4の方は凸部分に新たな機構が追加されています。これは油圧のレギュレーターで、油圧が高い場合にリリーフバルブが開いて油圧を適正値にコントロールするようになっています。888コルサ等の当時のエンジンにもこういった機構は存在していましたが、それはクランクケース左右の合わせ面に存在していました。ポンプ本体にこの機構が備わっていた方がメリットが多いのだと思います。

DSC01971 そして今回使用しているクランクケースはS4の部品なので、クランクケースの合わせ面にリリーフバルブは存在しません。ということで今回使用するポンプは必然的にS4の部品ということになります。ギアの取り付けには互換性がありますから、ギアをスワップして対応します。



DSC01972 部品が揃ったのでエンジン右側を組み立てています。オイルポンプ本体はS4の部品になりましたが、オイルポンプギアとクランク1次ギアのセットはコルサ純正部品です。




DSC01974 クラッチ側のカバーはコルサ純正のマグネシウム製カバーをそのまま使用します。しかしオイルポンプの形状が変わってカバーと干渉する部分が出現するので、その点は対策が必要です。矢印の部分がそれです。リューターでちょっと削って対応します。
  
Posted by cpiblog00738 at 16:51エンジン/メンテナンス

2024年10月03日

888コルサエンジン再生-5

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 こちらはシフトドラムです。下から、今迄使用していた888レーシングのオリジナル、ST4に使用されていたST4のオリジナル、999系のオリジナル、です。シフトドラムが回転した時の位置決めストッパーの機構が、888の場合は右端、ST4と999は左端、になります。また、よく観察するとシフトフォークを動かす溝の形状も異なるのが判ります。888とST4は同一形状ですが、999だけ溝の形状がスムーズというか直線的でガクガクしていません。時代が進むにつれて進化しているということです。今回はシフトフィーリングを優先して999系のシフトドラムを採用することにします。

DSC01942 ミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。写真は888コルサのオリジナルのレーシングミッションです。レースで使用した場合によくみられるシャフトの曲がりは皆無です。ドッグの傷みも非常に少ないです。意外にもかなり状態が良かったのでこのまま使用します。もちろんサークリップや痛んだワッシャー等の消耗品は新品に交換します。


DSC01943 ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも問題ありません。状態は良好です。このシャフトにはクラッチのプッシュロッドが通るので、そのためのニードルベアリングとオイルシールが存在します。サークリップ等と合わせてそれらも新品に交換します。



DSC01945DSC01946クランクシャフトとミッション関係のシム調整を行い、それが完了したら左右のクランクケースを合わせて組み立てます。幸いなことにここまでは想定外の事態も無く、順調です。



 次にエンジンのセルフスターター機能を取り付ける作業に取り掛かります。前述したようにコルサにその機構は存在しません。この当時は押し掛けがデフォルトです。普通に対応しようと考えると、P7、P8タイプのECUが使われているストリートバイクのフライホイール周りを移植するのが手っ取り早いです。例えば851/888系、916SP/SPS系、等のバイクの部品です。

DSC01992DSC01962 左コルサオリジナルのフライホイールです。非常にシンプルで格好良いです。
 そして右がストリートバイクのそれです。ストリートバイクの部品の方は鋳肌もむき出しで残っているし、自分の評価としてはレース用部品としてイマイチです。


DSC01957 そこでコルサ純正フライホイールを加工してストリートバイクの純正フランジ等の部品と組み合わせ、格好良いフライホイールAssyを製作することにしました。旋盤でコルサ純正フライホイールを加工しています。そこそこ硬い材質なのでチップを何度か交換しながら、飛散する非常に熱い切粉と格闘しながらの作業です。


DSC01947DSC01963 左は加工が終了したコルサ純正フライホイールと、それに組み合わせるストリートバイク純正のフランジ、リングギア、ワンウェイベアリング、です。
 右はそれらを組み立てたところです。ちゃんとしたレーシングパーツになりました。

  
Posted by cpiblog00738 at 10:41エンジン/メンテナンス

2024年10月02日

888コルサエンジン再生-4

DSC01913
 今迄使用されていた純正オリジナルのクランクケースです。クランクシャフト支持のベアリングは通常のボールベアリングではなくローラーベアリングが採用されています。この頃の数年間、コルサとスーパーバイクにこのタイプのベアリングが採用されていました。ボールベアリングだと点接触ですがローラーなら線接触なので、大きな荷重を受け止めるのにはローラーベアリングの方が適しているのではないかという考えのもとにそうなったのだと考えられます。ストリートバイクだと888SPS、SP5も同じローラーベアリングが採用されました。しかし翌年の1994年型926レーシングからもとのボールベアリングに戻ってしまいました。おそらくメリットがあまりなかったのだと思います。ローラーベアリングの場合はクランクシャフトにイニシャルプリロードがかけられませんしね。

DSC01912 そして今回はこのクランクケースを使用して組み立てることになりました。これはST4のクランクケースです。クランクケースにスイングアームが取り付けてあるタイプでシリンダースタッドボルトのピッチが共通の部品を探すとこのタイプになります。年式的に新しいため、当時の部品と比較して材質と鋳造方法がアップグレードされていて強度的に優位性があるのが一番大きな理由です。このクランクケースを使用する場合はそれなりに対応が必要な項目が幾つもありますが、そのほぼ全ての対応した結果はアップグレードになるので、今回の使用目的がレースということを鑑みてこのクランクケースの採用となりました。

DSC01923 まず最初に、ST4にはオイルクーラーが無いのでオイルフィルター取り付け部を覗くとこんな眺めになっています。このままオイルフィルターを取り付けただけで使用すると、オイルポンプから圧送されたオイルはバイパス通路を通ってしまってオイルクーラーにオイルが回らないということになります。中央のオイルフィルター取り付けニップルの横にある丸い穴がバイパスです。


DSC01944 そのためにここにはバルブを取り付ける必要があります。スプリングの板状のバルブでバイパスをふさぐことになります。何かのトラブルでオイルクーラーへのホースが詰まったりしてオイルの行き場がなくなると、油圧でこのバルブが押し開けられてオイルがオイルクーラーをバイパスするようになっています。
 話は変わりますが、新車時にオイルクーラーが無いタイプのこの手のバイクにオイルクーラーを後付けした場合、この作業を行わないとオイルは殆どオイルクーラーを通過しないことになるので、せっかくオイルクーラーを後付けしても油温は下がらない、という事態が発生します。

  
Posted by cpiblog00738 at 20:47

2024年09月22日

888コルサエンジン再生-3

DSC01929 メンテナンス中のクランクシャフトです。コルサのクランクとはいえ、この頃はまだ扇型の格好をしています。ウェブの内側に切削による軽量加工が認められるのがコルサクランクの特徴です。




DSC01930 こちらはコンロッドです。94年型926レーシングからチタンコンロッドになりますが、この93年型は削り出しH断面のスチール製です。コンロッドボルトも特殊なもので、指定されている締め付け方法は3段階で、15Nm→38度→38度、その際の伸びが0.13〜0.17mm、というものです。チタンコンロッド用のPankl PLB07グリスを使用して上記の締め付けを行ったところ、要したトルクは4本とも75Nm前後でした。

DSC01932 このコンロッドには中心に貫通したオイル穴が存在します。クランクピンを潤滑したオイルがコンロッド大端からオイル穴を通って小端に達してピストンピンを潤滑します。ストリートバイクでも916SP、916SPS’97にこの方式が使われています。いずれもスチール製削り出しH断面のコンロッドです。ハーフメタルに穴が2個開いていて、そこから進入したオイルがコンロッド側の溝を通って穴に入って小端に運ばれる、というシステムです。この方式はその後採用されなくなってしまいましたが、その理由は不明です。チタンコンロッドになると貫通穴を開ける難易度が高いのか、それとも大端から少なからずオイルが逃げるので大端部の油圧低下を避けたいと考えたのか、真相は不明です。

DSC01935 クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。ちなみにクランクシャフト両サイドのシムですが、左右シムの厚さを調整してクランクシャフトの位置を決定します。まず最初の目的は、コンロッドがシリンダーの中央に位置するようにするということです。自分の場合はクランクケースのシリンダースカートが入る穴の側端面からクランクシャフトのピン横の立ち上がり面までの距離を計測してその数値を根拠に調整しています。4か所で計測することになりますが、そのうちの2個ずつが同じ数値になるように目指します。しかし理想通りの数値になることはまず皆無で、如何にして妥協するかということになります。それでも誤差は0.1mm程度になるのが普通です。そしてこの説明では何を言っているか判らないという方が殆どだと思うので、ちゃんと理解したいという方は直接お尋ねください。
 それに加えてもう一つのシム調整の目的は、クランクケース左右を合わせて組み立てた時にクランクシャフトに0.15mm程度のプリロードがかかるようにするということです。

  
Posted by cpiblog00738 at 19:03エンジン/メンテナンス

2024年09月18日

中古車のご紹介です

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 お客様から委託でお預かりした851SP3の中古車です。タンク以外の外装が92年以降の後期型になっていますが、このバイクに限ってはこれがオリジナルです。村山モータース正規輸入車です。後期型のサンプルとしてこの状態でイタリアから輸入され、その後の変更はありません。初年度登録は1992年7月。ワンオーナー車。走行32,180km。車検は2024年10月24まで。立ちゴケ1回以外は転倒歴無し。エンジンオーバーホール履歴はありません。
 周りを見回しても取引実績が見当たらないので販売価格は現在検討中です。近いうちにその他の写真と価格は発表しますが、その前にいくら位なら購入したい、みたいなお話があればご連絡いただけるとありがたく思います。
  
Posted by cpiblog00738 at 13:28商品情報

2024年09月17日

888コルサエンジン再生-2

DSC01909
 ピストンは純正新品を使用することになりました。今となっては非常にレアで入手は困難を極める部品です。さすがにTFD在庫ではなかったのですが、かなり以前からその存在は把握していたので今回はお客様にそれを直接購入していただき、TFDに直送してもらいました。



DSC01918 さて、シリンダーヘッドです。ヘッド面を摺合せしてリフレッシュし、バルブガイドは交換のために取り外しました。ヘッド面はかなり荒れていて綺麗ではなかったのですが、定盤の上で擦り合わせを行って対応しました。フライス盤を使用して機械加工での面研も考えましたが、その方法ではどうしても最小限の切削とはならずに削り過ぎてしまう傾向があるのでこの方法を選択しました。定盤の上での擦り合わせであれば消したい傷を確認しながら作業が出来ます。ただし斜めに削ってしまってはまずいので、その辺は経験とカンの世界です。

DSC01922 取り外したバルブガイドです。左側がインテーク、右側がエキゾーストですが、今回は取り外す時にインテーク側4本が異常に容易に抜けてしまいました。抜いたガイドを観察すると、通常通り正しく勘合していたと思われるエキゾーストガイドは勘合部全面に綺麗なアタリが付いているのに対し、インテークガイドには明らかにヘッド側と接触していなかった部分が認められます。勘合しろが少なかったということですね。これに関してはヘッド側の穴径を計測して正しい勘合しろが獲得できる新品ガイドを挿入しますからそれで問題は解決します。

DSC01926 さてこちらはクランクシャフトです。前述のように当時のコルサにはセルフスターター機能が無く、押し掛けがデフォルトであるとお伝えしました。そのためにストリートバイクには当然備わっているスターターワンウェイクラッチ潤滑のためのオイル穴がコルサのクランクシャフトには存在しません。セルモーターを取り付けて機能させるためにはこのオイル穴の加工が必須です。矢印の穴が今回後から加工したオイル穴ですが、これが非常に緊張を伴う作業なのです。軸の中心を通っている穴径は車種により若干異なり、5〜6mm程度です。図面では6.25mmとなっていますが、どうもその数字はその限りでは無いようです。それはともかくとして、φ2.5mmのドリルで残り2mmで貫通するところまで穴を開けます。そして残りの2mmはφ0.8mmの穴を開けます。φ0.8mmというのがオイル流量調整のための大きさです。なのでφ0.8mmのドリルのみで貫通させてもOKなのでしょうが、それは技術的にかなり難しいと思われ、ストリートバイクの純正クランクシャフトも例外なく途中までφ2.5mmでその先がφ0.8mmとなっています。
 これがまだ熱処理前の状態なら容易な作業なのでしょうが、後から加工する場合は当然ながらクランクは熱処理後なのでとにかく硬いのです。φ2.5mmのドリルは通常のものでは歯が立たないので超硬タイプを使用します。こういった加工物に対する超硬タイプの切れ味は確かに段違いなのですが、その代償として超硬タイプのドリルは靭性が低いのです。解りやすく言うと折れやすい、欠けやすい、ということです。穴開け時にこじったりして垂直方向以外の力が加わると容易に折れます。折れれば当然ながら折れた先の部分が加工物の中に残ります。何せ超硬ですから、それの除去は非常に困難です。そのためにこのφ2.5mmのドリルでの穴開け作業は異常な緊張感の中で行われます。
 残りのφ0.8mmの方はごく普通のドリルを使います。φ0.8mmのドリルは細いので加工物に押し付けると容易に撓み、超硬であればドリルは即折れてしまいます。通常のドリルは多少撓ませたところで折れません。それとクランクシャフトは表面に近いところの硬度が高く、深いところの硬度はそんなでもない、という事実があるからです。これはクランクシャフトも超硬ドリルと同様で、全体を硬くすると靭性が得られず折れやすくなります。剛性と靭性をバランスよく確保するために表面近くは硬く、内部はそこそこ柔らかく、という構造になっているということです。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:59エンジン/メンテナンス