2024年10月26日
2024年10月15日
888コルサエンジン再生-9
エンジン左側のカバーを組み立てます。写真は発電機のコイルです。クランクシャフトに取り付けてある発電機のローターはコルサ専用の幅が狭い軽量タイプなので、本来であればカバー側にもそれ専用の幅の狭い専用のコイルが使用するべきなのですが、今回はあえて幅の広いストリート用のコイルを組み合わせることにします。コルサ純正の発電機の出力は180Wということになっていて、現在においては若干出力が不足している印象が否めません。メーター、ラップタイマー、シフター、等の装備を後付けするのが一般的になっています。最近使われることが多いリチウムバッテリーも鉛バッテリーと比較して高めの充電電圧を要求してきます。180Wの発電量だと発電不足で、例えばコースインゲートでアイドリングさせながらコースインを待っていたらバッテリーが上がってエンジンが止まってしまった、というような実例も幾つか見ています。かといってローターまでストリート用にしてしまうのは気分的に躊躇してしまうので、今回はコイルのみ大型にしてみました。少しは発電量が多くなると期待しています。使用する916系アルミ製のカバーもストリートバイクの部品なのでそのままコイルが取り付け出来るのも都合が良いです。コイルからのケーブルは新たに引き直しました。
組み立てが終了したエンジン左側カバーです。ウォーターポンプのローターとカバーは916系のものを使用しています。それ以前のモデルの部品からローターの翅の形状が改善されて特にエンジン回転が低めの時の冷却水圧送効率が上がっているということです。翅の形状が変わったのでウォーターポンプカバー内部の形状もそれに合わせて変更が施されています。
それとお伝えし忘れていましたが、エンジンマウントボルトの太さが888はφ10mm、S4は12mmです。ということでこのエンジンのクランクケースに開いている穴の大きさはφ12mmです。性能の事だけ考えるとフレーム側の穴をφ12mmに広げてφ12mmのエンジンマウントボルトを使用するのが良いと私は認識しています。経験的に車体剛性がかなり上がる効果があるようで、888系レースバイクの持病であるストレートでの振られ等も明らかに改善されます。しかしまず今回はオリジナルのコルサフレームに改造はしない方向性で進めたいので、クランクケースの穴にカラーを挿入することでオリジナルのφ10mmのマウントボルトを使用することにします。
以上で今回のレポートは終了です。次はまた別の話題性のある?バイクについてのレポートを掲載する予定です。
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10:09
│エンジン/メンテナンス
2024年10月11日
888コルサエンジン再生-8
こちらはクランクケースのシリンダー取り付け面に存在するオイル通路です。実際には使用されていないのですが、何故か2001年前後のエンジンには車種によってはこのオイル通路が存在している場合があります。実際にこのオイルラインは生きていて油圧がかかる場所となっており、そしてここに取り付けられるシリンダー側にはオイル通路が存在せず、オイル通路はここで行き止まりとなっています。しかしシリンダーベースガスケットに塗布された液体ガスケットのみでシールしてあるためにオイル漏れのトラブルが頻発します。そのトラブルの原因をつぶしておくためにこの穴にネジを切ってボルトで封印しました。
シリンダーヘッドガスケットです。シリンダー径がφ94mm用ですが、右が当時モノ(当然ですが現在は廃番)、左が現行品です。ご覧になるとわかりますが、厚さが異なります。旧タイプの厚さは約1.2mm、現行品は約0.45mmです。オリジナルを優先するのであれば旧タイプを使用するべきなのでしょうが、今回は実際にレースで走らせようというエンジンですから信頼性が高いメタルガスケットの現行品を使用します。
現行品を使用するとヘッドガスケットの厚さが約0.75mm程度薄くなり、その結果スキッシュクリアランスに問題が発生します。それに対応する調整はシリンダーベースガスケットの厚さを変更して対応します。写真のようにシリンダーベースガスケットには数種類の厚さが異なるものが存在します。コルサの純正部品にはこの他にも0.25mm、0.35mm、というものが存在しましたが、現在は廃番になっています。目指すスキッシュクリアランスを得るためには複数枚を重ねて使用することもあります。この手のベースガスケットはガスケットというよりはスキッシュ調整用のシムとして認識した方が正しいかもしれません。
今回は厚さ1.0mm(正確には0.99mm)のベースガスケットを組んでスキッシュクリアランスが約1.03mmとなりました。これに関しては実際に組んでスキッシュクリアランスを実測しながらの調整が必要で、結構手間がかかります。今回は前後とも同じベースガスケットとなりましたが、前後で異なる厚さのガスケットが必要になることの方が実は多いです。
タイミングベルト周りの部品を取り付けて、バルブタイミングの計測と調整を行っています。この手のバイクの場合、バルブタイミングはカムシャフトとタイミングプーリーの位置決めを行う特殊な形状のキーを使用します。スタンダードのストレートなキーを使用することもありますが、段差が設けられていてプーリーの取り付け位置を故意に変化させるオフセットキーというものを使用する場合が多いです。
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12:16
│エンジン/メンテナンス
2024年10月10日
888コルサエンジン再生-7
シリンダーヘッドの作業を開始します。分解したシリンダーヘッド構成部品です。緑色の陽極酸化処理が施された部分がある部品はマグネシウム製です。ロッカーアームのスリッパー面のメッキ剥離はありませんでした。ただしロッカーアームに関しては外観の色がまちまちで、メッキの剥離のために後から交換されたであろうものも幾つか混在しています。
バルブです。綺麗に磨いた後にリフェース済みです。この当時のコルサのバルブには「C.MENON」の刻印が入っています。憧れの部品でしたね。材質はニモニックと呼ばれる耐熱鋼で、耐熱温度は900〜1,100度と言われています。そういえば昔エンジンダイナモでコルサエンジンを回していた時に、排気温度をモニターしていたら軽く900度は超えていましたからバルブの焼損を避けようと考えるとこういった材質のものが求められたのだと思います。ちなみにバルブの傘径はINがφ36mm、EXがφ31mmです。
バルブシートのリフェース中です。この写真は一番外側の段差になった部分をなだらかになるように切削しているところです。このエンジンのバルブシートはポートの断面積を広く確保する目的のためだと思いますが、特に当たり面の内側に余裕がなくギリギリです。そのためにガイド交換をしてバルブの角度が少しでも変化すると当たり面の確保が難しかったです。
ピストンリングです。合口のピン角を黒染め?の色が落ちるくらいに軽く耐水ペーパーで磨きました。左側がオリジナルのまま、右が磨きを行った合口です。ごく稀にですが、このピン角が何かのきっかけでリング溝に食い込んでトラブルが発生した経験があるからです。
これは前述したトラブルの写真です。このエンジンではなく別のエンジンに使用していたピストンです。オイルリングの溝に問題が発生しているのが判ると思います。リング合口のピン角がリング溝に食い込んで行って、その結果リングの合口が重なるという結果になりました。そうするとリングの張力は保てませんから盛大なオイル上がりが発生します。
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18:27
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2024年10月04日
888コルサエンジン再生-6
左の写真はメンテナンスのためにセルモーターを分解したところです。セルモーターはTFDに在庫がかなりあるので、その中から時代的に合致するもので程度が良さそうなものを選択しました。
右の写真はメンテナンスが終了し、組み立てる直前の写真です。コミュテーターは研磨してリフレッシュしました。オイルシール、ブラシセット、オーリング類は新品に交換です。
エンジン左側の部品は一通りメンテナンスが終了したので組み立てました。タイミングギアが軽量穴も無くコルサっぽくないですが、コルサの純正部品なのでそのまま再使用しています。シフトアームとシフトリターンスプリング2個は新品に交換済みですが、これらに関しては調整に苦労します。特にシフトアームは当時の部品と若干形状が変わっていて、そのまま組むとシフトダウンが上手く作動しない例も見受けられます。それについての調整は現物合わせとなり、苦労します。
オイルポンプです。左がS4、右が888コルサの部品です。取り付けや外観はほぼ同一と言って良いですが、細かい相違もあります。ギアの形状が異なるのは一見して判りますが、矢印で示した穴の大きさが違います。この部分はオイルの吸い込み口で、オイル吸い込みの効率を上げて油量を確保しようという意思が現れています。ちなみに内部の通路も広がっています。
こちらは反対側からの眺めですが、こちら側から見た双方の形状は大きく異なります。左のS4の方は凸部分に新たな機構が追加されています。これは油圧のレギュレーターで、油圧が高い場合にリリーフバルブが開いて油圧を適正値にコントロールするようになっています。888コルサ等の当時のエンジンにもこういった機構は存在していましたが、それはクランクケース左右の合わせ面に存在していました。ポンプ本体にこの機構が備わっていた方がメリットが多いのだと思います。
そして今回使用しているクランクケースはS4の部品なので、クランクケースの合わせ面にリリーフバルブは存在しません。ということで今回使用するポンプは必然的にS4の部品ということになります。ギアの取り付けには互換性がありますから、ギアをスワップして対応します。
クラッチ側のカバーはコルサ純正のマグネシウム製カバーをそのまま使用します。しかしオイルポンプの形状が変わってカバーと干渉する部分が出現するので、その点は対策が必要です。矢印の部分がそれです。リューターでちょっと削って対応します。
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16:51
│エンジン/メンテナンス
2024年10月03日
888コルサエンジン再生-5
こちらはシフトドラムです。下から、今迄使用していた888レーシングのオリジナル、ST4に使用されていたST4のオリジナル、999系のオリジナル、です。シフトドラムが回転した時の位置決めストッパーの機構が、888の場合は右端、ST4と999は左端、になります。また、よく観察するとシフトフォークを動かす溝の形状も異なるのが判ります。888とST4は同一形状ですが、999だけ溝の形状がスムーズというか直線的でガクガクしていません。時代が進むにつれて進化しているということです。今回はシフトフィーリングを優先して999系のシフトドラムを採用することにします。
ミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。写真は888コルサのオリジナルのレーシングミッションです。レースで使用した場合によくみられるシャフトの曲がりは皆無です。ドッグの傷みも非常に少ないです。意外にもかなり状態が良かったのでこのまま使用します。もちろんサークリップや痛んだワッシャー等の消耗品は新品に交換します。
ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも問題ありません。状態は良好です。このシャフトにはクラッチのプッシュロッドが通るので、そのためのニードルベアリングとオイルシールが存在します。サークリップ等と合わせてそれらも新品に交換します。
次にエンジンのセルフスターター機能を取り付ける作業に取り掛かります。前述したようにコルサにその機構は存在しません。この当時は押し掛けがデフォルトです。普通に対応しようと考えると、P7、P8タイプのECUが使われているストリートバイクのフライホイール周りを移植するのが手っ取り早いです。例えば851/888系、916SP/SPS系、等のバイクの部品です。
そして右がストリートバイクのそれです。ストリートバイクの部品の方は鋳肌もむき出しで残っているし、自分の評価としてはレース用部品としてイマイチです。
そこでコルサ純正フライホイールを加工してストリートバイクの純正フランジ等の部品と組み合わせ、格好良いフライホイールAssyを製作することにしました。旋盤でコルサ純正フライホイールを加工しています。そこそこ硬い材質なのでチップを何度か交換しながら、飛散する非常に熱い切粉と格闘しながらの作業です。
右はそれらを組み立てたところです。ちゃんとしたレーシングパーツになりました。
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10:41
│エンジン/メンテナンス
2024年10月02日
888コルサエンジン再生-4
今迄使用されていた純正オリジナルのクランクケースです。クランクシャフト支持のベアリングは通常のボールベアリングではなくローラーベアリングが採用されています。この頃の数年間、コルサとスーパーバイクにこのタイプのベアリングが採用されていました。ボールベアリングだと点接触ですがローラーなら線接触なので、大きな荷重を受け止めるのにはローラーベアリングの方が適しているのではないかという考えのもとにそうなったのだと考えられます。ストリートバイクだと888SPS、SP5も同じローラーベアリングが採用されました。しかし翌年の1994年型926レーシングからもとのボールベアリングに戻ってしまいました。おそらくメリットがあまりなかったのだと思います。ローラーベアリングの場合はクランクシャフトにイニシャルプリロードがかけられませんしね。
そして今回はこのクランクケースを使用して組み立てることになりました。これはST4のクランクケースです。クランクケースにスイングアームが取り付けてあるタイプでシリンダースタッドボルトのピッチが共通の部品を探すとこのタイプになります。年式的に新しいため、当時の部品と比較して材質と鋳造方法がアップグレードされていて強度的に優位性があるのが一番大きな理由です。このクランクケースを使用する場合はそれなりに対応が必要な項目が幾つもありますが、そのほぼ全ての対応した結果はアップグレードになるので、今回の使用目的がレースということを鑑みてこのクランクケースの採用となりました。
まず最初に、ST4にはオイルクーラーが無いのでオイルフィルター取り付け部を覗くとこんな眺めになっています。このままオイルフィルターを取り付けただけで使用すると、オイルポンプから圧送されたオイルはバイパス通路を通ってしまってオイルクーラーにオイルが回らないということになります。中央のオイルフィルター取り付けニップルの横にある丸い穴がバイパスです。
そのためにここにはバルブを取り付ける必要があります。スプリングの板状のバルブでバイパスをふさぐことになります。何かのトラブルでオイルクーラーへのホースが詰まったりしてオイルの行き場がなくなると、油圧でこのバルブが押し開けられてオイルがオイルクーラーをバイパスするようになっています。
話は変わりますが、新車時にオイルクーラーが無いタイプのこの手のバイクにオイルクーラーを後付けした場合、この作業を行わないとオイルは殆どオイルクーラーを通過しないことになるので、せっかくオイルクーラーを後付けしても油温は下がらない、という事態が発生します。
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20:47
2024年09月22日
888コルサエンジン再生-3
こちらはコンロッドです。94年型926レーシングからチタンコンロッドになりますが、この93年型は削り出しH断面のスチール製です。コンロッドボルトも特殊なもので、指定されている締め付け方法は3段階で、15Nm→38度→38度、その際の伸びが0.13〜0.17mm、というものです。チタンコンロッド用のPankl PLB07グリスを使用して上記の締め付けを行ったところ、要したトルクは4本とも75Nm前後でした。
このコンロッドには中心に貫通したオイル穴が存在します。クランクピンを潤滑したオイルがコンロッド大端からオイル穴を通って小端に達してピストンピンを潤滑します。ストリートバイクでも916SP、916SPS’97にこの方式が使われています。いずれもスチール製削り出しH断面のコンロッドです。ハーフメタルに穴が2個開いていて、そこから進入したオイルがコンロッド側の溝を通って穴に入って小端に運ばれる、というシステムです。この方式はその後採用されなくなってしまいましたが、その理由は不明です。チタンコンロッドになると貫通穴を開ける難易度が高いのか、それとも大端から少なからずオイルが逃げるので大端部の油圧低下を避けたいと考えたのか、真相は不明です。
クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。ちなみにクランクシャフト両サイドのシムですが、左右シムの厚さを調整してクランクシャフトの位置を決定します。まず最初の目的は、コンロッドがシリンダーの中央に位置するようにするということです。自分の場合はクランクケースのシリンダースカートが入る穴の側端面からクランクシャフトのピン横の立ち上がり面までの距離を計測してその数値を根拠に調整しています。4か所で計測することになりますが、そのうちの2個ずつが同じ数値になるように目指します。しかし理想通りの数値になることはまず皆無で、如何にして妥協するかということになります。それでも誤差は0.1mm程度になるのが普通です。そしてこの説明では何を言っているか判らないという方が殆どだと思うので、ちゃんと理解したいという方は直接お尋ねください。
それに加えてもう一つのシム調整の目的は、クランクケース左右を合わせて組み立てた時にクランクシャフトに0.15mm程度のプリロードがかかるようにするということです。
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19:03
│エンジン/メンテナンス
2024年09月18日
中古車のご紹介です
お客様から委託でお預かりした851SP3の中古車です。タンク以外の外装が92年以降の後期型になっていますが、このバイクに限ってはこれがオリジナルです。村山モータース正規輸入車です。後期型のサンプルとしてこの状態でイタリアから輸入され、その後の変更はありません。初年度登録は1992年7月。ワンオーナー車。走行32,180km。車検は2024年10月24まで。立ちゴケ1回以外は転倒歴無し。エンジンオーバーホール履歴はありません。
周りを見回しても取引実績が見当たらないので販売価格は現在検討中です。近いうちにその他の写真と価格は発表しますが、その前にいくら位なら購入したい、みたいなお話があればご連絡いただけるとありがたく思います。
2024年09月17日
888コルサエンジン再生-2
ピストンは純正新品を使用することになりました。今となっては非常にレアで入手は困難を極める部品です。さすがにTFD在庫ではなかったのですが、かなり以前からその存在は把握していたので今回はお客様にそれを直接購入していただき、TFDに直送してもらいました。
さて、シリンダーヘッドです。ヘッド面を摺合せしてリフレッシュし、バルブガイドは交換のために取り外しました。ヘッド面はかなり荒れていて綺麗ではなかったのですが、定盤の上で擦り合わせを行って対応しました。フライス盤を使用して機械加工での面研も考えましたが、その方法ではどうしても最小限の切削とはならずに削り過ぎてしまう傾向があるのでこの方法を選択しました。定盤の上での擦り合わせであれば消したい傷を確認しながら作業が出来ます。ただし斜めに削ってしまってはまずいので、その辺は経験とカンの世界です。
取り外したバルブガイドです。左側がインテーク、右側がエキゾーストですが、今回は取り外す時にインテーク側4本が異常に容易に抜けてしまいました。抜いたガイドを観察すると、通常通り正しく勘合していたと思われるエキゾーストガイドは勘合部全面に綺麗なアタリが付いているのに対し、インテークガイドには明らかにヘッド側と接触していなかった部分が認められます。勘合しろが少なかったということですね。これに関してはヘッド側の穴径を計測して正しい勘合しろが獲得できる新品ガイドを挿入しますからそれで問題は解決します。
さてこちらはクランクシャフトです。前述のように当時のコルサにはセルフスターター機能が無く、押し掛けがデフォルトであるとお伝えしました。そのためにストリートバイクには当然備わっているスターターワンウェイクラッチ潤滑のためのオイル穴がコルサのクランクシャフトには存在しません。セルモーターを取り付けて機能させるためにはこのオイル穴の加工が必須です。矢印の穴が今回後から加工したオイル穴ですが、これが非常に緊張を伴う作業なのです。軸の中心を通っている穴径は車種により若干異なり、5〜6mm程度です。図面では6.25mmとなっていますが、どうもその数字はその限りでは無いようです。それはともかくとして、φ2.5mmのドリルで残り2mmで貫通するところまで穴を開けます。そして残りの2mmはφ0.8mmの穴を開けます。φ0.8mmというのがオイル流量調整のための大きさです。なのでφ0.8mmのドリルのみで貫通させてもOKなのでしょうが、それは技術的にかなり難しいと思われ、ストリートバイクの純正クランクシャフトも例外なく途中までφ2.5mmでその先がφ0.8mmとなっています。
これがまだ熱処理前の状態なら容易な作業なのでしょうが、後から加工する場合は当然ながらクランクは熱処理後なのでとにかく硬いのです。φ2.5mmのドリルは通常のものでは歯が立たないので超硬タイプを使用します。こういった加工物に対する超硬タイプの切れ味は確かに段違いなのですが、その代償として超硬タイプのドリルは靭性が低いのです。解りやすく言うと折れやすい、欠けやすい、ということです。穴開け時にこじったりして垂直方向以外の力が加わると容易に折れます。折れれば当然ながら折れた先の部分が加工物の中に残ります。何せ超硬ですから、それの除去は非常に困難です。そのためにこのφ2.5mmのドリルでの穴開け作業は異常な緊張感の中で行われます。
残りのφ0.8mmの方はごく普通のドリルを使います。φ0.8mmのドリルは細いので加工物に押し付けると容易に撓み、超硬であればドリルは即折れてしまいます。通常のドリルは多少撓ませたところで折れません。それとクランクシャフトは表面に近いところの硬度が高く、深いところの硬度はそんなでもない、という事実があるからです。これはクランクシャフトも超硬ドリルと同様で、全体を硬くすると靭性が得られず折れやすくなります。剛性と靭性をバランスよく確保するために表面近くは硬く、内部はそこそこ柔らかく、という構造になっているということです。
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10:59
│エンジン/メンテナンス
2024年09月14日
888コルサエンジン再生-1
今回は1993年の888コルサエンジンのレストアです。コルサエンジンというふれこみで入手したのですが、実際のところ素性が不明でそれが本当かどうかは開けてみてのお楽しみ?という状況でした。とにかく開けてみないと何も進展しないのでとりあえず分解しました。
一通り分解しましたが、結果としてちゃんと888コルサのエンジンでした。胸をなでおろしました。それじゃどうしましょう?とオーナー様と相談した結果、ちゃんと組み上げて現在走らせているレースバイクのエンジンと載せ替える、ということになりました。
一通り部品をチェックしていくと、この年式だとコンロッドはチタンではなくスチールの削り出しH断面。クラッチカバーは緑色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これは純正部品ですね。エンジン左側カバーも茶色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これも純正部品ですが、これは当時から1〜2年使用すると冷却水に触れているウォーターポンプ周りに腐食が発生して穴が開き、冷却水がクランクケース内に侵入することになるのは確実なので他の部品に交換することになります。クランクはコルサ純正。ミッションも純正のレーシングミッションで、パッと見たところ状態は悪くなさそうです。ヘッドはまだ分解していませんが、マグネシウム製カバーが取り付けられていて外見としてはコルサです。バルブ径もコルサです。あとはカムシャフトに何が組まれているかが問題ですが。
シリンダーとピストンもコルサ純正です。ただし、特にピストンが結構使い込まれています。裏返して裏面を見るとかなり焼けて茶色くなっています。フライホイールはコルサ純正ですが、オリジナルにはセルフスターター機構が存在しません。当時のエンジンスタートは押し掛けが常識だったのですが、現代においてはスリッパークラッチの存在もあってそれは難しいのでセルモーター等の取り付けが必須です。そうするとフライホイール関係もそれ用の物を用意する必要があります。クランクケースもコルサ純正の部品です。エンジン番号を打たれていないので、スペアパーツとして取りよせたものが使われています。当時ドゥカティコルセより指定されていたクランクケースの交換サイクルは走行500kmでしたから、スペアパーツに交換されていたのは当然の成り行きで、もしエンジン番号が打ってあるオリジナルのクランクケースが使われていたらそれはかえって怪しすぎます。
シリンダーヘッドを分解しました。内部部品もコルサ純正で、カムはIN、EXともにGカムでした。バルブ径はINが36mm、EXが31mm、ステムエンドにC.MENONの刻印があるホンモノです。さすがにロッカーアームはメッキの剥離が頻発するために頻繁に交換されていたようで、見た目の異なるものが混じっています。
ヘッドの上面には鋳型で92とあります。92年製造なので93年式のバイクに使われたということになります。Sの刻印は93年型888レーシング用、という識別です。ちなみに左側の機械加工部分は何のためかというと、フロントタイヤの逃げです。フルブレーキ等でフォークが沈むとフロントタイヤとヘッドが接触するのが当時は当たり前だったので、それを少しでも軽減しようとする試みです。
これから作業を進めていく様子を逐次アップしていきますのでお楽しみに。
Posted by cpiblog00738 at
11:16
│エンジン/メンテナンス
2024年07月12日
これもやめてください!
これは998R/999Rの純正シリンダーです。ボア径はφ104mm。今でも入手は可能ではありますが、ピストンとシリンダーのセットでの販売となり、その価格も半端ではありません。入手しようと思うと現実的なのは中古部品となってしまいます。このシリンダーはエンジンAssy でやっとこさ入手したものなのですが、なんと、やらかされていました。
ガスケットリングの溝の脇に何やら穴のようなものが‥‥。
このφ104mmボアのタイプのみ、ヘッドガスケットにウィルスリング(だと思います)が使われております。内部が空洞で加圧されているリングです。確かにこれを交換するために溝から取り外すのはちょっと大変かもしれません。しか〜し!!!これは無いんじゃないですか???かんべんしてください!!!お願いしますよ、ほんとにもう!!!
これを取り外す場合はリングに小さい穴を開けて細い針金を通して引っ張れば、自分の経験からすると120%何の問題も無く取り外し出来ます。そのくらいは思いついてくださいよ。
Posted by cpiblog00738 at
20:35
│エンジン/メンテナンス
これはやめてください。
とある車両の整備を行っておりまして、冷却水周りのホースを外しました。そうしたら全てのホースの差込個所がシリコンガスケットのてんこ盛りです。何じゃこりゃ、と思ってオーナーの方に聞いたところ、ちょっと前に某所でラジエーターホースを全て新品に交換してもらったとのことです。新品ホースにシリコンガスケットをてんこ盛りに塗って差し込む???意味不明です。草臥れ切って水が漏れてくるようなホースに対する応急処置ならまだ理解の範疇ですが。
おかげでホースの中や差込口にこびりついて残ったシリコンガスケットの除去にえらい時間がかかってしまいました。カスをそのまま放置で組み立てたら、ホース内に残ったカスが冷却水通路に回ってしまいます。
今回は純正のゴムホースだったのである意味まだマシでした。もしこのホースが社外のシリコンホースだったら、シリコンホースとシリコンガスケットが同じシリコン同士で癒合してしまってえらい事になります。
繰り返しますが、こういうのはやめてください。
Posted by cpiblog00738 at
08:42
│エンジン/メンテナンス
2024年07月04日
888SP4 再生 その8
エキパイを加工して取り付けています。こちらは左側で、角度だけ合わせてそのまま取り付けると本来の姿よりも少し短くなってしまうので、少しパイプを足して延長もしています。
右側ですが、こちらはちょっと手こずりました。元々レース専用設計のエキパイなのでストリートバイク用のステップと干渉してしまいます。レーサーの右側ステップ周りはコンパクトでもう少し高い位置にあるのですね。
これにて今回のレポートは終了です。長期間の眠りから覚めて久しぶりに公道走行に復活です。おめでとうございますと言いたいです。
話は変わりますが、次にもう一台、同様に長期間放置してしまった名車のレストアが控えています。事情が許されるようであればそれのレストア記もご紹介できるかもしれません。お楽しみに。
Posted by cpiblog00738 at
11:42
│888SP4レストア2024
2024年06月30日
888SP4 再生 その7
さて、作業は車体周りに移ります。フロントブレーキディスクはオリジナルの鋳鉄製です。さすがに16年間放置されていると、保管場所が室内だったとはいえ錆が酷いです。そのまま走行すればそのうち綺麗になるでしょう、という考えもありますが、パッドは新品に交換する予定なのでディスクも出来る範囲で錆を落としました。右が既存の状態、左が手作業でオイルストーンによる研磨を行った状態です。ここまで綺麗にしておけば短期間のうちにディスクの表面は綺麗な状態になると思います。
ステアリングヘッドのベアリングを交換しています。この時代はテーパーローラーベアリングが採用されています。ボールベアリングの場合はボールが点でレースに接触しますが、ローラーベアリングの場合は線で接触します。そう考えるとこのタイプは非常にタフなベアリングと言えると思います。しかしこの時代はベアリングを護るシールが設けられていません。つまりベアリングは外部の環境にさらされていてゴミや水等は入り放題。それを護るのはグリスだけです。そういった意味では頻繁に状態の確認、ベアリングの交換等が必要とされるでしょう。
エキパイを取り付けました。前述の通りエキパイは90年代当時にWSBを走っていたバイクのものです。さすがに立て付けが良いとは言えず、エンジンやスイングアームに干渉しないように数か所切った貼ったで形状を整えています。
ウォーターポンプカバーの色が周りと異なりますが、、内部のインペラーとともに916の部品に交換してあります。特にエンジン低回転時の冷却水の圧送能力が改善されます。
フロントフォークのメンテナンス中です。このフォークは純正ではありません。純正はオーリンズの初期型GPフォークですが、このフォークはそれより一つ世代が新しいGPフォークです。おそらくカワサキ用ではないかと推測します。何はともあれ当時最高峰とされていたフォークです。インナーチューブ径が42mmで、今となってはシールの入手に苦労するのですが…。何とオーナー様はこのフォーク用の純正シールを何台分も所有しておられました。さすがに保管期間が長いので材質的な劣化が懸念されましたが、保存状態が良かったおかげで外見は問題無し、触ってみた感触もOK、ということでその部品を使用して作業を進めさせていただきました。
冷却水関係のホースは当然ながら新品に交換しますが、純正部品ですべてそろえることはもはや難しい状況です。ということでSAMCO製のホースを調達しました。色はいろいろと選択可能ですが、今回は黒を選択しました。
Posted by cpiblog00738 at
09:37
│888SP4レストア2024
2024年06月26日
888SP4 再生 その6
エンジンが概ね組み上がったところで、バルブタイミングの計測と調整を行っています。この作業はかなり重要です。TFDではバルブタイミングをメーカーの指定値に合わせています。バルブタイミング変更、というようなマイルールの暴挙は行いません。カムの摩耗によって開弁時間が少なくなっているような場合はそれなりに考えた上で最適と思われるタイミングを設定しますが、その場合でも基準となるのはメーカーの指定値です。
さて、エンジン以外の作業に取り掛かります。これはスロットルボディーですが、結構酷い状態です。フューエルホースとクランプ等は新品に交換します。不安なのはインジェクターが正常に作動するかどうかですが、結果的に4個のうちの1個が動作不良を起こしていました。ガム化したガソリンでノズルが固着するというよくあるトラブルです。
車体の組み立てですが、まず最初にエンジンにスイングアームを取り付けます。この時に後方気筒のエキパイを仮付けしておきます。今回使用するこのエキパイは1990年代にWSBで実際に使用されていたもので、純正ノーマルとは太さや形状が異なるため、車体が組み上がった後では取り付け不可能になる可能性があるからです。このエキパイはオーナー様に持ち込んでいただいたもので、アンドレアス・メクロウ号に使われていたもの、ということで入手されたそうです。
WSB仕様のエキパイと組み合わせて使用する目論見で持ち込んでいただいたスリップオンサイレンサー(新品)ですが、残念ながら取り付け角度が全く合いません。そのまま差し込むとこんな感じになってしまいます。これは後から切った貼ったの作業で何とかします。
Posted by cpiblog00738 at
23:06
│888SP4レストア2024
2024年06月25日
888SP4 再生 その5
新品のバルブガイドを取り付けました。TFDオリジナルのベリリウム銅合金製です。ベリリウム銅合金と言っても種類はいろいろな種類が存在し、バルブガイドに使用すると秀逸なもの、バルブシートに使用すると性能を発揮するもの、等いろいろです。用途を間違えると期待した性能を発揮しない場合があり、材質の選択には注意が必要です。以前にベリリウム銅合金製のバルブガイドなのに短期間でガイドが摩耗して穴が広がり、バルブステムとのクリアランスが過大になってしまった個体を見たことがあります。選択を間違えるとそういったことが発生するということです。
左奥のシートはリフェースと使用するバルブとの擦り合わせが終了しています。手前の2ヶ所は作業前です。
この当時のヘッドの表面処理はアルミの地肌の上にクリアコートが乗っているだけです。洗浄その他の作業でどんどん剥がれていきます。オーナーの方はエンジン外観は気にせず、あくまでエンジンの調子の良し悪しにこだわるということでしたのでそのまま組み立てていきます。
Posted by cpiblog00738 at
10:06
│888SP4レストア2024
2024年06月13日
MAX10レース in 富士スピードウェイ
先週末の日曜日、富士スピードウェイに於いて「大人のレースごっこ」MAX10のレースが開催されました。私が参加したクラスはSUPER MAXというクラスでしたが、全体の参加台数が少ないために全クラス混走ということでかなりスペクタクルな展開が予想されます。
スタートは下手くそなのは自覚していますので、今回はスタートに関してはレーシングスタートという意識ではなく街乗りの延長で、とりあえずエンストとバク転は避ける、という心構えで行くことにしました。
結果は久しぶりのお立ち台の真ん中。何はともあれ嬉しいものです。富士スピードウェイの場合はやはりエンジンパワーが頼りになります。コーナーが速くない自分ですが、直線番長大いに結構、安全第一、何と言われようがストレートでの順位の入れ替えは安全ですから。
1098Rエンジン、現在でも十分すぎるほど通用しますね。
2024年06月07日
888SP4 再生 その4
クランクケース内部の部品を仮組しています。各部品はシム調整によってその位置が決定されます。クランクシャフトであればコンロッドの位置がシリンダーの中央になるように調整します。ミッションシャフトやシフトドラムであればギアの送り、噛み合い具合等の加減を見ながら最適と思われる位置に各部品を調整します。かなり細かくて面倒な作業ですが、正しく行えばギアチェンジの良好な感触を獲得できます。ただし乱暴なギアチェンジを行ってシフトフォークを曲げたりすればせっかくの調整も元の木阿弥となってしまいます。
ここがポート内に問題があった場所ですが、バルブガイドがおかしなことになっています。割れて欠けた?融けた?状況は確認できましたが何が起ったのかは判りません。ただガイド以外に問題は無さそうなので、ガイド交換を行えば問題なさそうな印象です。
ガイド交換はオーバーホール作業に於いてルーティンです。抜いたガイドは銀色のものがインテーク、銅色のものがエキゾーストです。エキゾーストの方が過酷な環境に置かれるので高級な材料で製作されていると思われます。
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08:47
│888SP4レストア2024
2024年06月04日
888SP4 再生 その3
ピストンの点検中にピンボスの軽微なカジリの発生が発覚しました。キズ部分を磨いてこのまま再使用しても問題は無いかもしれませんが、それはあくまで代替え部品が無い場合の対応と考えます。TFDに中古良品のピストンの在庫が幾つかあるので、今回はそれを使用することにします。
もう片方のピストンを点検したところ、こちらはピンとピンボスの勘合がきつく、印象としてはピストンに歪みがあってピンボスの整列が正しくない印象でした。ということでこの際ピストンは2個とも交換することにしました。
クランクシャフトです。結構な頻度で発生するトラブルですが、クランクピンのプラグが緩んで外れかけています。M20のネジになっていますが、この当時はネジロックを塗布して組んであるだけなので、緩んで飛び出してくることがままあります。飛び出した部分はクランクシャフトを支持しているボールベアリングのアウターレースに接触して少しずつ削れて行くのでこのような模様が付きます。
組み直す時にはプラグの端をポンチで打って雌ネジと軽くカシメてしまうので再発の心配はありません。
コンロッドです。チタニウム製ではなくスチール製ですが、H断面の削り出しです。ただしコンロッドボルトは使い捨ての安価なタイプが使われています。SPSやSP5だと専用の高価なボルトが使用されていて差別化が図られているのですが、この安価なタイプのボルトは現行車種のものが使用可能で、現在でも普通に入手できるのでかえって好都合です。
クランクシャフトにコンロッドを組んだところです。ハーブメタルの選定が重要な作業です。ちらっと見える83という数字は使用しているメタルの厚さで、1.483mmということです。69と見えるのはコンロッドボルトを指定の方法で締め付けた時に要した締め付けトルクで、69Nmということです。ちなみに締め付けトルク管理ではなく締め付け角度で管理しているので、結果的にトルクの方にバラツキが出現します。48と見えるのはメタルクリアランスで、0.048mmということです。
こちらはミッションのメインシャフト(クラッチが付く方のシャフト)です。この頃はニードルベアリングが金属製のリテーナーを使用した分割式です。もう少し時代が進むとリテーナーが樹脂製の一体式になります。サークリップは交換、グルーブワッシャーは目視でダメージのあるものだけ交換します。
もう片方のカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)の方も同様に作業しましたが、すいません、写真を撮り忘れました。いずれにせよ両者とも特に問題は無く、状態は良好でした。
さて、シフトドラムの位置決めの機構についてです。例えばシフトドラムが回転して2速に位置に来ればギアが2速に入るということになるのですが、ドラムをその位置に留めておく機構が存在します。その機構が916から変更されています。詳しいことは省きますが、オーナー様からその点を刷新してほしいとのご要望をいただきましたので対応しました。クランクケースに加工を施し、916のシフトドラムとギアストッパーのロッカーアームを取り付けました。これでシフトのフィーリングがかなり改善されたということになります。
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08:47