2009年05月31日
車体組み立て
2009年05月29日
748RSの車体
さて、エンジンが出来上がったので次は車体です。画像は先日TFDにやって来た748RS2002です。車載のエンジンは既に700km以上走行しており、そろそろオーバーホール時期となります。ということで、これからエンジンの積み替えを行います。
748RSはストリートバイクの748Rと基本的に同じとはいえ、良く見ると非常に凝った造りになっている事が判ると思います。
2009年05月28日
完成したエンジン右側
こちらは完成したエンジンの右側です。ストリートバイクとはタイミングベルトプーリーの大きさが違うのでテンションプーリー周りの眺めは趣が異なります。ノーマル状態ではテンショナーで絞られた中央部分でベルト同士の間隔が狭く、それを改善する造りになっています。
ベルトそのものもRSの専用品で、748Rのそれとは幅が異なります。748Rのベルト幅は21mm、748RSのそれは19mmです。ちなみに851シリーズから996までのそれは17mmです。丁度中間のサイズということになります。ちなみに748RSのベルトは996RSのそれと同一の部品です。
バルタイ測定及び調整中です
シリンダー、ピストンとヘッドを組みつけ、バルタイを測定しています。勿論前回のオーバーホール時に適正なバルタイに調整してあるので、あくまで確認です。でもたまに何故だか判りませんが再度調整が必要な事もあります。
それは例えばピストンとヘッドのスキッシュクリアランスにおいても同様で、前回適正値に合わせた筈なのに何故か調整が必要になることも稀にあります。ですから今回もちゃんとスキッシュクリアランスを測定し、その値を確認済みです。
クランクケース左側
クランクケース左側を組み立て中です。こちら側の眺めはストリートバイクのそれと全く同じです。フライホイールに関して、2000年型の748R/RS使用されているそれは、他のストリートバイクの殆どに使用されているものと同一の、大きく重いものでしたが、2001、2002年型に使用されているものは専用の小型フライホイールになりました。画像からも判るとおり、発電機ローターよりも外径が小さいものです。この状態からでは判りませんが、奥側のカラーも一体になったワンピース構造です。通常のストリートバイクに使われているものは、別体のカラーと組み合わせて使用しており、その意味では2ピースです。
なぜ専用品が使われたかといいますと、勿論フライホイールの軽量化も目的の一つですが、それよりもある意味で重要だったのはフライホイールナットのゆるみ止め対策だったと思われます。
競技専用の車輌である748RSはレブリミットが12,400rpmに設定されており、そこまでの回転域を常用します。2000年型のノーマルフライホイールでそれを行うとフライホイール本体とカラーがこじられてその接触面が磨耗し、その結果フライホイールナットの緩みが頻発した模様です。テスト段階でその不具合が発覚した模様で、その結果2000年型748RSのマニュアルには、フライホイール締め付けに関する特別な指示がありました。それはフライホイールナットはもとより、フライホイール内側のスプラインの溝にまで、耐熱型最高強度のロックタイト648を流し込んで組み立てを行うべし、締め付けトルクは270Nmである、ということでした。当時TFDでは2000年型748RSを新車で購入し使用していましたが、この方法でフライホイールを取り付けてもロックタイトの効果は限定的であまり役に立っておらず、こびりついたロックタイトの残りを再組み立て時に除去するのが非常に難儀で閉口していました。2001年型以降ではフライホイール変更によってこうした懸念が払拭されました。
2009年05月26日
クラッチ側
エンジン右側が組みあがりました。今回クラッチは、あの悪評高い2004年型749Rの純正スリッパークラッチを組んでみました。このタイプだけスリッパークラッチを作動させるカムの角度が小さいので、バックトルクがかかったときに半クラッチ状態になり易く、そのまま放っておくとその状態から復帰しにくい、言い方を買えればスリッパーが効き過ぎの傾向があるシロモノです。極端な話では、コーナーリング中にクラッチが切れた状態のままになって、エンジンがアイドリング状態になった!という逸話もあります。私は今迄このスリッパーを本気で試した事が無かったので、今回それがどんなものなのかをちゃんと確認してみたいと思います。何はともあれ、メーカーがこの車種だけのためにわざわざ製作したのですから、何かしらのはっきりとした狙いがあったことは確かだと思います。
タイミングベルトプーリーはストリートバイクよりも大きいものが使われています。ストリートバイクに使われているものは18山ですが、RS用は20山です。勿論カムシャフト側も同様です。幅はちょっと狭いですが、形状はテスタストレッタエンジンに使われているものと同一です。ベルトの曲がりの曲率が緩やかになるとか、プーリーに噛み合う歯数が増加するとかで、ベルトの負担の軽減を狙ったのでしょうか?
ちなみにクラッチカバーはアルミ製の純正を加工して製作してみたものです。1年ほど前の作品ですが、私は個人的に結構気に入っています。
カムシャフトの違い
2009年05月24日
748RSのピストン
バルブスプリング
左がRSのバルブスプリング、右がストリートバイクのバルブスプリングです。線径も巻き数も全く違います。RS用はストリートバイク用と比較して非常に柔らかく造ってあり、テンションはかなり弱いです。有っても無くても変らないのでは?という感じですが、やはり始動性や低回転ではそれなりの働きをしているのでしょう。しかし、おそらく最近のレーシングバイク(999RSや1098RS)にはバルブスプリングというものは使用されていないと思います。
もしRS用のバルブスプリングをストリートバイクに組んだりするとどうなるか?そうすると高回転域では回転の抵抗が弱くなる分ほんの少しだけパフォーマンスアップすることもあるでしょうが、アイドリングや低中速では明らかに調子悪くなります。組んだばかりの状態ではまだマシかもしれませんが、暫くたって燃焼室や排気ポートにカーボンが溜まってくるとアイドリングで吹き返してエンストしたりします。空ぶかししてもフィーリングがイマイチで、排気ガステスターで排気の状態を見ると、HC値が異常に高くなったりします。要するにバルブの密閉度に問題が出てくるのですね。
バルブコッター
RS専用部品・バルブ
上がストリートバイクのインテークバルブ、下が748RSのインテークバルブです。ストリートバイクのバルブは、748R以外にもS4RやST4Sも含む996系全てに同じものが使用されています。
SS600のレギュレーションで、バルブ傘径の変更は不可となっていますので、φ36mmの直径は変りません。異なるのは材質と形状です。材質はインコネルよりも高級な耐熱鋼であるナイモニックでだと聞いております。形状はバルブステムのポートの中に位置する部分が細くなっています。これは言うまでも無く、吸気抵抗を軽減するためですね。
748RSのバルブは上記のストリートバイクに使用可能です。ただしエキゾーストバルブに関してはS4R及びST4Sとの互換性はありません。その他の996系と748Rにはインテーク、エキゾースト共に使用可能です。新品バルブの在庫はまだ結構ありますので、ご興味のある方はお問い合わせください。特価で放出しますよ。
バルブ合わせ終了
ガイド穴をハンドリーマを用いて適正サイズに仕上げます。新しく装着したこのガイド、耐久性は抜群で言う事無しの材料なのですが、持ちが良い、という事は、加工し難い、ということと同義語になります。リーマ通しも四苦八苦しながら0.01mmずつリーマをサイズアップして行き、適正サイズまで持って行きます。この材料の加工し難さと比べたら、純正ガイドなんて朝飯前、一般的に出回っているベリリウム銅のガイドでも楽勝、って感じです。材料自体も高価だし、それをガイドの形に削ってもらう加工賃も非常に高いし(でも高いとはいえ、自分で旋盤を回して製作をトライした事があるので作業の大変さは良く判っています。自分の腕と、ここにある旋盤では製作不可能という結論に達しています。加工を請け負っていただいているところには非常に感謝しております)、コスト的には全く合いませんね。でもやっぱりこれ良いんですよ!
で、シートカットも行って、当たり確認の磨り合わせも終了。これでヘッド組み立ての準備が整いました。シートカットは3面同時カットの刃物を使用しています。当たり面の幅は1.0mmの刃物を使用していますが、その数字は公称なので個々の刃物によってばらつきがあるようです。画像では当たり幅がちょっと広めに見えますね。磨り合わせのせいでそう見えるのかもしれませんが
2009年05月21日
新品バルブガイド挿入完了
めでたくガイドの交換が終了しました。ごく稀に、挿入途中でガイドが止まってしまい、仕方なくそこから先は叩いて入れなければならないこともありますが、今回はそうした不測の事態もありませんでした。
バルブシートの脇に書いてある数字は計測したガイド穴の内径です。この寸法に合わせてそれぞれ適切なガイドの外径を選択します。メーカーが加工した時点では全て同じ寸法の穴だったと思われますが、このような状況になるとかなり寸法にばらつきが出てきます。(このヘッドの場合は極めて数字が揃っている範疇にあります)嵌め合いしろが緩くてガイドの脱落を誘発したりするのは絶対に避けたいですが、逆にきつすぎても、その結果ガイドを叩き込まなければならない状況になると、叩き込んだ事によってガイド穴の内面にカジリが発生する可能性もあり、それも避けたいです。
マイナス196℃の世界
バルブガイドの交換作業中、ガイドを液体窒素を利用して冷却している様子です。沸騰している液体窒素の中に4個のガイドが沈んでいるのが見えます。
窒素ガスは低温では液体の状態にあり、その沸点は絶対温度で言えば77度、摂氏ではマイナス196度です。画像の状態では室温中で沸騰しています。
一方ヘッドはオーブンの中で加熱中です。片方を暖め、もう片方を冷やす事によって、ガイドを叩き込んだりしなくても抵抗無く挿入できるというわけです。
2009年05月19日
加工終了した燃焼室
無事に作業は終了し、こんな感じになりました。本当に均一にカッコよく仕上げるには、フライスとかで機械加工するのが良いのでしょうが、こちらではそんな事は出来ないので手作業です。でもなかなか美しい仕上がりです。そう言わなければ後から手作業で加工したとは判らないでしょう。 ガイドは交換するために既に抜き取ってあります。
燃焼室形状加工
バルブ
オープンロッカーアーム
シリンダーヘッド分解
2009年05月13日
RS専用部品・オイルラインプラグ
画像はオイルフィルター取り付け部分です。ここを覗いたことのある人はあまりいないかもしれませんが、ストリートバイクと比較するとちょっと眺めが違います。ストリートバイクの場合は右下のオイル穴を板バネ状のバルブで塞いでいますが、RSの場合は穴にブラインドプラグを打ち込んで完璧に穴を閉鎖しています。
元々このオイル穴は、オイルクーラーのオイル通路が何かの原因で塞がった場合に、オイルがオイルクーラーをバイパスして直接オイルフィルターの入り口に流れるように開けられたものです。オイルクーラーをオイルが順調に通過している限りは板バネ状のバルブは開きません。オイルクーラーの通路が塞がって油圧が上がると板バネ状のバルブが開く仕組みです。
でも、いったいどのような場合にオイルクーラーのオイル通路が塞がったりするのでしょう?私にはあまり想像できない場面です。RSの場合はその使用状況から高回転で油圧が高く保持される事が多いと思われますので、その様な場合でも全てのオイルがオイルクーラーを通過して冷却される事を期待しているのだと思います。
2009年05月11日
RS専用部品・オイルネットフィルター
オイルシール
タイミングシャフトのオイルシールです。最近品番が変り、実物も見慣れた青色のものから画像のような茶色のものになりました。価格もいきなり約3倍になりました。性能も3倍になっていることを期待したいです。特にこの部分は熱的に苦しいところなのです。
クランクケース組上げ
片側のクランクケースに内部の部品を組み付けたところです。画像では再現できませんが、内部部品の位置関係を決定するシム調整が非常に厄介で手間がかかる作業です。簡単に言えばクランクはイニシャル荷重の調整とセンター出し、ミッションは各ギアの噛み合いの調整と左右クリアランスの調整といったところです。
今回はオイルパンにオイルの移動を制限するバッフルを取り付けました。これは95〜97年モデルの916レーシングに使用されていた純正部品です。加減速時、特にフルブレーキング時のオイルの偏りを防ぐ目的で装着されていた部品です。あまりにもオイルがオイルパンの前や後ろに偏りすぎると、オイルポンプの吸い口からエアを吸ってしまう事があるからです。
シフトドラム
シフトコントロールドラムです。左が今迄使用していたもの。中央は2003年あたりから市販車に使われだした新型。右が749Rの2005、2006年モデルの部品です。
左の旧タイプは新型と比較するとフォークを動かす溝が直線的に加工されておらず、波打った溝になっています。これは工作機械の性能というか都合によるものだった模様です(そんな話を聞いた事があります)。これが新型になって直線的な溝になりました。ちょっと想像しただけでシフトフォークの動きがスムーズになり、シフトタッチが向上しそうです。
で、そのなかでも2005、2006年モデルの749Rの部品は軽量化されています。この頃メーカーは結構本気でしたね。重量は中央のものが943グラム、右のものが686グラムでした。今回は軽量化されたこの部品を組んで試してみようと思います。
ミッションメインシャフト
ミッションのサークリップ
ミッションに使用されているサークリップです。左が今迄使用していたもので、使用した距離は約500kmです。新品時よりも開き気味です。(このタイプは既に旧型で、比較対照になる新品の画像がありません)テンションも弱い感じです。
右の部品が現行の新品です。以前のものよりもテンションが強く、明らかに性能が良くなっている事が装着時に確認できます。
このサークリップがレース使用時に溝から外れた事例があります。多くは4速、もしくは3速に勢い良くシフトダウンした時に発生しやすいようですが、もしそうなると異なる2つのギアが同時に噛み合い(例えば3速と4速が同時に噛み合う)、その結果ギアが粉砕してしまいます。そうした例を何件か見ているので、オーバーホール時にはこのサークリップを新品に交換することを推奨しています。
例えば最近の1098RSに使われている同部品は特別に製作されたテンションの強い外れにくい部品のようで、たかがサークリップなのに価格が1個あたり4000円近くします。メーカーもレースで使用するにあたってこうしたトラブルが起きる可能性の高さを認識しているわけですね。