2021年11月24日

オーバーホール中のエンジン

 オーバーホールのご依頼をいただき、エンジン単体で持ち込まれたテスタストレッタエンジンです。かなり調子が悪かったと思われる個体です。

IMG_4531 取り外したバルブです。取り外したままの状態ですが、カーボンの付き方から一見すると左がエキゾーストバルブに見えます。しかし大きさを見れば判る通り左がインテーク、右がエキゾーストです。エキゾーストバルブにはカーボンが全く付いていません。
 たまにこういったエンジンに出会いますが、こうなる原因は主にバルブタイミングの大幅な狂いです。この手のエンジンはタイミングプーリーが組み立て式になっていてある程度のタイミングの調整しろがあり、適当なところでボルトを締めて固定するような構造になっています。何かの原因で正しくない位置に固定してしまったのでしょうね。バルブとピストンが当たらなかっただけでもラッキーと言えるかもしれません。

IMG_4534 エキゾーストポートもこんな状態です。分解しただけで何も手を付けていませんが、カーボン付着が皆無です。エキゾーストバルブにカーボンが全く付着していないくらいですから、ポートも同様ですね。完璧すぎるクリーン燃焼と言えるかもしれません。エンジンの調子は良くないに決まっていますが、こんなものだと思って乗っていたんでしょうね。


IMG_4530こちらはシリンダヘッドのサイドカバーです。シリコンガスケットのてんこ盛りでした。オイル漏れが止まらないのでこうした処置を施したものと思われます。最近の作業者は何かあるとすぐにシリコンガスケットを塗りたくる傾向が有りますね。私のような古いメカからすると、こうした仕事は自分のスキルの無さを世間に公開しているとしか思えません。自分の組んだエンジンをどこかで誰かが開けたときに、良い仕事をしていると思ってもらえるような仕事をするように毎日精進するべきだと思います。最近の作業環境がとにかく仕事をこなすことに重点を置く場合が多いのかもしれませんが、それでこんなおざなりの仕事が横行するようであればいろいろな意味で悪循環に陥っていると言えるでしょう。

IMG_4535 オイル漏れには必ず原因が有ります。この場合はオーリング溝に存在するバリです。画像のドライバーの先端の部分はバリに引っかかっていて、手で支えていないのにドライバーは固定されて落ちないような状態です。このバリはヘッドのこの面を機械加工した時に刃物の動きの下流側に発生するもので、よく観察するとかなり大きなものです。このバリの存在が原因でオーリングが正しく溝の中に納まらず、それでオイル漏れが発生するというのが事の顛末です。ということでこのバリをリューター等で削って除去すればオイル漏れの症状は改善されます。

IMG_4544 これはカムシャフトのジャーナルですが、中央にある傷というか溝はもちろんですが本来は無いもので、エンジン始動後に発生したものです。原因は異物がこの部分を通り過ぎたということですが、その異物が何処から来たかというとこの場合はおそらくカムシャフトの中です。カムシャフトは中空構造となっていてプラグで蓋をしてあり、内部はオイルラインになっています。つまりオイルラインの中に製造時に異物が入ってしまっていたということでしょう。と言う事なのでこればっかりはいくら気を付けても防ぎようがありません。こういったエンジンに当たってしまった場合は運が悪かったと諦めるしかないのですが、多くの場合これが原因でエンジンが不調になることは無いので目をつぶって良いと思います。







  

Posted by cpiblog00738 at 08:45

2021年11月23日

チェーン切れ

 レーストラックではたまにチェーン切れたという話を聞くことがあります。私個人としては体験したことは無いのですが、それなりの頻度で発生しているような印象です。しかし切れたチェーンはたいていの場合手元に残らないので、どのような状態で切れたのか目にすることは少ないです。

IMG_4529 先日チェーンが切れたバイクが入庫しましたが、チェックするとたまたま切れたチェーンのリンクがベリーパンの中に残っていました。これを観察すると、チェーン切れのきっかけとして最初に起こる事象はピンの破断なのでしょうか?次にリンクプレートが破断し、もう一方のピンがプレートから引き抜かれる、というような順番のように見えます。それともリンクプレートの破断が先なのか?とにかくチェーン切れが発生するとタダでは済まない場合が殆どなので、日ごろのメンテナンスとそれなりの頻度での交換は重要ですね。520サイズのチェーンとスプロケットに150馬力以上のパワーはかなり荷が重いような気がします。
  
Posted by cpiblog00738 at 17:23

2021年11月16日

851系のレストア作業

 最近はこの作業に付きっきりでなかなか他の作業が出来ない状況となってしまい、皆様にご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。やっとひと段落したところでオーナー様の許可をいただき、作業の内容をかいつまんでご紹介します。
 このバイクはTFDとは全く関わり合いが無かったバイクで、ずいぶん昔に某ショップが製作したものです。オマケに乗らなくなってから15年ほど経過しています。果たしてどんなサプライズが出現するのか、どんな罠が待ち構えているのか、ちょっと緊張しながらの作業スタートとなりました。

IMG_4187 851SP系のフレームは年月を重ねるとペイントが例外なくこのような状態になってしまいます。これは保管状態云々の問題では無いと思います。ということでフレームは塗り直すということで決定です。




IMG_4190 ペイントでフレーム単体にする前にステッププレートの曲がりを点検中です。このバイクはレースでも使用されていたので転倒歴があり、ステップの取り付けプレートを修正する必要がありました。
 エンジンの外観に目を向けると、こちらもペイントかなり痛んでいます。ということでエンジンの方も塗り直しということになりました。


IMG_4194 15年の時を経たガソリンタンク内部の状況は手を付ける前から一番の懸念材料でした。タンクキャップを開けた瞬間に強烈なガソリンの腐敗臭が.....。内部部品はこんなになっていました。不用意に手を触れるとホース表面は融けたチョコレート状になっていてグチャグチャです。手がとんでもないことになりました。物凄い悪臭を放つのでこれらはビニール袋に包んで速攻で廃棄です。


IMG_4206 この年式迄のウォーターポンプシールはメカニカルシールではなく一般的なオイルシールを使用しています。水漏れ発生の頻度が高く、弱点となっています。オイルシールのサイズが特殊で、今となっては基本的に入手困難な部品となってしまっています。特殊サイズのオイルシールを何とかして入手して、という手もありますが、今回はカバーごとメカニカルシールを使用している後年式の部品に交換することにしました。

IMG_4339 こちらは塗り直したエンジン部品です。全部で37点。かなりの数で、ペイント屋さんにはご苦労をおかけしました。クラッチカバーはマグネシウム製の部品を使用するので塗っていませんが、それを塗ったとすると38点になり、これだけの点数になるとそれなりの費用が発生するのは想像に難くないと思います。
 エンジンのペイントで大変なのは通常のオーバーホールでは取り外さない部品まですべての部品を取り外す必要があるということです。それらの部品の脱着の手間や労力を考えるとかなりの大仕事です。また常識的に考えて取り外したベアリングその他の部品の再使用は憚られますからそれらは新品に交換となります。従って部品代も嵩むこととなります。

IMG_4217 エンジン内部ですが、これが使用していたピストンです。社外のピストンでボア径はφ96mm。ということで実はこのエンジン、排気量は926ccとなっていました。ところが一つ大きな問題がありまして、このピストンはストロークが66mmのクランクシャフト用の955cc用ピストンなんですね。このエンジンのクランクは851系の64mmストロークですから、単純に考えてピストンのピン上高さがストロークの差の半分の1mm足りません。要するにピストンとシリンダヘッドとのクリアランス、つまりスキッシュの隙間が通常よりも1mm広いということになります。低圧縮仕様のエンジンですね。随分中途半端な作業をされています。そしてスロットルボディーは916/996純正の部品が取り付けられ、ECUはオリジナルのP7からP8へと換装されています。使用しているEPRomは996SPS用の#073でした。この仕様のままではどう考えてもマトモに走るとは思えませんが、お情けで、何処かのサブコンみたいなもの、が付いていました。

IMG_4367 勿論今回の作業ではちゃんと走るようにするのが前提なので、クランクは916系の66mmストロークの部品を使用して本物の955cc仕様にします。コンロッドはオリジナルのままですが、この時代からノーマルでもH断面のビレットです。材質はこの時代ですからチタンではなくスチールです。でもこの時代にH断面の削りのコンロッドは国産車では考えもつかない有り得ない仕様だったと思います。もちろんクランクのバランス取りも施しました。

 IMG_4399それでエンジンがいったん組み上がり、バルブタイミングの計測調整を行い、各部のチェックを行いましたがまた問題が発生しました。実際にエンジンをクランキングさせると、インテークバルブとピストンのクリアランスが足りません。このエンジンのインテークカムはGカムが使われていますが、ピストンの方はノーマルカム対応となっているようです。


IMG_4388 仕方がないのでピストンのバルブリセスを加工して対処することにしました。組んでチェックしてバラして対策して組んでチェックして、と大変な手間がかかりますが、後戻りは出来ませんしね。




IMG_20211116_0001 そんなこんなでエンジンは完成し、途中は省略しますがバイクは形が出来上がり、次の難関は燃調のセッティングです。
 セッティングはシャシダイ上でバイクを走らせてモニターした空燃比データに基づいてファイルを書き換えていきます。スロットル開度は全閉のアイドリング状態から全開までを13段階に分け、それぞれのスロットル開度における各エンジン回転数の空燃比を合わせていきます。かなり面倒で時間がかかる作業です。特にこのP8ECUの場合はRom式なのでエンジンを走らせながらのファイルデータ変更が出来ません。作ったファイルで走らせてデータを取り、書き直したファイルで走らせてデータを取る、の繰り返しになります。
 画像はスロットル開度が25度の時のグラフで、赤線が最初の状態、青線が6回書き換えた後の状態です。グラフ中段が1番シリンダ(前側)、下段が2番シリンダ(後ろ側)の空燃比です。セッティングというのは誤解を恐れずに簡単に言えば空燃比を13前後に合わせる作業なので、セッティング前後の差が良く判ると思います。特に街乗りバイクの場合、常用するのは全開域ではなくパーシャル域なので、気持ち良く走るエンジンにするためにはこういったスロットル中開度のセッティングが重要です。

IMG_20211116_0002 こちらはスロットル全開のパワーチェックです。120馬力を超えたので良い数字だと思います。数字はあくまでTFDのシャシダイで計測されたもので、他の計測機で計測したら数値は別のものになるとは思います。何かしらの比較が目的であれば同じ計測器で計測して比較しないと正確なところは判りません。TFDで計測した履歴があるバイクのデータと比較すると完調な996モノポストと同じくらいですね。996SPSが126馬力前後なのでなかなか良い数字だと思います。




  
Posted by cpiblog00738 at 11:55