2022年02月20日
996F00エンジン-6
これが996F00エンジンのオリジナル、純正フライホイールです。996RS01も同じものが使われています。セルフスターター機構が無いのでこのような簡素な造りになっていますが、美しいというか凄いというか過激というか、何といえば良いのでしょう、、、。画像下側の色が異なる部分は発電機のローターなので、フライホイールはその上にある薄い板から上の部分です。
非常に手の込んだ機械加工によって製作されています。発電機ローター固定ボルトの取り付けボス部分のみが富士山みたいです。エンジン内部の見えない部分に存在するのが残念に思えます。芸術品、調度品、の類だと思います。
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10:28
2022年02月15日
996F00エンジン-5
燃焼室です。デスモクアトロエンジンなのでバルブ挟み角はIN、EX、ともに20度で合わせて40度です。バルブ径は39mmと32mmです。現在の最新エンジンと比較すると燃焼室形状は一時代前の印象がありますが、スーパーバイクレギュレーションの中で製作されたものですからノーマルストリートバイクのヘッドの改造品と言う事を鑑みると凄い造りだと思います。
バルブシートはすり合わせとシートカットによりバルブとの当たりを取り直してあります。このエンジンは走行時間が進むと特にインテークバルブの当たりが悪くなるので頻繁にその確認と修正を行っています。具体的に言うとインテーク側のスパークプラグの傍とスタッドボルト穴の傍の2ヶ所でバルブとシートが当たらなくなります。あくまで冷間で部品単体での確認ですから、実際にエンジンが稼動している状態でどうなっているのかは知る由もありませんが、さりとてそのまま組むわけにもいきませんのでバルブとシートがちゃんと当たるように修正を行っています。
バルブシートを追い込みたくないのでシートカットを行わずにすり合わせのみで対応出来れば理想的なのですが、なかなかそうはいきません。今回はEX側はすり合わせでの確認のみで済みました。しかしIN側はすり合わせで何とかアタリを付けることは出来ましたが、すり合わせ量が多かったために当たり幅が広くなってしまいました。そこで当たり面の内側と外側に適量のシートカットを施すことによって当たり幅を是正しました。
組み上がったシリンダヘッドです。インテークバルブはDel West製です。この時代以降のチタンバルブはこのメーカーがサプライヤーになっているようです。エキゾーストバルブの方はまだスチール(ニッケル合金のナイモニック)で昔からの定番のC.MENON製です。エキゾーストバルブもチタン製になるのは998RSからです。
インテークバルブ周辺をよく観察すると、バルブの中心とバルブシートの中心が若干ずれていることが判ると思います。バルブシートの見える部分の幅が均一ではないのでそう判断できます。理由は不明ですが、わざわざそうするのですから明らかな理由が有るのでしょう。
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10:13
2022年02月14日
996F00エンジン-4
エンジン右側です。1次減速、オイルポンプ等があります。1次減速比は59/32です。916Racing96(955cc)迄は62/31でした。916Racing97(996cc)から59/32になりました。999RS以降は27/57とかいろいろと選択肢が増えました。
エンジン左側です。フライホイール、タイミングギアその他があります。このエンジンはピックアップが2個存在していて、クランクシャフトのトリガー(クランクシャフト1回転に付き信号4つ)とタイミングギアのトリガー(タイミングギア1回転に付き信号1つ)から信号を拾っています。本来セルフスタート機構は存在しないのですが、このエンジンは後付けの機構でセルフスタートできるようになっています。
AMAのレースレギュレーションでセルフスタートが可能であること、という項目が当時あったため、AMA用としてこうしたキットが一時出回りました。
ピストンです。さすがにデスモクアトロ最終型だけあって歴代の中では最も過激な形状と言って良いでしょうか。よく見ると品番とシリアル番号が確認できます。RSの部品は部品番号だけではなく固有のシリアル番号が記されており、製造時から部品の管理が行き届いていました。
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14:32
2022年02月13日
996F00エンジン-3
オイルインテーク機構をエンジンの下側から見るとこんな眺めです。奥に見えるアルミのパイプがオイルの吸い込み口です。可能な限りオイルパンの下からオイルを吸い込むようにすることでエア噛みを防止します。それまでの平らなオイルパンの場合、急激な加減速を行った場合にオイルが偏ってオイルの吸い込み口からエアを吸い込んでしまい、それが原因となってエンジントラブルが発生する事例が有ったのです。このシステムが進化してその後テスタストレッタエンジンの逆ピラミッド型のオイルパンが登場するという訳です。
シリンダ取付穴から内部を覗いたところです。クランクシャフトはその左右に存在する専用のシムによってその位置を決定するのですが、左右に記してある数字はそのために計測した値です。要するにコンロッドが穴の中心に来るように位置決めするということですね。
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09:38
2022年02月05日
996F00エンジン-2
こういったレース専用エンジンの場合、セルフスターターは最初から装着されていません。エンジンスタートは押し掛けもしくはリアホイールスターターを使用するのが前提です。そのためにこのクランクにはストリートバイクのクランクシャフトにはもれなく存在しているセルフスターター用ワンウェイクラッチを潤滑するためのオイル通路がありません。今回このエンジンはセルフスターターを取り付けて使用するのでオイル通路を設ける加工が必要となります。
半月型キー溝の横に開けた穴が今回追加加工したオイル通路です。クランクシャフトのような硬い部品に穴を開けるのはなかなか骨が折れます。画像で見える穴の直径はφ2.5mmですがその径で空いているのは途中までで、穴の奥の穴はφ0.8mmの穴になっています。そのようにオイルの流量を規制しているということです。超硬のドリルで深さ8mm程度まで穴を開け、その先の残り2mmに0.8mmの穴を貫通させる作業はとてつもなく緊張します。失敗してドリルの歯を折ってしまったりしたらエライ事になりますからね。幸いなことに今迄かなりの数をこなしてきましたが、今のところ失敗は皆無ではあります。
メタル合わせを行った後にクランクにコンロッドを組み付けたところです。このコンロッドは使用するメタルの厚さが一般のストリートバイクと異なります。ストリートバイクに使われているメタルの厚さは呼びで1.5mmなのですが、このコンロッドに使用されているメタルの厚さは呼びで2.0mmです。クランクピンの直径はストリートバイクと同じくφ42mmなので、何が違うかというとコンロッド大端の直径です。実際に使用してみると良く判りますが、過酷な使用状況下では2.0mmのメタルの方が明らかにストレスに対して余裕が有るように感じられます。
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22:58
2022年02月04日
996F'00エンジン-1
996F00エンジンのオーバーホールを行っています。Fはファクトリーの略です。要するに2000年型996ファクトリーエンジン、ワークスエンジンとも言います。TFDでは2002年にF00のエンジンを3基購入しましたが、そのうちの一台です。前回のオーバーホールが2006年の暮れでしたから、約15年ほど眠っていたことになります。今回縁あってこのエンジンを再び走らせることとなり、そのためのオーバーホールです。
当時のドゥカティの場合、その年のワークスマシンは翌年の市販レーシングマシンとなりますから、このエンジンの仕様としては996RS01のエンジンということになります。しかしワークスエンジンですからそこかしこに手が加えられており、RS01のノーマルエンジンとはずいぶんと趣が異なります。クランクはピカピカに磨かれていますし、コンロッドもRS01のコンロッドとは異なります。
このエンジンは2000年シーズンの終了後にファクトリーから放出され、2001年シーズンはイギリスのGSEレーシングというチームが使用していました。そのエンジンが2001年シーズン終了後に放出され、それをTFDが入手したという訳です。3基のエンジンはそれぞれ微妙に仕様が異なり、手堅い仕様、イッパツ仕様、その中間、みたいな感じなので、ファクトリーから放出された翌年に手を加えられたのかもしれませんね。いずれにせよGSEレーシングというところはエンジンの管理が常識外れに行き届いていて、それはエンジンを分解してみると直ぐに理解できます。部品の交換はファクトリーの指示通りの走行距離のサイクルで行われていますし、各部品にはそれがどのエンジンの部品なのか識別できるように印が付いています。
例えばこのクランクにはJT5と記されています。これはジェームス・トスランドというライダー用エンジンの5号機ということです。おそらくかなりの数量のエンジンをハンドリングしていたのでしょう。部品が入れ替わったりしないようにと言う事だと思います。そうしないと距離の管理にも支障が出ますし。でも部品の中にはNHと記されている部品も一つだけ混じっていました。(笑)
今後オーバーホールの様子をかいつまんで紹介していきたいと思います。
Posted by cpiblog00738 at
20:09