2022年03月31日
748Sエンジンオーバーホールその4
諸事情によりちょっと間が開きましたが作業再開しました。
オイルポンプの内部を点検中です。今迄オイルポンプに問題があったという記憶は殆どありません。本体と蓋の間には位置決めのノックピンが存在しません。従って蓋を適当に取り付けてボルトを締めてしまうとシャフトとシャフト穴がせってしまって摺動抵抗でシャフトの回転が重くなります。蓋を取り付ける時にはシャフトの回転がスムーズな場所を探してボルトを締める配慮が必要です。
シフトコントロールアームAssyを分解しています。2種類のリターンスプリングを交換します。スプリングの折損はたまに見かけます。太い方のスプリングが折損するとペダルが中立の位置に戻らなくなりますし、細い方が折損すると何かの拍子にアームがドラムから浮いた状態になってシフト操作をしても空振りになってしまうことがあります。
シフトコントロールアームの調整を行った後、エンジン左側を組み立てています。調整はナットで固定してあるエキセントリックピンの取り付け角度を変更することによって、シフトアップとダウンのペダルのストロークが同じになるように行います。特に太い方のリターンスプリングを交換した場合はこの調整を行わないとシフト操作に支障をきたすことになる場合があります。
エンジン左側にはフライホイール、タイミングギア、ギアチェンジ機構、等が存在します。
クラッチドラムです。左が旧タイプの既存の部品、右が現行の新しいタイプです。旧タイプはオールアルミ製で、ワッシャーと接触している中央の穴の回りが摩耗して凹んでいます。現行部品はその部分にスチールが鋳込んであって摩耗しにくい構造となっています。この部品は現行の新品に交換します。
クラッチを組み立てました。このエンジンには社外の部品が使用されています。この手のタイプのクラッチの場合、純正のクラッチプレートセットが使用できなくなるので部品の供給が滞ることが無ければ良いのですが、その点が心配です。
Posted by cpiblog00738 at
20:29
2022年03月23日
2022年03月21日
748Sエンジンオーバーホールその3
さて、クランクです。プラグを外してクランクピン内部その他も洗浄済みです。特に問題無い状態です。クランクギア取り付けのテーパーになっているシャフト部分(奥側)は磨いて綺麗にしてあります。テーパーで嵌めこむギアの場合、ここが荒れている個体が多く、それがギアの取り外しに苦労する原因となります。
メタル合わせ中です。メタルクリアランスは2本とも0.048mmに揃いました。使用メタルの厚さは1.485mmとか1.479mmとか、写真で見える数字の通りです。千分の一単位の計測値が本当に正しいのかという意見もありますが全くその通りで、温度によって千分の一単位の数値はコロコロ変化しますのであくまで目安ということになります。
クランクにコンロッドを組み付けました。コンロッドボルトは使い捨て部品なのでメタル合わせを行う時は今迄使用していたボルトを使用します。メタル合わせ終了後にコンロッドをクランクに組む際に新品ボルトを使用します。
こちらはミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。特に問題ありません。街乗りで丁寧に乗られていたミッションは非常に程度が良いです。いつもサーキットで酷使されていた部品ばかり見ているのでなおさらそう感じるのかもしれませんが。一度外したサークリップは新品に交換します。
こちらはミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも問題ありません。非常に綺麗な状態です。サークリップに加え、クラッチプッシュロッド用のニードルケージとオイルシールは交換します。ここには写っていませんがシフトフォークの状態も同様に良好です。
ミッションのシム調整を行っています。ミッションシャフト2本とシフトドラムの左右(この写真では上下になります)にはシムが存在していて、そのシムを変更することによってシャフトとドラムの位置を変更できます。例えばドラムのシム変更は行わずにシフトフォークの可動範囲が一定であるとすると、各ギアのドッグの勘合深さの調整はミッションシャフトの位置に依存します。写真のメインシャフトを例にとると、下側のシムを薄く、その分上側のシムを厚くしたとします。するとシム厚の変更分だけシャフトは下に下がります。その結果シフトフォークで動かされているギアの上側のドッグはその分深く勘合するようになり、逆に下側のドッグの勘合は浅くなります。この方法で全てのギアのドッグの噛み合い具合が良好になる状態を探します。実際には妥協点を探す感じですが。こうして良好な状態に調整したミッションも走行中に無理なシフト等を行った結果シフトフォークを曲げてしまえば一発で台無しになってしまうんですねどね。
クランクシャフトも同様なシム調整を行います。クランクの場合はコンロッド位置がシリンダーの中央に来るようにする調整と、クランクケースを閉じた時にクランクシャフトにかかるプリロードの調整です。写真は全ての調整が終了してクランクケースを合わせて組み立てる直前の状態です。
Posted by cpiblog00738 at
08:33
2022年03月19日
748Sエンジンオーバーホールその2
1次ギア内側のオイルシールですが、街乗りバイクで旧タイプの黒いオイルシールが使用されている場合は高い確率でこのようにシールとハウジングが焼き付いています。シール単体で取り外すのはなかなか困難で、ベアリングごと裏側からプレスで押して取り外します。それでも焼き付いたシールのゴムがギア側に残ってしまいますので、これをカッターの刃や細かい耐水ペーパーで綺麗に除去します。現行のオイルシールは茶色で、おそらく材質はバイトン製となっており、これが使用されていると焼き付いている確率はかなり低いです。
シリンダーとピストンです。シリンダーの上面は定盤の上で擦り合わせて面出しをしてあります。またシリンダ内壁は軽くホーニングを施してクロスハッチを付け足しています。両者ともに状態に問題はありません。ピストンリングは合口隙間が広くなってきていますので予防整備の意味も込めて新品に交換します。
クラッチAssyです。スリッパークラッチではなくノーマルですが、バスケットが48歯のタイプに交換されており、プレートセットもそれに合わせたものに変更されています。クラッチドラムは旧タイプの総アルミ製で、そのために表側のワッシャーとの接触面がワッシャーの形状に摩耗して凹んでしまっています。現行のドラムはワッシャーの接触する部分にスチールが鋳込まれており、摩耗が最小限になるようになっています。なのでドラムは現行の部品に交換します。
エンジン左側カバーです。交換部品は既に外されていて洗浄済みです。ウォーターポンプのシールはここを開けたら必ず交換したい部品の一つです。冷却水ホース用のユニオンはスチール製の部品がオリジナルですが、スチール製のオリジナルは非常に腐食しやすいので最近のモデルに使用されているアルミ製の部品に交換します。
クランクケースの後方気筒シリンダーベースにあるこの穴、これはオイルラインですが実際には何の役目も果たしておらず、エンジンが組み上がった状態に於いてはシリンダーの下面で蓋をされています。916等のモデルも同じ構造になっていましたが、916等の場合はここにオーリングが使用されていてオイル漏れが発生しないようになっています。しかし(私の記憶では)何故か2001年型のみ、いろいろな車種においてこの場所のオーリングが省かれてしまっているようです。その結果シーリングはベースガスケットに塗布した液体ガスケットのみに頼ることとなり、オイル漏れが頻発します。このオイルラインは他のオイルラインと全く同様の油圧が加わりますから、せいぜい幅が3mm程度の場所を液体ガスケットのみでシールするのは無理が有ったということです。
ちなみにこのオイルラインはこの手のエンジンを最初に設計した時点でヘッドへ行くオイルラインとして存在していたと思われます。851系のエンジンの中にはシリンダーの中にも続きのオイルラインが存在してそれがシリンダー側面の穴に繋がっていて、その穴を銅ガスケットを用いたボルトで蓋をしてあったモデルが有りました。当時はいろいろと試行錯誤があったと思われ、その名残ということでしょう。
Posted by cpiblog00738 at
08:40
2022年03月18日
748Sエンジンオーバーホールその1
今回は街乗りエンジンのオーバーホールをご紹介します。車種は748S、結構レアです。正直に申し上げてこのエンジンは初めてです。ノーマル状態ではご覧のようにオイルクーラーも装着されていません。ある意味実用本位に徹した仕様とも言えます。オイルクーラーに関して言えば追加で取り付けは容易ですが。
Posted by cpiblog00738 at
08:41
2022年03月15日
目指せFISCO1分45秒エンジン-3
車体に載せて燃調のセッティングを行いました。マネージメントはM197です。以前の状態でのパワーチェックは行っていなかったので出力の比較は出来ませんが、増大した排気量分は確実に上乗せされています。10〜15馬力程度の出力アップという感じでしょうか。街乗りの場合は別としてサーキット走行の場合、特にホームコースと言えるようなトラックでは5馬力程度の上乗せで明らかにその違いが体感できます。シェイクダウンの結果が楽しみです。
Posted by cpiblog00738 at
15:43
2022年03月09日
目指せFISCO1分45秒エンジン-2
これは作業中に発覚した部品の破損です。この部品はシフトコントロールアームで、左側が新品、右側が今迄使用していたものです。既存のものは先端のストッパー部分が折れてしまっています。そもそも今回入庫した直接のきっかけはシフト操作がうまく行かないと言う事でした。
シフトペダルを上げたり下げたりのシフト操作を行うとこのアームがシフトドラムを回転させます。シフトドラムに存在している溝にはシフトフォークが嵌っていて、溝の形状に沿ってシフトフォークが動いてギアシフトが行われます。正しくギアシフトが行われるためにはシフトドラムが1速分づつ回転する必要があり、その役目を担っているのがこの折れてしまった部分です。シフトドラムが1速分回転したところでシフトドラムに設けてあるピンがストッパーに当たってシフトドラムがそれ以上回らないような構造になっています。
ところがこの部分が折損してしまうとどうなるかというと、勢い良くシフトするとシフトドラムが1速分以上回転してしまうのです。例えば2速から3速にシフトアップした場合であれば、2速から3速を飛び越えていきなり4速に入ってしまったり、3速と4速の間でギアが空回りするような状態になったりします。シフトダウンにおいても同様なことが発生します。
そもそもストッパー部分が折損するということは常に強い力でピンがストッパー部分に当たっている、つまりペダルを強く上げ下げしているということなので、ストッパーが無くなれば次のギアを飛び越えてしまうのは当然の結果です。しかしサーキット走行では確実なシフト操作が要求されるのでそのためにシフトペダルに強い入力をしてしまうのは致し方ありません。私の場合、何かの機会でエンジンを開けた時にこのストッパー部分にピンの当たった痕跡が強く残っているのを発見した場合は予防的にコントロールアームを交換させていただいています。画像の折れた部分を観察するとピンの当たっている部分が凹んでいるのが判りますね。
ピストンとシリンダーを取り付けました。次はピストンとシリンダヘッドの隙間(スキッシュ)を測定してその値を調整します。目指すところは使用目的にもよりますが、1.0mm〜1.1mmにすることが殆どです。調整は厚み違いのシリンダベースガスケットを用いて行います。
バルブタイミングの計測と調整を行っています。純正のSSTを使用した簡易的な方法もありますが、私の場合はあくまで原始的な方法で行っています。この作業に限ったことではありませんが、作業者が作業の目的とその目的を達成するプロセスを理解し、その全容を納得したうえで作業することが大切だと考えています。
Posted by cpiblog00738 at
09:15
目指せFISCO1分45秒エンジン-1
富士スピードウェイで1分45秒のラップタイムを目指してエンジンの仕様変更を行っています。(運転手は私ではありません)何とかしてあと2秒タイムを詰めたいという訳です。ちなみに私も今年はFISCOでの走行の機会を増やそうと思っていますが、私の場合の目標はひとまず50秒切からです。
これはエンジンのパワーアップとは直接関係がありませんが、4速ギアのドッグの状態が芳しくないのでこのギアは交換しました。相手方のドッグのダメージはそんなに酷くなかったのでそれは再使用ということにしました。
Posted by cpiblog00738 at
00:00
2022年03月07日
996F00エンジン-7
すいません、記事をはしょってしまいますがエンジンは完成して今迄のエンジンと載せ替えられ、既にレーストラックを走行しております。エンジンマネージメントの件ですが、既存のエンジン制御はマレリのP8ECU、それに対して996F00は本来マレリのMF3というフルコンで制御されていました。F00エンジンということで制御にMF3を持ち出すと手間とお金がかかって大変なことになるので、今回はそのままP8で行くことにしました。エンジンをかけるだけなら既存のP8ファイルに全く手を加えなくても全く問題無く、セルボタンを押してクランキングさせれば即エンジンが始動します。既存のエンジンの仕様は916Racing'97(996cc)で、F00エンジンも基本的には同じエンジンなので当然と言えば当然です。その状態からシャシダイに載せて燃調のセッティングを行いました。
シャシダイ上で行ったパワーチェックのグラフです。赤線が既存のエンジン、青線が今回のエンジンです。単純にエンジンを載せ替えただけでエンジン単体以外は吸排気を始めとする何から何までが同じです。その差はまさにエンジンそのものの差ということになります。
全く同じ排気量ながら明らかに出力は向上しています。数値的には大したことが無いように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、排気量そのままで出力を上げるのは大変なことなのです。ピークパワーで5馬力、ピーク以外も同様に上乗せされており、この差は凄いと思います。市販車とコルサの差ではなく、年式違いのコルサ同士を比較した差ですからね。主な違いはインテークカム、バルブ径、ピストンと燃焼室の形状、といったところですが、当時のコルサの仕様の変遷を見ていくと非常に興味深いところがあります。ちなみに排気量を上げれば出力を向上させることは簡単なんですけどね。経験上ですが排気量を5%大きくすれば出力もほぼ同様に5%上がります。
同じ造りでこれだけの差が有るということは当然ながらその分何処かにしわ寄せが来ることになりますが、それはエンジンのライフということになるでしょう。趣味のレースですから大事に使って長持ちさせていただきたいと思います。
Posted by cpiblog00738 at
09:14