2023年03月31日

★ 1990年代後半のレース事情 ★ その1

公開にあたって

既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は先日筑波サーキット走行中に転倒し、腕を骨折してしまいました。その結果、当然ですが仕事が出来ない状況となってしまい、少なくとも4月の声を聴くまでは療養に専念することとなり、現在開店休業ならぬ閉店休業中です。多くのお客様に多大なご迷惑をおかけする事態になってしまい、誠に申し訳なく思っております。営業を再開した暁にはより一層頑張ってお仕事に精を出しますので、それまでの間は何卒ご容赦ください。

で、仕事が出来ない時間を利用していろいろな資料を整理していたところ、読み物として面白い記事が出て来ましたのでそれをこの機会にこの場で公開したいと思います。この記事は原稿の形式でかなり前から手許にあったのですが、それは用紙にプリントしたものでした。それをウェブにアップするには全体をテキストに打ち直し、尚且つ校正も必要ということでかなりの手間がかかることが予想されました。そのため行動に移すタイミングを逸したまま現在に至ったのですが、今回の怪我をこれ幸いとこの機会に公開することにしました。

この文章は1996年の年末に作成されたものです。当時我々チーム・ファンデーションは全日本ロードレースのスーパーバイククラスに、1994年は芳賀選手、1995年は生見選手、1996年は生見選手と井筒選手の2人を擁してフル参戦中でした。1996年シーズン終了後、来たる1997年シーズンに向けてのレース活動資金の調達を目的にその方法を探ろうと、モータースポーツ関係の雑誌を二輪四輪問わず手広く出版している某雑誌社にお邪魔し、二輪レース専門誌の編集部員の方にその当時のバイクレース業界の内情等をいろいろと伺った時のやり取りをインタビュー記事として起こしたものです。

1996年ということは今から27年前のバイクレース業界の裏話です。ほぼ30年前のことですから内容的にはもう時効という認識でお読みください。ただ、あれから30年経った今の状況が当時の状況とどう変わったのか、変わっていないのか。この辺りに関しては読者によってはかなり興味深く感じるかもしれません。本文は非常に長い文章で申し訳ありませんが是非最後までお読みいただければと思います。

インタビュアーは当時からずっとTFDをサポートしていただいていたライターの辻森慶子さん(本文中ではTとなっています)。質問にお答えいただいたのは当時某二輪レース専門誌の編集部員だったさんです。本来であれば真っ先に掲載のご連絡をすべきところですが、年月が経ち、Xさんとは当時以来長い間音信不通となってしまいました。お元気でいらっしゃるでしょうか? もしこの記事をお読みになるような機会があれば、ぜひご連絡いただけると嬉しく思います。

念のため重ねて申し上げますが、あくまでこの記事は1996年の時点で当時の状況を当事者の主観を交えて受け答えした内容が記されたものです。その点をご理解の上お読みいただくよう、お願い申し上げます。


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以下 本文



ワークス VS. メディアの攻防

T: 四輪に比べて二輪はメディアの露出度が極端に少ないと思いますが、原因はどんな所に有るのでしょうか?

X: 四輪の国内最高峰っていうとフォーミュラ日本、今年からフジテレビがやっていますけど。あそこのチームの運営母体がスポンサー様なんですよ。まずスポンサー様が第一人者で、それをフォローしている広告代理店がいらっしゃる。この広告代理店が動いているんですよ。その下っていうとおかしいけど、そこにようやくチームがあっていわゆる監督さんがいたりドライバー、メカニックがいたりするんです。

 ウチの四輪の編集部員が、例えば「さっきのリタイア原因を教えてください」だとか「テスト項目の中の何をやってたんですか?」って取材すると、ちゃんとスポンサーのスポークスマン、つまり広告代理店のどなたかが「先日のテストの模様はこうでしたよ」とか「リタイアの原因はこうでしたよ」ってちゃんとまとめてくれるんですよ。

 それはあくまでも自分のところのチームが雑誌に露出してほしいし、マイナスの内容でもプラスの内容でも、とにかく伝えなくちゃ、という気持ちを持ってくれているからなんです。だから四輪の編集部員たちはラクっていうか、非常に取材しやすいんですよ。

8_20 二輪はね、ご存知のように、全くといっていいほどスポンサーがいないんです、四輪に比べて。で、何処で止まっているかというと、バイクのメーカーがやっているんですよ。メーカー主導型ですと、どうしても企業秘密があるじゃないですか。当然レースだけじゃなく、自社の市販車、市販レベルにフィードバックしてオートバイを売るわけですよね。つまり、レース車両っていうのはテスト車両なわけで、いろんな技術だとかテスト項目だとかをつぎ込んでいくから、一見さんの編集者が行っても話を聞かしてくれないんですよね。ひどいところに行くとピットのシャッターを閉めちゃったり。

T:そうなんですか。じゃ、個人的なコネクションやいろんなルートを使って、そして親しくなってやっと情報が出る

ようやく。まあ、ほんとに駆け出しの編集者の人なんて苦労しますよね。現に、平日の鈴鹿サーキットでHONDAのテストをやってて僕が行けなかった時に、たまたまF3000のテストやってるから現場に行ってたウチの四輪の編集部員に「相乗りで覗いてきてくれないか。タイム聞いてきてくれよ」って頼んだんです。とりあえず僕の名前出さないで。「ちょっと四輪の取材で来てて、バイクも好きなんですけど。今、あの人どのくらいで走っているんですか?」と平身低頭に聞けば、結構教えてくれるかもしれないからって。

 そうしたら、一切シャットアウト。一見さんには絶対教えない。で、四輪の編集部員が、「何なのいったいコイツら。おかしいよ、二輪」って言いますからね。

T:そうなんですか(笑)

X:だから、もうライダーなんか人格なしですよ。ワークスライダーと言われる人たちは。

T:言いなり。

X:そう。下手なことは喋れない。そんなもんですからね〜。どこのメーカーさんも敷居が高いですよね。

T:同じワークスチームの中でも、ライダーによってチューニングが違ったり、一番いいバイクはこのライダーとかいうのは有るんですか?

X:やっぱり、現実にはあるんですよ。優先順位というのはあって、例えばHONDAという会社が2人のライダーを抱えてるとしますよね。メーカーとしてはレースをするんですから、まず勝ち負けですよね。そのシーズンのチャンピオンを獲りたいというのがある。

 まず開幕前、2人のライダーAさん、Bさんを抱えてた場合に、どっちの方がタイトルに近いかな、と実力のサジ加減を見るわけですよ。で、これはAさんだ。じゃ、とりあえずメンバー的にも、お金的にも、Aさんの方にいいもの付けたり人員を増やす。というのが何処のメーカーも差はあれやってることは事実です。

 もう一方では、先程申しましたように、新しいオートバイの開発っていう目的も担っています。勝ち負け以外の方ですね。新しいクルマを作っていかなきゃいけない、技術を試して行かなきゃいけない、という側面もありましてAさんをレースに勝つ方に向けたら、じゃBさんにはちょっと泣いてもらって、新しい技術の開発ライダーとして頑張ってもらおうという側面もあるんですよ。

 だからレースの勝ち負けってことでは優先順位があるかもしれないけども、仕事を2つの目的に分けると、それぞれ次元が元々違うんで。両方に違う目的でやってるチーム、というかメーカーという感じがありますよね。

T:でも。ライダーって勝ちたいじゃないですか。みんなちょっとでもいい条件、いいバイクに乗りたいと思っているわけですよね。

X:ほんとにおっしゃる通り!開発を担う、「今年はちょっと泣いてもらうよ」とお達しされたライダーはやっぱりショックですよね。それでもって言い訳もできないんですよ。つまり、いろんなテスト項目があるということは、遅いじゃないですか。要は、未来につながる市販車のオートバイだったり、はたまた自分のところの素材を使ってレースをやってくれている人たち向けのレーシングパーツ開発なんで。不良品もあるかもしれないし、耐久テストもやんなきゃいけないし。こっち(レース主体)は速くて軽いバイク、逆にこっち(テスト用)は重くて耐久性あるバイク。そうなるとレースに勝てないですよね、タイムも伸びないし。

 とすると、僕らが取材に行って「なぜタイムが伸びないんですか」って聞くと、ほんとはもう言い訳したくてしょうがないんですよ。だけどワークスライダーっていうのは人格なしですから、企業秘密は全く語りません。「いや〜、僕の実力不足です」としか言えないんですよ。

 それは僕ら雑誌屋がですね、ライダーに聞いてもそういう返事しか返ってこない。だから僕らが監督さんとかエンジニアの人に、「あの人が使っているのは、どういう目的のクルマなんですか?」「今回どういうパーツが付いているんですか?」「どんなテストをしてきたんですか?」というふうな取材をすると、ライダーの言い訳がスッと読める。自分じゃ言えないけども、上の人が言ってくれたんなら全然問題無いし、逆にその言い訳をしたかった部分なんだから非常に助かる。ってそんな感じなんですね。

T:なるほど。なかなか複雑なんですね。

X:すごい複雑ですね〜。ハードだけじゃなくって、メカニックの人事だとかチーム監督さんの性格だとか。もともと持っているメーカーのキャラクターだとか、それはもう普遍的なものだし。ちょっとでもメカニックとの相性が悪かったりしてもダメだし。

 ライダーとメカニックってピッチャーとキャッチャーみたいなもんで、メカニックと意思疎通できないライダーっていうのは、どんなに速いライダーでも上位に行けませんね。名ライダーの陰に名メカニックありですよ。決して、名ライダーがあってダメなメカニックさんがいる状況でチャンピオンは生まれない。

 

 バイク業界は社会のアブレ者!?

T:バイクレースがあるのは知ってるし、世界グランプリは時々観たりします。そういうものが存在して、頂点がどこにあって、国内ではどこが最高峰でっていうことぐらいは認識できるんですけれども、内部がどういう仕組みになっているかがよく分からないんですよね。それが今回お話を伺いたいなと思ったきっかけにもなってるんです。

 モータースポーツの日本国内での市場、特に二輪の場合はどこらへんの位置にあって、どういうポテンシャルとか面白味があるのか、どういう醍醐味があるのか。例えばスポンサー探しとかをする時に、どういうアプローチをすればいいものなのか。ご意見を伺いたいなと思っていたんです。

X:なるほど〜。名越さんがどう言うか分かんないですけど、全くTさんのお仕事を無視したところで、私なりの私見っていうか持論を言うとですね、二輪のレース業界というのは社会のアブレ者状態です(笑)。

 これはですね、産業構造上欠陥があるんですよ。たとえばF1ですとかフォーミュラ日本では、必ず儲けてる人たちがいるんですよ。それは広告代理店さんとか、ものすごいお金を持っているスポンサーさんだとか。ま、メーカーさんだったり、とにかく必ず儲かってる人がいる。

8_9 二輪のレース業界っていうのはですね、儲かってる人が1人もいないんですよ。まず、レースを運営している主催者さん。で、そこで走るライダーさん。え〜、それからライダーを連れてきているメーカーさん。それを取材している僕等雑誌屋。この4者、誰1人儲かってないんですよ。誰か一人でも儲かってれば、そこに金があるんだっていうことで、みんなそこから「お金ちょうだいよ」とか。なんかお金の出所というのが分かればうまく回ると思うんですけど。みんなみんな、お金がないとこでやってますんで。全くですね、資本主義の社会からアブレちゃってるんですよ。

 ライダーの契約金なんていうのは、ほんとに四輪の選手から比べると10分の1くらい。高〇虎〇介っていうのが日本にいますけど、あの人のパーソナルスポンサー、メインのPIAAさんとか、いろいろ広告に出られたりとか、そういうのも入れて推定年棒は1億円くらいなんです。

かたや二輪の今年のチャンピオン。HONDAの青〇琢〇っていうのがいるんですけど、ヤツと話をしている限りでは、HONDAから貰ってる契約金なんていうのは2千万円。だいたい5分の1ぐらい。高〇虎〇介なんてタイトル獲ってないんですよ、別に。青〇琢〇は2年連続の国内最高峰クラスでチャンピオン獲ったにもかかわらず、たった2千万円。所属しているチームの1番シートにいても、「そんなにあげられないよ」って言われる。だから、まずライダーからして儲かっていない。

で、メーカーは二輪車を造っても儲からない。レースなんて莫大なお金がかかりますよね。それがそれだけ営業用のおいしいツールになってるかっていうと、なってない。

それから主催者。観客動員、要は観客の人がチケットを買ってくれるかどうか。あとは大会スポンサーにどっかの会社がついてくれたかどうか。シチュエーション見ると全くこれも良くないですよ。 

で、私ら雑誌屋。こ〜れもですね、ご多分に漏れず他が潤ってなければ儲かるはずがない。

T:雑誌の発行部数は四輪より全然少ないんですか?

X:総体的には四輪よりは低いですね。世の中に出回っているレース専門誌やなんかでも、単純に二輪誌/四輪誌って数を見ただけでも。二輪誌って全国に30誌ぐらいしかない。四輪誌は100誌ぐらいあるらしいですからね、エリアマガジンも含めて。それだけ四輪のマーケットは大きいですし。

T:二輪ファンの年齢層は低いんですか?高級車にはちょっと違う層の人達がいるようですけど。

X:まず、サーキットに来てくれている観客の内訳っていうのは分からないですけど。ウチの読者でいうと2030歳代前半ぐらい。世の中の雑誌を買おうというのは、やっぱり20歳代が中心になってますけど、それからは外れていない。けれどもウチの読者はですね、新しい方、10歳代とか若い人たちの読者は全く増えていないといっても過言じゃない。

 じゃ、どういう読者たちかというとですね、二輪のレースって80年代後半からすごい盛り上がったんですよ。それが9091年ぐらいでピークを迎えて、後はもう落ち傾向なんですよね。それは雑誌だけじゃなくて、メーカーももちろんそうなんですけど。その80年代に一緒に盛り上がったファンの人達が、そのまま歳食ってもいまだに買ってくれてるっていうことなんですよ。

 サーキットに来てくれてるお客さんっていうのは、ウチの読者みたいな人達プラス、ライダーの追っかけみたいな親衛隊みたいのがいまして、女の子を中心に。その子たちが全体の3分の1ぐらい。まぁ、体感的ですけど。あとの3分の2は、やっぱり昔からレースを好きだった80年代のファン。昔やってたけれども今は家庭を持ってる、でもやっぱり二輪が好きっていう人たちが来てる。

T:ということは、だんだん二層になってくる。若い子たち、グルーピーのような層と、どんどん年齢が上がっていく層と。今後の可能性はそういうことなんでしょうか。

X:ほんとに女の子たちって動向がつかめない。たとえば、お目当てのライダーが彼女を連れてるのを見ちゃったりだとか、結婚しちゃったりすると、もうプイッと興味なくしますんで。そうすると彼女たちは新しいライダーを見つけるか、見つからなければそれこそジャニーズ系に行っちゃったりとか。

T:アイドル代わりなんですね。

X:そうなんですよ!こういうファンももちろん大切なんですけども、非常に難しい。だから、純粋に二輪のレースが好きだっていう人たちを増やさなきゃいけないんですよ。そのためには僕等雑誌だけじゃなくて、メーカーさんにも協力していただいて、主催者にも何とか努力していただかなければ。

T:あまりにもメディアの露出度が少なすぎますよね。

X:四輪よりもメディアは少ないし出る機会も少ないんですけれども、お客さんのだいたい3分の2が昔からレースをやって来て年齢を重ねた人たちというのを見るとですね、僕は逆に目は肥えてるんだと思うんですよね。自分で勉強されているし、単純にレースの勝ち負けじゃなくてコースの走りを見たりとか、そういう玄人の人達が増えてると思うんですよ。

 四輪だと、見た目の派手さだとか「きらびやかさ」という部分で観ている感じもアリだと思う。ところが、二輪の人達は研究熱心で見るところがほんとに専門誌、僕等編集者なみの見る目を持ってたりしますんで、非常にレベルが高いと思うんです。

T:例えば、ヨーロッパなどではレースが人気ですよね。日本よりはるかに歴史がありますでしょうし。ファンの年齢層は高いんですか?

X:ヨーロッパとアメリカはですね、すごい年齢層が幅広いんですよ。

T:観る方も乗る方もですか?レースをスポーツとして観るような土壌があるとか。

9X:スポーツというか、文化というか、言葉だと陳腐になっちゃうんですけど。ほんとに二輪っていうものが、テニスやらフットボールやら、その辺のスポーツと変わらない目で観てもらっている。もちろん、例えばアメリカであればバスケットボールとか野球が人気で、二輪が好きだっていう人は少ないんですけれども。内容がですね、日本とは比べ物にならないくらいスポーツとして捉えられているんですよね。まあ、お国柄って言ったら簡単すぎちゃいますけどね。やっぱり基本的に走ってるライダーがスターだったり、夢だったり、普段観られない存在だったり。レース自体もすごく興行的で見せ場が多く1日楽しめる。そんな感じになってるんですね。

 日本のレースですと、とにかくやってる人達が借金抱えてますんで〜、悲壮感が漂ってくるんですよ。

T:そういう事情があるんですね(笑)。

X:そうなんですよ。例えばSMAPのキムタクがですね、あれだけカッコよくても実は銭湯に通ってたとか、石鹸はお歳暮で済ましてるとかいうと、ガッカリしちゃうじゃないですか。やっぱりSMAPのキムタクは突き抜けてて欲しいっていうのがありますでしょう?

 それが日本のレースだと、どうしても石鹸はお歳暮で間に合わせるとか、タオルは読売新聞の販売ツールとか、見えて来ちゃうんですよ。いくらワークスライダーといえども、その辺がヨーロッパとかと比べるとまず違う。

 あと、レースの内容的にもはるかに周回数が多かったり、抜きどころが多かったり、激しく喜怒哀楽があったり。ドラマ仕立てでお客さんを楽しませようという努力を、主催者側もライダーもメーカーもしているという感じがするんです。

T:そうするとアメリカとかヨーロッパのライダーは結構優遇されているんですか?経済的にもある程度保証されている状況ですか?

X:総体的には日本よりも優遇されていると思います。アメリカは賞金レースが殆どですし、ヨーロッパでも賞金レースは多いです。イギリスではライダーで世界選手権を戦うと貴族の称号を貰えたりとか、イタリアでは英雄になる。スペインもほんとにすごい。やはり日本よりはライダーは優遇されてるだろうと思いますね。遥かにメジャーですし。

T:世界GPでは原田選手がかつてチャンピオンになってますし、岡田選手もすごいですよね。ノリックも頑張ってる。そういうのって記事としてちょこっとしか出ないですよね。ここまで頑張っているスポーツって日本では実はあんまりなかったりするのに。

X:そうなんですね〜。それがモータースポーツを難しく見せちゃってるんですよ。陸上競技とかテニスとか道具がすごいシンプルじゃないですか。例えば陸上競技だったら、シューズとかウェアくらい。素材にはメーカーさんもこだわって、最新素材とかありますけども。まぁ、たかだかシューズとウェアくらいですよね。あとは、ほんとに人間対人間の勝負ですから。

 ところがモータースポーツっていうのは道具が複雑怪奇なオートバイとか車になって、まず道具を知らなければできない。面白くないんじゃないか。しかも負けたライダーは、やれタイヤがどうのこうの、あそこがブッ壊れたからどうのこうの、言い訳するじゃないですか。そうすると、ますます一見のお客さんは「それは何処なの?」「全体の、走るうえで何の支障があるわけ?」「なんでそんなものを付けるわけ?」となる。

 単純に勝ち負けを楽しみたいのに、あまりにも道具が複雑だったりライダーが言い訳するもんで、トラブルだとかを分かってないと楽しめなくなる。っていうように見せちゃってる我々メディアの責任もあると思うんですよ。

 アメリカのレースなんて、「難しいことヌキで単純に同じ道具で戦いましょうや」というレースが多いんですよね。

 逆にそういうレースもありつつ、「何でもやっていいよ、道具何でも使ってください。排気量なんて50ccでも1000ccでもいいから、とにかく勝ち負けやってごらん」っていうレースも有ったりして、海外のレースは非常に分かりやすいんですね。

T:日本では構造的に難しいんでしょうかねえ。

X:まずメーカー主導というのがあって。企業秘密とか最新技術みたいなものがあって、テストの場でもあるわけですよ。そんな傾向は、一方ではしょうがない。逆にアメリカとかヨーロッパというのはバイクを造っているメーカーなんか1つか2つくらいしかないし、日本のクルマよりはるかにレベルが低いじゃないですか。だから、日本のクルマを買ってくるか自分とこの細々とやってるメーカーのクルマでやるしかないんですけども。自分とこで造ってないから、ライダーもチーム運営してる人たちも、「じゃ、もう運ちゃん勝負でいこうよ」ということになるんですよ。だから、向こうのチームはライダー主体でやってるんですよね。

T:やっぱり、日本的な構造って感じしますよね。陰湿さっていうか。

X:私の前任の担当者が、今は四輪の方に行っちゃったんですけどね、ある時YAMAHAワークスに取材に行ったんですよ。で、さっきのレースでトラブルでリタイアしちゃったんで原因を聞きに行った。そしたら、その人を見つけるや否やピットのシャッターを閉めだした。「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください。さっきリタイアしたトラブル原因聞きたいんですが…」「我々は報道されるためにレースをやっているわけじゃない!!」バシャッと閉められちゃった。四輪だったらこんなの絶対通用しないんですよ。だけど、そういう気持ちがメーカーにはありますし、日本のレースを運営しているのはメーカーなんで、そういうスタンスを取られると、伝える側としても限度がありますね。難しいですよ。

<続く>

  

Posted by cpiblog00738 at 19:50

2023年03月27日

★ 1990年代後半のレース事情 ★ その2

衝撃のチーム・ファンデーション


T:ワークス主導っておっしゃってましたけど、メーカーの中に名越さんのようなプライベーターが入って来て、おまけにチーム・ファンデーションって成績いいですよね。画期的なことだと聞いているんですけど。


X:すごいですよ!画期的ですねえ。全日本ロードレースでスーパーバイクといえば最高峰で、そこには4メーカーがひしめきあってるわけですよ。もう、お金かけてまして。その中にプライベーターの参入というのはまずない。さらに外車なんか使うとなると、パーツですとかデータですとか、情報っていうのが少なくなる。不利な条件が多いですよね。


 チーム・ファンデーションのドゥカティがワークス勢に割って入るレースを見せてくれると、非常に私ら雑誌屋としても企画性が出てくるし、観てる人たちも頑張れ!っていう判官贔屓みたいなところもありますね。そのおかげで、ぼちぼちとドゥカティを使って、「あそこができるなら俺たちもやろうじゃないか」っていうチームがここんとこ増えて来ましたからね。そういった意味では、非常にプライベーターの人たちには夢がある。


T:構造的なところはすぐには変わらなくても、プライベーターの活躍は何がしかの影響、意識の変化は与えているんでしょうか。


X:14これは名越さんの活躍も含めてなんですけど、かなりありますね。

 全日本のスパーバイククラスっていうのは国内の最高峰なんですがもう一つ世界選手権のスーパーバイクっていうのがあるんですよ。これ、全く日本と世界が同じレギュレーションのルールでやってるんですけども。スーパーバイクのレースっていう意味ではですね、全日本よりも世界選手権の方が実はおっきいんですよ。そこで頑張っているのが、名越さんが使っているイタリアのドゥカティというクルマなんです。それが今年、去年と日本の4メーカーを蹴散らしているんですよ。日本の4メーカーはこぞって750ccの4気筒エンジンで走ってるんですけども、ドゥカティみたいな2気筒だったら1000ccまでいいというルールなんですね。750ccは、すごくお金をかけて莫大な計画で人員を世界に送り込んでワークス活動をやっておるんですけども、ドゥカティ2気筒1000ccイクに負けちゃうんですよ。


 しかもドゥカティというのは売れてまして。レースの波及効果っていうのもあるんですけど、乗ってて楽しいしカッコイイし。日本だけじゃなくて世界各国で売れている。特にアメリカではすっごい売れてるんですよ。


 かたや日本の4メーカーの4気筒750ccは、あれだけレースをやってるのに全然日本で売れてないんですよ。ちょろっとアメリカでKAWSAKISUZUKIが売れましたけど・・・。4大メーカーにしてみたら、ドゥカティはレースでも勝ってるし売れ行きもいい。


 で、全日本のレースでもプライベートのチーム・ファンデーションみたいなチームが俺たちのレースに割って入って来ている。・・・ということで、色々鑑みたんでしょうけども、ここに来てHONDASUZUKIがドゥカティと同じスペックでルックスの似たようなクルマを出して来たんですよ。


T:どうなんですか、売れ行きは。


X:ん〜〜〜・・・()


T:コメントしにくいですか()


X:ドゥカティが売れているから、そのスペックで出すというのがHONDASUZUKIのクルマなんですけど。どこまで日本のクルマを世界のユーザーさんが受け入れてくれるか・・・。日本のクルマってモノ的にはいい、耐久性もあるしパーツもしっかりしてる、スペックもいいでしょうけど。もともと2気筒の1000ccで走っていたドゥカティとかハーレーダビッドソンに比べて、その〜、心情的な部分で売れるかどうかというのは非常に難しい。


T:以前バイクに乗ってた時に、上の世代の人達とツーリングに行ってたんですけど、日本の昔のバイクって味わいがあっていいって、すごい丁寧に整備するんですよ。「可愛い、可愛い」って感じで。


X:分かります。私もその世代ですから。


T:そういう人たちは、すごい楽しんでる感じがしたんですけど。ある時期からバイクは、便利で乗りやすい、故障が少ない。そういうところで人気が出ちゃった感じがするんですけど。


X:ん〜とですね、すごい話が広くて絞りにくいんですけども・・・。僕が感じているのは、今Tさんがおっしゃった通り、昔はオーナーの人が手塩にかけてオートバイに乗っていた。いわゆるバカな子ほど可愛いという状況だったんですよ。適当に風邪をひいてくれたりですね、何か心配をかけてくれた方が可愛がられるんですけど。


 今の日本のメーカーさんが作るオートバイって研ぎ澄まされちゃって、もう格好も何もかも。ユーザーさんが何か手を加えるっていう余地がないんですね。性能的にも、デザイン的にも。それこそ昔は、みんなと同じじゃイヤだからハンドルを換えてみたり、マフラーを換えてみたりとか、この音が今までと違っていいんだとか。そういうこだわりみたいなものがありましたけど、今は手を加えると逆に性能ダウンになったり。まとまりの良すぎるデザインだから、何か一つ換えてしまうと浮いちゃったりとか。もうユーザーが手を下す余地がないんですよね。


8_8 それっていうのは、ほんとに余計なお世話の範疇で・・・。メーカーがやりすぎちゃってると思うんですよ。まあ、ここんところメーカーさんも気付かれて。というか時代は繰り返されるじゃないですけども、昔のオートバイの復刻版みたいのが出たりですね。今オートバイに乗って楽しんでる人たちというのは、オリジナルのオートバイに乗りたいだとか、自分の手塩をかけて面倒見て行きたいっていう人が多いんで。そういった余地を残したバイクというのが、最近になって出るようになりましたね。


T:輸入車に乗ってる人は国内で増えてるんですか。


X:すっごい増えてますね。それは、今の話じゃないですけども、日本のクルマがつまらないから。手は下せないからみんなと同じバイク、同じカラーリングで、同じスタイルで、それじゃイヤだからちょっと大型免許でもとって、ハーレーに乗ろう、ドゥカティに乗ろう。ロードバイクだけじゃなくってオフロード車っていわれるイタリア○○○○に乗ろうだとか、外車ブームですよね。


T:購買層ってどうなんでしょうか。


X:若い子が買うんですよ。特にね、最近はハーレーダビッドソンが非常に売れてまして。何て言うのか、ハーレー=イージーライダーだとかアメリカ映画みたいに、ちょっと不良っぽいじゃないですか。渋谷にたむろしている若い子達の間で、人と違ってハーレーを買う子達が増えてるんですね。


 じゃ、ハーレーがレースで勝ってるか、いい成績を上げてるかっていうと、全然そんな事ないんですよ。性能は上がってるかというと、相変わらずマイナートラブルがあったりですね、結構故障も多いんですよ。けど、やっぱりね、若い子に受け入れられてるんですよ。


 で、若い子たちはハーレーが壊れても治せないんですよ。もう、完全にルックス。ワルっていうイメージがカッコイイ。ほんとに80年代、僕らが興味を持った意識と、今外車を買おうっていう人たちっていうのは違いますよ。


T:かつてはマニアック志向、今はファッション志向っていう感じなんですかね。ドゥカティも今、そうなんですか。


X:アメリカのハーレーはワルっていうイメージで、割とスタイリッシュなところからみんなファッションでとっていますけど。逆にイタリアのドゥカティはですね、これは玄人。さんざん国産に乗ったんだけども、つまんない。もう性能なんてどうでもいい。何百キロ出ようと関係ない。もっと楽しくて、他にはなくて、そういったものを求めた20代後半から30歳代、40歳代の人、オートバイの酸いも甘いも知っちゃった人がドゥカティに乗る。これは渋谷のハーレー族の人たちとは違った年齢層だし、意識的にも違う。そういった人たちは工具も持っているし、仲のいい、名越さんみたいなショップとはリレーションを持っているし。そういう方は乗り手として非常に玄人ですね。


T:その人達はツーリングに行ったりするんですか?


X:行ったりしますね。いろんなパーツが出回ってるんですけども、あれだけのメーカーになると。世界各国いろんなパーツメーカーさんがあって、ドゥカティ対応パーツが出てる。で、たとえばツーリング先でドゥカティの916っていうクルマに誰かが乗ってたりすると、何付けてんのかとか、レースの現場に行ってチーム・ファンデーションってあそこどうやっているのか見る。


T:見学に行くんですね。


X:そうなんですよ。レースそのものを観るっていう側面と、もう一つはクルマに何がくっついてたり、どういうものに対応してたりするのか見る。見る目がすごく肥えていて、「俺はこういうふうに駆動方式を変えているのに、チーム・ファンデーションはこうやってるんだ」とか。


 あとメンテサイクル的には、耐久性のないエンジンパーツってどこなのか。そういったこと。


T:ということは、名越さんはメカニックとしてすごいってことですよね。


X:もう、僕ら業界内で国内ではドゥカティを触らせたら名越さんは日本一じゃないかと言っているんですよ。それほどですね、イタリアのバイクっていうのはほんとにダメな子でして()パーツの耐久性は勿論のこと、フィッティング技術、要はバイクをメンテナンスする時に一度バラしますよね、それを正しいパーツで元に戻す時の単なるフィッティングだけでも非常に難しいらしいんですよ。


 例えば、合わせ目がちょっと狂っていたりとか相性が悪かったりすると、簡単に馬力が落ちちゃうし性能も落ちちゃうんですけど。そういうフィッティング技術も名越さんの腕は確かだし、パーツを見定める目とか、サーキットを走らせるコーディネート能力も確か。いろんなセッティングパーツがありますけども、それをわずか短時間で組み合わせてタイムの出るセットに持っていくセッティング能力。いろんな側面を併せてみても、名越さんは一番。


 みんなドゥカティを走らせたいんだけど、そのメカニックたる人がいないから走れない。基本性能を保つのが非常に大変なバイクですよね。イタリアから買って来て、1発目はいいかもしれないけど、すぐガタがきますよ。じゃ、それを2発目のレースで保たせようとすると、非常に大変。



8_7T:年間、何回かのレースがありますよね。大会によっては2ート制の時もありますが、そういう場合のセッティングは大変なんでしょうか。


X:ま、1日のうち2ヒートある時はそんなに変わらないと思うんですよ。タイヤが消耗したとか、タイヤを新しいものに換えるとか。ちょっとセッティングを変えたんで説明しとくとか。もうレースの決勝となれば、何もできない状態ですから。


 それよりも金・土曜の2日間のうちにですね、どれだけそのバイクの特徴を生かして良いタイムで走れるクルマが作れるか、というのが非常に大変だと思うんですよね。


 バイクが転んじゃってほとんどエンジンだけしか生きていない状況になると、イタリアに電話かけたり、日本の代理店の村山モータースに早くパーツをくれって言っても、イタリア人はなっかなかいい加減ですからレスポンスは非常に悪いんですよ。


 だから、パーツのマネージメントはもちろんですけども、そういったところに気を遣っていく。さっきのフィッティング技術もそうだけど、そのためにケアしていかなきゃいけないところが非常に多いんですね。


 日本のメーカーさんで同じクラスを走らせようと思うと、相手が日本にいてくれますからラクなんですよ。サービス体制もしっかりしていますし。ワークスチームってそれぞれ自分のチームのライダーを走らせてるだけじゃなくて、レース専用バイクを売ってるんですよ。すごい高くてね、2千万円とか3千万円とかしちゃうんですよ。だからみんな借金して買う。そうすると各メーカーからですね、金額もおっきいですしレースは難しいですから、ちゃんとサービスマンが付いてくれるんです。レースの現場に行くと、自分とこのチームでセッティングをやんなきゃいけないんだけどもメーカーの人が買ってくれたお客さんってことでアドバイスしてくれるんですよ、パーツをくれたり。だからこのクラスは、たいてい日本のメーカーで走る人が多いんです。


 ドゥカティの名越さんみたいな人は、誰も助けてくれないんですよ。


T:フルマニュアルっていう感じでしょうか。


X:そうです。本来ならイタリアから、世界的に発信されてるレースですからサービスマンが付いてもいいぐらいなんです。名越さんはほんとに一人。よくやってるなって感じですよね。


T:今年の結果では、〇山さんのチームも、あとドゥカティのプライベートチームも上位に入って来てましたね。さっきおっしゃってた効果とか、出場する車両は増えてますか。


X:増えてますね〜。ドゥカティだとHONDAのバイクの10分の1ぐらいのお金で済みますし。パーツの供給とか、メカニックがいないとできないっていうネガ要素はありますけどもまあ安価でできるっていうのと話題性の部分ではいいんで増えましたよね。


 最初は名越さんの1チームで、ドゥカティがまともに戦えんのかなとか思ってたんですけど、戦えちゃって。で、こうして他のチームもドゥカティを使うようになって来て、これは名越さん効果以外の何ものでもないですね。


T:ライダーの芳賀さんがワークスにヘッドハンティングされたのもそういう効果ですね。その後の本人の活躍もありますけども。


X:若いライダーっていうのは、ゆくゆくはメーカーのお抱えになりたいんですよ。


T:安定するから。


X:そうなんですよ。やっぱり雑誌の取材も違いますし、勝てるバイクも来ますし。ま、ほんとに職業ライダーとして名刺も持てるだろうから、上手くチームに入りたいでしょう。そうすると4メーカーのお膝元に行きたいわけですよ。ほんとはドゥカティで走りたいんだけれども、今はHONDAのバイクで走っていて、ゆくゆくは目をつけられて雇ってもらえないかなっていう下心があるから、なかなか難しい。痛し痒しで。


T:名越さんに話を聞くと、業界は狭いし若いヤツらは頭悪いし、ライダーはただ乗るだけ、みたいな印象を受けるんですが。頭のいい子とかカンのいい子もいるんでしょうけど、やっぱり全体にあんまりものを考えていないというか()


X:そうなんです。レースに勝つ負けるっていうことになると、じゃ誰が最終的にレースに向かうのか。やっぱりライダーだと思うんですよ。もちろん名メカニックというのも必要ですし、エンジニアも必要になってくるんですけども。基本的にスタート切っちゃったら、どうにかするしかないんですから。その、金・土曜の2日間の煮詰め方だとか、クルマはこういう方向で今回のレースに望みたいんだっていうのはですね、やっぱり乗っかってレースをやっている運ちゃんがイニシアチブを握っていないと。それを運ちゃんから聞いて、メカニックなりにアレンジしてクルマを作っていくのが、美しい形、理想だと思うんですけども。


 今の若いライダーっていうのは、あんまりクルマのこと知らないんですよ。どうしてこういう挙動になって、どうしてタイムが伸び悩むんだろうっていうと、全然分かってないんですよ。で、すぐこのタイヤが悪いんだとかですね、○○○が動いてないからだとか言うんですけども、ほんとにそうなのか。実はエンジンの部分で何か不都合が生じてるんじゃないか。これはもう、メカニックの名越さんじゃわからない範疇ですから。ライダーから教えてもらわない限り分かんないですよね。


 そういった部分では、今の若いライダーって完璧に乗り手一本槍になっちゃって、クルマを詰めるのはメカニックに任せっきりってことがおおいですから。タイムが伸び悩んでいて「どうなの?」っというとですね、「ん〜、何となく・・・」とか。


 イニシアチブを握れないんですよね。どこのメーカーのメカニックさんもですね、ライダーにイニシアチブを握ってもらいたい。ライダーがレースで勝つクルマを煮詰めていって、それを聞いてメカニックはフィッティングしたり、いろんなパーツをモディファイさせてったり。ま、そんな部分で今の若いライダーっていうのは、出来きれてないですよね。


16T:ライダーの育成を企業は考えてないんでしょうか。


X:割とトレーニング、体力面ですとかメンタル面では育成はしているんですよ。ただ、クルマを作っていかなきゃいけないんだとか、どうしてワークス契約になっているかっていう、仕事の内容、意義みたいなものは育成しきれてないんですよ。


T:これってオフレコかもしれませんけど、企業の意識の低さなんですか。


 例えば、比較できるものじゃないかもしれないですけど、セナは天才的だったと言われてますよね。どういうふうに踏み込めば、どういうふうにクルマが動くかがコンピューターのように分かったと言いますけど。そこまでは望まないにしても、F1の人たちはそういう意識を持ってレースに臨んでるじゃないですか。お抱えになるっていうのはそういうことだと。二輪の場合には難しいんでしょうか。


X:ただ、ライダーの年齢がおしなべて若いですから。例えば小学生の低学年の頃からミニバイクレースとか、わりと親がクルマを作ってあとは乗るだけっていう状態で甘やかされてきてるんです、なかなか勉強する機会が巡ってこなかった。それで10歳代後半になって、全日本ロードレースっていう場で活躍し出したその子にですね、もう1回オートバイの構造でも勉強し直してこいと言ったって、なかなか難しいですよね。だったらメンタル面と体力面でフォローしてやって、クルマを作っていく部分ではもう泣こう、と。そのかわり「お前らには人格なしだよ」ってことですね。


T:あ〜、厳しいですね。


X:要は、技術者がコンピューターかキャドとかで設計しますよね。で、実験室でエンジンスペックを測ってみたら、鈴鹿のこの気温でこの湿度でこういう路面状況だったら、このぐらい出る、っていうのがコンピューターではじき出せるんですよ。だからライダーには、「これだけ出るんから、これだけを目標値として走ってください」となる。


 何がおかしいとか、ここにトラブルが出るとか、メーカーの方でコンピューター予測しとくんですよ。だから、構造的にライダーに期待しない。それが出来る日本のサーキットは問題無いんですけども。名越さんみたいに相手がイタリアで、しかもいい加減なイタリア人で、パーツをくれって言ってても来なかったりすると、じゃ、しょうがない、現場で名越さんの器量で何とかして踏ん張っていかなきゃならない。となると、やっぱりそこにはライダーのイニシアチブが必要になって来ますよね。「ここは泣くから、ここはこうして欲しい」とか「ここはこういう症状が出てるから、ここの部分で補おう」とか。そういったイニシアチブを握れるライダーが、ほんとにああいうチームには必要になってくるんじゃないですか。


<続く>

  
Posted by cpiblog00738 at 19:40

★ 1990年代後半のレース事情 ★ その3

チーム・ファンデーション 歴代ライダーたち


T:今までのチーム・ファンデーションのライダーはどうですか。


X:僕は、芳賀紀行はすごい目の付け所が良かったと思いますね。アイツは名越さん泣かせで、よく転けるんですけども・・・。アイツがA級に上がって、国内最高峰クラスに上がって来た頃は、全然うだつが上がんなかったんですよ。いいものは持ってたんですけど、マシーンに恵まれなくてあんまり陽の目は見なかった。


94_6 それがチーム・ファンデーションに入ったら、みんなが驚いたんですね。「芳賀紀行、こんなに速いヤツだったんだ!」と。あの活躍が今のYAMAHAークスライダーに繋がると思いますし。ほんとセンセーショナルでしたね、成績も良かったし。


T:今年の8耐では優勝もしましたしね。


X:ええ。今は生見君っていう人が乗ってますけども。彼はずっとワークスライダー畑をきて、年齢的にはもう30歳かな。だから酸いも甘いも知っている人だと思うんです。そういった意味では、今の若い子みたいな派手さは無いですけども、非常に玄人好み。


95_3 国内最高峰のクラスでワークス勢に割って入っているチーム・ファンデーション、名越さんのチームってドゥカティに乗っている人たちのお手本だと思うんですよね。ちょっと大きくしちゃえば、夢みたいな部分で。そんな意味で、生見さんの起用っていうのは共感を得ると思うんですよ。年齢的にも近いですし、単にバカな若いライダーでもないですし。インパクトは薄いですけども非常に玄人好み。


T:確実にポイントを積み重ねていくようなタイプですね。井筒選手はどうでしょう。


X:井筒仁康!!ん〜〜〜〜〜〜。正直、僕、井筒選手とは繋がり無いんですよ。ただね、ルックス的にはカッコイイんですよ。両極端でいいと思いますよ。生見さんでオヤジドゥカティを引き寄せといて、井筒君で若いミーハーの女の子たちを引きつけるという・・・・。


97_suzuka8T:ライダーとしてはどうなんでしょうか。


X:結構、怪我してまして、井筒君。その後遺症だとかで、なかなか上がってこれませんよね〜。


T:言葉が出てこないですね〜。


X:いや、僕個人的にはドゥカティは子供に乗って欲しく無いんですよ。さっき紀行の話が出ましたけど、紀行はバカすぎて、まあ可愛いんですけども。あんまり子供の人はですね、あの〜、ドゥカティというイメージじゃないんですよね。


 ドゥカティを走らせる時、国産には無い味みたいなものがあるんですよ。2気筒ゆえのパワーの出方だとか走らせ方だとか、タイヤの滑るポイントも違いますから。ほんとにクルマの挙動だとかポテンシャルをうまく分かんないと走らせられないバイクだと思うんですよ。そういった部分では、大人の人に乗ってもらった方が見てて楽しいし、応援のしがいがあるんです。


 今年チーム〇山から走った鈴木さんっていうライダーは250ccやってたんですけど、この人はドゥカティ乗りです。今年はチームが悪かったのか、本人が悪かったのかわかんないですけど、あんまり成績上がらなかったんです。けど、鈴木誠さんみたいな人がもう一回ファンデーションに入って来て、その昔バトル・オブ・ザ・ツインだとかを席巻していたあの頃のチーム体制で全日本に臨めば、かなりいい成績を収められるしファンもできるかもしれない。そう思いますけどね。


スペシャルな“8耐”

T:8耐はまたちょっと意味合いが違いますか?二輪レースの中では話題になりますが。

X:8耐は概況的にはですね、日本の国産メーカーが世界GP以上に力を入れているレースなんですよ。何故かというと、8耐でいいレース、優勝したりすると、8月・9月・10月のオートバイの売れ行きがドッと上がるんですよ。イメージ戦略的にも非常にいい。だから国産4メーカーさんは、全日本ロードのシリーズを十何戦してますけども、次の年の8耐のクルマを作っていると言っても過言じゃないくらいですね。優先順位的には全日本のシリーズよりも8耐の方が上なんですよ。営業上の問題もあるし。

 8耐というのは非常に高温多湿な状況で、しかも8時間ぶっ続けで走らなきゃいけないですから、技術的には非常に厳しいんですよ。オートバイにとっては、温度が上がったり湿度が上がったりすると、パワーダウンするんです。パーツの消耗になりますから。そんな過酷な場で優勝したりすると、営業戦略上もよろしいし、そこで勝てたクルマっていうのは非常に技術的に優れているということになるんですよ。だから全日本の春先に、エンジンにやさしい時期に勝ったとしても、それは全然全体の評価にはならなくて。8耐を乗り切らなければ技術的な進歩は無かったということで、ほんとに各メーカーとも全日本のシリーズ戦は、極端な話、8時間耐久レースのためのテストみたいなものですね。

 ですから8耐にはメーカーがマシン的にもメンツ的にも力を注ぐ、世界各国からライダーを呼んできますし、それに伴ってメカニック、チーム母体も呼んできますしね。その中で、例えばドゥカティを走らせてどうかと言いますと、あの〜、状況的には厳しいと思いますね。

T:素人っぽい質問ですけど、ドゥカティは8時間もつんでしょうか?

X:鋭いですね〜。普通に考えるともたないですね。やっぱりドゥカティはパーツの耐久性というのが良くないんで。スプリントレースでも、よくエンジン壊しちゃったりしてますんで。あの過酷な状況では、8時間も走りきれただけで、もう御の字じゃないかと思いますね。

 ただ逆にですね、「あの状況の8時間を走り切れちゃったドゥカティって、どうなってんの?」って見てみたいというのはみんな思ってますよ。

 それこそ日本のメーカーのエンジニアは絶対バカにしてますからね。もし8時間ドゥカティが走るっていったら、「もつわけねえよ!」っていうと思いますよ。「エンジンブローして終わりだよ」って。

 だから、それが走り切っちゃって、さらにトップ10なんかに入っちゃった日にはですね、それこそ「うちの雑誌」でそこのドゥカティを特集して解説してもらいたい。エンジン全部バラしてみて、どういう風な状況になっているのか見てみたいっていうのは、みんな思ってますね。

T:名越さん、来年の8耐にチャレンジすると言っているので何とか頑張って欲しいと思うんですけど。

X:もうね、完走出来たらすごい。もう、ドゥカティなんて壊れまくるんですから。ほんとに(笑)。


全日本ロードレースの未来・・・

T:これまで伺っていると、8耐は一応頑張れば話題性とかでそれなりにメリットがあるっていう感じはしますけども。全日本の方は先行き暗いじゃないですか。例えばスポンサーを探したりする時に、どういうものをアピールするとグッとくるんでしょうね?専門家の目から見て。

X:グッとくる…ですか?

T:はい、いろんな人がいますし、個人的にドゥカティが好きとか、そういう方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんけど。例えば広告代理店とかに企画を持っていく時に、代理店の人って必ず「スポンサーメリットは何ですか」と聞くじゃないですか。

精神論じゃないところで、ですね(笑)。

T:ええ、そういう時、実際に躊躇することなく、こうです!って言えることってあるんでしょうか?

X:「俺の心意気を買ってくれ!」(笑)

弱いですよね、今のご時世では・・・・。

T:展望はどうなんでしょう?これから時代がどういうふうに変わっていくのかよく分からないですけど、可能性はどうなんでしょう?レース自体が持つ。

X:去年と今年と比べて、ます各サーキット、全日本ロードレースの観客動員数というのはですね、95年から96年にかけて微増したんですよ。平均的に絶対数から見て上がったんですよ。

 先日WOWOWのプロデューサーの方とお話しする機会があったんですね。WOWOWは今世界グランプリを中継してますけども、去年から今年を比べると視聴者は微増したんですって。そういった部分でいくと、これはメディアを含めてメーカーも努力しているってことで。まずはサーキットに来てレースを見てくださいっていう仕掛けがあったので、微増したんですけども、これは今後も続けていくと思いますし。観客動員数からしてみますと、今まで尻下がりだったのがちょっと上向き加減になっていますから。注目度という点では、まだまだ可能性は残している。

T:景気がまだ底を打っていますけど、まあ少しは回復するかもしれないと仮定して、今後はどうでしょうか。

X:可能性はあると思いますよ。平均的には、おおまかな数字なんですけど、日本のオートバイレースの集客動員数っていうのが3万人前後なんですよ。じゃ、四輪が流行ってるかって言ったら、フォーミュラ日本はあれだけTVがテコ入れしているにもかかわらず、4万人前後なんですよ。1万人くらいしか変わらないんです。このメディアの少なさとスター選手の少なさからして、二輪は健闘してるんですね。

 そういうことを考えて行けば、今ハーレーでファッション的に乗っかっている若い子たちに、うまいことレースの魅力を浸透させていけば、まだまだ可能性は残っていると思いますね。

でもファンデーションの代理店向けの営業トークということではですね……。

T:これはKさんに伺う筋じゃないんですけど、参考にご意見をお聞かせいただきたいと。

X:外堀はそういった形で埋まる。盛り返しているぞ、という部分がありますよね。

T:バイクが好きで、そこそこ経済的に安定したゆとりある生活をしていて、バイクを趣味でやってて、レースでスポンサードしてみようかなという人達を探すしかないのかなと思ったりもするのですが。

X:今の時代、ツライですよね〜。ワークスでもスポンサーのつかない状況ですからね。

T:四輪は代理店が付いてるから、スポンサーを引っ張ってきたり?

X:そうですね、代理店さんとスポンサーさんの結びつきっていうのがもともとあって、そこから引っ張ってくることが多いですね。

T:二輪はワークスの内部の人がスポンサーを探してきたりするんですか?協賛してくれるところとか。

X:いや、代理店は入ってます。SUZUKIですと読売広告社さんとか、HONDAでも代理店さんが入って、SUZUKIだからHONDAだから大丈夫だよ、アピール度も高いよ、と。TVのメディアもタイアップしてやっていきましょうよっていう、メーカーとスポンサーの橋渡しをする代理店は必ずいらっしゃいますね。

T:プライベーターは完璧にその人達で動いてるんですか。〇山さんとかはネームバリューありますよね。

X:もう無いすけどね。

T:現実にはかなり厳しいんですか。

X:厳しいですね。皆さん手弁当で働いてますね。昔付き合いがあったところから、とりあえずお金を貰ってくる。それも10万円、100万円の単位ですけども。貰えるだけでも御の字ということで、いただいてきてる状況じゃないですか。

 チーム監督さんなんかは企画書を何十枚も何冊も作ってですね、いろんなところに回ってると思いますよ。で、回ってる先もですね、あまりナショナルクライアントなんていうのは望めないですから、関係しているクライアントさんに回らざるを得ない。そういったところだとお金的にも余裕ないし、逆に他の所も来ちゃってますから、小出しになってしまう。だけど、それだけでも10万円、20万円くれるんだったら貰ってきちゃいましょう、そういうところですね。


業界のドンはだれだ?

X:二輪のレースを仕切っているのは、だいたいMFJっていうところなんですけども。誰が構成してる団体かっていうと、4大メーカーなんですよ。だから絶対的に、この4メーカーを牛耳ってさらに上の立場で「お前ら興行的にも、ファンにも、メディアにも、何に関しても楽しくやってアピール度の高いモータースポーツにしていこうよ」と言い切れる人がいないんですよ。

 で、四輪は何処が仕切っているかっていうと、JAFがやってる。あそこはメーカーはメーカーなんですけども、四輪の方が成熟してますから、全く独立してJAFが統括しています。牛耳ってるとこがどこって言った時の、JAFMFJの差が出てるわけですよ。

T:MFJの中で4社の力関係ってあるんでしょうか。

X:ありますね。やっぱりHONDAが業界の盟主ですよ。

T:二輪の先駆者だから。

X:そうなんですよ。これはですね、各メーカーさんの部長さん以上の取締役とお話をしていても、HONDAはライバルであり絶対負かしたいところなんだけども、HONDAが先陣を切ってモータースポーツで勝ってってくれないと全体的な繁栄が無い。と、みんな口々に言ってますから。一種、矛盾ははらんでいるんですけれども。HONDAには何時でも君臨して、業界の盟主であってほしい、と。

T:四輪の世界でも国内の事情はそうじゃないんですか?F1は撤退しましたけど。

X:HONDAの四輪はF1を撤退してから、日本のレースだとかアメリカのレースにテコ入れしてるんですけど。特に日本のレースですと、ついこの間まではTOYOTANISSANが力を握ってたんですよ、ご意見番っていうか。二輪でいうHONDAだったんですけども。ここに来てHONDAがボーンと突き出てきた。

 で、みんなが出る杭で、もうTOYOTANISSANも、それこそレースを主催してる団体も、みんなでHONDAを打ち崩そうという動きがあるんです。

T:なるほど、いろいろ難しいことがあるんですね。

X:で、HONDAは「日本の4輪レース界は汚くて子供じみててイヤだ。撤退してやれ」って、そういう話になってます。

T:F1に参入してた頃は本田宗一郎さんがいらした時代ですから、あそこまでできたんでしょうけども。二輪にその精神って受け継がれていないんですか。もともとスーパーカブから始まったわけですよね、HONDAって。ドリーム号とかあったじゃないですか。

 どうして二輪はHONDAが君臨しているのに閉鎖的なんだろうと思うんです。まあ、お金がないせいもあるのかもしれないですけど、不思議ですね。

X:HONDAの中でも、四輪班と二輪班というのがバッチリ分かれてるんですよ。全く交流が無いっていうほど、二輪は独自の路線を行っちゃってるんですよね。

 HONDAには、本田宗一郎さんが創った本田技研工業っていう大もとのHONDA本社っていうのがありますよね。それから、市販車を開発していくホンダ技術研究所っていうのがあるんですよ。これは材料の基本研究から新車の開発までやってるんですけど。四輪のレース部隊っていうのは、本田技術研究所の中にあるんですよ。そして二輪は、悪いことに(笑)また別会社なんですよ。ホンダレーシングコーポレーション、通称HRCって呼ばれてるんですが。もうここまでくると、本田宗一郎さんのキャラクターなんていうのは行き届かないんですよ。

 しかも、本田技研工業、本田技術研究所、ホンダレーシングコーポレーションの3社が並ぶと、二輪と四輪の間には深〜いミゾがあるんですよ。これはですね、ホンダ技術研究所としては「我々は営業利益を生む市販車を造ってる。にもかかわらずHRCは青天井で経費を使っている。お前ら、何の営業利益も生んでおらんじゃないか!」と、もう叩きまくるんですよ。

 HRCHRCで、「うるせい!こっちはレースで戦ってんだから、経費青天井でも致し方ないんだ!」と睨み合ってるんですよ。

 本田技研工業が二輪のレースもやっていれば、もしくは本田技術研究所がやっていれば、まだちょっと違うかもしれないけども。全く別立てのHRCという二輪のレース専門会社というのがありますので。これが、ビジネストークが出来る一般常識が備わっている人たちとは隔絶された、閉鎖的な社会を作ってるんです。

 ですからMFJという団体が実質は4メーカーさんで構成されているんで、ルール的には4メーカーのご意見をいただいてからルールを決めましょう、という面もありますからね。要は、レギュレーションやらレースを企画していく時に、アメリカとかヨーロッパだったら、「まずお客さんが来てくれて楽しめるためのレースをやりましょうや」ということからスタートしていくんですが、こと日本の場合、MFJが「こういうレースをしたいんですけども4メーカーさん、技術的にはどうですか?」とご意見を伺う。

 そうすると、4メーカーが「そんなの出来ねえよ!」とか、「こういうふうにしてくれ」とか。

 要は、メーカーの技術者サイドでルールなりレースを決めていくもんですから、非常に偏っちゃうんですよね。だから、レースそのものを難しくしていて、一見のお客さんには解りにくい。

 対極にあるアメリカのAMA、日本でいうMFJみたいなものなんだけど、そこはメーカーの絡みなんかないですから、興行的にもお客さんに優しくて、観て楽しいレースを考えてる。メーカーの奴らなんていうのは全くご意見無用。「ほんとに観客を楽しませるためのレースを俺たちはやっていく。参入したかったら日本のメーカーさん、来てもいいですよ」と。

 そういうスタンスなんで、まずここが違う。そこの違いは大きいですよね。観客動員にしてもレースの内容も。

T:今日伺っていて内情が良く解りました。

X:これはですね、知れば知るほど目を覆いたくなるような子供じみた話がいっぱいあるんですよね。

T:ほんと、日本の村的な感じですね。

X:そう!!名越さんみたいな人はアメリカのレースとかに行ったら、ほんとに楽しいんじゃないかと思いますね。やってて楽しいだろうし、お客さんの方も分け隔てなく平等に見てくれますから。もっともっと、あそこのチームの良さっていうのが出ると思うんですよ。だから日本の4メーカー主導のレースに出ていたりすると、どうしても4メーカーがまず頭に立つっていうレースになっちゃうし。話題もそこが中心になって、非常に狭い業界になっちゃいますよね。

T:改善されたり改革されていく余地は、今後あるんですか。

X:ないでしょう!!ただ、これだけ4メーカーがギッチギチに固めた世界の中で、ファンデーションみたいなプライベートチームで外車を使って4メーカーに割って入ってくればですね、お客さんの方から人気度が上がっていくと思いますね。

 4メーカーも認めたくないんでしょうけども、観ている人たちが素直に「あれだけ4メーカーがお金をかけてやっているのに、たった3人くらいのちっぽけなチームが割って入っていいレースやれるんだ!」っていうことで。

 ここで頭角を現せば、もうどこの国のどんなレースに行ったって恥ずかしくないですよ。


ーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーーーーー

 いかがでしたでしょうか。ちょっと尻切れトンボっぽい終わり方ですが、当時の原稿はここで終わっています。しつこく重ねて申し上げますが、この原稿は1996年に書かれたものです。決して現在の状況を反映したものではありません。当時の状況を当事者の主観を含めて表現したものです。

 しかし、およそ30年前の話とはいえ、今読んでみても色々と考えさせられることは多い気がします。何時まで経っても日本ではモータースポーツの地位、認知度、といったものは低いままのように思えます。現在でもバイク業界のシステムが上手く機能しているように見えないのは私だけでしょうか? 未だに暴走族(死語)のイメージを引きずっている?気もしますが、これは国民性なのでしょうか。

 しかし最近のバイクレース界では若者の活躍が目立つようになってきている印象があります。何時の時代でも、どの世界でも、未来を切り開いていくのは若者です。世の中はどんどんデジタル方向へ変化していきますが、停止すると倒れてしまうバイクはあくまでアナログな存在です。アナログだから面白いと思う次世代の若者にバイクレースやバイクそのものを引き継いでいっていただきたいと思います。そのうち停まっても倒れないバイクがどこからか出現しそうな気もしますが。

 話はちょっと飛躍しますが、私個人的にはレーシングバイクに電子制御は無い方が良いと思っています。あくまで操る人間の能力を競う方が健全で解りやすく、人気も出ると思います。例えばオリンピックの射撃競技、アーチェリー、弓道、等に超ハイテクを施した自動照準のメカニズムを持ち込むということになったら、それは無いだろう、止めてよ、と普通の人は思いますよね? 最新の電子制御は一般公道を走る乗り物のほうにこそ必要です。

 まぁ、自分はまだ走り続けるつもりです。ある意味老害かもしれませんが、勘弁してください(笑)。

sky


  
Posted by cpiblog00738 at 19:31