2023年07月30日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その6

 さて、作業はまた暫く中断した後に、再開されたのは2019年に入ってからでした。このあたりからそろそろ本腰を入れないとまずいのではないかとちょっと焦って来て、無理やり時間を作って作業を進めました。

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IMG_1145 シリンダーヘッドの分解中です。状態は特に問題無く一安心です。構造的には基本的に888/926/955系のレーシングエンジンの派生です。シリンダーヘッドの刻印は「A」ですね。1992年の製造です。ということは888SP5あたりと同年代ですね。でもこの年式でエキゾースト側のヘッドの天井がフロントタイヤとの干渉を避ける目的で斜めになっていますね。この仕様を目にするようになるのはレーシングバイクだと955コルサから、ストリートバイクだと996になってからだと記憶していますから、かなり先行して開発されていたことは確かです。

IMG_1143 バルブガイドの交換のため、まずは既存のガイドを取り外しました。通常はヘッドを温めた状態で専用工具のポンチを使用してガイドを叩いて打ち抜くのですが、今回は慎重を期して打ち抜く方法を取らずに、ガイド穴にタップでネジを切り、そこにネジを切ったシャフトを取り付けてスライディングハンマーでガイドを引き抜くという方法を取りました。

 単純に叩いて抜こうとするとガイドが外側に膨らんでしまって、ヘッド側の穴を押し広げて傷つけてしまう可能性があるからです。以前は単純に叩いてガイドを取り外すことが多かったですが、最近はスライディングハンマーで引き抜く方法をとることが殆どです。特にガイド交換履歴があるヘッドで、そのガイドがただのリン青銅のような柔らかめの材質に交換されている場合は要注意です。叩いて抜こうとするとガイドが潰れて外径が大きくなり、その結果ヘッド側の穴を押し広げて傷つけてしまう可能性があります。

 今回のケースではインテーク側の2本に関しては勘合締め代が不足していたようで、ガイドはいとも簡単に抜けてしまいました。ガイドを取り外したのちにガイド径と穴の内径を計測してみたところ、勘合締め代は全く足りておらず、このままでは走行中にガイドの脱落の可能性さえ否定できない状態でした。特に2ヶ所のうちの1ヶ所は穴径の真円度に問題があり、このままの状態では新品ガイドの装着は難しいと判断して穴の内径をリーマで仕上げ直しました。リーマを通せば穴の真円度は回復しますが、当然ながら穴径は大きくなります。その穴径に合わせた外径のバルブガイドを製作して使用するということになります。

 ドゥカティのこの手のエンジンの場合、経験的にバルブガイドとヘッドの穴の勘合締め代は0.03〜0.05mmが適していると思います。それ以下だとガイド脱落の不安があります。それ以上の場合はヘッドにガイドを打ち込むのに苦労し、無理やり叩き込むことになるのでそれによるヘッドのダメージが心配になります。

 ガイドをヘッドに取り付ける場合、ヘッドは過熱しておくことは必須ですがガイドも冷却が必要です。冷蔵庫で冷やしておくような場合はガイドを専用工具に装着してハンマー等で叩き込むことになります。また、ガイドを液体窒素で冷却する場合もあります。液体窒素の温度はマイナス196度で、ここまで冷やせば叩き込みは不要で穴の中に抵抗無しで挿入できます。もし液体窒素で冷却してもなお叩き込まないと装着できない場合は、勘合締め代が大きすぎると判断して良いと思います。
 液体窒素を用いる方法の方が部品に与えるストレスは小さいので方法としては好ましいと思われます。しかし作業者としての観点からすると、冷蔵庫で冷やしてハンマーで打ち込んでいく方法の方が、打ち込んでいく最中に感じる抵抗感で締まりしろの具合を確認できるので安心感があります。液体窒素の場合は何の抵抗も無く装着できてしまうので、頼りになるのは計測値のみということになり、本当に正しい勘合締め代が得られているのか、一抹の不安を感じてしまうのですね。

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 バルブガイドの交換が終了しました。ガイドは純正部品ではなく、国内で製作させたものです。材料はベリリウム銅合金です。一口にベリリウム銅合金と言っても種類があります。バルブガイドに使用して優秀なものも有ればバルブシートに使用して本領を発揮するものも有ります。その選択を間違えると期待した効果が得られない場合がありますので注意が必要です。

IMG_3536IMG_3539 これらはシリンダーヘッドに使用する部品です。箱入りもしくは袋入りになっている部品は新品です。




IMG_3541IMG_3542 エキゾーストカムシャフトと同軸で駆動されるウォーターポンプです。カムシャフトと同軸で駆動する構造は独特ですね。
  

Posted by cpiblog00738 at 10:14

2023年07月26日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その5

002 あまり長期間放置するとブレーキディスクは痛みます。この時代のブレンボはまだ鋳鉄ディスクの時代です。ということでアウターローターの表面処理を行いました。これで暫くの間は安心です。




IMG_4891 メインフレームです。画像では判りにくいかもしれませんが、結構汚いです。錆が浮いているところも見受けられます。





IMG_4954 そこでメインフレームにはリペイントを施しました。これで完璧です。ホイールも同様にリペイントです。ペイントはニシムラコーティングさんに依頼させていただきました。




IMG_4967 これはスイングアームに付属しているチェーン引き機構周りの部品です。材質はマグネシウムです。もともと緑色の陽極酸化処理が施されている部品ですが、やはり腐食が進行しないように改めて陽極酸化処理を施しました。この緑色の表面処理は数ある陽極酸化処理の中では特に耐食性が優れているとのことですが、施工を引き受けてくれるところは少ないと思います。なんでもこの処理を行うと工場内にシアンガスが発生するとのことで、処理中は工場内が無人になるというようなことを聞きました。

IMG_2476 その他のスチール製シャフトやナット等にはクロメート処理を施しました。この画像はスイングアーム関係の部品です。
  
Posted by cpiblog00738 at 08:32

2023年07月24日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その4

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 作業を開始するにあたって、まずは手を付けられるところから始めようということで、リアサスのオーバーホールを行いました。シリンダーも取り外し、表面処理をやり直しました。内部の仕様は特に変更せずノーマルのままです。

 IMG_2763こちらはオリジナルのブレーキホースですが、経年劣化でブレーキホースのフィッティングが割れてしまっています。



IMG_3034 そこでブレーキとクラッチのホースは新品を用意しました。イタリアのFREN TUBO製です。純正部品とは言えませんが、FREN TUBO社の製品ラインナップ中にドゥカティのスーパーモノ用という製品が存在するので、それを取り寄せました。

 

 ここまで進捗した時点で本業が忙しくなり、暫く作業は中断ということになりました。そして3年ほど経った2014年、このまま放置はまずいということで本業の合間を縫って作業再開しました。

  
Posted by cpiblog00738 at 08:37

2023年07月16日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その3

IMG_2420 さて、このバイクのレストア作業で一番のネックとなっていたことがあります。それは何と致命的なことに、クランクシャフトが無い、ということです。箱詰めの部品の中に2本のクランクシャフトが存在してはいたのですが、その両方が使い物になりません。画像はそのうちの1本で、焼き付いたクランクピンを溶接で盛って仕上げてありますが、肉盛りの溶接が足りずに表面を既定の寸法に仕上げても溶接のビードが残ってしまっています。また、左右のクランクを支持するジャーナル部も偏摩耗しており、真円度が保たれていません。計測場所によって直径が異なり、そのバラツキは0.09mmあります。ちなみにこのエンジンのクランク支持はこの時代のドゥカティとしては一般的なボールベアリングではなく、コンロッドの大端部と同じ構造のハーフベアリングです。0.09mmというこの数字は正規のメタルクリアランスのほぼ2倍程度ありますから、このまま組んで使用したら秒殺でエンジンが逝ってしまうのは確実です。


Crankshaft 正直に申し上げてレストア作業が滞った一番の要因はこのクランクシャフトでした。当然ですが新品のクランクシャフトなどというものは既に廃番で入手不可です。いくら探し回っても中古部品すら出て来ません。ドゥカティの他車種の部品の流用を一瞬考えましたが、軸受けの径がまるで異なるのでそれは一見して不可能なことが判ります。そこで残された手は新造、ということになり、国内のクランクシャフトを製造してくれそうなところにこの画像を送って、製造可能かを問い合わせました。これは2011年のことだったと記憶しています。

何社かに問い合わせをしたのですが、返答は殆どが無しの礫でした。しかしその中で1社だけ真摯な対応をしてくれた会社がありました。モータースポーツ関係ではかなり有名な四国にある会社です。二輪四輪問わずメーカーの仕事も請け負っていて、その技術力もピカイチという評判で、流石だなと感心しました。正確な数字は覚えていませんが、見積金額は確か200万円だったと記憶しています。ただし1本ではなく、最低ロットの45本の価格だったと記憶しています。

1本あたり4050万円なら、世の中にはクランクがダメになって走れないスーパーモノがそれなりに存在していると思われるので、それの修理に使えばOKと考え、この会社にお願いしようと半ば決心しました。


Super-Mono-Crank-002Super-Mono-Crank-003 ところがこのタイミングで朗報が飛び込んできました。純正新品クランクシャフトが見つかったとの連絡です。見つけてくれたのは親しいイタリア人の友人のルカです。見つけた場所はアメリカでした。以前から探してもらってはいたのですが、それまでは伝手をたどってもなかなか見つからないという連絡が来るばかりでした。

もし新品のクランクシャフトが存在するのであれば、それはレーシングチームやショップではなく、例えばスーパーモノの新車をコレクションしているようなマニアの方が、スペア部品としてストックしているというようなシチュエーションであろうと予測し、そっち方面を当たってみたところで運よく探り当てたという感じです。

価格は1本で7500ドルとのことでした。十分高額ではありましたが、その価格でも躊躇なく購入を決意しました。何しろクランクシャフトが無ければバイクがバイクとして成り立ちませんし、それに加えて純正部品であることの価値はとてつもなく大きいと認識していたからです。この機会を逃したらおそらく新品の純正部品には一生巡り合うことは無かったでしょう。

 結局はルカがいろいろと交渉してくれてディスカウントしてもらい、日本円にして70万円くらいで入手することが出来ました。これでヒマラヤよりも高い?ハードルを一つ乗り越えることが出来ました。荷物が届いてモノを確認した時の安堵感は半端では無かったです。





  
Posted by cpiblog00738 at 20:19

2023年07月09日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その2

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このバイクがTFDにやって来た時はほぼバラバラ状態。エンジン等は分解されて箱詰め。その他部品も分解されて単独な状態でした。足りない部品も多々ありそうでしたし、果たして本当に生き返らせることが出来るのか?この時点ではかなり不安に思える状況でした。

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しかし、画像のようにフレーム番号は#3番、エンジン番号もマッチングしていて#3番。フューエルタンクには当時このバイクに乗っていたワークスライダーのマウロ・ルッキアリ選手のサイン入りです。以上のことからこのバイクは飛びぬけて貴重な個体であることが窺い知れます。このバイクに関する履歴や書類は所持していませんが、フレーム番号が#3番ということで調べれば容易に素性が明らかになるのではないでしょうか?


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また、かなりの量の純正新品部品も付属していました。例えば新品のアッパーカウル、サイドカウル左右、ラジエーター、クランクケース等、枚挙にいとまがありません。レストアに際してはこの他にも膨大な数の新品部品を使用しましたが、その全てをここで紹介することは不可能なのでそれらについてはレストア中の記事の中で紹介させていただきます。

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Posted by cpiblog00738 at 20:56

2023年07月02日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その1

P1170931a  DUCATI SUPERMONO …… 使い古された言葉ですが、宝石のようなバイクです。とある縁があってTFDにこのバイクがやって来たのはもう軽く10年以上前のことです。それが何時のことだったのか、もはや正確な記憶がありません。

 TFDにやって来た時このバイクはかなりひどい状態で、とても走行できる状態ではありませんでした。レストレーションを行わなければとずっと思い続けていましたがなかなか手を付けることが出来ませんでした。機会があるごとに少しずつ手を付けていたとはいうものの、作業の進捗は思うようには進みません。

 そんな状況の中、ようやくレストアが完了してとりあえずエンジンの始動にたどり着いたのが2020年の5月。初走行をFISCOで行ったのがその年の9月。その後ちょっと間が開いて次の走行を筑波サーキットで行ったのが2021年の11月。その次の走行が2022年の6月に行われたFISCOでのレースへの出場。走行履歴は以上が全てで、この時点までの走行距離は127kmです。

  今回はこのバイクがTFDに来た時からの顛末、及びレストアの様子を詳しくご紹介します。今回の記事でこのバイクの素性を洗いざらいご紹介しますのでご期待ください。

また、私は将来的にあと何回かこのバイクでレースに出場しようと考えておりますが、その後は売却を考えております。ご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらご検討いただけるとありがたく思います。よろしくお願い申し上げます。

  
Posted by cpiblog00738 at 19:58