2023年08月28日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その10

IMG_1482 クランクシャフトとコンロッドの組み立て作業を開始します。コンロッドの1本は新品で、こちらはピストン側に使用します。






IMG_1497 2本のコンロッドのメタル合わせ(使用するメタルの厚さの選定)を行っています。記してある数字はハーフベアリングの厚さです。厚さ違いのハーフベアリングを組みあわせて適正なメタルクリアランスを獲得します。




IMG_1498 メタル合わせが終了しました。記してある数字は実測したメタルクリアランスです。例えば手前のコンロッドでは垂直方向のクリアランスが0.054mm、斜め45度方向のクリアランスが0.074mmと0.078mmということです。メタルクリアランスの指定値は0.040〜0.068mmとなっていますが、この値は垂直方向のクリアランスで判定します。

 勘違いしやすいのですが、ハーフベアリングを装着した状態でのコンロッド大端部の形状は真円ではありません。ごく僅かですが上下方向に潰されたような楕円っぽい形状になっています。つまり縦方向の径より横方向の径の方が大きいということです。

 その理由は、エンジンが排気行程から吸気行程に移ってピストンとコンロッドが上死点から引き下げられる時、慣性力によってコンロッドには引き延ばされる力がかかります。その際に大端部が縦に引き伸ばされて縦長の穴になろうとするのです。この現象はクローズインと呼ばれていますが、そうすると大端部の横方向の穴径が小さくなります。その変化量がメタルクリアランスの数値を超えてしまうとメタルコンタクトが発生してしまい、大端部焼き付きの原因となる可能性があるのです。

 そのためこの変化量を見越して大端部の形状は僅かですが横長の潰れたような形状になっているという訳です。

 どのような方法でこの形状を作り出すかはメーカーによって異なるらしいですが、ドゥカティの場合はハーフベアリングの厚さで調整しています。コンロッド本体の大端部の穴は真円に加工してあります。そしてハーフベアリングは中央部が一番厚く、外側へ行くほど薄くなるような形状になっています。例えば中央部の厚さが1.484mmのハーフベアリングが現在手元にありますが、斜め45度の方向で同様に厚さを計測すると1.474mmと1.472mmという計測結果となります。計測していませんが最端部はさらに薄くなっていると思われます。ハーフベアリングの厚さを変化させて対応しているということですね。

IMG_1499 クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。このタイプのコンロッドボルトの締め付け方法は以下の通りです。
 ・締め付け前のボルトの全長を計測する。
 ・最初に15Nmで締め付ける。
 ・次に角度で38度締め付ける。
 ・次に再び38度締め付ける。
・締め付け後のボルトの伸びは0.13〜0.17mmの範囲に入っていること。

 ちなみに写真に写っているコンロッドに記してある数字ですが、コンロッドボルトの頭の脇に記してあるのが最終的な締め付けに要したトルクで単位はNm。コンロッドの側面に記してある数字は使用したハーフベアリングの厚さの下二桁です。

IMG_1503 こちらはスーパーモノの、かの有名なダミーピストンというかコンロッドです。画像の左側がコンロッド小端に接続されます。右側はクランクケース側に接続となります。
 
 以前に他の個体のスーパーモノのエンジンをオーバーホールしたことがありますが、その時の経験からエンジン側のピンの消耗が激しい印象がありました。そこで今回はエンジン側のピンを新たに製作しました。ピンの黒色はDLCコートを施したための色です。

IMG_1524 クランクケースに装着する部品類です。シリンダースタッドボルト、スイングアーム取り付け部のベアリング、オイルシール、その他全て新品を使用します。






IMG_1525IMG_1534 クランクケース内部のクランクシャフトやダミーコンロッドの部品の配置はこんな感じになります。仮組と分解を繰り返して内部部品の位置をシム調整によって決定します。


IMG_1536 シフトドラムです。こちらもスーパーモノ専用部品です。他のエンジンとの互換性はありません。画像はありませんが、シフトフォークは他車種と互換性があります。空冷400とか600のギアボックスの2軸間が狭いタイプ用のシフトフォークと共通です。




IMG_1543IMG_1545 クランクケースにギアボックス関係の部品も仮組してシム調整を行っています。この作業には非常に時間がかかることが多く、多い時は何十回となくクランクケースを合わせたり分解したりの繰り返しとなります。


IMG_1547IMG_1551 クランクケース内部部品のシム調整が終了し、ようやくクランクケースを合わせて腰下の組み立てが終了したところです。







  

Posted by cpiblog00738 at 07:54

2023年08月21日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その9

IMG_1454 次はギアボックスのメンテナンスに取り掛かります。画像はカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)を分解したところです。見慣れた景色に見えますが、実は主要部品のほとんどがスーパーモノ専用部品です。ギアの厚さが狭かったりして他のモデルとの互換性がありません。さすがにサークリップやニードルケージは共通部品ですが、その他の唯一の共通部品はシャフト本体のみです。このシャフト本体だけはベルトドライブの900SS等に使用されているものと同一です。

IMG_1457 消耗品のサークリップは新品に交換しました。スラストシムはミッションの位置を調整する時に入れ替えたりするのでおのずと新品になります。






IMG_1458 ギアボックスカウンターシャフトのメンテナンスが終了しました。主要部品の状態は、ギアの歯の当たり面、ドッグの状態等を含めて非常に良好で問題ありません。今となっては入手不可能な部品なので非常に安堵しました。外れている部品は新品に交換した際に取り外した部品です。



IMG_1459 ギアボックスのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)を分解したところです。こちらの場合、シャフトとギア類の全てはスーパーモノの専用部品で、他車種の部品との互換性はありません。幸いなことにこちらも程度は良好だったので安堵しました。サークリップ、クラッチロッド用のニードルケージ、オイルシール等は新品に交換します。


IMG_1467 メンテナンスが終了したメインシャフトです。状態は良好です。外れている部品は新品に交換した際に取り外した部品です。
  
Posted by cpiblog00738 at 07:52

2023年08月13日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その8

IMG_1400IMG_1401 シリンダーヘッドの組み立て中です。懸念であるロッカーアームのメッキ剥離等の問題はありませんでした。また組まれているバルブスプリングですが、ストリートバイクと同じ部品となっています。一般的にコルサの場合は線径の細い反力の弱いスプリングが用いられていることが殆どなのですが、スーパーモノの場合は何故かストリートバイクと同じ部品が組まれています。この件はパーツリストでも確認済みです。とりあえず今回はオリジナルに忠実に、ストリートバイクと同じ部品で組み立てました。

IMG_1412 エキゾースト側のカムシャフトホルダーの形状が特殊ですが、ここにウォーターポンプが取り付けられることになります。ところが作業を進めていくとこの部分に問題があることが発覚しました。画像ではまだオイルシールが取り付けてありませんが‥‥。



DSC00767 これがこの部分に使用する純正のオイルシールです。オイルシールにサイズが記されていますが、φ17.46xφ28.58x6.3となっています。かなり特殊なサイズではないでしょうか?これをカムシャフトホルダーに取り付けてみたところ、全く勘合締め代がありません。つまり固定されないということです。ガバガバで容易に脱落します。ホルダー側の内径を計測したところφ28.8mmです。何をどう間違えてこうなってしまったのかは不明ですが、とにかく完全にこれはNGです。ホルダー側のハウジングの内径を間違えて仕上げてしまったのでしょうか?内側に通るカムシャフトのシャフト外径はφ17.5mmなので、本当に必要とされるオイルシールのサイズは呼びでφ17.5xφ28.8x6.0というサイズとなります。しかしそのサイズのオイルシールはどう考えても入手不可と考えられます。とにかく何らかの解決策を講じる必要があります。


IMG_1468 いろいろ考えた末に講じた解決策がこれです。φ17xφ30x6というサイズの国産オイルシールを利用し、30mmの外径を29mmに加工しました。加工は取引先の試作屋さんにお願いしました。MHSAタイプのオイルシールは外側部分もゴムで覆われていますが、経験上この手のものは上手く加工すれば外径を1mm程度削り落として使用することが可能であると分かっていました。この程度の研削であれば外側のゴム部分はまだ残ります。φ28.8mmの穴に外径29.0mmのオイルシールですから、締め代は0.2mmでOKです。

 問題は内径で、今度のものは0.50mm穴が小さいということになります。そこのところは優秀な日本製オイルシールに無理を聞いてもらって、そのままカムシャフトを押し込んで使用することにしました。 


IMG_1476IMG_1478 国産加工のオイルシールを取り付けたカムシャフトホルダーです。この状態で現在までにサーキットを100km以上走行していますが、特に問題は発生していないので大丈夫そうです。


IMG_1409 シリンダーヘッドの組み立てが終了しました。緑色に陽極酸化処理されている部品はマグネシウム製です。






IMG_1444 さて、シリンダーヘッドの組み立てが終了しましたので次はクランクケース周りの作業を開始します。これはコンロッド大端のメタルではなく、クランクシャフト両端を支持するクランクケース側のメタルです。当時のドゥカティエンジンの場合、レーサー、ストリートバイクを問わず、この場所はボールベアリングが使用されていましたが、スーパーモノのみがハーフメタルを使用していました。(その昔に存在したパラレルツインの500/350GTエンジン等の例外はあった模様ですが)その後この方式が登場するのは2013年のパニガーレエンジンまで待たねばなりません。


IMG_1446 クランクケースは新品を使用します。何故なら今回のレストアの一番の目的は、このバイクをレースで走らせることだからです。オリジナルのエンジンナンバーが入っているクランクケースはかなり使い込まれており、状態は悪いと認識していますから使用せずに保管しておきます。しかしこのオリジナルクランクケースはエンジン番号がフレーム番号とマッチングしていますから、このバイクと常にセットということになりますね。

 クランクケースに装着されているのはハーフベアリングを取り付けるための特殊工具です。これを用いてハーフベアリングをクランクケースに圧入します。

 
IMG_1450 ハーフベアリングの取り付けが終了しました。マーカーで数字が記してありますが、0.052がメタルクリアランス、1.995と1.998が使用したハーフベアリングの厚さです。ちなみにメタルクリアランスの規定値は0.031〜0.065mmと指定されています。

 また、画像を見るとハーフベアリングの中央に穴が開いているのが確認できますが、これはオイルラインの給油口です。この穴の奥のクランクケース側にも穴があって、そこからオイルが圧送されてきます。つまりハーフベアリングを装着する場合はこの穴を合わせる必要があるということです。この穴位置を合わせずに適当な位置にハーフメタルを装着してしまうとこの部分にオイルが供給されなくなり、エンジンに致命的なトラブルが発生することになります。


IMG_1452 こちらはクランクシャフトの両側に使用されるスライドメタルです。クランクケースにクランクシャフトを組んだ状態でのクランクシャフトの左右のクリアランスは0.07〜0.17mmと指定されていますから、その範囲に収まるように厚さを調整します。

  
Posted by cpiblog00738 at 10:34

2023年08月05日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その7

IMG_1177IMG_1179 今回バルブは新品に交換します。インテークバルブは1994〜1998年型のコルサと、エキゾーストバルブは1993〜1999年型のコルサと共通部品です。材質は耐熱性に優れたナイモニック合金製。ステムエンドにC.MENONの刻印があります。当時この刻印はホンモノの証として認識されていました。このバルブは高価だったので社外品のバルブに交換されている場合も多く見受けられたのです。

 最初からバフ掛けされていて非常に綺麗な仕上がりになっています。ただし誠に失礼ではありますが、バルブの芯が出ているのかの確認のために使用前にバルブリフェーサーでリフェースを行いました。このバルブに限らず、経験上ですが新品バルブといっても中には振れが出ているものが存在するからです。

IMG_1180 バルブのステム径に合わせてバルブガイドの内径をリーマで仕上げています。TFDで製作するすべてのガイドは穴径をステム径よりも小さく仕上げてあるため、そのままではバルブステムが通りません。使用する個々のバルブのステム径に合わせてガイドの穴径を仕上げます。TFDで使用しているベリリウム銅合金製のガイドとこのバルブの組み合わせの場合、通すリーマの径を0.01mmずつ大きくしていって、実際に使用するバルブのステムが通るようになったところでOKとしています。ということは言い方を変えればクリアランスは0.01mmということになるでしょうか。感覚的にはちょっと狭すぎる印象を与えるかもしれませんが、実際問題としてはこの方法が適しているようです。おそらくベリリウム銅合金とバルブ材質の相性が良いのだと思いますが、焼き付きや抱き付きの発生は今迄皆無です。次回のオーバーホール時にクリアランスをチェックしても状態は良好で、その後何度かのエンジンオーバーホール歴を経てもガイドの交換が必要になるケースは非常に稀です。

 そのくらいクリアランスをきっちり取っていますので、バルブステム径のばらつきによってバルブを他の位置に組んであるものと入れ替えるとクリアランスが狭すぎて組めなくなる場合もあります。

 また、ガイドの内径をわざわざリーマで0.01mmずつ拡大することについてのもう一つのメリットがあります。それはガイド穴の内径を入り口から出口まで均一に揃えることが出来るということです。ガイドはヘッドの中に圧入されていますが、圧入されている部分は圧縮されています。その結果圧入部分の内径が0.01mm程度小さくなっています。ガイドには圧入で圧縮されていない部分も有ります。それは外部から見えている部分ですね。この部分の寸法は変化しませんから、解りやすく表現するとガイドの穴の中には段差が出来ていて製作時のままの内径の部分と0.01mm細くなった部分があることになります。この不均衡を、リーマを通すことによって均一にしたいという訳です。

IMG_1186 バルブシートをリフェース中です。バルブガイドを交換した場合は必須です。何故なら新たに装着したガイドの角度は以前とは少なからず異なるからです。そのためそのままではバルブフェースとバルブシートは正しく当たりません。
 
 左側のシートはシートリフェース終了後バルブとのすり合わせを行って、バルブフェースとシートの当たり具合が良好であることを確認済みです。

IMG_1187IMG_1192 バルブシートのリフェース、バルブフェースとシートの擦り合わせを終えた状態です。この状態からシリンダーヘッドの組み立てを開始します。



IMG_1198IMG_1201 インテークとエキゾーストポートからの眺めです。

  
Posted by cpiblog00738 at 23:14