2024年06月30日
888SP4 再生 その7

さて、作業は車体周りに移ります。フロントブレーキディスクはオリジナルの鋳鉄製です。さすがに16年間放置されていると、保管場所が室内だったとはいえ錆が酷いです。そのまま走行すればそのうち綺麗になるでしょう、という考えもありますが、パッドは新品に交換する予定なのでディスクも出来る範囲で錆を落としました。右が既存の状態、左が手作業でオイルストーンによる研磨を行った状態です。ここまで綺麗にしておけば短期間のうちにディスクの表面は綺麗な状態になると思います。
ステアリングヘッドのベアリングを交換しています。この時代はテーパーローラーベアリングが採用されています。ボールベアリングの場合はボールが点でレースに接触しますが、ローラーベアリングの場合は線で接触します。そう考えるとこのタイプは非常にタフなベアリングと言えると思います。しかしこの時代はベアリングを護るシールが設けられていません。つまりベアリングは外部の環境にさらされていてゴミや水等は入り放題。それを護るのはグリスだけです。そういった意味では頻繁に状態の確認、ベアリングの交換等が必要とされるでしょう。
エキパイを取り付けました。前述の通りエキパイは90年代当時にWSBを走っていたバイクのものです。さすがに立て付けが良いとは言えず、エンジンやスイングアームに干渉しないように数か所切った貼ったで形状を整えています。 ウォーターポンプカバーの色が周りと異なりますが、、内部のインペラーとともに916の部品に交換してあります。特にエンジン低回転時の冷却水の圧送能力が改善されます。
フロントフォークのメンテナンス中です。このフォークは純正ではありません。純正はオーリンズの初期型GPフォークですが、このフォークはそれより一つ世代が新しいGPフォークです。おそらくカワサキ用ではないかと推測します。何はともあれ当時最高峰とされていたフォークです。インナーチューブ径が42mmで、今となってはシールの入手に苦労するのですが…。何とオーナー様はこのフォーク用の純正シールを何台分も所有しておられました。さすがに保管期間が長いので材質的な劣化が懸念されましたが、保存状態が良かったおかげで外見は問題無し、触ってみた感触もOK、ということでその部品を使用して作業を進めさせていただきました。
冷却水関係のホースは当然ながら新品に交換しますが、純正部品ですべてそろえることはもはや難しい状況です。ということでSAMCO製のホースを調達しました。色はいろいろと選択可能ですが、今回は黒を選択しました。Posted by cpiblog00738 at
09:37
2024年06月26日
888SP4 再生 その6

エンジンが概ね組み上がったところで、バルブタイミングの計測と調整を行っています。この作業はかなり重要です。TFDではバルブタイミングをメーカーの指定値に合わせています。バルブタイミング変更、というようなマイルールの暴挙は行いません。カムの摩耗によって開弁時間が少なくなっているような場合はそれなりに考えた上で最適と思われるタイミングを設定しますが、その場合でも基準となるのはメーカーの指定値です。
さて、エンジン以外の作業に取り掛かります。これはスロットルボディーですが、結構酷い状態です。フューエルホースとクランプ等は新品に交換します。不安なのはインジェクターが正常に作動するかどうかですが、結果的に4個のうちの1個が動作不良を起こしていました。ガム化したガソリンでノズルが固着するというよくあるトラブルです。
車体の組み立てですが、まず最初にエンジンにスイングアームを取り付けます。この時に後方気筒のエキパイを仮付けしておきます。今回使用するこのエキパイは1990年代にWSBで実際に使用されていたもので、純正ノーマルとは太さや形状が異なるため、車体が組み上がった後では取り付け不可能になる可能性があるからです。このエキパイはオーナー様に持ち込んでいただいたもので、アンドレアス・メクロウ号に使われていたもの、ということで入手されたそうです。
WSB仕様のエキパイと組み合わせて使用する目論見で持ち込んでいただいたスリップオンサイレンサー(新品)ですが、残念ながら取り付け角度が全く合いません。そのまま差し込むとこんな感じになってしまいます。これは後から切った貼ったの作業で何とかします。Posted by cpiblog00738 at
23:06
2024年06月25日
888SP4 再生 その5

新品のバルブガイドを取り付けました。TFDオリジナルのベリリウム銅合金製です。ベリリウム銅合金と言っても種類はいろいろな種類が存在し、バルブガイドに使用すると秀逸なもの、バルブシートに使用すると性能を発揮するもの、等いろいろです。用途を間違えると期待した性能を発揮しない場合があり、材質の選択には注意が必要です。以前にベリリウム銅合金製のバルブガイドなのに短期間でガイドが摩耗して穴が広がり、バルブステムとのクリアランスが過大になってしまった個体を見たことがあります。選択を間違えるとそういったことが発生するということです。
左奥のシートはリフェースと使用するバルブとの擦り合わせが終了しています。手前の2ヶ所は作業前です。
この当時のヘッドの表面処理はアルミの地肌の上にクリアコートが乗っているだけです。洗浄その他の作業でどんどん剥がれていきます。オーナーの方はエンジン外観は気にせず、あくまでエンジンの調子の良し悪しにこだわるということでしたのでそのまま組み立てていきます。
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10:06
2024年06月13日
MAX10レース in 富士スピードウェイ
先週末の日曜日、富士スピードウェイに於いて「大人のレースごっこ」MAX10のレースが開催されました。私が参加したクラスはSUPER MAXというクラスでしたが、全体の参加台数が少ないために全クラス混走ということでかなりスペクタクルな展開が予想されます。 スタートは下手くそなのは自覚していますので、今回はスタートに関してはレーシングスタートという意識ではなく街乗りの延長で、とりあえずエンストとバク転は避ける、という心構えで行くことにしました。
結果は久しぶりのお立ち台の真ん中。何はともあれ嬉しいものです。富士スピードウェイの場合はやはりエンジンパワーが頼りになります。コーナーが速くない自分ですが、直線番長大いに結構、安全第一、何と言われようがストレートでの順位の入れ替えは安全ですから。
1098Rエンジン、現在でも十分すぎるほど通用しますね。
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01:07
2024年06月07日
888SP4 再生 その4

クランクケース内部の部品を仮組しています。各部品はシム調整によってその位置が決定されます。クランクシャフトであればコンロッドの位置がシリンダーの中央になるように調整します。ミッションシャフトやシフトドラムであればギアの送り、噛み合い具合等の加減を見ながら最適と思われる位置に各部品を調整します。かなり細かくて面倒な作業ですが、正しく行えばギアチェンジの良好な感触を獲得できます。ただし乱暴なギアチェンジを行ってシフトフォークを曲げたりすればせっかくの調整も元の木阿弥となってしまいます。
ここがポート内に問題があった場所ですが、バルブガイドがおかしなことになっています。割れて欠けた?融けた?状況は確認できましたが何が起ったのかは判りません。ただガイド以外に問題は無さそうなので、ガイド交換を行えば問題なさそうな印象です。
ガイド交換はオーバーホール作業に於いてルーティンです。抜いたガイドは銀色のものがインテーク、銅色のものがエキゾーストです。エキゾーストの方が過酷な環境に置かれるので高級な材料で製作されていると思われます。Posted by cpiblog00738 at
08:47
2024年06月04日
888SP4 再生 その3
ピストンの点検中にピンボスの軽微なカジリの発生が発覚しました。キズ部分を磨いてこのまま再使用しても問題は無いかもしれませんが、それはあくまで代替え部品が無い場合の対応と考えます。TFDに中古良品のピストンの在庫が幾つかあるので、今回はそれを使用することにします。 もう片方のピストンを点検したところ、こちらはピンとピンボスの勘合がきつく、印象としてはピストンに歪みがあってピンボスの整列が正しくない印象でした。ということでこの際ピストンは2個とも交換することにしました。

クランクシャフトです。結構な頻度で発生するトラブルですが、クランクピンのプラグが緩んで外れかけています。M20のネジになっていますが、この当時はネジロックを塗布して組んであるだけなので、緩んで飛び出してくることがままあります。飛び出した部分はクランクシャフトを支持しているボールベアリングのアウターレースに接触して少しずつ削れて行くのでこのような模様が付きます。 組み直す時にはプラグの端をポンチで打って雌ネジと軽くカシメてしまうので再発の心配はありません。
コンロッドです。チタニウム製ではなくスチール製ですが、H断面の削り出しです。ただしコンロッドボルトは使い捨ての安価なタイプが使われています。SPSやSP5だと専用の高価なボルトが使用されていて差別化が図られているのですが、この安価なタイプのボルトは現行車種のものが使用可能で、現在でも普通に入手できるのでかえって好都合です。
クランクシャフトにコンロッドを組んだところです。ハーブメタルの選定が重要な作業です。ちらっと見える83という数字は使用しているメタルの厚さで、1.483mmということです。69と見えるのはコンロッドボルトを指定の方法で締め付けた時に要した締め付けトルクで、69Nmということです。ちなみに締め付けトルク管理ではなく締め付け角度で管理しているので、結果的にトルクの方にバラツキが出現します。48と見えるのはメタルクリアランスで、0.048mmということです。
こちらはミッションのメインシャフト(クラッチが付く方のシャフト)です。この頃はニードルベアリングが金属製のリテーナーを使用した分割式です。もう少し時代が進むとリテーナーが樹脂製の一体式になります。サークリップは交換、グルーブワッシャーは目視でダメージのあるものだけ交換します。 もう片方のカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)の方も同様に作業しましたが、すいません、写真を撮り忘れました。いずれにせよ両者とも特に問題は無く、状態は良好でした。

さて、シフトドラムの位置決めの機構についてです。例えばシフトドラムが回転して2速に位置に来ればギアが2速に入るということになるのですが、ドラムをその位置に留めておく機構が存在します。その機構が916から変更されています。詳しいことは省きますが、オーナー様からその点を刷新してほしいとのご要望をいただきましたので対応しました。クランクケースに加工を施し、916のシフトドラムとギアストッパーのロッカーアームを取り付けました。これでシフトのフィーリングがかなり改善されたということになります。Posted by cpiblog00738 at
08:47
























