2024年09月22日

888コルサエンジン再生-3

DSC01929 メンテナンス中のクランクシャフトです。コルサのクランクとはいえ、この頃はまだ扇型の格好をしています。ウェブの内側に切削による軽量加工が認められるのがコルサクランクの特徴です。




DSC01930 こちらはコンロッドです。94年型926レーシングからチタンコンロッドになりますが、この93年型は削り出しH断面のスチール製です。コンロッドボルトも特殊なもので、指定されている締め付け方法は3段階で、15Nm→38度→38度、その際の伸びが0.13〜0.17mm、というものです。チタンコンロッド用のPankl PLB07グリスを使用して上記の締め付けを行ったところ、要したトルクは4本とも75Nm前後でした。

DSC01932 このコンロッドには中心に貫通したオイル穴が存在します。クランクピンを潤滑したオイルがコンロッド大端からオイル穴を通って小端に達してピストンピンを潤滑します。ストリートバイクでも916SP、916SPS’97にこの方式が使われています。いずれもスチール製削り出しH断面のコンロッドです。ハーフメタルに穴が2個開いていて、そこから進入したオイルがコンロッド側の溝を通って穴に入って小端に運ばれる、というシステムです。この方式はその後採用されなくなってしまいましたが、その理由は不明です。チタンコンロッドになると貫通穴を開ける難易度が高いのか、それとも大端から少なからずオイルが逃げるので大端部の油圧低下を避けたいと考えたのか、真相は不明です。

DSC01935 クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。ちなみにクランクシャフト両サイドのシムですが、左右シムの厚さを調整してクランクシャフトの位置を決定します。まず最初の目的は、コンロッドがシリンダーの中央に位置するようにするということです。自分の場合はクランクケースのシリンダースカートが入る穴の側端面からクランクシャフトのピン横の立ち上がり面までの距離を計測してその数値を根拠に調整しています。4か所で計測することになりますが、そのうちの2個ずつが同じ数値になるように目指します。しかし理想通りの数値になることはまず皆無で、如何にして妥協するかということになります。それでも誤差は0.1mm程度になるのが普通です。そしてこの説明では何を言っているか判らないという方が殆どだと思うので、ちゃんと理解したいという方は直接お尋ねください。
 それに加えてもう一つのシム調整の目的は、クランクケース左右を合わせて組み立てた時にクランクシャフトに0.15mm程度のプリロードがかかるようにするということです。

  

Posted by cpiblog00738 at 19:03

2024年09月18日

中古車のご紹介です

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 お客様から委託でお預かりした851SP3の中古車です。タンク以外の外装が92年以降の後期型になっていますが、このバイクに限ってはこれがオリジナルです。村山モータース正規輸入車です。後期型のサンプルとしてこの状態でイタリアから輸入され、その後の変更はありません。初年度登録は1992年7月。ワンオーナー車。走行32,180km。車検は2024年10月24まで。立ちゴケ1回以外は転倒歴無し。エンジンオーバーホール履歴はありません。
 周りを見回しても取引実績が見当たらないので販売価格は現在検討中です。近いうちにその他の写真と価格は発表しますが、その前にいくら位なら購入したい、みたいなお話があればご連絡いただけるとありがたく思います。
  
Posted by cpiblog00738 at 13:28

2024年09月17日

888コルサエンジン再生-2

DSC01909
 ピストンは純正新品を使用することになりました。今となっては非常にレアで入手は困難を極める部品です。さすがにTFD在庫ではなかったのですが、かなり以前からその存在は把握していたので今回はお客様にそれを直接購入していただき、TFDに直送してもらいました。



DSC01918 さて、シリンダーヘッドです。ヘッド面を摺合せしてリフレッシュし、バルブガイドは交換のために取り外しました。ヘッド面はかなり荒れていて綺麗ではなかったのですが、定盤の上で擦り合わせを行って対応しました。フライス盤を使用して機械加工での面研も考えましたが、その方法ではどうしても最小限の切削とはならずに削り過ぎてしまう傾向があるのでこの方法を選択しました。定盤の上での擦り合わせであれば消したい傷を確認しながら作業が出来ます。ただし斜めに削ってしまってはまずいので、その辺は経験とカンの世界です。

DSC01922 取り外したバルブガイドです。左側がインテーク、右側がエキゾーストですが、今回は取り外す時にインテーク側4本が異常に容易に抜けてしまいました。抜いたガイドを観察すると、通常通り正しく勘合していたと思われるエキゾーストガイドは勘合部全面に綺麗なアタリが付いているのに対し、インテークガイドには明らかにヘッド側と接触していなかった部分が認められます。勘合しろが少なかったということですね。これに関してはヘッド側の穴径を計測して正しい勘合しろが獲得できる新品ガイドを挿入しますからそれで問題は解決します。

DSC01926 さてこちらはクランクシャフトです。前述のように当時のコルサにはセルフスターター機能が無く、押し掛けがデフォルトであるとお伝えしました。そのためにストリートバイクには当然備わっているスターターワンウェイクラッチ潤滑のためのオイル穴がコルサのクランクシャフトには存在しません。セルモーターを取り付けて機能させるためにはこのオイル穴の加工が必須です。矢印の穴が今回後から加工したオイル穴ですが、これが非常に緊張を伴う作業なのです。軸の中心を通っている穴径は車種により若干異なり、5〜6mm程度です。図面では6.25mmとなっていますが、どうもその数字はその限りでは無いようです。それはともかくとして、φ2.5mmのドリルで残り2mmで貫通するところまで穴を開けます。そして残りの2mmはφ0.8mmの穴を開けます。φ0.8mmというのがオイル流量調整のための大きさです。なのでφ0.8mmのドリルのみで貫通させてもOKなのでしょうが、それは技術的にかなり難しいと思われ、ストリートバイクの純正クランクシャフトも例外なく途中までφ2.5mmでその先がφ0.8mmとなっています。
 これがまだ熱処理前の状態なら容易な作業なのでしょうが、後から加工する場合は当然ながらクランクは熱処理後なのでとにかく硬いのです。φ2.5mmのドリルは通常のものでは歯が立たないので超硬タイプを使用します。こういった加工物に対する超硬タイプの切れ味は確かに段違いなのですが、その代償として超硬タイプのドリルは靭性が低いのです。解りやすく言うと折れやすい、欠けやすい、ということです。穴開け時にこじったりして垂直方向以外の力が加わると容易に折れます。折れれば当然ながら折れた先の部分が加工物の中に残ります。何せ超硬ですから、それの除去は非常に困難です。そのためにこのφ2.5mmのドリルでの穴開け作業は異常な緊張感の中で行われます。
 残りのφ0.8mmの方はごく普通のドリルを使います。φ0.8mmのドリルは細いので加工物に押し付けると容易に撓み、超硬であればドリルは即折れてしまいます。通常のドリルは多少撓ませたところで折れません。それとクランクシャフトは表面に近いところの硬度が高く、深いところの硬度はそんなでもない、という事実があるからです。これはクランクシャフトも超硬ドリルと同様で、全体を硬くすると靭性が得られず折れやすくなります。剛性と靭性をバランスよく確保するために表面近くは硬く、内部はそこそこ柔らかく、という構造になっているということです。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:59

2024年09月14日

888コルサエンジン再生-1

 今回は1993年の888コルサエンジンのレストアです。コルサエンジンというふれこみで入手したのですが、実際のところ素性が不明でそれが本当かどうかは開けてみてのお楽しみ?という状況でした。とにかく開けてみないと何も進展しないのでとりあえず分解しました。

DSC01897 一通り分解しましたが、結果としてちゃんと888コルサのエンジンでした。胸をなでおろしました。それじゃどうしましょう?とオーナー様と相談した結果、ちゃんと組み上げて現在走らせているレースバイクのエンジンと載せ替える、ということになりました。



DSC01898 一通り部品をチェックしていくと、この年式だとコンロッドはチタンではなくスチールの削り出しH断面。クラッチカバーは緑色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これは純正部品ですね。エンジン左側カバーも茶色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これも純正部品ですが、これは当時から1〜2年使用すると冷却水に触れているウォーターポンプ周りに腐食が発生して穴が開き、冷却水がクランクケース内に侵入することになるのは確実なので他の部品に交換することになります。クランクはコルサ純正。ミッションも純正のレーシングミッションで、パッと見たところ状態は悪くなさそうです。ヘッドはまだ分解していませんが、マグネシウム製カバーが取り付けられていて外見としてはコルサです。バルブ径もコルサです。あとはカムシャフトに何が組まれているかが問題ですが。

DSC01899 シリンダーとピストンもコルサ純正です。ただし、特にピストンが結構使い込まれています。裏返して裏面を見るとかなり焼けて茶色くなっています。フライホイールはコルサ純正ですが、オリジナルにはセルフスターター機構が存在しません。当時のエンジンスタートは押し掛けが常識だったのですが、現代においてはスリッパークラッチの存在もあってそれは難しいのでセルモーター等の取り付けが必須です。そうするとフライホイール関係もそれ用の物を用意する必要があります。クランクケースもコルサ純正の部品です。エンジン番号を打たれていないので、スペアパーツとして取りよせたものが使われています。当時ドゥカティコルセより指定されていたクランクケースの交換サイクルは走行500kmでしたから、スペアパーツに交換されていたのは当然の成り行きで、もしエンジン番号が打ってあるオリジナルのクランクケースが使われていたらそれはかえって怪しすぎます。

DSC01900 シリンダーヘッドを分解しました。内部部品もコルサ純正で、カムはIN、EXともにGカムでした。バルブ径はINが36mm、EXが31mm、ステムエンドにC.MENONの刻印があるホンモノです。さすがにロッカーアームはメッキの剥離が頻発するために頻繁に交換されていたようで、見た目の異なるものが混じっています。


DSC01914 ヘッドの上面には鋳型で92とあります。92年製造なので93年式のバイクに使われたということになります。Sの刻印は93年型888レーシング用、という識別です。ちなみに左側の機械加工部分は何のためかというと、フロントタイヤの逃げです。フルブレーキ等でフォークが沈むとフロントタイヤとヘッドが接触するのが当時は当たり前だったので、それを少しでも軽減しようとする試みです。
 これから作業を進めていく様子を逐次アップしていきますのでお楽しみに。


  
Posted by cpiblog00738 at 11:16