2024年12月29日
998Rレストア-6
分解したシリンダヘッドを点検していてちょっとした問題が発覚しました。写真には穴が5個写っていますが、左右両端はスタッドボルト用の穴で、それ以外の3個の穴は冷却水の通路となる穴です。相手側のシリンダーに設けてある水穴の位置が冷却水による変色ではっきり認識できます。中央の穴以外は明らかに穴位置が合っていません。
特にこの穴は完全に塞がれている状態です。998Rの場合、ヘッドガスケットは溝にはまったウイルスリングでシリンダーとヘッドの面はアルミが直接接触していますからこのように冷却水が触れていた痕跡が明白に残ります。穴がずれているとはいえ、かろうじてシリンダー側の溝に存在しているオーリングの内側に位置しているので水漏れが発生していないのは何よりですけど。
対策として水穴のとば口を削って広げ、冷却水の通路を確保しました。実は998Rの場合このトラブルの頻度は高く、同様な例を幾つか見ています。前述した、新車のエンジンでも幾つかのトラブルを抱えたまま組み上がっている場合があります、というのは例えばこういったことなのです。
カーボン等の汚れを落とし、ヘッド面もすり合わせをしたシリンダヘッドです。ちなみに水穴の大きさですが、インテーク側の3個は小さくエキゾースト側の3個は大きいのが判ります。インテーク側は燃焼前の混合気で冷やされ、エキゾースト側は燃焼ガスで熱せられるのでこのように水穴の径を変えることで冷却水の流量を調節し、ヘッドの温度が均一になるように調整しています。とはいえ穴が塞がっていたらダメですけど。
バルブステムシールを取り外しましたが、ステムシールの一部のゴムががる部ガイドに焼き付いています。わざわざステムシールを取り外したのはガイドを抜く時にガイドを燃焼室側に抜きたかったからです。ステムシールが付いた状態だと燃焼室側に抜くことが出来ません。何故燃焼室側に抜きたいかというと、特にエキゾーストガイドの排気ポート部分にはカーボン等が付着していてそれを完全に除去するのは困難で、その状態でガイドをカムシャフト側に抜くとシリンダヘッドのガイド穴にガイドに固着したカーボンによるキズが発生する可能性があるからです。
こちらはバルブです。カーボン等の汚れを磨いて落とし、バルブフェースをバルブグラインダーでリフェース済みです。バルブの単価が安ければ新品バルブを使用するのが妥当ですが、バルブの新品価格は万単位ですから、バルブステムが明らかに痩せているとか曲がりがあって首を振っている等の不具合が無ければリフェースしての再使用が妥当です。
新しいバルブガイドを取り付け、ガイドの穴径をバルブステムの径に合わせてリーマで広げて合わせます。リーマは6.95mmから初めて、次に6.96mm、6.97mmと0.01mmずつ大きくして行ってバルブが通って自由に動くようになったところで終了します。ということでバルブガイドとバルブステムのクリアランスは0.01mmと言って良いと思います。実際にはもう少し大きい感じがしますが。
この狭いクリアランスを確保できるのはバルブガイドがベリリウム銅合金で製作されているからです。この材料はクリアランスが小さくても焼き付いたりせずにスムーズにバルブが摺動します。他の材料でこのクリアランスは危険かもしれません。
そしてその後にバルブシートをリフェースします。ガイドを交換してバルブの角度がそれまでとは多少なりとも異なるので、そのままではバルブフェースとバルブシートが密着せず、圧縮を確保できません。写真のリフェース中以外の3ヶ所は既にリフェースとすり合わせが終了して、バルブフェースとバルブシートの当たりが良好であることを確認済みです。
ガイド交換、シートのリフェース、すり合わせ等の一連の作業が終了したシリンダヘッドです。ノーマル状態のままだとインテークバルブシートのポート側はポートの内側に出っ張っている状態なので、混合気の流れを阻害しないようにその部分を修正してあります。これでヘッドの組み立て準備が完了です。
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09:58
2024年12月28日
998Rレストア-5
さて、これはクランクシャフトギアを取り付けているM24のナットです。こういったナットの表裏って考えたことがありますか?一見表裏の区別は無く見えますし、ぶっちゃけどっちから組み付けても大差ないと言えばその通りです。
おそらくこうしたナットは元々はとても長いナットで、それを切り落として製作しているのだと思います。端面を仕上げて突っ切りの刃物で切り落とし、端面を仕上げて突っ切りで切り落とし、の繰り返しなのではないでしょうか。端面を仕上げた面が綺麗に仕上がっていて、反対側は切り落としたままの状態、ということではないかと思います。
何はともあれ、自分の場合はナットの平滑な面を対象物に向けて組みようにしています。実際問題としてはどっちの面を対象物に向けて締めても大差ないと言えば大差ないと思いますし、気持ちの問題と言えばそれまでですけど。
エンジンの右側です。1次ギア、オイルポンプ等が存在します。クランクシャフトギアはクランクシャフトのスプラインに挿入して固定されています。昔のタイプのエンジンはシャフトとギアの穴がお互いテーパーになっていて、ギアを取り付けてナットを締め付ければ勝手にセンターが出ますが、スプラインだとシャフトとギアの間に隙間というかガタがあるので、何も気にせずにナットを締め付けるとギアのセンターが出ません。その結果1次ギア(クランクシャフトギアとその相手側ギア)のバックラッシュが狭いところと広いところが出現してしまい、極端な場合はクランクを回転させると一か所だけ回転が重く回りにくくなる場所が出現します。なのでクランクシャフトギアを締め付ける時はギアのセンターが出ているかどうかを気にしながら作業することになります。
こちらはセルモーターです。走行距離が少ないので問題は無いと思いましたが、念のため分解してチェックします。その結果、ブラシの残りも十分で特に問題はありませんでした。コミュテーターは研磨仕上げ、断面が潰れてきし麺状態になってしまったオーリング類は交換します。
スターターのフリーホイール、ワンウェイクラッチとも呼ばれている部品です。こちらも走行距離が少ないので大したダメージはありませんが、予防整備の観点から新品に交換することにしました。右側が新車時に組まれて今迄使用していたもの、左側が現在の新品です。仕様は時とともに進化していて、形状が異なります。最新の部品の方が性能的にも進歩していると思われる点も、あえて交換する理由です。
シリンダーヘッドを分解しました。特に問題らしき要素はありません。ただやはりバルブガイド、特にエキゾースト側は低走行にもかかわらずかなり消耗しており、ガイドとバルブステムのクリアランスは大きくなっていました。
Posted by cpiblog00738 at
23:39
2024年12月27日
998Rレストア-4
こちらはクラッチ関係の部品です。スリッパークラッチではなく、ノーマルクラッチです。ノーマルクラッチはクラッチドラムの内部に12個のゴム製ダンパーが存在し、それらによって加減速のショックを吸収する構造になっています。これはこれで優秀です。
ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも特に問題はありません。同様にサークリップと痛んだグルーブワッシャーは交換します。このシャフトのセンターは穴が貫通していてその中をクラッチのプッシュロッドが通ります。そのプッシュロッド用のニードルベアリングとオイルシールも交換です。
クランクシャフトからコンロッドを取り外しました。コンロッドに問題は無く、状態は良好です。しかし大端メタルの状態を確認したところ、こちらはそれなりの消耗具合です。走行距離にしてはメタルの状態は良くありません。原因は不明ですが、使用していたオイルが原因でしょうか?それともメタルクリアランスが正しくなかったのでしょうか?今となっては原因は不明です。
メタル合わせを行い、適正なメタルクリアランスでコンロッドをクランクシャフトに組み付けました。今回のメタルクリアランスは0.051mmと0.050mmでした。レース専用車の場合は0.055〜0.060mmにとりますが、街乗りメインであればこのくらいが適正だと考えています。スチールのコンロッドであればもう少しクリアランスを狭く取りますが、チタンコンロッドの場合は熱膨張が少ないので数値は大きめです。
クランクケースに内部部品を仮組して各シャフトの位置をシム調整によって決定します。どのように調整するかと言いますと、クランクシャフトの場合は適正なイニシャルプリロードがかかった状態でコンロッドがシリンダーの中央に位置するように、ギアシャフトの場合は各ギアのシフト時にドッグの嵌り具合が適切になるようにです。ミッション関係はシフトフォークの曲がりが無いか、曲がっていてもシム調整の範囲で正しく機能させることが出来るかどうか、この辺は経験値がモノを言います。
Posted by cpiblog00738 at
12:14
2024年12月21日
998Rレストア-3
クランクケースを洗浄して点検しています。何も問題はありません。通常モデルの金型のクランクケースと比較すると、砂型のクランクケースは無骨な印象です。
こちらはエンジンの右側に付く部品群です。既にメンテナンス済みで、交換する消耗部品は取り外されています。左下の部品はオイルポンプ本体とカバーですが、カバーの取り付けに問題がありました。それ以外は特に問題はありませんでした。
オイルポンプ本体とそのカバーですが、この個体はカバーの取り付けボルト6本の締め付けが異常に弱かったです。ボルトを緩めた時に受けた印象だと、おそらく締め付けトルクは3Nmくらいだったのではないでしょうか?何が原因でそうなったかは不明ですが、カバーが外れなくて良かったです。カバーが外れかかってオイルがその隙間から逃げるようになると、急激な油圧低下が発生しますから、その結果エンジンに重大なダメージが発生します。
こちらはエンジン左側のカバー類です。特に問題は無く、状態は良いと感じます。冷却水ホースが刺さるスチール製のユニオンはアルミ製の部品に交換します。スチール製の部品は時が経つと必ず腐食して酷い状態になるので苦労が絶えなかったのですが、アルミ製の純正部品が手に入るようになってからは問答無用で交換です。
さて、シリンダーの作業に取り掛かりました。まずはシリンダーヘッドガスケット、というかリング状のシールリングを取り外します。以前の記事で「こういうのはやめてください」みたいなのがあったと思いますが、このガスケットリングをどうやって取り外すかといいますと、私はこのように作業しています。
リングは内部にガスが封入されている状態なので構造としては中空です。そこでドリルで小さな穴を2ヶ所開けて細い針金を通します。
Posted by cpiblog00738 at
23:15
2024年12月16日
998Rレストア-2
車体周りもとりあえずは全バラで行きます。スイングアームピボットのベアリングはエンジンを降ろした状態でないと出現しませんのでこの機会を逃すわけにはいきません。それととにかく掃除して磨いて綺麗にしないと。
ベアリングこそ取り外しませんが、まずは分解して綺麗にします。走行距離が少ないので個々の部品の消耗は殆どありません。
スイングアームの作業はひとまず終了です。さすがにいくら磨いても除去できない汚れはありますが、これは致し方ないですね。ここには写っていませんが、リアサスリンクのロッドも分解しました。上下にピローボールのロッドエンドが付いた部品ですが、やはり錆て固着しており、バーナーで加熱したりと結構手間がかかります。取り外した後はタップとダイスでネジ山をリフレッシュしてからグリスを塗布して組み立てました。
ステムベアリングは新車時から締め付け過多の場合が多いのですが、この個体は以前に分解整備された形跡があり、前作業者の適切な整備の施工によって非常に良い状態であったことが確認できました。でも使用していたグリスは少なくとも15年以上前のものですから、洗浄して古いグリスを除去し、新たにグリスアップして組み立てました。
フロントフォークのオーバーホールが終了したので、再び車体を組み立てました。フォークは走行距離が少ない割にはオイルの汚れが著しい印象を受けました。もしかすると使用していたオイルによる影響かもしれません。
車体周りがひと段落したので次はエンジンに取り掛かります。とりあえず分解です。エンジンの外見は綺麗ではありませんが、内部は走行距離が少ないのでさすがに綺麗です。内部の状態が良好であるなら外側だけ掃除して綺麗にすれば?というのもアリかもしれませんが、今回は内部もちゃんとやり直します。何しろ15年以上固まっていたエンジンですから。
それと、新車時のエンジンが状態として一番良い状態である、と今の時代の人達は認識している場合が殆どだと思いますが、少なくとも約20年前の当時はそんなことも無かったのです。(今もそうかもしれませんが)
新車のエンジンを分解た経験から、新車のエンジンでも何かしらの不具合を抱えた状態のままであることが少なくありません。もちろん多いとは言いませんが。
何故新車のエンジンを分解したことがあるかというと、例えば90年代後半に新車のコルサが納車された時には、実際に走らせる前に一度分解して状態を確認するのが常識でした。新車のコルサのエンジンでさえ、バラしてみたら部品が足りなかったり組み付けの不良があったという経験があります。
また街乗りバイクに於いても、当時は新車が納車されたらまずはエンジン、車体、ともにオーバーホール、という志の高いお客様も何人かおられました。お客様曰く、「調子が良いのか悪いのか判らないバイクを最初のオーバーホール時期まで、少なくとも2万キロとか乗るのはイヤだ。俺は最初から調子の良い設計者が目指した本来の状態のバイクに乗りたい」
現在の電気仕掛けの塊のバイクではこういう話にはならないと思います。バイクとしてどっちが優れているかはオーナーが何を望むかにより異なりますが、エンドユーザーにとっての評価基準が、新しい、古い、とか、速い、遅い、では無いのがバイクの面白いところだと思います。
Posted by cpiblog00738 at
16:56
2024年12月15日
998Rレストア-1
現在取り掛かっている大仕事は15〜16年間放置されたバイクのレストアです。そのバイクは998R。オーナー様が仕事の関係で海外を飛び回っているうちに、気付いたらいつの間にかバイクは放置状態になってしまっていたという状況です。海外で活躍されている方の場合、このパターンは多いように感じます。走行距離はたったの7,036km!これは何が何でも綺麗に仕上げないといけません。
入庫したのは数か月前の事でしたが、他の作業はさておき、何よりも優先で行ったのはガソリンタンク内の状態確認です。場合によってはタンク内部に残っていたガソリンが腐って物凄い異臭を発し、内部のホース類は融けて崩壊、ポンプ本体も腐食で再起不能、おまけにタンク内部に施してあるコーティングが腐食して丸ごと剥がれ落ち、と言った悲惨な状態になります。しかし幸運なことに、この個体に関してはそんなに悲惨な状態になってはいませんでした。
純正のプラスチック製フューエルコネクタも金属製に交換します。リアのシリンダーヘッドの上にガソリンが滴った痕跡が明らかなので、燃料漏れが発生していると思われます。
タンクの内部は意外に状態は良好で、安心しました。
リアウインカーの配線もかじられています。どうやら放置期間中にネズミさんが出入りしていたようですね。
Posted by cpiblog00738 at
14:12
2024年12月09日
中古車のご紹介です
お客様から委託でお預かりしたビモータdb1です。以前に私がイチから製作したバイクです。当時、ちゃんとした、調子良い、プレミアムなdb1が欲しいというお客様のリクエストがあり、それにお応えするために中古車を仕入れ、製作しました。エンジンのフルオーバーホールは勿論の事、エンジンはオーバーホール時に部品ごとにニシムラコーティング(当時の)で耐熱黒でオールペイント、フレームの再塗装、外装の新造、文字やラインの段差無しのツヤツヤペイント、その他あらゆるところに手が入っています。燃料のインナータンクはビーターのアルミ製、キャブレターはFCRのφ35。カムシャフトは敢えてノーマルで、750ccの排気量にマッチしたFCRφ35との組み合わせで走行時の安定感は抜群、非常に乗りやすい状態です。
バイク完成後はワンオーナーでしたが、この度諸事情により引き継いでいただける方にお譲りしたいということになりました。メーター上での走行距離は30,824kmですが、バイク完成後の走行距離は1万キロ以内です。車検は2025年1月まで残っています。現車は現在TFDでお預かりしておりますので、お越しいただければ現物をご覧になれます。
上記でご紹介したこと以外にもあらゆるところに手が入っており、一見の価値がある仕上がりなので、ご興味のある方は是非現車をご覧いただくことをお奨めします。詳細はそのうち商品情報でご紹介しようと考えておりますが、多忙ゆえにそれにはお時間を頂くことになりそうです。
価格は税込み¥3,300,000-です。ご興味のある方、ご連絡をお待ちしています。
Posted by cpiblog00738 at
10:49