2023年03月31日

★ 1990年代後半のレース事情 ★ その1

公開にあたって

既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は先日筑波サーキット走行中に転倒し、腕を骨折してしまいました。その結果、当然ですが仕事が出来ない状況となってしまい、少なくとも4月の声を聴くまでは療養に専念することとなり、現在開店休業ならぬ閉店休業中です。多くのお客様に多大なご迷惑をおかけする事態になってしまい、誠に申し訳なく思っております。営業を再開した暁にはより一層頑張ってお仕事に精を出しますので、それまでの間は何卒ご容赦ください。

で、仕事が出来ない時間を利用していろいろな資料を整理していたところ、読み物として面白い記事が出て来ましたのでそれをこの機会にこの場で公開したいと思います。この記事は原稿の形式でかなり前から手許にあったのですが、それは用紙にプリントしたものでした。それをウェブにアップするには全体をテキストに打ち直し、尚且つ校正も必要ということでかなりの手間がかかることが予想されました。そのため行動に移すタイミングを逸したまま現在に至ったのですが、今回の怪我をこれ幸いとこの機会に公開することにしました。

この文章は1996年の年末に作成されたものです。当時我々チーム・ファンデーションは全日本ロードレースのスーパーバイククラスに、1994年は芳賀選手、1995年は生見選手、1996年は生見選手と井筒選手の2人を擁してフル参戦中でした。1996年シーズン終了後、来たる1997年シーズンに向けてのレース活動資金の調達を目的にその方法を探ろうと、モータースポーツ関係の雑誌を二輪四輪問わず手広く出版している某雑誌社にお邪魔し、二輪レース専門誌の編集部員の方にその当時のバイクレース業界の内情等をいろいろと伺った時のやり取りをインタビュー記事として起こしたものです。

1996年ということは今から27年前のバイクレース業界の裏話です。ほぼ30年前のことですから内容的にはもう時効という認識でお読みください。ただ、あれから30年経った今の状況が当時の状況とどう変わったのか、変わっていないのか。この辺りに関しては読者によってはかなり興味深く感じるかもしれません。本文は非常に長い文章で申し訳ありませんが是非最後までお読みいただければと思います。

インタビュアーは当時からずっとTFDをサポートしていただいていたライターの辻森慶子さん(本文中ではTとなっています)。質問にお答えいただいたのは当時某二輪レース専門誌の編集部員だったさんです。本来であれば真っ先に掲載のご連絡をすべきところですが、年月が経ち、Xさんとは当時以来長い間音信不通となってしまいました。お元気でいらっしゃるでしょうか? もしこの記事をお読みになるような機会があれば、ぜひご連絡いただけると嬉しく思います。

念のため重ねて申し上げますが、あくまでこの記事は1996年の時点で当時の状況を当事者の主観を交えて受け答えした内容が記されたものです。その点をご理解の上お読みいただくよう、お願い申し上げます。


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以下 本文



ワークス VS. メディアの攻防

T: 四輪に比べて二輪はメディアの露出度が極端に少ないと思いますが、原因はどんな所に有るのでしょうか?

X: 四輪の国内最高峰っていうとフォーミュラ日本、今年からフジテレビがやっていますけど。あそこのチームの運営母体がスポンサー様なんですよ。まずスポンサー様が第一人者で、それをフォローしている広告代理店がいらっしゃる。この広告代理店が動いているんですよ。その下っていうとおかしいけど、そこにようやくチームがあっていわゆる監督さんがいたりドライバー、メカニックがいたりするんです。

 ウチの四輪の編集部員が、例えば「さっきのリタイア原因を教えてください」だとか「テスト項目の中の何をやってたんですか?」って取材すると、ちゃんとスポンサーのスポークスマン、つまり広告代理店のどなたかが「先日のテストの模様はこうでしたよ」とか「リタイアの原因はこうでしたよ」ってちゃんとまとめてくれるんですよ。

 それはあくまでも自分のところのチームが雑誌に露出してほしいし、マイナスの内容でもプラスの内容でも、とにかく伝えなくちゃ、という気持ちを持ってくれているからなんです。だから四輪の編集部員たちはラクっていうか、非常に取材しやすいんですよ。

8_20 二輪はね、ご存知のように、全くといっていいほどスポンサーがいないんです、四輪に比べて。で、何処で止まっているかというと、バイクのメーカーがやっているんですよ。メーカー主導型ですと、どうしても企業秘密があるじゃないですか。当然レースだけじゃなく、自社の市販車、市販レベルにフィードバックしてオートバイを売るわけですよね。つまり、レース車両っていうのはテスト車両なわけで、いろんな技術だとかテスト項目だとかをつぎ込んでいくから、一見さんの編集者が行っても話を聞かしてくれないんですよね。ひどいところに行くとピットのシャッターを閉めちゃったり。

T:そうなんですか。じゃ、個人的なコネクションやいろんなルートを使って、そして親しくなってやっと情報が出る

ようやく。まあ、ほんとに駆け出しの編集者の人なんて苦労しますよね。現に、平日の鈴鹿サーキットでHONDAのテストをやってて僕が行けなかった時に、たまたまF3000のテストやってるから現場に行ってたウチの四輪の編集部員に「相乗りで覗いてきてくれないか。タイム聞いてきてくれよ」って頼んだんです。とりあえず僕の名前出さないで。「ちょっと四輪の取材で来てて、バイクも好きなんですけど。今、あの人どのくらいで走っているんですか?」と平身低頭に聞けば、結構教えてくれるかもしれないからって。

 そうしたら、一切シャットアウト。一見さんには絶対教えない。で、四輪の編集部員が、「何なのいったいコイツら。おかしいよ、二輪」って言いますからね。

T:そうなんですか(笑)

X:だから、もうライダーなんか人格なしですよ。ワークスライダーと言われる人たちは。

T:言いなり。

X:そう。下手なことは喋れない。そんなもんですからね〜。どこのメーカーさんも敷居が高いですよね。

T:同じワークスチームの中でも、ライダーによってチューニングが違ったり、一番いいバイクはこのライダーとかいうのは有るんですか?

X:やっぱり、現実にはあるんですよ。優先順位というのはあって、例えばHONDAという会社が2人のライダーを抱えてるとしますよね。メーカーとしてはレースをするんですから、まず勝ち負けですよね。そのシーズンのチャンピオンを獲りたいというのがある。

 まず開幕前、2人のライダーAさん、Bさんを抱えてた場合に、どっちの方がタイトルに近いかな、と実力のサジ加減を見るわけですよ。で、これはAさんだ。じゃ、とりあえずメンバー的にも、お金的にも、Aさんの方にいいもの付けたり人員を増やす。というのが何処のメーカーも差はあれやってることは事実です。

 もう一方では、先程申しましたように、新しいオートバイの開発っていう目的も担っています。勝ち負け以外の方ですね。新しいクルマを作っていかなきゃいけない、技術を試して行かなきゃいけない、という側面もありましてAさんをレースに勝つ方に向けたら、じゃBさんにはちょっと泣いてもらって、新しい技術の開発ライダーとして頑張ってもらおうという側面もあるんですよ。

 だからレースの勝ち負けってことでは優先順位があるかもしれないけども、仕事を2つの目的に分けると、それぞれ次元が元々違うんで。両方に違う目的でやってるチーム、というかメーカーという感じがありますよね。

T:でも。ライダーって勝ちたいじゃないですか。みんなちょっとでもいい条件、いいバイクに乗りたいと思っているわけですよね。

X:ほんとにおっしゃる通り!開発を担う、「今年はちょっと泣いてもらうよ」とお達しされたライダーはやっぱりショックですよね。それでもって言い訳もできないんですよ。つまり、いろんなテスト項目があるということは、遅いじゃないですか。要は、未来につながる市販車のオートバイだったり、はたまた自分のところの素材を使ってレースをやってくれている人たち向けのレーシングパーツ開発なんで。不良品もあるかもしれないし、耐久テストもやんなきゃいけないし。こっち(レース主体)は速くて軽いバイク、逆にこっち(テスト用)は重くて耐久性あるバイク。そうなるとレースに勝てないですよね、タイムも伸びないし。

 とすると、僕らが取材に行って「なぜタイムが伸びないんですか」って聞くと、ほんとはもう言い訳したくてしょうがないんですよ。だけどワークスライダーっていうのは人格なしですから、企業秘密は全く語りません。「いや〜、僕の実力不足です」としか言えないんですよ。

 それは僕ら雑誌屋がですね、ライダーに聞いてもそういう返事しか返ってこない。だから僕らが監督さんとかエンジニアの人に、「あの人が使っているのは、どういう目的のクルマなんですか?」「今回どういうパーツが付いているんですか?」「どんなテストをしてきたんですか?」というふうな取材をすると、ライダーの言い訳がスッと読める。自分じゃ言えないけども、上の人が言ってくれたんなら全然問題無いし、逆にその言い訳をしたかった部分なんだから非常に助かる。ってそんな感じなんですね。

T:なるほど。なかなか複雑なんですね。

X:すごい複雑ですね〜。ハードだけじゃなくって、メカニックの人事だとかチーム監督さんの性格だとか。もともと持っているメーカーのキャラクターだとか、それはもう普遍的なものだし。ちょっとでもメカニックとの相性が悪かったりしてもダメだし。

 ライダーとメカニックってピッチャーとキャッチャーみたいなもんで、メカニックと意思疎通できないライダーっていうのは、どんなに速いライダーでも上位に行けませんね。名ライダーの陰に名メカニックありですよ。決して、名ライダーがあってダメなメカニックさんがいる状況でチャンピオンは生まれない。

 

 バイク業界は社会のアブレ者!?

T:バイクレースがあるのは知ってるし、世界グランプリは時々観たりします。そういうものが存在して、頂点がどこにあって、国内ではどこが最高峰でっていうことぐらいは認識できるんですけれども、内部がどういう仕組みになっているかがよく分からないんですよね。それが今回お話を伺いたいなと思ったきっかけにもなってるんです。

 モータースポーツの日本国内での市場、特に二輪の場合はどこらへんの位置にあって、どういうポテンシャルとか面白味があるのか、どういう醍醐味があるのか。例えばスポンサー探しとかをする時に、どういうアプローチをすればいいものなのか。ご意見を伺いたいなと思っていたんです。

X:なるほど〜。名越さんがどう言うか分かんないですけど、全くTさんのお仕事を無視したところで、私なりの私見っていうか持論を言うとですね、二輪のレース業界というのは社会のアブレ者状態です(笑)。

 これはですね、産業構造上欠陥があるんですよ。たとえばF1ですとかフォーミュラ日本では、必ず儲けてる人たちがいるんですよ。それは広告代理店さんとか、ものすごいお金を持っているスポンサーさんだとか。ま、メーカーさんだったり、とにかく必ず儲かってる人がいる。

8_9 二輪のレース業界っていうのはですね、儲かってる人が1人もいないんですよ。まず、レースを運営している主催者さん。で、そこで走るライダーさん。え〜、それからライダーを連れてきているメーカーさん。それを取材している僕等雑誌屋。この4者、誰1人儲かってないんですよ。誰か一人でも儲かってれば、そこに金があるんだっていうことで、みんなそこから「お金ちょうだいよ」とか。なんかお金の出所というのが分かればうまく回ると思うんですけど。みんなみんな、お金がないとこでやってますんで。全くですね、資本主義の社会からアブレちゃってるんですよ。

 ライダーの契約金なんていうのは、ほんとに四輪の選手から比べると10分の1くらい。高〇虎〇介っていうのが日本にいますけど、あの人のパーソナルスポンサー、メインのPIAAさんとか、いろいろ広告に出られたりとか、そういうのも入れて推定年棒は1億円くらいなんです。

かたや二輪の今年のチャンピオン。HONDAの青〇琢〇っていうのがいるんですけど、ヤツと話をしている限りでは、HONDAから貰ってる契約金なんていうのは2千万円。だいたい5分の1ぐらい。高〇虎〇介なんてタイトル獲ってないんですよ、別に。青〇琢〇は2年連続の国内最高峰クラスでチャンピオン獲ったにもかかわらず、たった2千万円。所属しているチームの1番シートにいても、「そんなにあげられないよ」って言われる。だから、まずライダーからして儲かっていない。

で、メーカーは二輪車を造っても儲からない。レースなんて莫大なお金がかかりますよね。それがそれだけ営業用のおいしいツールになってるかっていうと、なってない。

それから主催者。観客動員、要は観客の人がチケットを買ってくれるかどうか。あとは大会スポンサーにどっかの会社がついてくれたかどうか。シチュエーション見ると全くこれも良くないですよ。 

で、私ら雑誌屋。こ〜れもですね、ご多分に漏れず他が潤ってなければ儲かるはずがない。

T:雑誌の発行部数は四輪より全然少ないんですか?

X:総体的には四輪よりは低いですね。世の中に出回っているレース専門誌やなんかでも、単純に二輪誌/四輪誌って数を見ただけでも。二輪誌って全国に30誌ぐらいしかない。四輪誌は100誌ぐらいあるらしいですからね、エリアマガジンも含めて。それだけ四輪のマーケットは大きいですし。

T:二輪ファンの年齢層は低いんですか?高級車にはちょっと違う層の人達がいるようですけど。

X:まず、サーキットに来てくれている観客の内訳っていうのは分からないですけど。ウチの読者でいうと2030歳代前半ぐらい。世の中の雑誌を買おうというのは、やっぱり20歳代が中心になってますけど、それからは外れていない。けれどもウチの読者はですね、新しい方、10歳代とか若い人たちの読者は全く増えていないといっても過言じゃない。

 じゃ、どういう読者たちかというとですね、二輪のレースって80年代後半からすごい盛り上がったんですよ。それが9091年ぐらいでピークを迎えて、後はもう落ち傾向なんですよね。それは雑誌だけじゃなくて、メーカーももちろんそうなんですけど。その80年代に一緒に盛り上がったファンの人達が、そのまま歳食ってもいまだに買ってくれてるっていうことなんですよ。

 サーキットに来てくれてるお客さんっていうのは、ウチの読者みたいな人達プラス、ライダーの追っかけみたいな親衛隊みたいのがいまして、女の子を中心に。その子たちが全体の3分の1ぐらい。まぁ、体感的ですけど。あとの3分の2は、やっぱり昔からレースを好きだった80年代のファン。昔やってたけれども今は家庭を持ってる、でもやっぱり二輪が好きっていう人たちが来てる。

T:ということは、だんだん二層になってくる。若い子たち、グルーピーのような層と、どんどん年齢が上がっていく層と。今後の可能性はそういうことなんでしょうか。

X:ほんとに女の子たちって動向がつかめない。たとえば、お目当てのライダーが彼女を連れてるのを見ちゃったりだとか、結婚しちゃったりすると、もうプイッと興味なくしますんで。そうすると彼女たちは新しいライダーを見つけるか、見つからなければそれこそジャニーズ系に行っちゃったりとか。

T:アイドル代わりなんですね。

X:そうなんですよ!こういうファンももちろん大切なんですけども、非常に難しい。だから、純粋に二輪のレースが好きだっていう人たちを増やさなきゃいけないんですよ。そのためには僕等雑誌だけじゃなくて、メーカーさんにも協力していただいて、主催者にも何とか努力していただかなければ。

T:あまりにもメディアの露出度が少なすぎますよね。

X:四輪よりもメディアは少ないし出る機会も少ないんですけれども、お客さんのだいたい3分の2が昔からレースをやって来て年齢を重ねた人たちというのを見るとですね、僕は逆に目は肥えてるんだと思うんですよね。自分で勉強されているし、単純にレースの勝ち負けじゃなくてコースの走りを見たりとか、そういう玄人の人達が増えてると思うんですよ。

 四輪だと、見た目の派手さだとか「きらびやかさ」という部分で観ている感じもアリだと思う。ところが、二輪の人達は研究熱心で見るところがほんとに専門誌、僕等編集者なみの見る目を持ってたりしますんで、非常にレベルが高いと思うんです。

T:例えば、ヨーロッパなどではレースが人気ですよね。日本よりはるかに歴史がありますでしょうし。ファンの年齢層は高いんですか?

X:ヨーロッパとアメリカはですね、すごい年齢層が幅広いんですよ。

T:観る方も乗る方もですか?レースをスポーツとして観るような土壌があるとか。

9X:スポーツというか、文化というか、言葉だと陳腐になっちゃうんですけど。ほんとに二輪っていうものが、テニスやらフットボールやら、その辺のスポーツと変わらない目で観てもらっている。もちろん、例えばアメリカであればバスケットボールとか野球が人気で、二輪が好きだっていう人は少ないんですけれども。内容がですね、日本とは比べ物にならないくらいスポーツとして捉えられているんですよね。まあ、お国柄って言ったら簡単すぎちゃいますけどね。やっぱり基本的に走ってるライダーがスターだったり、夢だったり、普段観られない存在だったり。レース自体もすごく興行的で見せ場が多く1日楽しめる。そんな感じになってるんですね。

 日本のレースですと、とにかくやってる人達が借金抱えてますんで〜、悲壮感が漂ってくるんですよ。

T:そういう事情があるんですね(笑)。

X:そうなんですよ。例えばSMAPのキムタクがですね、あれだけカッコよくても実は銭湯に通ってたとか、石鹸はお歳暮で済ましてるとかいうと、ガッカリしちゃうじゃないですか。やっぱりSMAPのキムタクは突き抜けてて欲しいっていうのがありますでしょう?

 それが日本のレースだと、どうしても石鹸はお歳暮で間に合わせるとか、タオルは読売新聞の販売ツールとか、見えて来ちゃうんですよ。いくらワークスライダーといえども、その辺がヨーロッパとかと比べるとまず違う。

 あと、レースの内容的にもはるかに周回数が多かったり、抜きどころが多かったり、激しく喜怒哀楽があったり。ドラマ仕立てでお客さんを楽しませようという努力を、主催者側もライダーもメーカーもしているという感じがするんです。

T:そうするとアメリカとかヨーロッパのライダーは結構優遇されているんですか?経済的にもある程度保証されている状況ですか?

X:総体的には日本よりも優遇されていると思います。アメリカは賞金レースが殆どですし、ヨーロッパでも賞金レースは多いです。イギリスではライダーで世界選手権を戦うと貴族の称号を貰えたりとか、イタリアでは英雄になる。スペインもほんとにすごい。やはり日本よりはライダーは優遇されてるだろうと思いますね。遥かにメジャーですし。

T:世界GPでは原田選手がかつてチャンピオンになってますし、岡田選手もすごいですよね。ノリックも頑張ってる。そういうのって記事としてちょこっとしか出ないですよね。ここまで頑張っているスポーツって日本では実はあんまりなかったりするのに。

X:そうなんですね〜。それがモータースポーツを難しく見せちゃってるんですよ。陸上競技とかテニスとか道具がすごいシンプルじゃないですか。例えば陸上競技だったら、シューズとかウェアくらい。素材にはメーカーさんもこだわって、最新素材とかありますけども。まぁ、たかだかシューズとウェアくらいですよね。あとは、ほんとに人間対人間の勝負ですから。

 ところがモータースポーツっていうのは道具が複雑怪奇なオートバイとか車になって、まず道具を知らなければできない。面白くないんじゃないか。しかも負けたライダーは、やれタイヤがどうのこうの、あそこがブッ壊れたからどうのこうの、言い訳するじゃないですか。そうすると、ますます一見のお客さんは「それは何処なの?」「全体の、走るうえで何の支障があるわけ?」「なんでそんなものを付けるわけ?」となる。

 単純に勝ち負けを楽しみたいのに、あまりにも道具が複雑だったりライダーが言い訳するもんで、トラブルだとかを分かってないと楽しめなくなる。っていうように見せちゃってる我々メディアの責任もあると思うんですよ。

 アメリカのレースなんて、「難しいことヌキで単純に同じ道具で戦いましょうや」というレースが多いんですよね。

 逆にそういうレースもありつつ、「何でもやっていいよ、道具何でも使ってください。排気量なんて50ccでも1000ccでもいいから、とにかく勝ち負けやってごらん」っていうレースも有ったりして、海外のレースは非常に分かりやすいんですね。

T:日本では構造的に難しいんでしょうかねえ。

X:まずメーカー主導というのがあって。企業秘密とか最新技術みたいなものがあって、テストの場でもあるわけですよ。そんな傾向は、一方ではしょうがない。逆にアメリカとかヨーロッパというのはバイクを造っているメーカーなんか1つか2つくらいしかないし、日本のクルマよりはるかにレベルが低いじゃないですか。だから、日本のクルマを買ってくるか自分とこの細々とやってるメーカーのクルマでやるしかないんですけども。自分とこで造ってないから、ライダーもチーム運営してる人たちも、「じゃ、もう運ちゃん勝負でいこうよ」ということになるんですよ。だから、向こうのチームはライダー主体でやってるんですよね。

T:やっぱり、日本的な構造って感じしますよね。陰湿さっていうか。

X:私の前任の担当者が、今は四輪の方に行っちゃったんですけどね、ある時YAMAHAワークスに取材に行ったんですよ。で、さっきのレースでトラブルでリタイアしちゃったんで原因を聞きに行った。そしたら、その人を見つけるや否やピットのシャッターを閉めだした。「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください。さっきリタイアしたトラブル原因聞きたいんですが…」「我々は報道されるためにレースをやっているわけじゃない!!」バシャッと閉められちゃった。四輪だったらこんなの絶対通用しないんですよ。だけど、そういう気持ちがメーカーにはありますし、日本のレースを運営しているのはメーカーなんで、そういうスタンスを取られると、伝える側としても限度がありますね。難しいですよ。

<続く>



Posted by cpiblog00738 at 19:50