衝撃のチーム・ファンデーション
T:ワークス主導っておっしゃってましたけど、メーカーの中に名越さんのようなプライベーターが入って来て、おまけにチーム・ファンデーションって成績いいですよね。画期的なことだと聞いているんですけど。
X:すごいですよ!画期的ですねえ。全日本ロードレースでスーパーバイクといえば最高峰で、そこには4メーカーがひしめきあってるわけですよ。もう、お金かけてまして。その中にプライベーターの参入というのはまずない。さらに外車なんか使うとなると、パーツですとかデータですとか、情報っていうのが少なくなる。不利な条件が多いですよね。
チーム・ファンデーションのドゥカティがワークス勢に割って入るレースを見せてくれると、非常に私ら雑誌屋としても企画性が出てくるし、観てる人たちも頑張れ!っていう判官贔屓みたいなところもありますね。そのおかげで、ぼちぼちとドゥカティを使って、「あそこができるなら俺たちもやろうじゃないか」っていうチームがここんとこ増えて来ましたからね。そういった意味では、非常にプライベーターの人たちには夢がある。
T:構造的なところはすぐには変わらなくても、プライベーターの活躍は何がしかの影響、意識の変化は与えているんでしょうか。
X:これは名越さんの活躍も含めてなんですけど、かなりありますね。
全日本のスパーバイククラスっていうのは国内の最高峰なんですが、もう一つ世界選手権のスーパーバイクっていうのがあるんですよ。これ、全く日本と世界が同じレギュレーションのルールでやってるんですけども。スーパーバイクのレースっていう意味ではですね、全日本よりも世界選手権の方が実はおっきいんですよ。そこで頑張っているのが、名越さんが使っているイタリアのドゥカティというクルマなんです。それが今年、去年と日本の4メーカーを蹴散らしているんですよ。日本の4メーカーはこぞって750ccの4気筒エンジンで走ってるんですけども、ドゥカティみたいな2気筒だったら1000ccまでいいというルールなんですね。750ccは、すごくお金をかけて莫大な計画で人員を世界に送り込んでワークス活動をやっておるんですけども、ドゥカティ2気筒1000ccバイクに負けちゃうんですよ。
しかもドゥカティというのは売れてまして。レースの波及効果っていうのもあるんですけど、乗ってて楽しいしカッコイイし。日本だけじゃなくて世界各国で売れている。特にアメリカではすっごい売れてるんですよ。
かたや日本の4メーカーの4気筒750ccは、あれだけレースをやってるのに全然日本で売れてないんですよ。ちょろっとアメリカでKAWSAKIとSUZUKIが売れましたけど・・・。4大メーカーにしてみたら、ドゥカティはレースでも勝ってるし売れ行きもいい。
で、全日本のレースでもプライベートのチーム・ファンデーションみたいなチームが俺たちのレースに割って入って来ている。・・・ということで、色々鑑みたんでしょうけども、ここに来てHONDAとSUZUKIがドゥカティと同じスペックでルックスの似たようなクルマを出して来たんですよ。
T:どうなんですか、売れ行きは。
X:ん〜〜〜・・・(笑)。
T:コメントしにくいですか(笑)。
X:ドゥカティが売れているから、そのスペックで出すというのがHONDAとSUZUKIのクルマなんですけど。どこまで日本のクルマを世界のユーザーさんが受け入れてくれるか・・・。日本のクルマってモノ的にはいい、耐久性もあるしパーツもしっかりしてる、スペックもいいでしょうけど。もともと2気筒の1000ccで走っていたドゥカティとかハーレーダビッドソンに比べて、その〜、心情的な部分で売れるかどうかというのは非常に難しい。
T:以前バイクに乗ってた時に、上の世代の人達とツーリングに行ってたんですけど、日本の昔のバイクって味わいがあっていいって、すごい丁寧に整備するんですよ。「可愛い、可愛い」って感じで。
X:分かります。私もその世代ですから。
T:そういう人たちは、すごい楽しんでる感じがしたんですけど。ある時期からバイクは、便利で乗りやすい、故障が少ない。そういうところで人気が出ちゃった感じがするんですけど。
X:ん〜とですね、すごい話が広くて絞りにくいんですけども・・・。僕が感じているのは、今Tさんがおっしゃった通り、昔はオーナーの人が手塩にかけてオートバイに乗っていた。いわゆるバカな子ほど可愛いという状況だったんですよ。適当に風邪をひいてくれたりですね、何か心配をかけてくれた方が可愛がられるんですけど。
今の日本のメーカーさんが作るオートバイって研ぎ澄まされちゃって、もう格好も何もかも。ユーザーさんが何か手を加えるっていう余地がないんですね。性能的にも、デザイン的にも。それこそ昔は、みんなと同じじゃイヤだからハンドルを換えてみたり、マフラーを換えてみたりとか、この音が今までと違っていいんだとか。そういうこだわりみたいなものがありましたけど、今は手を加えると逆に性能ダウンになったり。まとまりの良すぎるデザインだから、何か一つ換えてしまうと浮いちゃったりとか。もうユーザーが手を下す余地がないんですよね。
それっていうのは、ほんとに余計なお世話の範疇で・・・。メーカーがやりすぎちゃってると思うんですよ。まあ、ここんところメーカーさんも気付かれて。というか時代は繰り返されるじゃないですけども、昔のオートバイの復刻版みたいのが出たりですね。今オートバイに乗って楽しんでる人たちというのは、オリジナルのオートバイに乗りたいだとか、自分の手塩をかけて面倒見て行きたいっていう人が多いんで。そういった余地を残したバイクというのが、最近になって出るようになりましたね。
T:輸入車に乗ってる人は国内で増えてるんですか。
X:すっごい増えてますね。それは、今の話じゃないですけども、日本のクルマがつまらないから。手は下せないからみんなと同じバイク、同じカラーリングで、同じスタイルで、それじゃイヤだからちょっと大型免許でもとって、ハーレーに乗ろう、ドゥカティに乗ろう。ロードバイクだけじゃなくってオフロード車っていわれるイタリアの○○○○に乗ろうだとか、外車ブームですよね。
T:購買層ってどうなんでしょうか。
X:若い子が買うんですよ。特にね、最近はハーレーダビッドソンが非常に売れてまして。何て言うのか、ハーレー=イージーライダーだとかアメリカ映画みたいに、ちょっと不良っぽいじゃないですか。渋谷にたむろしている若い子達の間で、人と違ってハーレーを買う子達が増えてるんですね。
じゃ、ハーレーがレースで勝ってるか、いい成績を上げてるかっていうと、全然そんな事ないんですよ。性能は上がってるかというと、相変わらずマイナートラブルがあったりですね、結構故障も多いんですよ。けど、やっぱりね、若い子に受け入れられてるんですよ。
で、若い子たちはハーレーが壊れても治せないんですよ。もう、完全にルックス。ワルっていうイメージがカッコイイ。ほんとに80年代、僕らが興味を持った意識と、今外車を買おうっていう人たちっていうのは違いますよ。
T:かつてはマニアック志向、今はファッション志向っていう感じなんですかね。ドゥカティも今、そうなんですか。
X:アメリカのハーレーはワルっていうイメージで、割とスタイリッシュなところからみんなファッションでとっていますけど。逆にイタリアのドゥカティはですね、これは玄人。さんざん国産に乗ったんだけども、つまんない。もう性能なんてどうでもいい。何百キロ出ようと関係ない。もっと楽しくて、他にはなくて、そういったものを求めた20代後半から30歳代、40歳代の人、オートバイの酸いも甘いも知っちゃった人がドゥカティに乗る。これは渋谷のハーレー族の人たちとは違った年齢層だし、意識的にも違う。そういった人たちは工具も持っているし、仲のいい、名越さんみたいなショップとはリレーションを持っているし。そういう方は乗り手として非常に玄人ですね。
T:その人達はツーリングに行ったりするんですか?
X:行ったりしますね。いろんなパーツが出回ってるんですけども、あれだけのメーカーになると。世界各国いろんなパーツメーカーさんがあって、ドゥカティ対応パーツが出てる。で、たとえばツーリング先でドゥカティの916っていうクルマに誰かが乗ってたりすると、何付けてんのかとか、レースの現場に行ってチーム・ファンデーションってあそこどうやっているのか見る。
T:見学に行くんですね。
X:そうなんですよ。レースそのものを観るっていう側面と、もう一つはクルマに何がくっついてたり、どういうものに対応してたりするのか見る。見る目がすごく肥えていて、「俺はこういうふうに駆動方式を変えているのに、チーム・ファンデーションはこうやってるんだ」とか。
あとメンテサイクル的には、耐久性のないエンジンパーツってどこなのか。そういったこと。
T:ということは、名越さんはメカニックとしてすごいってことですよね。
X:もう、僕ら業界内で国内ではドゥカティを触らせたら名越さんは日本一じゃないかと言っているんですよ。それほどですね、イタリアのバイクっていうのはほんとにダメな子でして(笑)。パーツの耐久性は勿論のこと、フィッティング技術、要はバイクをメンテナンスする時に一度バラしますよね、それを正しいパーツで元に戻す時の単なるフィッティングだけでも非常に難しいらしいんですよ。
例えば、合わせ目がちょっと狂っていたりとか相性が悪かったりすると、簡単に馬力が落ちちゃうし性能も落ちちゃうんですけど。そういうフィッティング技術も名越さんの腕は確かだし、パーツを見定める目とか、サーキットを走らせるコーディネート能力も確か。いろんなセッティングパーツがありますけども、それをわずか短時間で組み合わせてタイムの出るセットに持っていくセッティング能力。いろんな側面を併せてみても、名越さんは一番。
みんなドゥカティを走らせたいんだけど、そのメカニックたる人がいないから走れない。基本性能を保つのが非常に大変なバイクですよね。イタリアから買って来て、1発目はいいかもしれないけど、すぐガタがきますよ。じゃ、それを2発目のレースで保たせようとすると、非常に大変。
T:年間、何回かのレースがありますよね。大会によっては2ヒート制の時もありますが、そういう場合のセッティングは大変なんでしょうか。
X:ま、1日のうち2ヒートある時はそんなに変わらないと思うんですよ。タイヤが消耗したとか、タイヤを新しいものに換えるとか。ちょっとセッティングを変えたんで説明しとくとか。もうレースの決勝となれば、何もできない状態ですから。
それよりも金・土曜の2日間のうちにですね、どれだけそのバイクの特徴を生かして良いタイムで走れるクルマが作れるか、というのが非常に大変だと思うんですよね。
バイクが転んじゃってほとんどエンジンだけしか生きていない状況になると、イタリアに電話かけたり、日本の代理店の村山モータースに早くパーツをくれって言っても、イタリア人はなっかなかいい加減ですからレスポンスは非常に悪いんですよ。
だから、パーツのマネージメントはもちろんですけども、そういったところに気を遣っていく。さっきのフィッティング技術もそうだけど、そのためにケアしていかなきゃいけないところが非常に多いんですね。
日本のメーカーさんで同じクラスを走らせようと思うと、相手が日本にいてくれますからラクなんですよ。サービス体制もしっかりしていますし。ワークスチームってそれぞれ自分のチームのライダーを走らせてるだけじゃなくて、レース専用バイクを売ってるんですよ。すごい高くてね、2千万円とか3千万円とかしちゃうんですよ。だからみんな借金して買う。そうすると各メーカーからですね、金額もおっきいですしレースは難しいですから、ちゃんとサービスマンが付いてくれるんです。レースの現場に行くと、自分とこのチームでセッティングをやんなきゃいけないんだけども、メーカーの人が買ってくれたお客さんってことでアドバイスしてくれるんですよ、パーツをくれたり。だからこのクラスは、たいてい日本のメーカーで走る人が多いんです。
ドゥカティの名越さんみたいな人は、誰も助けてくれないんですよ。
T:フルマニュアルっていう感じでしょうか。
X:そうです。本来ならイタリアから、世界的に発信されてるレースですからサービスマンが付いてもいいぐらいなんです。名越さんはほんとに一人。よくやってるなって感じですよね。
T:今年の結果では、〇山さんのチームも、あとドゥカティのプライベートチームも上位に入って来てましたね。さっきおっしゃってた効果とか、出場する車両は増えてますか。
X:増えてますね〜。ドゥカティだとHONDAのバイクの10分の1ぐらいのお金で済みますし。パーツの供給とか、メカニックがいないとできないっていうネガ要素はありますけども、まあ安価でできるっていうのと話題性の部分ではいいんで増えましたよね。
最初は名越さんの1チームで、ドゥカティがまともに戦えんのかなとか思ってたんですけど、戦えちゃって。で、こうして他のチームもドゥカティを使うようになって来て、これは名越さん効果以外の何ものでもないですね。
T:ライダーの芳賀さんがワークスにヘッドハンティングされたのもそういう効果ですね。その後の本人の活躍もありますけども。
X:若いライダーっていうのは、ゆくゆくはメーカーのお抱えになりたいんですよ。
T:安定するから。
X:そうなんですよ。やっぱり雑誌の取材も違いますし、勝てるバイクも来ますし。ま、ほんとに職業ライダーとして名刺も持てるだろうから、上手くチームに入りたいでしょう。そうすると4メーカーのお膝元に行きたいわけですよ。ほんとはドゥカティで走りたいんだけれども、今はHONDAのバイクで走っていて、ゆくゆくは目をつけられて雇ってもらえないかなっていう下心があるから、なかなか難しい。痛し痒しで。
T:名越さんに話を聞くと、業界は狭いし若いヤツらは頭悪いし、ライダーはただ乗るだけ、みたいな印象を受けるんですが。頭のいい子とかカンのいい子もいるんでしょうけど、やっぱり全体にあんまりものを考えていないというか(笑)。
X:そうなんです。レースに勝つ負けるっていうことになると、じゃ誰が最終的にレースに向かうのか。やっぱりライダーだと思うんですよ。もちろん名メカニックというのも必要ですし、エンジニアも必要になってくるんですけども。基本的にスタート切っちゃったら、どうにかするしかないんですから。その、金・土曜の2日間の煮詰め方だとか、クルマはこういう方向で今回のレースに望みたいんだっていうのはですね、やっぱり乗っかってレースをやっている運ちゃんがイニシアチブを握っていないと。それを運ちゃんから聞いて、メカニックなりにアレンジしてクルマを作っていくのが、美しい形、理想だと思うんですけども。
今の若いライダーっていうのは、あんまりクルマのこと知らないんですよ。どうしてこういう挙動になって、どうしてタイムが伸び悩むんだろうっていうと、全然分かってないんですよ。で、すぐこのタイヤが悪いんだとかですね、○○○が動いてないからだとか言うんですけども、ほんとにそうなのか。実はエンジンの部分で何か不都合が生じてるんじゃないか。これはもう、メカニックの名越さんじゃわからない範疇ですから。ライダーから教えてもらわない限り分かんないですよね。
そういった部分では、今の若いライダーって完璧に乗り手一本槍になっちゃって、クルマを詰めるのはメカニックに任せっきりってことがおおいですから。タイムが伸び悩んでいて「どうなの?」っというとですね、「ん〜、何となく・・・」とか。
イニシアチブを握れないんですよね。どこのメーカーのメカニックさんもですね、ライダーにイニシアチブを握ってもらいたい。ライダーがレースで勝つクルマを煮詰めていって、それを聞いてメカニックはフィッティングしたり、いろんなパーツをモディファイさせてったり。ま、そんな部分で今の若いライダーっていうのは、出来きれてないですよね。
T:ライダーの育成を企業は考えてないんでしょうか。
X:割とトレーニング、体力面ですとかメンタル面では育成はしているんですよ。ただ、クルマを作っていかなきゃいけないんだとか、どうしてワークス契約になっているかっていう、仕事の内容、意義みたいなものは育成しきれてないんですよ。
T:これってオフレコかもしれませんけど、企業の意識の低さなんですか。
例えば、比較できるものじゃないかもしれないですけど、セナは天才的だったと言われてますよね。どういうふうに踏み込めば、どういうふうにクルマが動くかがコンピューターのように分かったと言いますけど。そこまでは望まないにしても、F1の人たちはそういう意識を持ってレースに臨んでるじゃないですか。お抱えになるっていうのはそういうことだと。二輪の場合には難しいんでしょうか。
X:ただ、ライダーの年齢がおしなべて若いですから。例えば小学生の低学年の頃からミニバイクレースとか、わりと親がクルマを作ってあとは乗るだけっていう状態で甘やかされてきてるんです、なかなか勉強する機会が巡ってこなかった。それで10歳代後半になって、全日本ロードレースっていう場で活躍し出したその子にですね、もう1回オートバイの構造でも勉強し直してこいと言ったって、なかなか難しいですよね。だったらメンタル面と体力面でフォローしてやって、クルマを作っていく部分ではもう泣こう、と。そのかわり「お前らには人格なしだよ」ってことですね。
T:あ〜、厳しいですね。
X:要は、技術者がコンピューターかキャドとかで設計しますよね。で、実験室でエンジンスペックを測ってみたら、鈴鹿のこの気温でこの湿度でこういう路面状況だったら、このぐらい出る、っていうのがコンピューターではじき出せるんですよ。だからライダーには、「これだけ出るんから、これだけを目標値として走ってください」となる。
何がおかしいとか、ここにトラブルが出るとか、メーカーの方でコンピューター予測しとくんですよ。だから、構造的にライダーに期待しない。それが出来る日本のサーキットは問題無いんですけども。名越さんみたいに相手がイタリアで、しかもいい加減なイタリア人で、パーツをくれって言ってても来なかったりすると、じゃ、しょうがない、現場で名越さんの器量で何とかして踏ん張っていかなきゃならない。となると、やっぱりそこにはライダーのイニシアチブが必要になって来ますよね。「ここは泣くから、ここはこうして欲しい」とか「ここはこういう症状が出てるから、ここの部分で補おう」とか。そういったイニシアチブを握れるライダーが、ほんとにああいうチームには必要になってくるんじゃないですか。
<続く>