2023年07月16日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その3

IMG_2420 さて、このバイクのレストア作業で一番のネックとなっていたことがあります。それは何と致命的なことに、クランクシャフトが無い、ということです。箱詰めの部品の中に2本のクランクシャフトが存在してはいたのですが、その両方が使い物になりません。画像はそのうちの1本で、焼き付いたクランクピンを溶接で盛って仕上げてありますが、肉盛りの溶接が足りずに表面を既定の寸法に仕上げても溶接のビードが残ってしまっています。また、左右のクランクを支持するジャーナル部も偏摩耗しており、真円度が保たれていません。計測場所によって直径が異なり、そのバラツキは0.09mmあります。ちなみにこのエンジンのクランク支持はこの時代のドゥカティとしては一般的なボールベアリングではなく、コンロッドの大端部と同じ構造のハーフベアリングです。0.09mmというこの数字は正規のメタルクリアランスのほぼ2倍程度ありますから、このまま組んで使用したら秒殺でエンジンが逝ってしまうのは確実です。


Crankshaft 正直に申し上げてレストア作業が滞った一番の要因はこのクランクシャフトでした。当然ですが新品のクランクシャフトなどというものは既に廃番で入手不可です。いくら探し回っても中古部品すら出て来ません。ドゥカティの他車種の部品の流用を一瞬考えましたが、軸受けの径がまるで異なるのでそれは一見して不可能なことが判ります。そこで残された手は新造、ということになり、国内のクランクシャフトを製造してくれそうなところにこの画像を送って、製造可能かを問い合わせました。これは2011年のことだったと記憶しています。

何社かに問い合わせをしたのですが、返答は殆どが無しの礫でした。しかしその中で1社だけ真摯な対応をしてくれた会社がありました。モータースポーツ関係ではかなり有名な四国にある会社です。二輪四輪問わずメーカーの仕事も請け負っていて、その技術力もピカイチという評判で、流石だなと感心しました。正確な数字は覚えていませんが、見積金額は確か200万円だったと記憶しています。ただし1本ではなく、最低ロットの45本の価格だったと記憶しています。

1本あたり4050万円なら、世の中にはクランクがダメになって走れないスーパーモノがそれなりに存在していると思われるので、それの修理に使えばOKと考え、この会社にお願いしようと半ば決心しました。


Super-Mono-Crank-002Super-Mono-Crank-003 ところがこのタイミングで朗報が飛び込んできました。純正新品クランクシャフトが見つかったとの連絡です。見つけてくれたのは親しいイタリア人の友人のルカです。見つけた場所はアメリカでした。以前から探してもらってはいたのですが、それまでは伝手をたどってもなかなか見つからないという連絡が来るばかりでした。

もし新品のクランクシャフトが存在するのであれば、それはレーシングチームやショップではなく、例えばスーパーモノの新車をコレクションしているようなマニアの方が、スペア部品としてストックしているというようなシチュエーションであろうと予測し、そっち方面を当たってみたところで運よく探り当てたという感じです。

価格は1本で7500ドルとのことでした。十分高額ではありましたが、その価格でも躊躇なく購入を決意しました。何しろクランクシャフトが無ければバイクがバイクとして成り立ちませんし、それに加えて純正部品であることの価値はとてつもなく大きいと認識していたからです。この機会を逃したらおそらく新品の純正部品には一生巡り合うことは無かったでしょう。

 結局はルカがいろいろと交渉してくれてディスカウントしてもらい、日本円にして70万円くらいで入手することが出来ました。これでヒマラヤよりも高い?ハードルを一つ乗り越えることが出来ました。荷物が届いてモノを確認した時の安堵感は半端では無かったです。







Posted by cpiblog00738 at 20:19