2023年11月30日

DUCATI SUPERMONO 筑波TTレース参戦

image06 先日の11月18日、DUCATI SUPERMONOで筑波TTレースに出場しました。出場クラスはMS-1でしたが、このカテゴリーへのエントリーは私1台のみ。昔は隆盛を誇ったシングルクラスも今やそんな状況に陥っています。もちろん他のクラスと混走のレースとなりますが、流石に出走が1台では最初から賞典外扱いです。しかし自分としてはこのスーパーモノがレディー・トゥー・レースの状態であることを世界にお披露目したかったのがレースエントリーの動機でしたから、賞典外云々は全く気にしていませんでした。
 しかし激戦区である国産の250ccクラスとの混走、おまけに出走台数が31台というほぼフルグリッドの状況。何があっても絶対にバイクを壊せない自分にとっては強烈なプレッシャーがかかります。周りは真剣にレースをしてますから、その中でいかに安全にトラブルなく走り切るかを考えなければなりません。しかし一番後ろを安全にゆっくり走行では出場した意味が無いですし、かと言って本気で競り合いをしている中に飛び込むのもリスクが高すぎます。

 そんなことを試行錯誤しているうちに予選が始まりました。今回もオンボード映像は撮っていました。使用カメラはGo〇roです。このカメラ、他に選択肢はないとはいえ調子が悪くなることが多くて困ります。今迄4台購入しましたが、2台は正常に機能しなくなって使えなくなりました。1台はクレームで新品に交換、もう一台はゴミ箱行きでした。どうでもよい時はちゃんと撮影出来ていて、肝心な時にトラブルが起こる、というのがいつものパターンで本当に困ります。ちなみに去年のFISCOでのレースの時も、走行開始直後に動画がフリーズして音声のみが記録されていたり、同じく走行開始直後にピットロードを走行中に電源が落ちていたりと散々で、結局オンボード映像は全く撮れずでした。今回はトラブルなく動画が撮れていることを期待していたのですが、果たして結果は?

 
 
 結論から申し上げると、まず予選のオンボード映像は問題無く撮れていました。路面は完全なドライコンディションではなく、部分的にまだ乾いていない場所がありました。しかしこの程度であれば特に問題は無く普通に走れます。出来る限り単独走行を心がけますが、それでもやはり前の集団に追い付いてしまうことになります。今回はリスク回避のためにその集団の中に入っていくのは避けました。前に追い付いたらペースを落として間隔を開け、また追い付いたらまた間隔を開けて、という感じの予選となりました。予選順位は13番手、ちょうど真ん中からちょっと上の感じなので、自分よりも速い人はたくさんいたと思います。自分が他車に抜かれたのはペースを落としている時なので、速い人もやはり追い付いても無理に抜きにかかったりせずに一旦下がってまたペースを上げる、という予選だったのではないでしょうか?

 それで次は決勝レースなのですが、オンボード映像、撮れていませんでした。カメラのスイッチを入れ、録画開始のボタンを押して録画が開始されたのを確認していたのに・・・・そんな結果でした。まあ今回は予選とは言え走行中の動画は撮れたので良しとします。
 決勝レース、スタート直後の数周はやはり混雑の中での走行となり、危なっかしい状況に身を置くことになったのですが、周回を重ねると後続が離れた状況で前のバイクを追うような展開となり、ある意味安全地帯に定位したままチェッカーを受けることが出来ました。何はともあれ無事にレースを終えることが出来て本当に安堵しました。絶対に転べないというようなプレッシャーがきついとタイムも出ないし、まともなレースになりませんね。左腕のケガが完治していない状態でも特に不自由なくレースが出来ることを確認したことも収穫でした。でもこのバイクはせいぜい60馬力ちょっとです。いつも乗っているバイクはその3倍くらいの馬力ですから、それに乗ったらどうなるかは乗ってみないと何とも言えませんが。

FB_IMG_1700353482328 レースから無事に帰還したところの画像です。転倒等の最悪に事態に備えてカウル類はオリジナルでは無いものを装着してありますが、この後はオリジナルの状態に戻して保管する予定です。次回の走行予定は・・・・未定です。絶対に壊してはいけないバイクでレースをするとあまり楽しめないことを痛感したので、次のレース出場は無いかな、というのが現在の心境です。もちろん気が変わる可能性はありますが。

 
  

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2023年10月17日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その17

DSC00678 さて、2023年の2月、今までの懸念だった空燃比の改善を試みました。シャーシダイナモに載せてスロットル開度ごとの空燃比を測定し、フューエルマップを書き換えて対応します。シャーシダイナモ上で走らせ、空燃比を測定し、それによって得られた空燃比データを頼りにマップを書き換え、もう一度走らせて結果を確認する。この作業を何度か繰り返します。測定1回、書き替え1回で決まるほど作業は甘くはありません。同じ作業を何度か繰り返す必要があります。


DSC00689 空燃比を計測するためにはエキパイに空燃比センサー取り付けますが、そのためにはエキパイに取り付け用のボスが必要です。しかしオリジナルのエキパイにそのようなボスは存在しません。その場合、通常はボスをエキパイに溶接して取り付けることになりますが、何せ相手はスーパーモノです。オリジナル状態をモディファイしてボスを取り付けることはしたくありません。

 その対応としてボスを取り付けたアダプターを製作し、それをクランクケース下のエキパイの接合部に割り込ませました。そうするとサイレンサー位置が本来の位置からずれておかしな取り付けになりますが、実際にサーキットで走行するのではなくシャーシダイナモ上で走らせるだけなのでそれで問題はありません。
 
 また、TFDのシャーシダイナモはバイクを載せるスロープが無いので、バイクを電動ホイストで吊り上げてシャーシダイナモ上に載せています。その結果シャーシダイナモ上でエンジンを始動することになりますが、スーパーモノにはセルモーターが装備されていません。シャーシダイナモ上でリアホイールスターターを使用してのエンジン始動となりますから、その点でもいろいろと面倒なことが多いのです。


DSC00679 まずは1回走らせて測定してみました。今迄はこの状態で走行していたということです。測定したスロットル開度は11.4度から82度までの11段階です。ちなみにここではスロットル開度82度が全開です。%表示ではなく角度表示なのでここで100の数字は出て来ません。
 
 グラフを見ると、空燃比はまるで合っていませんね。今迄コーナー立ち上がりで不具合を感じたのはエンジン回転数が5,000rpm前後ですが、グラフにしてみるとどのスロットル開度でもそのあたりの空燃比は濃すぎます。逆に7,000rpm前後の範囲では極端に空燃比が薄いスロットル開度もあります。


DSC00680 何度かフューエルマップを書き換えた結果のグラフです。本音を言えばもう少し詰めたかったところはありますが、経験上これ以上セッティングを詰めてもその結果を実走行で体感できない場合が多いです。それに加えて将来的にもエンジンに負担をかけたくないという思惑もあり、ちょっと濃い目の空燃比でOKとしました。



DSC00769 パワーチェックのグラフです。計測された最高出力は8,760rpmの時に64.3馬力でした。エンジンはまだアタリが付いた状態とは言えないので、暫く走行して慣らしが進めば5%程度の出力アップが期待できると思います。
グラフをチェックするとかなりフラットな印象です。参考のために発生しているトルクを計算してみました。計算してみた結果、6,500rpm〜8,500rpmの広い範囲でトルクは5.4kgm前後をキープしています。トルク特性はかなりフラットと言えます。

 何はともあれ空燃比セッティングが終了したのでエンジンのパフォーマンスはかなり改善されたと予想されます。次の目標としてはこの状態で筑波サーキットでのレースに出場したいと考えております。勿論いたずらに走行距離を延ばすのは避けたいと思っておりますが、もう1〜2回くらいはレースで走らせてください、という感じです。

今回のレポートはひとまずこれで終了です。何かご不明な点やご興味がある点があればメール等にてお問い合わせください。解る範囲で、ですが真摯に対応させていただきます。

 前にも書きましたが、あと数回レースで走らせた後にこのバイクは売却を考えております。価格は応談となりますが、今のご時世ですから勿論安くはありません。それでもご興味がある方いらっしゃいましたら、ご連絡をお待ちしております。

チーム・ファンデーション代表 名越公一     2023年10月 記
  
Posted by cpiblog00738 at 07:55

2023年10月08日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その16

 とりあえずバイクが完成したのが2020年の5月23日のことでした。そして同じく5月30日、エンジンに火が入ります。



 特に問題無くエンジン始動確認が終了し、安堵しました。

 次はサーキットでの実走行ですが、それはちょっと間が開いて2020年9月19日のことでした。場所は富士スピードウェイです。
 
 スーパーモノのオリジナルカウルにはオイル受けの部分が存在しません。当時はそういったものの装着が義務付けられていなかったからです。その状態で走行可能なのはFISCOのみ、ということで富士スピードウェイに行ってきました。その時の様子は以下です。




 この時はまずこのバイクがバイクとして正しく機能するかどうかの確認でした。何かしらのトラブルが起きるのではないかという一抹の不安はありましたが、いざ走行を開始してみると特に問題無く走行出来ました。シケイン等の低速コーナーからの立ち上がりでは明らかに燃調が合っていない症状が認められましたが、FISCOの長いストレートではノーマルのファイナル(15x36)にもかかわらず6速ギアでエンジンは10,000rpm以上回りました。

 とにかく大きな問題はなく、概ねOKという結論が出て安心しました。今回の目的はあくまでも完成検査。この時の走行距離は約23kmでした。 


IMG_3635IMG_3636 さて、純正のオリジナルカウルを装着している限り、レース出場や筑波サーキットでの走行は不可能です。ということでオイル受けを装着したレース用のカウルを製作しました。

 まずは素材の入手から始めなくてはなりません。純正と同形状のFRP製のカウルを販売しているショップがアメリカにあり、そこからアッパーカウルと左右のサイドカウルを取り寄せました。この時代のバイクのカウルは搬送の利便性を考えていませんから、いざ段ボール箱でカウルを梱包すると超巨大です。なんじゃこりゃ、というくらい大きな段ボールがアメリカから届きました。商品代金と送料がほぼ同額というちょっと理不尽な感じでした。 

 それを知り合いの業者さんに持ち込んで加工をお願いしました。左右サイドカウルの底部を繋いでしまい、その代わりサイドカウルを上下分割式に改造してもらいました。繋いだ底部に仕切り板を取り付けてオイル受けになるようにしました。フィッティングを終えてから改めてペイントを施していただき、完成した姿がこの画像です。これでレース出場が可能です。バイクがこの状態まで出来上がったのが2020年の年末のことでした。

 開けて2021年になりましたがなかなか走行する機会に恵まれず、やっとその機会が訪れたのは11月23日のことでした。場所は筑波サーキットです。20分の走行枠でしたが、周回数は15周。慣熟走行から少しずつペースを上げ、タイム的には6秒台に入ったくらいでした。
 
 しかし実はこの走行でトラブルが発生してしまいました。それは何かというと、ブレーキをかけてフォークが沈み込むとフロントタイヤがカウルに激しく干渉するのです。ラジエーターの下あたりで左右のカウルが連結しているのですが、その部分にタイヤが干渉します。走行中に強くブレーキをかける場面でフロントからガツガツという突き上げ感があったのですが、原因はそれでした。その対策ですが、このカウルはレース用に製作したもので純正のオリジナルではありませんから、干渉する部分を惜しげもなく切り飛ばして対応しました。

 また前回走行したFISCOで感じたタイトコーナー立ち上がりにおける燃調の不具合は、ここ筑波でも明らかに感じられました。ちゃんと走らそうと思うのであれば、シャシダイに載せて燃調のセッティングが必要だと改めて確信しました。

 さて、次の走行は2022年6月19日。場所は富士スピードウェイ。MAXのレースです。天候にも恵まれレース日和ではありましたが、場所がFISCOですからスーパーモノで大排気量車と一緒のレースはちょっと厳しいです。とはいっても、今回の目的はスーパーモノがFISCOの長いストレートを全開で走行する姿を皆さんにお披露目したいということなので、レースの結果には全く拘っていませんでした。


20220619_141510 グリッドは後ろの方ですが、ストレートが遅いのでスタート直後に後ろから突っ込まれる可能性を考えるとかえって良かったかもしれません。予選タイムは2分7秒台。決勝でも6秒台でした。2分は切れるだろうと思っていたのですが、全くお話になりませんでしたね。以前748Rで1分55秒、空冷DS1100エンジンを748の車体に載せたバイクで1分54秒、くらいのタイムは出ていたので2分は切れるだろうとタカをくくっていたのですが…。FISCOの場合は少なくともエンジン出力が90馬力くらい出ていないと2分は切れないのでしょうか。そのあたりにしきい値があるのかもしれません。


image01a でもストレートで抜かれてコーナー進入で抜き返すというレースはここ暫くありませんでしたから、それはそれで楽しめました。まあ、何はともあれ転倒しなくて何よりでした。





 
 ストレートではスーパーモノの全開走行の排気音をグランドスタンドに響かせて、それを皆さんに聞いてもらうことが出来て良かったです。

 やはり今回のレースでもタイトコーナー立ち上がりにおける燃調の不具合をかなり感じました。ということで早急にその問題を解決して、次回の筑波サーキットでのレースにバイクを持ち込みたいと考えました。
  
Posted by cpiblog00738 at 11:10

2023年09月30日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その15

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 フロントアクスル周りです。この時代のブレーキディスクローターの材質は鋳鉄です。1993年の888コルサは確かに鋳鉄ローターで、1994年の926コルサからステンレスローターになりましたから、この年式は丁度切り替わりの時期ですね。ディスクローターのディメンジョンは当時のYAMAHA TZ250に使用されていたものと同一だと思われます。


IMG_2645IMG_2646 フューエルタンクのマウロ・ルッキアリのサインですが、タンクにマーカーペンで記してあるだけなのでこのまま放置すると消滅してしまうことは明らかです。パーツクリーナーで拭いたりワックスをかけたりすれば簡単に消えてしまうでしょう。このままという訳にはいきません。

 そこでペイント屋さんにお願いしてクリア塗装をオーバースプレイしてもらいました。勿論塗装前に脱脂は必要なのですが、そのあたりは流石プロフェッショナル、うまく処理してくれました。これで一安心です。
 
 それにしてもこのフューエルタンク、斬新というか何というか、かなり独特は形状ですね。


IMG_2649IMG_2650 タンク内部です。カーボンとケブラーの繊維で製作されているように見えます。よく目にする社外品の危なっかしいカーボンタンクとは一線を画す、素晴らしい造りのタンクだと思います。



IMG_2647IMG_2648 こちらは既存の純正シートカウルですが、部分的にかなり痛んでいたので修正とリペイントをお願いしました。シート後端はドーム状の造りになっていて、こちらもまた斬新なデザインです。



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 この3点のカウルは純正部品の新品です。社外品ならともかくとして、今時こんな部品は手に入りませんよね。なんだかもったいなくて取り付けを躊躇する気分になってしまいました。


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 と言いながら外装を取り付け、ひとまずバイクは完成しました。こうしてみると本当に美しいというか何というか‥‥言葉が見つかりません。素晴らしいデザインだと思います。今迄のどのバイクにも似ていません。斬新ですが、それなのにまさに宝石のような美しさを持ったバイクです。


IMG_2673IMG_2676 このデザイン、本当のところは誰の作品なのでしょうか?このデザインの流れでインジェクション仕様になった900/1000SSとか749/999系に変遷していくのですが、一般的にスーパーモノとこのシリーズは同一デザイナーの作品と言われていますよね。私にはどうしてもそうは思えません。スーパーモノに関しては、実はタンブリーニさんが関わっていて、監修等を担当していたとすれば納得できるのですが。

 それと個人的な意見ですが、このバイクは純粋にレーシングマシンとしてのこの佇まいで完璧に完成されてしまっているのではないでしょうか?この状態にヘッドライト、ウインカー、テールランプ、といった保安部品を取り付けた姿を想像すると、私は急に幻滅を感じてしまいます。それがストリート仕様が発売されなかった理由だったり……、しないですかね?
  
Posted by cpiblog00738 at 11:47

2023年09月23日

DUCATI SUPERNOMO スーパーモノ・レストア記 その14

 ここからは車体関係のレポートとなります。基本的にエンジンのレストア作業終了後に着手した作業ですが、中にはエンジンの作業と並行して行っていた作業もありますのでその点はご承知おきください。

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 フロントフォークのオーバーホールです。作業内容としてはバラして部品を綺麗にして不具合が無いかを点検し組み立てる、ということになりますが、一つ問題となるのがフォークシールです。この手のフロントフォークの場合、インナーチューブ径が42mmです。純正オイルシールのサイズは42x54x10.5というサイズです。このサイズのオイルシールは現在なかなか入手が出来ません。今回使用したシールは42x54x11.0というサイズで厚さが0.5mm大きいですが、何とか問題無く使用することが出来ました。しかしこのオイルシールは日本製ではないので経験的に耐久性に難があります。要するにオイル漏れが始まるまでの時間が短い、ということです。まあこれに関しては致し方ないですね。使えるものがあるということだけで感謝しています。 


IMG_2462 エンジンを台に乗せてフレームの載せる準備をしています。







IMG_2464 エンジンを載せる前にフレームの単体重量を計測してみました。その結果は5.82kg、さすがに軽量です。







IMG_2466 エンジンマウントボルトです。これは既存のものにクロメート処理をやり直したものです。錆や腐食の痕跡が残っていますが、これは仕方ありません。






IMG_2467 ステアリングステムの上下です。緑色のアッパーブラケットはマグネシウム製で、純正の新品部品です。ステムベアリング等は勿論新品に交換です。






IMG_2470 フレームのヘッドパイプにステムを取り付けているところです。今のところ順調に作業は進んでいます。







IMG_2474 ハンドルです。何と純正の新品です。








IMG_2475 スイングアーム周りの部品です。マグネシウムの部品には陽極酸化処理、スチールの部品にはクロメート処理を施してあります。






IMG_2479 リアホイールですが、こちらの箱入りの方は何と新品です。この純正のリアホイールサイズは5.00x17です。もう1本、5.25x17というサイズもありまして、こちらはリペイント済みです。当時の指定タイヤサイズは155/60-17というサイズですが、それに近いサイズは現在では160/60サイズとなります。この160/60サイズのタイヤを5.00と5.25のホイールで履き比べてみて、その違いと感触を試してみるということになりますね。


IMG_2482 フロントのアクスルシャフトとナットです。こちらも今迄使用していたものですが、クロメート処理をやり直しました。






IMG_2484 とりあえずバイクとして成り立つのかどうかの確認で車体を仮組しています。







IMG_2485IMG_2487 これはリアブレーキマスターのホルダーです。本来、純正部品はカーボンで製作されているものですが何故かアルミの削り出し部品になっています。削り出しには違いないのですが、どう見てもグラインダーで削り出したと思われる力作?です。これをこのまま使用するのはいくら何でも有り得ない感じです。とはいえ代替え部品はありませんから、何かしらの解決策を考えなければなりません。


IMG_2492IMG_2494 いろいろ考えた結果、グラインダー削り出しのこの部品をフライスで仕上げて使用することにしました。かなり時間と手間がかかって苦労しましたが、これなら及第点という仕上がりになったのでこれを使用することにしました。



IMG_2496 リアフェンダーです。純正部品の新品です。








IMG_2499 メインのワイヤリングハーネスです。純正部品の新品です。







IMG_2501 このハーネスはメーターパネルとメインのハーネスを接続するものです。これも純正部品の新品です。







IMG_2502 こちらはシートスポンジです。純正部品の新品です。







IMG_2512 ラジエーターです。純正部品の新品です。








IMG_2513 ボルテージレギュレーターです。こちらは箱入りではありませんが、やはり純正部品の新品です。







IMG_2514 冷却水ホース、ブリーザーホースです。ここに写っているものは純正部品の新品です。しかし新品を用意できなかったホースもあります。それは既存品を使用するか、似たようなサイズのホースの代替品を探して使用するしかありません。




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 車体を本格的に組み立てています。いろいろな部品を仮組して状況を確認し、問題無ければ正式に取り付け、という手順です。部品を付けたり外したりの繰り返しで、二度手間、三度手間は当たり前、という状況です。

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 例えばインジェクター。やっとエンジン始動テスト迄こぎつけたところで診断機に繋いでインジェクターの動作テストをしたところ、インジェクターが動作しません。
 チェックしたところ、長期間の放置によってインジェクターのバルブが固着したという結論に達し、インジェクターを新品に交換しました。せっかくバイクの形になっているのにまた分解して作業のやり直しです。上記は一つの例ですが、実際にこんな事の繰り返しです。しかしこういったレストア作業にこの手の展開はつきものです。

  
Posted by cpiblog00738 at 09:15

2023年09月16日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その13

IMG_1660IMG_1661 エンジンにオイルクーラーを始めとするその他の部品を取り付け、何とかエンジンは完成にこぎつけました。しかしここで一点気になることが見つかりました。エンジンとオイルクーラーを往復している純正のオイルホースです。経年劣化していて見れば見るほどヤバそうな雰囲気が漂ってきます。最初の方でご紹介した、フィッティングが割れたブレーキホースのイメージが重なります。

IMG_1697IMG_1849 そこでホースは新たに作り直すことにしました。色が純正と同じ青と金ということで、今回はPro Goldというブランドのものを使用しました。改めて、これでエンジンの作業はめでたく終了ということになりました。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:31

2023年09月10日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その12

 エンジン左側の発電機周りを組み立てます。このエンジンは独特で、フライホイールと発電機が乾式になっています。乾式クラッチと同じような構造で、エンジン左側カバーの外側にフライホイールと発電機が存在して、その外側をまたカバーが覆っています。 

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 発電機のコイルとローターのセットです。純正の新品部品です。チェックするとローターに「KOKUSAN JAPAN」の刻印があります。日本製なのですね。フライホイールを固定するナットやワッシャーも当然ながら専用部品です。


IMG_1628 タイミングベルトのテンショナープーリーです。これも新品を使いますが、部品としては1995年型916Racingのものと共通部品です。






IMG_1634 シリンダーヘッド、ピストン、シリンダー等を仮組して、バルブタイミングの計測と調整を行っています。バルブタイミングを指定値に調整してからバルブとピストンのクリアランスをチェックするので、今のところはあくまで仮組です。




IMG_1637IMG_1638 バルブタイミングが決まった状態になったところで、一旦シリンダーヘッドを取り外し、バルブリセスに粘土を置いて再び組み立て、クランキングさせます。そうすると画像のようにバルブリセスの中にバルブが入った痕跡が残ります。粘土の厚さがバルブとピストン間のクリアランスということになります。ミニマムクリアランスはINTAKEが2.5mm、EXHAUSTが2.6mmと指定されています。今回は特に問題無い範囲に収まっていました。全てが純正部品で、バルブタイミングも指定値の通りになっていますから、当たり前と言えば当たり前です。しかしパフォーマンスアップを狙って社外ピストンや社外のカムシャフト等を使用した場合は特に注意が必要ですね。


IMG_1625 今迄エンジンは仮組でスキッシュクリアランスの調整やバルブタイミングの調整を行っていたので、ヘッドガスケットは今迄使用していた中古品を使用していました。しかし最終的には当然ですが新品のヘッドガスケットを使用します。



IMG_1640 エンジン腰下にシリンダー、ピストン、シリンダーヘッドをのせて組み立てました。






IMG_1643 こちらはクラッチハウジングです。純正の新品部品です。これもスーパーモノの専用部品です。






IMG_1645 998RSのクラッチハウジングと比較するとその差に驚きます。エンジン出力というかトルクが全く異なりますから、当然と言えば当然なのでしょうが。






IMG_1647 クラッチ関係の部品です。クラッチディスクは摩材が焼結タイプの現行モデルの純正部品で、使用する枚数を減らし、全体の厚さを調整して使用します。クラッチドラムは専用品ですが、既存のものを再使用します。
 クラッチスプリングは新品で996RS等と共通部品。クラッチプレッシャープレート等は888/926Racingと共通部品で、これも新品を使用します。


IMG_1652 クラッチAssyを取り付けました。







IMG_1654 こちらはオイルクーラーからシリンダーヘッド、クランクケースへと続くオイルラインです。これも新品です。シリンダーヘッドにオイルをデリバリーするのと、その先はクランクケースに繋がっていて、そこではダミーコンロッドのエンジン側のピボットにオイルを供給するようになっています。



IMG_1656IMG_1659 発電機のカバー、純正の新品部品です。発電機のステーターコイルは一番外側のこのカバーの内側に取り付けられています。
  
Posted by cpiblog00738 at 20:00

2023年09月03日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その11

IMG_1555 これが何だかお判りになりますか?これはセルモーター取り付け部分の穴をふさぐ蓋です。純正の新品部品ですが、何とカーボンの板で出来ています。

 このエンジンは様々な専用部品で構成されているのですが、セルモーターの取り付け部が残されているということはやはり公道仕様の開発も少なからず視野に入っていたと考えられます。純粋にレース用バイクとして開発されたのであれば、セルモーターは不要ということでクランクケースにセルモーターの取り付け部分は存在しなかったと思います。

IMG_1556 さて、ちょうど916SPS(996cc)のエンジンがバラバラになっていたので、いろいろな部品を比較してみたいと思います。
 
 これは1次減速のクランクシャフトに取り付けられている方のギアです。ギアの厚さが996の3分の2くらいですね。スーパーモノ専用部品です。


IMG_1557 こちらは1次減速のクラッチ側、上記のギアの相手側のギアです。こちらもギアの厚さがかなり薄く作られています。レーシングエンジンなので当然ながら軽量穴も開いています。





IMG_1559 タイミングシャフト側のタイミングギアです。こちらも同様でかなり薄く作られています。軽量穴も開いていますし、表面は機械加工で仕上げられています。






IMG_1563 クランクシャフト側のタイミングギアです。こちらもまるで別部品です。







IMG_1561IMG_1570 オイルポンプです。似たような感じですがレイアウトが全く異なる造りです。鋳物なのにわざわざ専用部品を製作していますね。



IMG_1579 エンジン右側の1次ギア、オイルポンプ等を取り付けました。ストリートバイクとは似て非なるもの、という印象です。






IMG_1581 こちらはエンジン左側です。発電機とフライホイールが乾式になっているので、この状態でエンジン左側カバーを取り付け、その外側に発電機のローターやコイル等を取り付けます。シフトコントロールアーム周りですが、シフトペダルが付くシャフトと軽量穴あきのアームの部分は専用設計、その先のシフトドラムをひっかけて回すアームの部分は市販車と共通部品です。


IMG_1586 エンジン左側カバーです。新品の純正部品、マグネシウム製です。中央のオイルシールが特殊なサイズでおそらく今となっては入手不可能な部品です。交換時期が来た時に苦労しそうで、今から心配ではあります。




IMG_1490 こちらは使用するピストンです。純正の新品です。








IMG_1491 シリンダーです。箱はありませんが、こちらも純正の新品部品です。







IMG_1621 ピストンとシリンダーを仮組しています。これからスキッシュクリアランスの測定と調整を行います。スキッシュクリアランスの調整は厚さの異なるシリンダーベースガスケットを使用し、その中から丁度良い暑さのものを選択するという方法で行います。




IMG_1623 スキッシュクリアランスの値はインテーク側が1.06mm、エキゾースト側が1.04mmとなりました。良好な数値です。
  
Posted by cpiblog00738 at 08:13

2023年08月28日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その10

IMG_1482 クランクシャフトとコンロッドの組み立て作業を開始します。コンロッドの1本は新品で、こちらはピストン側に使用します。






IMG_1497 2本のコンロッドのメタル合わせ(使用するメタルの厚さの選定)を行っています。記してある数字はハーフベアリングの厚さです。厚さ違いのハーフベアリングを組みあわせて適正なメタルクリアランスを獲得します。




IMG_1498 メタル合わせが終了しました。記してある数字は実測したメタルクリアランスです。例えば手前のコンロッドでは垂直方向のクリアランスが0.054mm、斜め45度方向のクリアランスが0.074mmと0.078mmということです。メタルクリアランスの指定値は0.040〜0.068mmとなっていますが、この値は垂直方向のクリアランスで判定します。

 勘違いしやすいのですが、ハーフベアリングを装着した状態でのコンロッド大端部の形状は真円ではありません。ごく僅かですが上下方向に潰されたような楕円っぽい形状になっています。つまり縦方向の径より横方向の径の方が大きいということです。

 その理由は、エンジンが排気行程から吸気行程に移ってピストンとコンロッドが上死点から引き下げられる時、慣性力によってコンロッドには引き延ばされる力がかかります。その際に大端部が縦に引き伸ばされて縦長の穴になろうとするのです。この現象はクローズインと呼ばれていますが、そうすると大端部の横方向の穴径が小さくなります。その変化量がメタルクリアランスの数値を超えてしまうとメタルコンタクトが発生してしまい、大端部焼き付きの原因となる可能性があるのです。

 そのためこの変化量を見越して大端部の形状は僅かですが横長の潰れたような形状になっているという訳です。

 どのような方法でこの形状を作り出すかはメーカーによって異なるらしいですが、ドゥカティの場合はハーフベアリングの厚さで調整しています。コンロッド本体の大端部の穴は真円に加工してあります。そしてハーフベアリングは中央部が一番厚く、外側へ行くほど薄くなるような形状になっています。例えば中央部の厚さが1.484mmのハーフベアリングが現在手元にありますが、斜め45度の方向で同様に厚さを計測すると1.474mmと1.472mmという計測結果となります。計測していませんが最端部はさらに薄くなっていると思われます。ハーフベアリングの厚さを変化させて対応しているということですね。

IMG_1499 クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。このタイプのコンロッドボルトの締め付け方法は以下の通りです。
 ・締め付け前のボルトの全長を計測する。
 ・最初に15Nmで締め付ける。
 ・次に角度で38度締め付ける。
 ・次に再び38度締め付ける。
・締め付け後のボルトの伸びは0.13〜0.17mmの範囲に入っていること。

 ちなみに写真に写っているコンロッドに記してある数字ですが、コンロッドボルトの頭の脇に記してあるのが最終的な締め付けに要したトルクで単位はNm。コンロッドの側面に記してある数字は使用したハーフベアリングの厚さの下二桁です。

IMG_1503 こちらはスーパーモノの、かの有名なダミーピストンというかコンロッドです。画像の左側がコンロッド小端に接続されます。右側はクランクケース側に接続となります。
 
 以前に他の個体のスーパーモノのエンジンをオーバーホールしたことがありますが、その時の経験からエンジン側のピンの消耗が激しい印象がありました。そこで今回はエンジン側のピンを新たに製作しました。ピンの黒色はDLCコートを施したための色です。

IMG_1524 クランクケースに装着する部品類です。シリンダースタッドボルト、スイングアーム取り付け部のベアリング、オイルシール、その他全て新品を使用します。






IMG_1525IMG_1534 クランクケース内部のクランクシャフトやダミーコンロッドの部品の配置はこんな感じになります。仮組と分解を繰り返して内部部品の位置をシム調整によって決定します。


IMG_1536 シフトドラムです。こちらもスーパーモノ専用部品です。他のエンジンとの互換性はありません。画像はありませんが、シフトフォークは他車種と互換性があります。空冷400とか600のギアボックスの2軸間が狭いタイプ用のシフトフォークと共通です。




IMG_1543IMG_1545 クランクケースにギアボックス関係の部品も仮組してシム調整を行っています。この作業には非常に時間がかかることが多く、多い時は何十回となくクランクケースを合わせたり分解したりの繰り返しとなります。


IMG_1547IMG_1551 クランクケース内部部品のシム調整が終了し、ようやくクランクケースを合わせて腰下の組み立てが終了したところです。







  
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2023年08月21日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その9

IMG_1454 次はギアボックスのメンテナンスに取り掛かります。画像はカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)を分解したところです。見慣れた景色に見えますが、実は主要部品のほとんどがスーパーモノ専用部品です。ギアの厚さが狭かったりして他のモデルとの互換性がありません。さすがにサークリップやニードルケージは共通部品ですが、その他の唯一の共通部品はシャフト本体のみです。このシャフト本体だけはベルトドライブの900SS等に使用されているものと同一です。

IMG_1457 消耗品のサークリップは新品に交換しました。スラストシムはミッションの位置を調整する時に入れ替えたりするのでおのずと新品になります。






IMG_1458 ギアボックスカウンターシャフトのメンテナンスが終了しました。主要部品の状態は、ギアの歯の当たり面、ドッグの状態等を含めて非常に良好で問題ありません。今となっては入手不可能な部品なので非常に安堵しました。外れている部品は新品に交換した際に取り外した部品です。



IMG_1459 ギアボックスのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)を分解したところです。こちらの場合、シャフトとギア類の全てはスーパーモノの専用部品で、他車種の部品との互換性はありません。幸いなことにこちらも程度は良好だったので安堵しました。サークリップ、クラッチロッド用のニードルケージ、オイルシール等は新品に交換します。


IMG_1467 メンテナンスが終了したメインシャフトです。状態は良好です。外れている部品は新品に交換した際に取り外した部品です。
  
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2023年08月13日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その8

IMG_1400IMG_1401 シリンダーヘッドの組み立て中です。懸念であるロッカーアームのメッキ剥離等の問題はありませんでした。また組まれているバルブスプリングですが、ストリートバイクと同じ部品となっています。一般的にコルサの場合は線径の細い反力の弱いスプリングが用いられていることが殆どなのですが、スーパーモノの場合は何故かストリートバイクと同じ部品が組まれています。この件はパーツリストでも確認済みです。とりあえず今回はオリジナルに忠実に、ストリートバイクと同じ部品で組み立てました。

IMG_1412 エキゾースト側のカムシャフトホルダーの形状が特殊ですが、ここにウォーターポンプが取り付けられることになります。ところが作業を進めていくとこの部分に問題があることが発覚しました。画像ではまだオイルシールが取り付けてありませんが‥‥。



DSC00767 これがこの部分に使用する純正のオイルシールです。オイルシールにサイズが記されていますが、φ17.46xφ28.58x6.3となっています。かなり特殊なサイズではないでしょうか?これをカムシャフトホルダーに取り付けてみたところ、全く勘合締め代がありません。つまり固定されないということです。ガバガバで容易に脱落します。ホルダー側の内径を計測したところφ28.8mmです。何をどう間違えてこうなってしまったのかは不明ですが、とにかく完全にこれはNGです。ホルダー側のハウジングの内径を間違えて仕上げてしまったのでしょうか?内側に通るカムシャフトのシャフト外径はφ17.5mmなので、本当に必要とされるオイルシールのサイズは呼びでφ17.5xφ28.8x6.0というサイズとなります。しかしそのサイズのオイルシールはどう考えても入手不可と考えられます。とにかく何らかの解決策を講じる必要があります。


IMG_1468 いろいろ考えた末に講じた解決策がこれです。φ17xφ30x6というサイズの国産オイルシールを利用し、30mmの外径を29mmに加工しました。加工は取引先の試作屋さんにお願いしました。MHSAタイプのオイルシールは外側部分もゴムで覆われていますが、経験上この手のものは上手く加工すれば外径を1mm程度削り落として使用することが可能であると分かっていました。この程度の研削であれば外側のゴム部分はまだ残ります。φ28.8mmの穴に外径29.0mmのオイルシールですから、締め代は0.2mmでOKです。

 問題は内径で、今度のものは0.50mm穴が小さいということになります。そこのところは優秀な日本製オイルシールに無理を聞いてもらって、そのままカムシャフトを押し込んで使用することにしました。 


IMG_1476IMG_1478 国産加工のオイルシールを取り付けたカムシャフトホルダーです。この状態で現在までにサーキットを100km以上走行していますが、特に問題は発生していないので大丈夫そうです。


IMG_1409 シリンダーヘッドの組み立てが終了しました。緑色に陽極酸化処理されている部品はマグネシウム製です。






IMG_1444 さて、シリンダーヘッドの組み立てが終了しましたので次はクランクケース周りの作業を開始します。これはコンロッド大端のメタルではなく、クランクシャフト両端を支持するクランクケース側のメタルです。当時のドゥカティエンジンの場合、レーサー、ストリートバイクを問わず、この場所はボールベアリングが使用されていましたが、スーパーモノのみがハーフメタルを使用していました。(その昔に存在したパラレルツインの500/350GTエンジン等の例外はあった模様ですが)その後この方式が登場するのは2013年のパニガーレエンジンまで待たねばなりません。


IMG_1446 クランクケースは新品を使用します。何故なら今回のレストアの一番の目的は、このバイクをレースで走らせることだからです。オリジナルのエンジンナンバーが入っているクランクケースはかなり使い込まれており、状態は悪いと認識していますから使用せずに保管しておきます。しかしこのオリジナルクランクケースはエンジン番号がフレーム番号とマッチングしていますから、このバイクと常にセットということになりますね。

 クランクケースに装着されているのはハーフベアリングを取り付けるための特殊工具です。これを用いてハーフベアリングをクランクケースに圧入します。

 
IMG_1450 ハーフベアリングの取り付けが終了しました。マーカーで数字が記してありますが、0.052がメタルクリアランス、1.995と1.998が使用したハーフベアリングの厚さです。ちなみにメタルクリアランスの規定値は0.031〜0.065mmと指定されています。

 また、画像を見るとハーフベアリングの中央に穴が開いているのが確認できますが、これはオイルラインの給油口です。この穴の奥のクランクケース側にも穴があって、そこからオイルが圧送されてきます。つまりハーフベアリングを装着する場合はこの穴を合わせる必要があるということです。この穴位置を合わせずに適当な位置にハーフメタルを装着してしまうとこの部分にオイルが供給されなくなり、エンジンに致命的なトラブルが発生することになります。


IMG_1452 こちらはクランクシャフトの両側に使用されるスライドメタルです。クランクケースにクランクシャフトを組んだ状態でのクランクシャフトの左右のクリアランスは0.07〜0.17mmと指定されていますから、その範囲に収まるように厚さを調整します。

  
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2023年08月05日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その7

IMG_1177IMG_1179 今回バルブは新品に交換します。インテークバルブは1994〜1998年型のコルサと、エキゾーストバルブは1993〜1999年型のコルサと共通部品です。材質は耐熱性に優れたナイモニック合金製。ステムエンドにC.MENONの刻印があります。当時この刻印はホンモノの証として認識されていました。このバルブは高価だったので社外品のバルブに交換されている場合も多く見受けられたのです。

 最初からバフ掛けされていて非常に綺麗な仕上がりになっています。ただし誠に失礼ではありますが、バルブの芯が出ているのかの確認のために使用前にバルブリフェーサーでリフェースを行いました。このバルブに限らず、経験上ですが新品バルブといっても中には振れが出ているものが存在するからです。

IMG_1180 バルブのステム径に合わせてバルブガイドの内径をリーマで仕上げています。TFDで製作するすべてのガイドは穴径をステム径よりも小さく仕上げてあるため、そのままではバルブステムが通りません。使用する個々のバルブのステム径に合わせてガイドの穴径を仕上げます。TFDで使用しているベリリウム銅合金製のガイドとこのバルブの組み合わせの場合、通すリーマの径を0.01mmずつ大きくしていって、実際に使用するバルブのステムが通るようになったところでOKとしています。ということは言い方を変えればクリアランスは0.01mmということになるでしょうか。感覚的にはちょっと狭すぎる印象を与えるかもしれませんが、実際問題としてはこの方法が適しているようです。おそらくベリリウム銅合金とバルブ材質の相性が良いのだと思いますが、焼き付きや抱き付きの発生は今迄皆無です。次回のオーバーホール時にクリアランスをチェックしても状態は良好で、その後何度かのエンジンオーバーホール歴を経てもガイドの交換が必要になるケースは非常に稀です。

 そのくらいクリアランスをきっちり取っていますので、バルブステム径のばらつきによってバルブを他の位置に組んであるものと入れ替えるとクリアランスが狭すぎて組めなくなる場合もあります。

 また、ガイドの内径をわざわざリーマで0.01mmずつ拡大することについてのもう一つのメリットがあります。それはガイド穴の内径を入り口から出口まで均一に揃えることが出来るということです。ガイドはヘッドの中に圧入されていますが、圧入されている部分は圧縮されています。その結果圧入部分の内径が0.01mm程度小さくなっています。ガイドには圧入で圧縮されていない部分も有ります。それは外部から見えている部分ですね。この部分の寸法は変化しませんから、解りやすく表現するとガイドの穴の中には段差が出来ていて製作時のままの内径の部分と0.01mm細くなった部分があることになります。この不均衡を、リーマを通すことによって均一にしたいという訳です。

IMG_1186 バルブシートをリフェース中です。バルブガイドを交換した場合は必須です。何故なら新たに装着したガイドの角度は以前とは少なからず異なるからです。そのためそのままではバルブフェースとバルブシートは正しく当たりません。
 
 左側のシートはシートリフェース終了後バルブとのすり合わせを行って、バルブフェースとシートの当たり具合が良好であることを確認済みです。

IMG_1187IMG_1192 バルブシートのリフェース、バルブフェースとシートの擦り合わせを終えた状態です。この状態からシリンダーヘッドの組み立てを開始します。



IMG_1198IMG_1201 インテークとエキゾーストポートからの眺めです。

  
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2023年07月30日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その6

 さて、作業はまた暫く中断した後に、再開されたのは2019年に入ってからでした。このあたりからそろそろ本腰を入れないとまずいのではないかとちょっと焦って来て、無理やり時間を作って作業を進めました。

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IMG_1145 シリンダーヘッドの分解中です。状態は特に問題無く一安心です。構造的には基本的に888/926/955系のレーシングエンジンの派生です。シリンダーヘッドの刻印は「A」ですね。1992年の製造です。ということは888SP5あたりと同年代ですね。でもこの年式でエキゾースト側のヘッドの天井がフロントタイヤとの干渉を避ける目的で斜めになっていますね。この仕様を目にするようになるのはレーシングバイクだと955コルサから、ストリートバイクだと996になってからだと記憶していますから、かなり先行して開発されていたことは確かです。

IMG_1143 バルブガイドの交換のため、まずは既存のガイドを取り外しました。通常はヘッドを温めた状態で専用工具のポンチを使用してガイドを叩いて打ち抜くのですが、今回は慎重を期して打ち抜く方法を取らずに、ガイド穴にタップでネジを切り、そこにネジを切ったシャフトを取り付けてスライディングハンマーでガイドを引き抜くという方法を取りました。

 単純に叩いて抜こうとするとガイドが外側に膨らんでしまって、ヘッド側の穴を押し広げて傷つけてしまう可能性があるからです。以前は単純に叩いてガイドを取り外すことが多かったですが、最近はスライディングハンマーで引き抜く方法をとることが殆どです。特にガイド交換履歴があるヘッドで、そのガイドがただのリン青銅のような柔らかめの材質に交換されている場合は要注意です。叩いて抜こうとするとガイドが潰れて外径が大きくなり、その結果ヘッド側の穴を押し広げて傷つけてしまう可能性があります。

 今回のケースではインテーク側の2本に関しては勘合締め代が不足していたようで、ガイドはいとも簡単に抜けてしまいました。ガイドを取り外したのちにガイド径と穴の内径を計測してみたところ、勘合締め代は全く足りておらず、このままでは走行中にガイドの脱落の可能性さえ否定できない状態でした。特に2ヶ所のうちの1ヶ所は穴径の真円度に問題があり、このままの状態では新品ガイドの装着は難しいと判断して穴の内径をリーマで仕上げ直しました。リーマを通せば穴の真円度は回復しますが、当然ながら穴径は大きくなります。その穴径に合わせた外径のバルブガイドを製作して使用するということになります。

 ドゥカティのこの手のエンジンの場合、経験的にバルブガイドとヘッドの穴の勘合締め代は0.03〜0.05mmが適していると思います。それ以下だとガイド脱落の不安があります。それ以上の場合はヘッドにガイドを打ち込むのに苦労し、無理やり叩き込むことになるのでそれによるヘッドのダメージが心配になります。

 ガイドをヘッドに取り付ける場合、ヘッドは過熱しておくことは必須ですがガイドも冷却が必要です。冷蔵庫で冷やしておくような場合はガイドを専用工具に装着してハンマー等で叩き込むことになります。また、ガイドを液体窒素で冷却する場合もあります。液体窒素の温度はマイナス196度で、ここまで冷やせば叩き込みは不要で穴の中に抵抗無しで挿入できます。もし液体窒素で冷却してもなお叩き込まないと装着できない場合は、勘合締め代が大きすぎると判断して良いと思います。
 液体窒素を用いる方法の方が部品に与えるストレスは小さいので方法としては好ましいと思われます。しかし作業者としての観点からすると、冷蔵庫で冷やしてハンマーで打ち込んでいく方法の方が、打ち込んでいく最中に感じる抵抗感で締まりしろの具合を確認できるので安心感があります。液体窒素の場合は何の抵抗も無く装着できてしまうので、頼りになるのは計測値のみということになり、本当に正しい勘合締め代が得られているのか、一抹の不安を感じてしまうのですね。

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 バルブガイドの交換が終了しました。ガイドは純正部品ではなく、国内で製作させたものです。材料はベリリウム銅合金です。一口にベリリウム銅合金と言っても種類があります。バルブガイドに使用して優秀なものも有ればバルブシートに使用して本領を発揮するものも有ります。その選択を間違えると期待した効果が得られない場合がありますので注意が必要です。

IMG_3536IMG_3539 これらはシリンダーヘッドに使用する部品です。箱入りもしくは袋入りになっている部品は新品です。




IMG_3541IMG_3542 エキゾーストカムシャフトと同軸で駆動されるウォーターポンプです。カムシャフトと同軸で駆動する構造は独特ですね。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:14

2023年07月26日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その5

002 あまり長期間放置するとブレーキディスクは痛みます。この時代のブレンボはまだ鋳鉄ディスクの時代です。ということでアウターローターの表面処理を行いました。これで暫くの間は安心です。




IMG_4891 メインフレームです。画像では判りにくいかもしれませんが、結構汚いです。錆が浮いているところも見受けられます。





IMG_4954 そこでメインフレームにはリペイントを施しました。これで完璧です。ホイールも同様にリペイントです。ペイントはニシムラコーティングさんに依頼させていただきました。




IMG_4967 これはスイングアームに付属しているチェーン引き機構周りの部品です。材質はマグネシウムです。もともと緑色の陽極酸化処理が施されている部品ですが、やはり腐食が進行しないように改めて陽極酸化処理を施しました。この緑色の表面処理は数ある陽極酸化処理の中では特に耐食性が優れているとのことですが、施工を引き受けてくれるところは少ないと思います。なんでもこの処理を行うと工場内にシアンガスが発生するとのことで、処理中は工場内が無人になるというようなことを聞きました。

IMG_2476 その他のスチール製シャフトやナット等にはクロメート処理を施しました。この画像はスイングアーム関係の部品です。
  
Posted by cpiblog00738 at 08:32

2023年07月24日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その4

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 作業を開始するにあたって、まずは手を付けられるところから始めようということで、リアサスのオーバーホールを行いました。シリンダーも取り外し、表面処理をやり直しました。内部の仕様は特に変更せずノーマルのままです。

 IMG_2763こちらはオリジナルのブレーキホースですが、経年劣化でブレーキホースのフィッティングが割れてしまっています。



IMG_3034 そこでブレーキとクラッチのホースは新品を用意しました。イタリアのFREN TUBO製です。純正部品とは言えませんが、FREN TUBO社の製品ラインナップ中にドゥカティのスーパーモノ用という製品が存在するので、それを取り寄せました。

 

 ここまで進捗した時点で本業が忙しくなり、暫く作業は中断ということになりました。そして3年ほど経った2014年、このまま放置はまずいということで本業の合間を縫って作業再開しました。

  
Posted by cpiblog00738 at 08:37

2023年07月16日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その3

IMG_2420 さて、このバイクのレストア作業で一番のネックとなっていたことがあります。それは何と致命的なことに、クランクシャフトが無い、ということです。箱詰めの部品の中に2本のクランクシャフトが存在してはいたのですが、その両方が使い物になりません。画像はそのうちの1本で、焼き付いたクランクピンを溶接で盛って仕上げてありますが、肉盛りの溶接が足りずに表面を既定の寸法に仕上げても溶接のビードが残ってしまっています。また、左右のクランクを支持するジャーナル部も偏摩耗しており、真円度が保たれていません。計測場所によって直径が異なり、そのバラツキは0.09mmあります。ちなみにこのエンジンのクランク支持はこの時代のドゥカティとしては一般的なボールベアリングではなく、コンロッドの大端部と同じ構造のハーフベアリングです。0.09mmというこの数字は正規のメタルクリアランスのほぼ2倍程度ありますから、このまま組んで使用したら秒殺でエンジンが逝ってしまうのは確実です。


Crankshaft 正直に申し上げてレストア作業が滞った一番の要因はこのクランクシャフトでした。当然ですが新品のクランクシャフトなどというものは既に廃番で入手不可です。いくら探し回っても中古部品すら出て来ません。ドゥカティの他車種の部品の流用を一瞬考えましたが、軸受けの径がまるで異なるのでそれは一見して不可能なことが判ります。そこで残された手は新造、ということになり、国内のクランクシャフトを製造してくれそうなところにこの画像を送って、製造可能かを問い合わせました。これは2011年のことだったと記憶しています。

何社かに問い合わせをしたのですが、返答は殆どが無しの礫でした。しかしその中で1社だけ真摯な対応をしてくれた会社がありました。モータースポーツ関係ではかなり有名な四国にある会社です。二輪四輪問わずメーカーの仕事も請け負っていて、その技術力もピカイチという評判で、流石だなと感心しました。正確な数字は覚えていませんが、見積金額は確か200万円だったと記憶しています。ただし1本ではなく、最低ロットの45本の価格だったと記憶しています。

1本あたり4050万円なら、世の中にはクランクがダメになって走れないスーパーモノがそれなりに存在していると思われるので、それの修理に使えばOKと考え、この会社にお願いしようと半ば決心しました。


Super-Mono-Crank-002Super-Mono-Crank-003 ところがこのタイミングで朗報が飛び込んできました。純正新品クランクシャフトが見つかったとの連絡です。見つけてくれたのは親しいイタリア人の友人のルカです。見つけた場所はアメリカでした。以前から探してもらってはいたのですが、それまでは伝手をたどってもなかなか見つからないという連絡が来るばかりでした。

もし新品のクランクシャフトが存在するのであれば、それはレーシングチームやショップではなく、例えばスーパーモノの新車をコレクションしているようなマニアの方が、スペア部品としてストックしているというようなシチュエーションであろうと予測し、そっち方面を当たってみたところで運よく探り当てたという感じです。

価格は1本で7500ドルとのことでした。十分高額ではありましたが、その価格でも躊躇なく購入を決意しました。何しろクランクシャフトが無ければバイクがバイクとして成り立ちませんし、それに加えて純正部品であることの価値はとてつもなく大きいと認識していたからです。この機会を逃したらおそらく新品の純正部品には一生巡り合うことは無かったでしょう。

 結局はルカがいろいろと交渉してくれてディスカウントしてもらい、日本円にして70万円くらいで入手することが出来ました。これでヒマラヤよりも高い?ハードルを一つ乗り越えることが出来ました。荷物が届いてモノを確認した時の安堵感は半端では無かったです。





  
Posted by cpiblog00738 at 20:19

2023年07月09日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その2

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このバイクがTFDにやって来た時はほぼバラバラ状態。エンジン等は分解されて箱詰め。その他部品も分解されて単独な状態でした。足りない部品も多々ありそうでしたし、果たして本当に生き返らせることが出来るのか?この時点ではかなり不安に思える状況でした。

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しかし、画像のようにフレーム番号は#3番、エンジン番号もマッチングしていて#3番。フューエルタンクには当時このバイクに乗っていたワークスライダーのマウロ・ルッキアリ選手のサイン入りです。以上のことからこのバイクは飛びぬけて貴重な個体であることが窺い知れます。このバイクに関する履歴や書類は所持していませんが、フレーム番号が#3番ということで調べれば容易に素性が明らかになるのではないでしょうか?


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また、かなりの量の純正新品部品も付属していました。例えば新品のアッパーカウル、サイドカウル左右、ラジエーター、クランクケース等、枚挙にいとまがありません。レストアに際してはこの他にも膨大な数の新品部品を使用しましたが、その全てをここで紹介することは不可能なのでそれらについてはレストア中の記事の中で紹介させていただきます。

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Posted by cpiblog00738 at 20:56

2023年07月02日

DUCATI SUPERMONO スーパーモノ・レストア記 その1

P1170931a  DUCATI SUPERMONO …… 使い古された言葉ですが、宝石のようなバイクです。とある縁があってTFDにこのバイクがやって来たのはもう軽く10年以上前のことです。それが何時のことだったのか、もはや正確な記憶がありません。

 TFDにやって来た時このバイクはかなりひどい状態で、とても走行できる状態ではありませんでした。レストレーションを行わなければとずっと思い続けていましたがなかなか手を付けることが出来ませんでした。機会があるごとに少しずつ手を付けていたとはいうものの、作業の進捗は思うようには進みません。

 そんな状況の中、ようやくレストアが完了してとりあえずエンジンの始動にたどり着いたのが2020年の5月。初走行をFISCOで行ったのがその年の9月。その後ちょっと間が開いて次の走行を筑波サーキットで行ったのが2021年の11月。その次の走行が2022年の6月に行われたFISCOでのレースへの出場。走行履歴は以上が全てで、この時点までの走行距離は127kmです。

  今回はこのバイクがTFDに来た時からの顛末、及びレストアの様子を詳しくご紹介します。今回の記事でこのバイクの素性を洗いざらいご紹介しますのでご期待ください。

また、私は将来的にあと何回かこのバイクでレースに出場しようと考えておりますが、その後は売却を考えております。ご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらご検討いただけるとありがたく思います。よろしくお願い申し上げます。

  
Posted by cpiblog00738 at 19:58