2025年01月01日

998Rレストア-7

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シリンダヘッドの組み立て作業に取り掛かりました。まず気になるのがカムシャフト軸受けに残された痕跡で、カムシャフトとの当たりの強さが気になります。この痕跡はカムプーリー側の軸受けに散見されます。理由は明白で、タイミングベルトのテンションで2本のカムシャフトが内側に引っ張られてその結果軸受けに強く押し付けられるからです。ベルトの張り過ぎ?とも言えますが、メーカーの指定値で張り調整するとだいたいこんな感じになりますから、メーカーとしては想定内なのかもしれません。これが原因となって壊れてしまうことは無いと思われます。しかし軸受けの状態を目の当たりにしている自分としてはやはり気持ち悪いので、ベルトのテンションはかなり弱めに調整することが多いです。
 テスタストレッタエンジンの場合はカムが軸受けに直接載っていますが、デスモクアトロエンジンの場合はカムをボールベアリングで支持しています。この場合でもカムを支持しているベアリングが内側に押し付けられて、その結果ベアリングのハウジングの内側の当たりが強く、ヘッド側のアルミがツルツルピカピカになっている場合が多いです。そうなるとおそらくハウジングの真円度も崩れていると思われます。


DSC02227DSC02228 シリンダヘッド組み立て中です。この眺めは随分昔にフェラーリのエンジンの写真で見た記憶があります。何のエンジンだったかは記憶にありませんが、もしかするとプロトタイプで実際に車体に載って公道を走ることは無かったエンジンなのかもしれません。フェラーリの場合は片バンク6発ですから、これが6連装ということでかなり凄い眺めだった記憶があります。要するにテスタストレッタは元々フェラーリのテクノロジーだったということになるのでしょうか?


DSC02229 シリンダヘッドが完成しました。組み立てにかかる時間はデスモクアトロヘッドよりもこちらの方が短時間で済むことが多いです。それは構造上テスタストレッタヘッドの方がバルブクリアランスの調整がやりやすいからだと思います。




DSC02230 エンジンの腰上を組み立てます。シリンダスタッドボルトの溝にはオーリングが取り付けられてエンジンオイルがスタッドの穴に侵入しないような構造です。しかし稀な例ですが、クランクケース内の内圧でエンジンオイルがこのオーリングのシールを突破してスタッドボルト内に侵入し、結果としてヘッドナットの周りからオイルが漏れることがあります。
 使用されている純正のオーリングの規格はAS568-011で内径φ7.65mm、線径1.78mmです。似たような大きさのオーリングでP8という規格のものが存在していて(こちらの方が一般に良く知られていると思います)、こちらは内径7.8mm、線径1.9mmです。こちらの方がちょっと太い感じですよね。ちょっときついかな?くらいのフィーリングで普通に組めるので、自分の場合はこのオーリング(材質はFKM-70、所謂バイトン)を使って組み立てることが多いです。随分長い事使っていますが、効果は有るみたいでヘッドナット迄オイルが上がって来るトラブルは今のところ皆無です。勿論オーリングが収まる場所に異物が入り込まないように気を使って組みたてるのが大切なのは言うまでもありません。

DSC02232 腰上が組み上がったところでバルブタイミングの計測と調整を行っています。いつも言いますが、この作業は非常に重要です。






DSC02233DSC02234 ということで漸くエンジンが完成しました。外観も綺麗になってレストア前と比較すると見違えるほどです。ウォーターポンプのホースユニオンはアルミ製のものに交換済みです。オリジナルはスチール製で錆びるのが早く、何時も何とかしたいと思っていましたが、2000年代後半からアルミ製の純正部品が入手可能になり、それからはデフォルトでアルミ製部品に交換するようにしています。


DSC02235 早速エンジンを車体に載せています。冷却水のホースはサムコのシリコンホースです。デフォルトの色は青ですが、やはり黒の方が雰囲気が良いと思います。高価なホースではありますが、今や純正部品だと廃番で入手不可なものも混在しますし、有ったとしても価格は税込みで6万円を超えますから選択肢としてはサムコをはじめとする社外部品とならざるを得ません。
 写真ではエアボックス無しの状態でファンネルやインジェクターが装着されていますが、この状態でとりあえずエンジンの始動を試みます。この状態であれば調整ともし不具合が出現した場合への対処が容易であるからです。
 そして先程外部の燃料タンクを接続してエンジンの始動を試みましたが、やはり初期トラブルは出現しました。想定内のトラブルでしたが、前側気筒のインジェクターが燃料を噴きません。目視できる状態で作業しているので一目瞭然です。もしエアボックスとタンク等が装着された状態であれば不具合の原因の特定にかなり余計な時間を費やすことになったでしょう。トラブルの原因は長期間放置されたことにより燃料通路内部に残留していたガソリンがガム化してインジェクターノズルが固着したことによるものです。重症の場合はインジェクターを取り外して清掃することになりますが、今回は無理やり片肺のままエンジンを始動させるとエンジン始動とともに眠っていたインジェクターの方も目を覚ましました。クランキング時のインジェクターへの開弁信号の数はたかが知れいていますが、エンジンが始動すれば送られる信号の数が桁違いに多くなるのでびっくりして目覚めるんでしょうね。(笑)

 ところで申し遅れましたが、

皆様、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。

 今日は午後イチからエンジン始動に向けていろいろと作業をしておりました。スロットルボディーの初期セッティング中にスロポジの不具合が発覚し、部品を交換したりと想定外の事態もありましたが結果的に無事にエンジンの始動と調整を終えることが出来ました。
 作業が遅れてお待たせしてしまっている仕事が多々あり、お客様にご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。遅れを取り戻すのがとりあえず年初の目標となります。何卒宜しくお願い申し上げます。

さ〜て、酒、酒、と。
  

Posted by cpiblog00738 at 18:13

2024年12月29日

998Rレストア-6

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 分解したシリンダヘッドを点検していてちょっとした問題が発覚しました。写真には穴が5個写っていますが、左右両端はスタッドボルト用の穴で、それ以外の3個の穴は冷却水の通路となる穴です。相手側のシリンダーに設けてある水穴の位置が冷却水による変色ではっきり認識できます。中央の穴以外は明らかに穴位置が合っていません。


DSC02206 特にこの穴は完全に塞がれている状態です。998Rの場合、ヘッドガスケットは溝にはまったウイルスリングでシリンダーとヘッドの面はアルミが直接接触していますからこのように冷却水が触れていた痕跡が明白に残ります。穴がずれているとはいえ、かろうじてシリンダー側の溝に存在しているオーリングの内側に位置しているので水漏れが発生していないのは何よりですけど。


DSC02207 対策として水穴のとば口を削って広げ、冷却水の通路を確保しました。実は998Rの場合このトラブルの頻度は高く、同様な例を幾つか見ています。前述した、新車のエンジンでも幾つかのトラブルを抱えたまま組み上がっている場合があります、というのは例えばこういったことなのです。




DSC02208 カーボン等の汚れを落とし、ヘッド面もすり合わせをしたシリンダヘッドです。ちなみに水穴の大きさですが、インテーク側の3個は小さくエキゾースト側の3個は大きいのが判ります。インテーク側は燃焼前の混合気で冷やされ、エキゾースト側は燃焼ガスで熱せられるのでこのように水穴の径を変えることで冷却水の流量を調節し、ヘッドの温度が均一になるように調整しています。とはいえ穴が塞がっていたらダメですけど。


DSC02210 バルブステムシールを取り外しましたが、ステムシールの一部のゴムががる部ガイドに焼き付いています。わざわざステムシールを取り外したのはガイドを抜く時にガイドを燃焼室側に抜きたかったからです。ステムシールが付いた状態だと燃焼室側に抜くことが出来ません。何故燃焼室側に抜きたいかというと、特にエキゾーストガイドの排気ポート部分にはカーボン等が付着していてそれを完全に除去するのは困難で、その状態でガイドをカムシャフト側に抜くとシリンダヘッドのガイド穴にガイドに固着したカーボンによるキズが発生する可能性があるからです。


DSC02211 こちらはバルブです。カーボン等の汚れを磨いて落とし、バルブフェースをバルブグラインダーでリフェース済みです。バルブの単価が安ければ新品バルブを使用するのが妥当ですが、バルブの新品価格は万単位ですから、バルブステムが明らかに痩せているとか曲がりがあって首を振っている等の不具合が無ければリフェースしての再使用が妥当です。


DSC02212 既存のバルブガイドを取り外したシリンダーヘッドです。







DSC02214 シリンダヘッド内部の部品も洗浄点検し、特に問題の無い状態であることを確認しました。






DSC02220 新しいバルブガイドを取り付け、ガイドの穴径をバルブステムの径に合わせてリーマで広げて合わせます。リーマは6.95mmから初めて、次に6.96mm、6.97mmと0.01mmずつ大きくして行ってバルブが通って自由に動くようになったところで終了します。ということでバルブガイドとバルブステムのクリアランスは0.01mmと言って良いと思います。実際にはもう少し大きい感じがしますが。
 この狭いクリアランスを確保できるのはバルブガイドがベリリウム銅合金で製作されているからです。この材料はクリアランスが小さくても焼き付いたりせずにスムーズにバルブが摺動します。他の材料でこのクリアランスは危険かもしれません。
 そしてその後にバルブシートをリフェースします。ガイドを交換してバルブの角度がそれまでとは多少なりとも異なるので、そのままではバルブフェースとバルブシートが密着せず、圧縮を確保できません。写真のリフェース中以外の3ヶ所は既にリフェースとすり合わせが終了して、バルブフェースとバルブシートの当たりが良好であることを確認済みです。


DSC02221DSC02223 ガイド交換、シートのリフェース、すり合わせ等の一連の作業が終了したシリンダヘッドです。ノーマル状態のままだとインテークバルブシートのポート側はポートの内側に出っ張っている状態なので、混合気の流れを阻害しないようにその部分を修正してあります。これでヘッドの組み立て準備が完了です。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:58

2024年12月28日

998Rレストア-5

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 さて、これはクランクシャフトギアを取り付けているM24のナットです。こういったナットの表裏って考えたことがありますか?一見表裏の区別は無く見えますし、ぶっちゃけどっちから組み付けても大差ないと言えばその通りです。





DSC02192 でも端面をすり合わせてみると、こちら側はちょっと擦り合わせただけで綺麗に面が出ます。






DSC02193 反対側はというと、あまり平滑とは言えない状態で、ちょっとくらい擦り合わせてもなかなか面が出ません。
 おそらくこうしたナットは元々はとても長いナットで、それを切り落として製作しているのだと思います。端面を仕上げて突っ切りの刃物で切り落とし、端面を仕上げて突っ切りで切り落とし、の繰り返しなのではないでしょうか。端面を仕上げた面が綺麗に仕上がっていて、反対側は切り落としたままの状態、ということではないかと思います。
 何はともあれ、自分の場合はナットの平滑な面を対象物に向けて組みようにしています。実際問題としてはどっちの面を対象物に向けて締めても大差ないと言えば大差ないと思いますし、気持ちの問題と言えばそれまでですけど。


DSC02195 エンジンの右側です。1次ギア、オイルポンプ等が存在します。クランクシャフトギアはクランクシャフトのスプラインに挿入して固定されています。昔のタイプのエンジンはシャフトとギアの穴がお互いテーパーになっていて、ギアを取り付けてナットを締め付ければ勝手にセンターが出ますが、スプラインだとシャフトとギアの間に隙間というかガタがあるので、何も気にせずにナットを締め付けるとギアのセンターが出ません。その結果1次ギア(クランクシャフトギアとその相手側ギア)のバックラッシュが狭いところと広いところが出現してしまい、極端な場合はクランクを回転させると一か所だけ回転が重く回りにくくなる場所が出現します。なのでクランクシャフトギアを締め付ける時はギアのセンターが出ているかどうかを気にしながら作業することになります。


DSC02196 こちらはセルモーターです。走行距離が少ないので問題は無いと思いましたが、念のため分解してチェックします。その結果、ブラシの残りも十分で特に問題はありませんでした。コミュテーターは研磨仕上げ、断面が潰れてきし麺状態になってしまったオーリング類は交換します。




DSC02197 スターターのフリーホイール、ワンウェイクラッチとも呼ばれている部品です。こちらも走行距離が少ないので大したダメージはありませんが、予防整備の観点から新品に交換することにしました。右側が新車時に組まれて今迄使用していたもの、左側が現在の新品です。仕様は時とともに進化していて、形状が異なります。最新の部品の方が性能的にも進歩していると思われる点も、あえて交換する理由です。


DSC02199 エンジン左側も組み上がりました。タイミングギア、フライホイール、シフトコントロールアーム等が存在します。







DSC02202 DSC02203シリンダーヘッドを分解しました。特に問題らしき要素はありません。ただやはりバルブガイド、特にエキゾースト側は低走行にもかかわらずかなり消耗しており、ガイドとバルブステムのクリアランスは大きくなっていました。
  
Posted by cpiblog00738 at 23:39

2024年12月27日

998Rレストア-4

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 こちらはクラッチ関係の部品です。スリッパークラッチではなく、ノーマルクラッチです。ノーマルクラッチはクラッチドラムの内部に12個のゴム製ダンパーが存在し、それらによって加減速のショックを吸収する構造になっています。これはこれで優秀です。




DSC02178 ミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。特に問題はありませんでした。サークリップ全てとグルーブワッシャーの痛んだものだけを交換します。





DSC02179 ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも特に問題はありません。同様にサークリップと痛んだグルーブワッシャーは交換します。このシャフトのセンターは穴が貫通していてその中をクラッチのプッシュロッドが通ります。そのプッシュロッド用のニードルベアリングとオイルシールも交換です。


DSC02180DSC02181 クランクシャフトからコンロッドを取り外しました。コンロッドに問題は無く、状態は良好です。しかし大端メタルの状態を確認したところ、こちらはそれなりの消耗具合です。走行距離にしてはメタルの状態は良くありません。原因は不明ですが、使用していたオイルが原因でしょうか?それともメタルクリアランスが正しくなかったのでしょうか?今となっては原因は不明です。

DSC02183 こちらはクランクシャフトです。状態は良好です。クランクピンの内部はプラグを取り外して洗浄します。内部には結構なスラッジが溜まっていることが多いです。





DSC02186 メタル合わせを行い、適正なメタルクリアランスでコンロッドをクランクシャフトに組み付けました。今回のメタルクリアランスは0.051mmと0.050mmでした。レース専用車の場合は0.055〜0.060mmにとりますが、街乗りメインであればこのくらいが適正だと考えています。スチールのコンロッドであればもう少しクリアランスを狭く取りますが、チタンコンロッドの場合は熱膨張が少ないので数値は大きめです。


DSC02188 クランクケースに内部部品を仮組して各シャフトの位置をシム調整によって決定します。どのように調整するかと言いますと、クランクシャフトの場合は適正なイニシャルプリロードがかかった状態でコンロッドがシリンダーの中央に位置するように、ギアシャフトの場合は各ギアのシフト時にドッグの嵌り具合が適切になるようにです。ミッション関係はシフトフォークの曲がりが無いか、曲がっていてもシム調整の範囲で正しく機能させることが出来るかどうか、この辺は経験値がモノを言います。


DSC02189DSC02190 内部部品の調整が終了したところで、左右のクランクケースを合わせて組み立てました。

  
Posted by cpiblog00738 at 12:14

2024年12月21日

998Rレストア-3

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クランクケースを洗浄して点検しています。何も問題はありません。通常モデルの金型のクランクケースと比較すると、砂型のクランクケースは無骨な印象です。



DSC02165 こちらはエンジンの右側に付く部品群です。既にメンテナンス済みで、交換する消耗部品は取り外されています。左下の部品はオイルポンプ本体とカバーですが、カバーの取り付けに問題がありました。それ以外は特に問題はありませんでした。



DSC02167 オイルポンプ本体とそのカバーですが、この個体はカバーの取り付けボルト6本の締め付けが異常に弱かったです。ボルトを緩めた時に受けた印象だと、おそらく締め付けトルクは3Nmくらいだったのではないでしょうか?何が原因でそうなったかは不明ですが、カバーが外れなくて良かったです。カバーが外れかかってオイルがその隙間から逃げるようになると、急激な油圧低下が発生しますから、その結果エンジンに重大なダメージが発生します。

DSC02168 こちらはエンジン左側のカバー類です。特に問題は無く、状態は良いと感じます。冷却水ホースが刺さるスチール製のユニオンはアルミ製の部品に交換します。スチール製の部品は時が経つと必ず腐食して酷い状態になるので苦労が絶えなかったのですが、アルミ製の純正部品が手に入るようになってからは問答無用で交換です。


DSC02161 さて、シリンダーの作業に取り掛かりました。まずはシリンダーヘッドガスケット、というかリング状のシールリングを取り外します。以前の記事で「こういうのはやめてください」みたいなのがあったと思いますが、このガスケットリングをどうやって取り外すかといいますと、私はこのように作業しています。
 リングは内部にガスが封入されている状態なので構造としては中空です。そこでドリルで小さな穴を2ヶ所開けて細い針金を通します。


DSC02162 そして通した針金をプライヤーでつかんで引っ張れば、この通りです。簡単に取り外しが可能です。ちなみに使用しているドリルの径は0.8mm、針金の太さは0.6mmです。





DSC02170 シリンダーとピストンです。状態は良好で問題ありません。ピストンリングも問題無し。このまま再使用します。


  
Posted by cpiblog00738 at 23:15

2024年12月15日

998Rレストア-1

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 現在取り掛かっている大仕事は15〜16年間放置されたバイクのレストアです。そのバイクは998R。オーナー様が仕事の関係で海外を飛び回っているうちに、気付いたらいつの間にかバイクは放置状態になってしまっていたという状況です。海外で活躍されている方の場合、このパターンは多いように感じます。走行距離はたったの7,036km!これは何が何でも綺麗に仕上げないといけません。


DSC01849 入庫したのは数か月前の事でしたが、他の作業はさておき、何よりも優先で行ったのはガソリンタンク内の状態確認です。場合によってはタンク内部に残っていたガソリンが腐って物凄い異臭を発し、内部のホース類は融けて崩壊、ポンプ本体も腐食で再起不能、おまけにタンク内部に施してあるコーティングが腐食して丸ごと剥がれ落ち、と言った悲惨な状態になります。しかし幸運なことに、この個体に関してはそんなに悲惨な状態になってはいませんでした。

DSC01850 DSC01851ガソリンタンク裏のフューエルゲージのナットは当時モノのお約束で割れています。アルミ製のものに交換ですね。
 純正のプラスチック製フューエルコネクタも金属製に交換します。リアのシリンダーヘッドの上にガソリンが滴った痕跡が明らかなので、燃料漏れが発生していると思われます。


DSC02125DSC02124 とりあえずタンクのフランジだけ綺麗に処理しました。その他、燃圧レギュレーター、デガッサー、フューエルゲージ本体、といったところは再使用出来そうですが、それ以外のものは交換になります。 
 タンクの内部は意外に状態は良好で、安心しました。


DSC02127 車体を分解して行くと、まずエアボックス裏に張り付けてある純正のパッドが崩壊しています。不用意に取り扱うと内部のスポンジが粉になって降り注ぐので掃除が大変です。





DSC02128DSC02132 エンジンの前後気筒間のクランクケース上にはこんなものが。
 リアウインカーの配線もかじられています。どうやら放置期間中にネズミさんが出入りしていたようですね。



DSC02133DSC02134 さて、無事にエンジンを降ろしたところで、今回は車体周りのメンテナンスから作業を開始します。

  
Posted by cpiblog00738 at 14:12

2024年10月15日

888コルサエンジン再生-9

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 エンジン左側のカバーを組み立てます。写真は発電機のコイルです。クランクシャフトに取り付けてある発電機のローターはコルサ専用の幅が狭い軽量タイプなので、本来であればカバー側にもそれ専用の幅の狭い専用のコイルが使用するべきなのですが、今回はあえて幅の広いストリート用のコイルを組み合わせることにします。コルサ純正の発電機の出力は180Wということになっていて、現在においては若干出力が不足している印象が否めません。メーター、ラップタイマー、シフター、等の装備を後付けするのが一般的になっています。最近使われることが多いリチウムバッテリーも鉛バッテリーと比較して高めの充電電圧を要求してきます。180Wの発電量だと発電不足で、例えばコースインゲートでアイドリングさせながらコースインを待っていたらバッテリーが上がってエンジンが止まってしまった、というような実例も幾つか見ています。かといってローターまでストリート用にしてしまうのは気分的に躊躇してしまうので、今回はコイルのみ大型にしてみました。少しは発電量が多くなると期待しています。使用する916系アルミ製のカバーもストリートバイクの部品なのでそのままコイルが取り付け出来るのも都合が良いです。コイルからのケーブルは新たに引き直しました。

DSC02011 組み立てが終了したエンジン左側カバーです。ウォーターポンプのローターとカバーは916系のものを使用しています。それ以前のモデルの部品からローターの翅の形状が改善されて特にエンジン回転が低めの時の冷却水圧送効率が上がっているということです。翅の形状が変わったのでウォーターポンプカバー内部の形状もそれに合わせて変更が施されています。


DSC02016DSC02015 クラッチAssyは何を使用するかまだ未定ですが、ひとまずこれでエンジンが完成です。
 それとお伝えし忘れていましたが、エンジンマウントボルトの太さが888はφ10mm、S4は12mmです。ということでこのエンジンのクランクケースに開いている穴の大きさはφ12mmです。性能の事だけ考えるとフレーム側の穴をφ12mmに広げてφ12mmのエンジンマウントボルトを使用するのが良いと私は認識しています。経験的に車体剛性がかなり上がる効果があるようで、888系レースバイクの持病であるストレートでの振られ等も明らかに改善されます。しかしまず今回はオリジナルのコルサフレームに改造はしない方向性で進めたいので、クランクケースの穴にカラーを挿入することでオリジナルのφ10mmのマウントボルトを使用することにします。

 以上で今回のレポートは終了です。次はまた別の話題性のある?バイクについてのレポートを掲載する予定です。


  
Posted by cpiblog00738 at 10:09

2024年10月11日

888コルサエンジン再生-8

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 こちらはクランクケースのシリンダー取り付け面に存在するオイル通路です。実際には使用されていないのですが、何故か2001年前後のエンジンには車種によってはこのオイル通路が存在している場合があります。実際にこのオイルラインは生きていて油圧がかかる場所となっており、そしてここに取り付けられるシリンダー側にはオイル通路が存在せず、オイル通路はここで行き止まりとなっています。しかしシリンダーベースガスケットに塗布された液体ガスケットのみでシールしてあるためにオイル漏れのトラブルが頻発します。そのトラブルの原因をつぶしておくためにこの穴にネジを切ってボルトで封印しました。


DSC01999 シリンダーヘッドガスケットです。シリンダー径がφ94mm用ですが、右が当時モノ(当然ですが現在は廃番)、左が現行品です。ご覧になるとわかりますが、厚さが異なります。旧タイプの厚さは約1.2mm、現行品は約0.45mmです。オリジナルを優先するのであれば旧タイプを使用するべきなのでしょうが、今回は実際にレースで走らせようというエンジンですから信頼性が高いメタルガスケットの現行品を使用します。


DSC02000 現行品を使用するとヘッドガスケットの厚さが約0.75mm程度薄くなり、その結果スキッシュクリアランスに問題が発生します。それに対応する調整はシリンダーベースガスケットの厚さを変更して対応します。写真のようにシリンダーベースガスケットには数種類の厚さが異なるものが存在します。コルサの純正部品にはこの他にも0.25mm、0.35mm、というものが存在しましたが、現在は廃番になっています。目指すスキッシュクリアランスを得るためには複数枚を重ねて使用することもあります。この手のベースガスケットはガスケットというよりはスキッシュ調整用のシムとして認識した方が正しいかもしれません。


DSC02001 今回は厚さ1.0mm(正確には0.99mm)のベースガスケットを組んでスキッシュクリアランスが約1.03mmとなりました。これに関しては実際に組んでスキッシュクリアランスを実測しながらの調整が必要で、結構手間がかかります。今回は前後とも同じベースガスケットとなりましたが、前後で異なる厚さのガスケットが必要になることの方が実は多いです。


DSC02002DSC02004 スキッシュの調整が終了したのでシリンダーとヘッドを取り付け、エンジンは完成が見えてきました。






DSC02005 タイミングベルト周りの部品を取り付けて、バルブタイミングの計測と調整を行っています。この手のバイクの場合、バルブタイミングはカムシャフトとタイミングプーリーの位置決めを行う特殊な形状のキーを使用します。スタンダードのストレートなキーを使用することもありますが、段差が設けられていてプーリーの取り付け位置を故意に変化させるオフセットキーというものを使用する場合が多いです。
  
Posted by cpiblog00738 at 12:16

2024年10月10日

888コルサエンジン再生-7

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 シリンダーヘッドの作業を開始します。分解したシリンダーヘッド構成部品です。緑色の陽極酸化処理が施された部分がある部品はマグネシウム製です。ロッカーアームのスリッパー面のメッキ剥離はありませんでした。ただしロッカーアームに関しては外観の色がまちまちで、メッキの剥離のために後から交換されたであろうものも幾つか混在しています。


DSC01983DSC02007a バルブです。綺麗に磨いた後にリフェース済みです。この当時のコルサのバルブには「C.MENON」の刻印が入っています。憧れの部品でしたね。材質はニモニックと呼ばれる耐熱鋼で、耐熱温度は900〜1,100度と言われています。そういえば昔エンジンダイナモでコルサエンジンを回していた時に、排気温度をモニターしていたら軽く900度は超えていましたからバルブの焼損を避けようと考えるとこういった材質のものが求められたのだと思います。ちなみにバルブの傘径はINがφ36mm、EXがφ31mmです。


DSC01985 バルブシートのリフェース中です。この写真は一番外側の段差になった部分をなだらかになるように切削しているところです。このエンジンのバルブシートはポートの断面積を広く確保する目的のためだと思いますが、特に当たり面の内側に余裕がなくギリギリです。そのためにガイド交換をしてバルブの角度が少しでも変化すると当たり面の確保が難しかったです。


DSC01986 バルブガイドの交換、バルブシートのリフェース、バルブとシートの擦り合わせ&当たりの確認が終了したシリンダーヘッドです。すいません、写真がピンボケでした。




DSC01991 シリンダーヘッドの内部部品を組み立て、ヘッドが完成しました。ヘッド組み立て中の写真も紹介したかったのですが、すいません、撮り忘れました。






DSC01997 ピストンリングです。合口のピン角を黒染め?の色が落ちるくらいに軽く耐水ペーパーで磨きました。左側がオリジナルのまま、右が磨きを行った合口です。ごく稀にですが、このピン角が何かのきっかけでリング溝に食い込んでトラブルが発生した経験があるからです。




IMG_5024 これは前述したトラブルの写真です。このエンジンではなく別のエンジンに使用していたピストンです。オイルリングの溝に問題が発生しているのが判ると思います。リング合口のピン角がリング溝に食い込んで行って、その結果リングの合口が重なるという結果になりました。そうするとリングの張力は保てませんから盛大なオイル上がりが発生します。


  
Posted by cpiblog00738 at 18:27

2024年10月04日

888コルサエンジン再生-6

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 左の写真はメンテナンスのためにセルモーターを分解したところです。セルモーターはTFDに在庫がかなりあるので、その中から時代的に合致するもので程度が良さそうなものを選択しました。
 右の写真はメンテナンスが終了し、組み立てる直前の写真です。コミュテーターは研磨してリフレッシュしました。オイルシール、ブラシセット、オーリング類は新品に交換です。

DSC01964 エンジン左側の部品は一通りメンテナンスが終了したので組み立てました。タイミングギアが軽量穴も無くコルサっぽくないですが、コルサの純正部品なのでそのまま再使用しています。シフトアームとシフトリターンスプリング2個は新品に交換済みですが、これらに関しては調整に苦労します。特にシフトアームは当時の部品と若干形状が変わっていて、そのまま組むとシフトダウンが上手く作動しない例も見受けられます。それについての調整は現物合わせとなり、苦労します。

DSC01969 オイルポンプです。左がS4、右が888コルサの部品です。取り付けや外観はほぼ同一と言って良いですが、細かい相違もあります。ギアの形状が異なるのは一見して判りますが、矢印で示した穴の大きさが違います。この部分はオイルの吸い込み口で、オイル吸い込みの効率を上げて油量を確保しようという意思が現れています。ちなみに内部の通路も広がっています。


DSC01970 こちらは反対側からの眺めですが、こちら側から見た双方の形状は大きく異なります。左のS4の方は凸部分に新たな機構が追加されています。これは油圧のレギュレーターで、油圧が高い場合にリリーフバルブが開いて油圧を適正値にコントロールするようになっています。888コルサ等の当時のエンジンにもこういった機構は存在していましたが、それはクランクケース左右の合わせ面に存在していました。ポンプ本体にこの機構が備わっていた方がメリットが多いのだと思います。

DSC01971 そして今回使用しているクランクケースはS4の部品なので、クランクケースの合わせ面にリリーフバルブは存在しません。ということで今回使用するポンプは必然的にS4の部品ということになります。ギアの取り付けには互換性がありますから、ギアをスワップして対応します。



DSC01972 部品が揃ったのでエンジン右側を組み立てています。オイルポンプ本体はS4の部品になりましたが、オイルポンプギアとクランク1次ギアのセットはコルサ純正部品です。




DSC01974 クラッチ側のカバーはコルサ純正のマグネシウム製カバーをそのまま使用します。しかしオイルポンプの形状が変わってカバーと干渉する部分が出現するので、その点は対策が必要です。矢印の部分がそれです。リューターでちょっと削って対応します。
  
Posted by cpiblog00738 at 16:51

2024年10月03日

888コルサエンジン再生-5

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 こちらはシフトドラムです。下から、今迄使用していた888レーシングのオリジナル、ST4に使用されていたST4のオリジナル、999系のオリジナル、です。シフトドラムが回転した時の位置決めストッパーの機構が、888の場合は右端、ST4と999は左端、になります。また、よく観察するとシフトフォークを動かす溝の形状も異なるのが判ります。888とST4は同一形状ですが、999だけ溝の形状がスムーズというか直線的でガクガクしていません。時代が進むにつれて進化しているということです。今回はシフトフィーリングを優先して999系のシフトドラムを採用することにします。

DSC01942 ミッションのカウンターシャフト(スプロケットが付くシャフト)です。写真は888コルサのオリジナルのレーシングミッションです。レースで使用した場合によくみられるシャフトの曲がりは皆無です。ドッグの傷みも非常に少ないです。意外にもかなり状態が良かったのでこのまま使用します。もちろんサークリップや痛んだワッシャー等の消耗品は新品に交換します。


DSC01943 ミッションのメインシャフト(クラッチが付くシャフト)です。こちらも問題ありません。状態は良好です。このシャフトにはクラッチのプッシュロッドが通るので、そのためのニードルベアリングとオイルシールが存在します。サークリップ等と合わせてそれらも新品に交換します。



DSC01945DSC01946クランクシャフトとミッション関係のシム調整を行い、それが完了したら左右のクランクケースを合わせて組み立てます。幸いなことにここまでは想定外の事態も無く、順調です。



 次にエンジンのセルフスターター機能を取り付ける作業に取り掛かります。前述したようにコルサにその機構は存在しません。この当時は押し掛けがデフォルトです。普通に対応しようと考えると、P7、P8タイプのECUが使われているストリートバイクのフライホイール周りを移植するのが手っ取り早いです。例えば851/888系、916SP/SPS系、等のバイクの部品です。

DSC01992DSC01962 左コルサオリジナルのフライホイールです。非常にシンプルで格好良いです。
 そして右がストリートバイクのそれです。ストリートバイクの部品の方は鋳肌もむき出しで残っているし、自分の評価としてはレース用部品としてイマイチです。


DSC01957 そこでコルサ純正フライホイールを加工してストリートバイクの純正フランジ等の部品と組み合わせ、格好良いフライホイールAssyを製作することにしました。旋盤でコルサ純正フライホイールを加工しています。そこそこ硬い材質なのでチップを何度か交換しながら、飛散する非常に熱い切粉と格闘しながらの作業です。


DSC01947DSC01963 左は加工が終了したコルサ純正フライホイールと、それに組み合わせるストリートバイク純正のフランジ、リングギア、ワンウェイベアリング、です。
 右はそれらを組み立てたところです。ちゃんとしたレーシングパーツになりました。

  
Posted by cpiblog00738 at 10:41

2024年09月22日

888コルサエンジン再生-3

DSC01929 メンテナンス中のクランクシャフトです。コルサのクランクとはいえ、この頃はまだ扇型の格好をしています。ウェブの内側に切削による軽量加工が認められるのがコルサクランクの特徴です。




DSC01930 こちらはコンロッドです。94年型926レーシングからチタンコンロッドになりますが、この93年型は削り出しH断面のスチール製です。コンロッドボルトも特殊なもので、指定されている締め付け方法は3段階で、15Nm→38度→38度、その際の伸びが0.13〜0.17mm、というものです。チタンコンロッド用のPankl PLB07グリスを使用して上記の締め付けを行ったところ、要したトルクは4本とも75Nm前後でした。

DSC01932 このコンロッドには中心に貫通したオイル穴が存在します。クランクピンを潤滑したオイルがコンロッド大端からオイル穴を通って小端に達してピストンピンを潤滑します。ストリートバイクでも916SP、916SPS’97にこの方式が使われています。いずれもスチール製削り出しH断面のコンロッドです。ハーフメタルに穴が2個開いていて、そこから進入したオイルがコンロッド側の溝を通って穴に入って小端に運ばれる、というシステムです。この方式はその後採用されなくなってしまいましたが、その理由は不明です。チタンコンロッドになると貫通穴を開ける難易度が高いのか、それとも大端から少なからずオイルが逃げるので大端部の油圧低下を避けたいと考えたのか、真相は不明です。

DSC01935 クランクシャフトにコンロッドを取り付けました。ちなみにクランクシャフト両サイドのシムですが、左右シムの厚さを調整してクランクシャフトの位置を決定します。まず最初の目的は、コンロッドがシリンダーの中央に位置するようにするということです。自分の場合はクランクケースのシリンダースカートが入る穴の側端面からクランクシャフトのピン横の立ち上がり面までの距離を計測してその数値を根拠に調整しています。4か所で計測することになりますが、そのうちの2個ずつが同じ数値になるように目指します。しかし理想通りの数値になることはまず皆無で、如何にして妥協するかということになります。それでも誤差は0.1mm程度になるのが普通です。そしてこの説明では何を言っているか判らないという方が殆どだと思うので、ちゃんと理解したいという方は直接お尋ねください。
 それに加えてもう一つのシム調整の目的は、クランクケース左右を合わせて組み立てた時にクランクシャフトに0.15mm程度のプリロードがかかるようにするということです。

  
Posted by cpiblog00738 at 19:03

2024年09月17日

888コルサエンジン再生-2

DSC01909
 ピストンは純正新品を使用することになりました。今となっては非常にレアで入手は困難を極める部品です。さすがにTFD在庫ではなかったのですが、かなり以前からその存在は把握していたので今回はお客様にそれを直接購入していただき、TFDに直送してもらいました。



DSC01918 さて、シリンダーヘッドです。ヘッド面を摺合せしてリフレッシュし、バルブガイドは交換のために取り外しました。ヘッド面はかなり荒れていて綺麗ではなかったのですが、定盤の上で擦り合わせを行って対応しました。フライス盤を使用して機械加工での面研も考えましたが、その方法ではどうしても最小限の切削とはならずに削り過ぎてしまう傾向があるのでこの方法を選択しました。定盤の上での擦り合わせであれば消したい傷を確認しながら作業が出来ます。ただし斜めに削ってしまってはまずいので、その辺は経験とカンの世界です。

DSC01922 取り外したバルブガイドです。左側がインテーク、右側がエキゾーストですが、今回は取り外す時にインテーク側4本が異常に容易に抜けてしまいました。抜いたガイドを観察すると、通常通り正しく勘合していたと思われるエキゾーストガイドは勘合部全面に綺麗なアタリが付いているのに対し、インテークガイドには明らかにヘッド側と接触していなかった部分が認められます。勘合しろが少なかったということですね。これに関してはヘッド側の穴径を計測して正しい勘合しろが獲得できる新品ガイドを挿入しますからそれで問題は解決します。

DSC01926 さてこちらはクランクシャフトです。前述のように当時のコルサにはセルフスターター機能が無く、押し掛けがデフォルトであるとお伝えしました。そのためにストリートバイクには当然備わっているスターターワンウェイクラッチ潤滑のためのオイル穴がコルサのクランクシャフトには存在しません。セルモーターを取り付けて機能させるためにはこのオイル穴の加工が必須です。矢印の穴が今回後から加工したオイル穴ですが、これが非常に緊張を伴う作業なのです。軸の中心を通っている穴径は車種により若干異なり、5〜6mm程度です。図面では6.25mmとなっていますが、どうもその数字はその限りでは無いようです。それはともかくとして、φ2.5mmのドリルで残り2mmで貫通するところまで穴を開けます。そして残りの2mmはφ0.8mmの穴を開けます。φ0.8mmというのがオイル流量調整のための大きさです。なのでφ0.8mmのドリルのみで貫通させてもOKなのでしょうが、それは技術的にかなり難しいと思われ、ストリートバイクの純正クランクシャフトも例外なく途中までφ2.5mmでその先がφ0.8mmとなっています。
 これがまだ熱処理前の状態なら容易な作業なのでしょうが、後から加工する場合は当然ながらクランクは熱処理後なのでとにかく硬いのです。φ2.5mmのドリルは通常のものでは歯が立たないので超硬タイプを使用します。こういった加工物に対する超硬タイプの切れ味は確かに段違いなのですが、その代償として超硬タイプのドリルは靭性が低いのです。解りやすく言うと折れやすい、欠けやすい、ということです。穴開け時にこじったりして垂直方向以外の力が加わると容易に折れます。折れれば当然ながら折れた先の部分が加工物の中に残ります。何せ超硬ですから、それの除去は非常に困難です。そのためにこのφ2.5mmのドリルでの穴開け作業は異常な緊張感の中で行われます。
 残りのφ0.8mmの方はごく普通のドリルを使います。φ0.8mmのドリルは細いので加工物に押し付けると容易に撓み、超硬であればドリルは即折れてしまいます。通常のドリルは多少撓ませたところで折れません。それとクランクシャフトは表面に近いところの硬度が高く、深いところの硬度はそんなでもない、という事実があるからです。これはクランクシャフトも超硬ドリルと同様で、全体を硬くすると靭性が得られず折れやすくなります。剛性と靭性をバランスよく確保するために表面近くは硬く、内部はそこそこ柔らかく、という構造になっているということです。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:59

2024年09月14日

888コルサエンジン再生-1

 今回は1993年の888コルサエンジンのレストアです。コルサエンジンというふれこみで入手したのですが、実際のところ素性が不明でそれが本当かどうかは開けてみてのお楽しみ?という状況でした。とにかく開けてみないと何も進展しないのでとりあえず分解しました。

DSC01897 一通り分解しましたが、結果としてちゃんと888コルサのエンジンでした。胸をなでおろしました。それじゃどうしましょう?とオーナー様と相談した結果、ちゃんと組み上げて現在走らせているレースバイクのエンジンと載せ替える、ということになりました。



DSC01898 一通り部品をチェックしていくと、この年式だとコンロッドはチタンではなくスチールの削り出しH断面。クラッチカバーは緑色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これは純正部品ですね。エンジン左側カバーも茶色の陽極酸化処理が施されたマグネシウム製。これも純正部品ですが、これは当時から1〜2年使用すると冷却水に触れているウォーターポンプ周りに腐食が発生して穴が開き、冷却水がクランクケース内に侵入することになるのは確実なので他の部品に交換することになります。クランクはコルサ純正。ミッションも純正のレーシングミッションで、パッと見たところ状態は悪くなさそうです。ヘッドはまだ分解していませんが、マグネシウム製カバーが取り付けられていて外見としてはコルサです。バルブ径もコルサです。あとはカムシャフトに何が組まれているかが問題ですが。

DSC01899 シリンダーとピストンもコルサ純正です。ただし、特にピストンが結構使い込まれています。裏返して裏面を見るとかなり焼けて茶色くなっています。フライホイールはコルサ純正ですが、オリジナルにはセルフスターター機構が存在しません。当時のエンジンスタートは押し掛けが常識だったのですが、現代においてはスリッパークラッチの存在もあってそれは難しいのでセルモーター等の取り付けが必須です。そうするとフライホイール関係もそれ用の物を用意する必要があります。クランクケースもコルサ純正の部品です。エンジン番号を打たれていないので、スペアパーツとして取りよせたものが使われています。当時ドゥカティコルセより指定されていたクランクケースの交換サイクルは走行500kmでしたから、スペアパーツに交換されていたのは当然の成り行きで、もしエンジン番号が打ってあるオリジナルのクランクケースが使われていたらそれはかえって怪しすぎます。

DSC01900 シリンダーヘッドを分解しました。内部部品もコルサ純正で、カムはIN、EXともにGカムでした。バルブ径はINが36mm、EXが31mm、ステムエンドにC.MENONの刻印があるホンモノです。さすがにロッカーアームはメッキの剥離が頻発するために頻繁に交換されていたようで、見た目の異なるものが混じっています。


DSC01914 ヘッドの上面には鋳型で92とあります。92年製造なので93年式のバイクに使われたということになります。Sの刻印は93年型888レーシング用、という識別です。ちなみに左側の機械加工部分は何のためかというと、フロントタイヤの逃げです。フルブレーキ等でフォークが沈むとフロントタイヤとヘッドが接触するのが当時は当たり前だったので、それを少しでも軽減しようとする試みです。
 これから作業を進めていく様子を逐次アップしていきますのでお楽しみに。


  
Posted by cpiblog00738 at 11:16

2024年07月12日

これもやめてください!

DSC01416 これは998R/999Rの純正シリンダーです。ボア径はφ104mm。今でも入手は可能ではありますが、ピストンとシリンダーのセットでの販売となり、その価格も半端ではありません。入手しようと思うと現実的なのは中古部品となってしまいます。このシリンダーはエンジンAssy でやっとこさ入手したものなのですが、なんと、やらかされていました。
 ガスケットリングの溝の脇に何やら穴のようなものが‥‥。


DSC01417 このφ104mmボアのタイプのみ、ヘッドガスケットにウィルスリング(だと思います)が使われております。内部が空洞で加圧されているリングです。確かにこれを交換するために溝から取り外すのはちょっと大変かもしれません。しか〜し!!!これは無いんじゃないですか???かんべんしてください!!!お願いしますよ、ほんとにもう!!!
 これを取り外す場合はリングに小さい穴を開けて細い針金を通して引っ張れば、自分の経験からすると120%何の問題も無く取り外し出来ます。そのくらいは思いついてくださいよ。
  
Posted by cpiblog00738 at 20:35

これはやめてください。

DSC01777
 とある車両の整備を行っておりまして、冷却水周りのホースを外しました。そうしたら全てのホースの差込個所がシリコンガスケットのてんこ盛りです。何じゃこりゃ、と思ってオーナーの方に聞いたところ、ちょっと前に某所でラジエーターホースを全て新品に交換してもらったとのことです。新品ホースにシリコンガスケットをてんこ盛りに塗って差し込む???意味不明です。草臥れ切って水が漏れてくるようなホースに対する応急処置ならまだ理解の範疇ですが。
 おかげでホースの中や差込口にこびりついて残ったシリコンガスケットの除去にえらい時間がかかってしまいました。カスをそのまま放置で組み立てたら、ホース内に残ったカスが冷却水通路に回ってしまいます。
 今回は純正のゴムホースだったのである意味まだマシでした。もしこのホースが社外のシリコンホースだったら、シリコンホースとシリコンガスケットが同じシリコン同士で癒合してしまってえらい事になります。
 繰り返しますが、こういうのはやめてください。
  
Posted by cpiblog00738 at 08:42

2023年06月09日

エンジンオーバーホール中 その5

DSC00858 シリンダー、ピストン、シリンダーヘッドを仮組してスキッシュクリアランスの計測を行っています。クリアランスの調整はシリンダーベースガスケットの厚さで行います。厚みが異なるベースガスケットを用意できないと調整は不可能ということになりますが…。



DSC00859 スキッシュクリアランスの調整が終了した後エンジンを組み立て、次はバルブタイミングの計測と調整を行っています。一度バルタイをちゃんと合わせたエンジンは、全バラにして再び組み直してもバルタイがそんなに大きく狂うことは少ないです。



DSC00860 ここまで終了すれば、後は開いている蓋を閉めて完成です。







DSC00861 エンジンが完成しました。




  
Posted by cpiblog00738 at 20:37

2023年06月08日

エンジンオーバーホール中 その4

DSC00853 途中をちょっとはしょりましたが、バルブです。バルブシートとのすり合わせと当たりの確認は済んでいます。バルブフェースの白っぽく見える場所が当たり面です。左のバルブは当たりの確認が済んだところ、右のバルブはその状態から当たり面の内側に30度の角度で研磨を施したものです。違いが分かりますか?バルブの当たりは可能な限りの外当たりにしてあります。バルブフェース面は45度ですが、実際に当たっている部分の内側に45度面が無駄に残っているのでその部分に30度の角度でカットを入れたということです。最近のエンジンでは最初からこの加工が施してある場合も目にすることが多いですね。
 それと可能な限りの外当たりについてですが、当たり面の外側の際を実質的なバルブ径と考えると、そうする理由がお判りになると思います。もし当たり面がもっと内側にあったとすると、それは実質的にはバルブの小径化ということになってしまいますよね。

DSC00856 シリンダーヘッドの組み立て中です。このタイプのヘッドは設計が丁寧というか過剰品質の印象を受けます。このエンジンの次世代の1098系はこれの発展型ですが、このエンジンを使用して来て過剰品質と判断したところや無駄と判断したところが刷新されているように見えます。自分としてはこのタイプのヘッドは好きですね。


DSC00857 今回使用するピストンです。ピスタルレーシング製のハイコンプレッションピストンですが、今まで使用していたものと全く同じものの新品です。ピストンは寿命が来ると割れますから、今回はそれなりの走行距離だったために念のため新品に交換します。ちなみにピスタル製だから割れるという訳ではありません。純正ノーマルピストンでもサーキット走行を続けていると同じように割れます。
 ピストンヘッドに記してある数字は重量です。0.1グラム単位まで揃っています。ピスタルレーシングの品質管理は非常に行き届いていると言って良いでしょう。おそらく重量の近いものを選別して2個セットにして出荷していると思われますが、メーカーとしての誠意、良心を感じます。

 続きはまた後程です。



  
Posted by cpiblog00738 at 20:41

2023年06月07日

エンジンオーバーホール中 その3

 更新が滞っていましたが続きです。

DSC00842 ミッションの点検中です。こちらはカウンターシャフト、スプロケットが付く方のシャフトです。サーキット走行が主となるとどうしても何かの拍子にガリガリとやってしまうのは避けられませんから、ドッグにダメージが見受けられるギアが見受けられます。今回はスペアの部品取り用ミッションが持ち込まれていますので、2個イチで良い状態のミッションを組み立てています。


DSC00843 こちらはミッションのメインシャフト、クラッチが付く方のシャフトです。ミッションには全部で6個のサークリップが使用されていますが、これらは全て新品に交換します。ツメが付いたグルーブワッシャーに関しては目視でダメージが見受けられるものを交換します。



DSC00844 クランクケースの内部部品を仮組しています。各部品の位置決めは両端に存在するシムによって決定されます。例えばクランクシャフトに関してはピストンがシリンダーのセンターに位置するように左右の位置決めを行います。シリンダーの位置は動かしようがないですから、クランクシャフトの位置を左右のシムを調整することで変化させて丁度良いところにするということです。
 ミッション関係に関しては、ギアが入った時のドッグのかかりしろを調整するために左右のシムを調整します。6速あるギアの全てのドッグのかかりしろが同じようになるように調整します。このような目的で調整が終わると実走行でのシフトフィーリングは非常に良いものとなりますが、派手なシフトミスでシフトフォークを曲げてしまうと一発で台無しになってしまいます。自分にとっては砂上の楼閣のイメージがあります。
 昔全日本をやっていた時の事に話はそれますが、当時は毎回レースの前にエンジンをオーバーホールして考えられる中で最高の状態にしてレースに持っていっていました。そしてレースから帰ってくると当然ながらエンジンや車体は例外なく消耗しています。それをまた最高の状態になるようにオーバーホールして次のレースに持っていきます。この繰り返しがレースです。当時の全日本は年間11戦とかでしたから、物凄いストレスです。一生懸命積み木を積んで、やっと積み終わったところでそれを崩され、また最初から積み直す、の繰り返し。ある意味拷問とも言えます。

DSC00846 さて、シム調整が終わってクランクケースの左右を合わせて組み立てました。エンジン右側の1次減速、オイルポンプ等を取り付けています。






DSC00850 こちらはエンジン左側です。タイミングギア、フライホイール等を組んでいきます。スターターのワンウェイクラッチは特に要チェックですね。せっかく組み上がったエンジンなのにエンジン始動時にワンウェイが滑って始動不良ではシャレにもなりません。



DSC00848 セルモーターも毎回必ず分解して内部の状態を確認します。コミュテーターは必ず磨いて綺麗にしますし、ブラシは必要があると判断すれば交換です。

 問うことで今回はここまで。続きはまた後程です。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:06

2023年05月23日

エンジンオーバーホール中 その2

DSC00834 続きです。クランクシャフトからコンロッドを取り外して点検中です。クランクピンは非常に綺麗で状態に問題はありません。このクランクピンの内部はφ20mm程度の中空になっていてオイル通路とスラッジ溜まりを兼ねています。プラグを外して内部の清掃も欠かせません。



DSC00835 コンロッドです。非常に軽量に製作されており、新品のハーフメタルを含めた1本あたりの重量は359.0gと359.1gです。重量に関しては重量合わせの作業はしていません。それでもこのばらつきですから、非常に精密な管理のもとに製作されているということですね。



DSC00838 取り外したハーフメタルです。さすがに消耗はそれなりに見受けられます。このタイプのコンロッドとハーフメタルは特殊で、一般的なハーフメタルに存在する爪(ツメ)が存在しません。コンロッド側にもツメが収まるスペースは存在しません。とある四輪のレースエンジン屋さんがこれを見て、「これじゃコンロッドの大端の中でメタルが回転したり横方向に動いてしまうから、これは設計のミスか不良品でしょう?」と言っていましたが、実際に使用してみたところそういった問題は今迄皆無です。
 このハーフメタルの新品は全体的に色が真っ黒で何かの表面処理が施されているように見えますから、そのあたりに何かしらの秘密があるのでしょうか?

DSC00840 新品のハーフベアリングを使用してクランクとコンロッドを組み立てたところです。

 続きはまた後程。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:52

2023年05月14日

エンジンオーバーホール中

DSC00823 お客様のエンジンのオーバーホールを行っています。車両は998S、レース仕様のサーキット走行専用車です。このエンジンを製作したのは2014年のことですからもうずいぶん前のことになりますね。2017年にクランクケースにクラックが発生してクランクケース交換を兼ねたオーバーホールを行った履歴があります。エンジンは最高に気合の入ったクランクに2001年型996RS純正の削り出しチタンコンロッド、ピスタルピストンの組み合わせで、φ60mmのフルエキとM197のフルコン等でセッティングをしてあります。TFD所有のシャシダイ上でほぼ150馬力出ているので、998テスタストレッタとしてはかなりのパフォーマンスが出ています。オーナーの方は最近レースエントリーこそしませんが、かなりの頻度で定期的にスポーツ走行に通っていますので、走行距離はかなりのものです。今回エンジンを開けた印象ですが、クラッチAssyは流石に消耗しているものの、その他に関しては状態は良好です。この手のエンジンは持ちが良いですね。ちゃんと組めば10年単位で楽しめます。サーキット走行メインでですよ!そりゃ最近の200馬力のバイクの方がエンジンは速いのは確かですが、タイムが出るかどうかはまた別の問題ですからね。優先順位の一番は乗ってて楽しいってことでしょう。

 それと今日は筑波サーキットでTOTのレースがありました。私は筑波に行きませんでしたが、YouTubeでレースの様子はチェックしていました。TFDのお客さん関係も複数名走っていましたが、皆さん無事にレースを終えたのが確認できて良かったです。現地でお手伝いしていただいたTFD関係者の皆さん、ありがとうございます、お疲れさまでした。私がYouTubeを見ているだろうということで、スターティンググリッドで「名越さ〜ん」と呼び掛けてくれた方々、ちゃんと聞こえてましたよ。ちょっと感動しました。また、TFD関係者だけでなくこのレースに携わっていた方々皆さんにも感謝です。お疲れさまでした。これからも、もっともっとみんなで盛り上げていきましょう。
  
Posted by cpiblog00738 at 19:40

2023年05月05日

近況

DSC00778 連休前半は行楽日和が続き、皆さんお休みを満喫されたのではないでしょうか。私のケガはまだ完治とは言えませんので多少の不具合はありますが、問題無く普通に仕事に復帰しています。仕事が遅れてご迷惑をおかけした方々、誠に申し訳ありませんでした。また多くの方々にご心配をおかけしてしまい、深く反省しております。例年のことですが連休中は特にお休みを取ることは無く、地味に営業中です。何かあればお気軽にご連絡ください。  
Posted by cpiblog00738 at 12:08

2023年02月12日

4速が無い?!

 とあるコーナーを立ち上がって全開で加速し、シフトアップしていきます。2速から3速へ。次に3速から4速へ。しかし4速に入らず空ぶかし状態に。慌ててもう一度シフトアップ操作をすると5速に入ってしまいます。そこで4速に入れようとしてシフトダウンをするとギアが入らずにニュートラル状態に。そこでもう一度シフトダウン操作をしてみると3速に入ってしまいます。おかしいと思ってシフトをガチャガチャやっているとだんだん状況が飲み込めてきます。出た結論は「4速が無い!」です。

DSC00413 原因はこれです。シフトドラムの溝が割れてしまっています。こうなるとシフトフォークが4速の位置まで移動しなくなります。これは SUPERBIKE1198 系で稀にですが発生するトラブルです。おそらく街乗りでは発生しないと思われますが、サーキット走行の頻度が高くシフト操作の入力が強い場合に発生します。
 勿論対策は部品交換しかありません。それも現在入手できる新品への交換が推奨されます。部品取りエンジンから外した中古品は勿論問題無く使えますが、可能であるならば新品が進めです。

DSC00480 理由は画像の通りです。下側が現行の新品ですが、よく見ると軽量穴の径が小さくなっています。つまり今迄割れやすかった部分の肉が厚くなっているのが分かると思います。部品番号は変更されておらずそのままですが、現行部品はちゃんと対策が施されているということですね。
  
Posted by cpiblog00738 at 09:25

2023年02月07日

Super Mono シャシダイセッティング

 DSC00678 スーパーモノをシャシダイ上で走らせて燃調のセッティングを取り直しました。このバイクは筑波サーキットで1回、FISCOで2回、実際に走らせましたが、どうひいき目に見ても燃調はかなり外れていると言わざるを得ない状態でした。特にコーナーの立ち上がりでの加速が鈍く、場合によってはストール寸前という状況に陥ることも珍しくなかったので、これは何とかしなければいけないと思い続けていました。
 しかし空燃比を計測するためにはエキパイに空燃比センサーの取り付けボスを取り付ける必要があります。でもオリジナルのエキパイに溶接してセンサーボスを取り付けるのには抵抗がありました。オリジナル状態を保ちたかったからです。そこでエンジン真下付近のエキパイの接続部にセンサーボスが付いたアダプターのパイプを製作して割り込ませるという方法でその問題をクリアしました。

DSC00679 そしてまずは現状のままの状態でシャシダイ上で走らせて取れたデータがこれです。空燃比、酷いことになってましたね。コーナー立ち上がりはおそらく5,000rpm付近だと思われますが、そこがこんな空燃比だったら失速するのも無理はありません。逆にこんな空燃比でもバイクはそれなりに走るので、それはそれでビックリです。


DSC00680 何度かマップを書き直して得た結果がこのグラフです。2気筒ではなく単気筒なので燃調マップの書き直しが早く進みます。あまり細かく詰めてもゲインは少ないので適当なところで終わりにしました。(実はこういったセルフスターターの無いバイクの場合、シャシダイ上でのエンジン始動にはかなりの困難が伴うのでそれも理由の一つです)
 最高出力は64〜65馬力というところでした。最高出力を発生する回転数は9,000rpm弱なので、やはりそんなに高回転型のエンジンではありませんね。550ccの単気筒でボアストロークが100x70mmですから妥当なところでしょうか。オリジナルファイルの回転リミッターは11,000rpmで介入しますが、9,000rpmを超えると明らかに馬力は落ち込んでいきます。
 今年も最低1回はこのバイクでレースに出ようと考えていますが、あまり高回転まで回さずに優しく運転するように心がけようと思います。

  
Posted by cpiblog00738 at 22:24

2022年10月03日

996RS TFD号

 夏休み中に修理とオーバーホールを終えた996RS(エンジンは1098R)ですが、先日FISCOにて完成検査を行い、概ね問題が無いことを確認していました。その後ファイナルの見直しその他の細かいセッティングの変更を行い、今日その結果の確認のために再度FISCOを走らせてきました。それと走行のもう一つの目的は、先日の筑波TTの決勝レース中に転倒して怪我をした自分の体がサーキット走行出来るレベルまで回復しているかどうかの確認でした。

DSC00302 今日は天気も良く初秋を感じさせる良い天気にも恵まれ、走行はつつがなく終了しました。タイムも目標だった1分49秒切りを達成し、自己ベストを更新できました。非常に際どいタイムですが、百分の一秒差でも49秒00と48秒99では自分としての評価が全く違うんですよね。筑波で言えば1分0秒00と59秒99では全く価値が違うのと一緒です。


DSC00303 最高速もかろうじて300km/h越えを達成しました。最近のバイクは高性能化が進み過ぎているのでFISCOでの300キロ越えは当たり前に聞こえてくる数字ではありますが、21年前の車体に14年前の2気筒エンジンですから、非常に立派な数字だと思います。速度の計測も競技用のAIMのダッシュロガーでGPSによる計測ですから、おそらく掛け値なしの数字だと認識して良いと思います。まあ今時純正スピードメーターの数字を信じて浮かれる人も少ないでしょうし、GPSによる速度の計測でさえ製品によっては純正スピードメーター並みにサービス満点の数字を表示するものもあるようですから、どっちのバイクが速いかを比較しようと思ったら実際のところFISCOの直線で並んで走って比べてみるしか確認のしようがないでしょうね。
 
  
Posted by cpiblog00738 at 19:47

2022年09月03日

バルブ

DSC00166 先日ブローしたエンジンのヘッドからバルブを取り外しました。そのままゴミ箱へと思ったのですが、その曲がり方にちょっと芸術を感じたので写真を撮ってみました。
  
Posted by cpiblog00738 at 14:22

2022年08月29日

エンジンブロー

 お客様のエンジンが筑波サーキット走行中にブローアップ。私もその場所に居合わせており、急遽バイクを持ち帰り修理となりました。パッと見てオイル受けのカウルに冷却水が溜まっていて、ふとエンジンの下から上を見上げると前側気筒のシリンダーが割れている、、、。出場予定の筑波TTのレースまで約2週間ちょっと。果たしてエンジンの中はいかなる状態になっているのでしょうか?

DSC00139 エンジンを降ろしてスタンドに載せ、まずはベルトカバーを外すとこんな状態です。前側気筒のカムシャフトがロックして回らなくなったようで、タイミングシャフト周辺のベルトの山が無くなってしまっています。カムプーリーの上にベルトの破片が乗っかっています。



DSC00141 前側気筒のヘッドを外すと燃焼室はこんな感じです。ピストンが派手に当たってバルブは4本とも曲がっているようです。






DSC00143 ピストン側はこんなです。







DSC00146 シリンダーを取り外すとシリンダーにピストンが付いてきてしまいました。ピストンがピストンピン穴から上下に分かれてしまったようです。






DSC00149 クランクケースの方を覗くと、コンロッドにピストンピンが付いたままです。






DSC00150 シリンダーは縦に割れています。







DSC00153 シリンダーの内壁です。結構派手にやられちゃってますね。中央のキズはコンロッド小端部によるもの、左右はピストンピンの両端によるものでしょう。その衝撃でシリンダーが縦に割れてしまったということです。





DSC00163 ピストンです。クランクケース内に散乱していた主な破片も集めてみました。






 状況が判明したところでどのような方向性でレースに間に合わせるのかを検討したところ、部品取りのエンジン部品を使用してこのエンジンを修理することになりました。この時代のドゥカティエンジンの凄いところはこんな壊れ方をしても結構使える部分が多いということです。自分はそれが当たり前だと認識しているのですが、他メーカーのエンジンの事情を聞くとどうもそうでも無いようで、こんな壊れ方をしたらエンジンは全損で何も使えないのが普通らしいです。
 で、概要ですがクランクは計測したところ特に問題無いので再使用。前側気筒のコンロッドは流石に曲がりがあるので中古品に交換。壊れたピストンとシリンダーは中古品に交換。前側気筒のシリンダヘッドは丸ごと中古品に交換。そんな感じで作業しました。
 つつがなく作業は終了して、先程シャシダイに載せて10分間ほど検査試運転を行い不安要素も払拭しました。あとはこのエンジンにレースで頑張ってもらうだけです。

  
Posted by cpiblog00738 at 17:38

2022年08月25日

1098Rエンジン修理オーバーホール その2

DSC00111 さて、懸念のクランクピンの状態です。1本のクランクピンに2本のコンロッドが並んで取り付けられているわけですが、画像の左側がトラブルが発生した側、右側が無事だった側です。タラブルが発生した側は無事だった方と比較すると明らかにトラブル発生の痕跡が認められます。磨く程度で何とかなるのでしょうか?


DSC00124 磨いてみたところ何とかなりました!目視で無事だった右側と見分けがつかない状態です。ピン径を計測しても寸法変化は認められません。ちなみに使用した研磨剤は一般に販売されている金属磨きのピカールですから、それでピンが減るようなことは考えにくいです。ピンに焼き付いた汚れが落ちたという感じでした。これでメタルの交換のみで対応できそうです。良かったです。


 ちなみにこれだけの軽傷で済んだのはとにかく異常を感じた瞬間にエンジンを止めたからにほかなりません。あと1周の走行が致命傷になっていた可能性は非常に高いです。
 以前実際にあったTFDのベテランのお客様の事例ですが、筑波の最終コーナーの立ち上がりで全開にしたら一瞬だけどエンジンブレーキがかかったような感触があったので即走行を中止し、エンジンを開けてくれ、とリクエストされたことがありました。エンジンを開けた結果、今回と全く同様な結果でクランクピンを磨いてメタルの交換をしたのみでエンジンが復活しました。
 それとは逆に、走行中に違和感を感じたにもかかわらず、確認のためと称して次の走行枠に出走してエンジンに止めを刺した方もいらっしゃいます。
 確かにエンジン損傷の復旧には高額な費用が必要になりますから、感じた違和感は気のせいでエンジンに問題は無いと信じたい気持ちは非常に良く判ります。実際にその違和感は気のせいであることもありますしそうでないこともあります。本当にトラブルが発生していればそのまま走らせるとエンジンに止めを刺すことになりますが、実際はただの気のせいだった場合は無駄な出費だったということになります。正しい判断は難しいです。
 そう考えてみると何となくサーキット走行のリスク管理にも似ていますね。あそこでもう少し無理をすればタイムアップしそうと思える場合、それを実行して上手く行けばタイムアップ、上手く行かなければ転倒してバイクが壊れる。結局は自己責任ということになりますが、自分の場合は違和感を感じたら即走行中止です。走りの方は結構転ぶのでそうでは無いみたいですが。(笑)ちなみにどのようなものを違和感と感じるかというと、自分の場合は「いつもと違う何か」です。

DSC00096 ちなみにこれは同じく1098Rのクランクですが、エンジンがガラガラ音を発するまで走らせてしまったものです。画像の左側は正常、右側がトラブルが発生した方です。ピンの直径を計測するとトラブルが発生した側は部分的に0.09mm程度削れて小さくなってしまっていますから完全にNGです。0.09mmという値はとても小さいものと感じるかもしれませんが、本来のメタルクリアランスは0.05〜0.06mmですから、そう考えると理解していただけると思います。こうなってしまったらもう飾り物にするしかありません。もしくはゴミ箱行きです。何らかの方法で再生も可能な場合もあるでしょうが、サーキット走行やレースでの使用には全くお奨めできません。それをやって派手にブローして莫大な出費の追い打ちを食らった例を見たことがあります。自分的にはミュージアム展示してあるようなバイクでたまに観客の前でエンジン始動のデモンストレーションを行う程度であればそれもアリかなと思いますが。

IMG_2136 ちなみにメタルってこんなになってしまいます。左手前に写っているものが本来の姿ですが、それと比較してみて下さい。
  
Posted by cpiblog00738 at 07:50

2022年08月23日

1098Rエンジン修理オーバーホール その1

 自分がレースで使用している996RS01の車体に1098Rのエンジンを載せた車両のお話です。今年のレースもこの車両を使用する予定でしたが、今年(2022年)のシーズンが始まった3月の筑波サーキット初走行時にエンジントラブルが発生し、それからしばらくの間放置状態になっていました。
 その時の状況ですが、コースインして13周目の最終コーナーをスロットル全開で立ち上がったところ通常と異なる違和感のある振動を一瞬だけですがエンジンから感じました。しかしその後1コーナーに侵入しインフィールドを走行すると何の違和感もありません。その時は先程の症状は単なる気のせいかとも思いましたが、そのまま2ヘアをクリアして立ち上がりでスロットルを全開にしたところ、先程と全く同じ違和感を感じました。その時点で即走行を中止しピットイン。持ち帰ったバイクは仕事のスケジュール上触ることも出来ずそのまま保管状態となりました。
 それから半年近く経過し、やっと仕事が落ち着いてきて時間が取れるようになったので、お盆休みを利用して原因究明と修理オーバーホールを行うこととなりました。

DSC00106 エンジンを降ろして分解しています。この時点まではクランクケースにクラック発生を疑っていました。エンジンから振動が発生した場合、そのパターンの頻度は非常に高いです。ところが点検してもそれらしいものは発見できません。こんな筈では、、、という感じなのですが。



DSC00113 そこで何気なく取り外したエンジン右側のクラッチカバーを見ると、おかしなことになっているのを発見しました。クランクシャフトの右端を支持しているメタルブッシュが手前に飛び出してきています。この場所はクランクシャフトへオイルを供給するオイルラインになっている肝心要の部分です。ブッシュの状態は欠損部分も有り、ボロボロです。画像は既にオイルシールを取り外した状態ですが、ブッシュがオイルシールを突き破って手前に飛び出していました。当然オイルシールも状態はボロボロです。クランクケース側のクランクシャフトを支持しているボールベアリングに問題が発生してクランクシャフトに振れが発生したのが原因ではないかと考え、各部を点検しました。しかし意外ですが特に問題はありません。

 そこでとりあえずクランクケースを分解してクランクシャフトを取り出しました。クランクにコンロッドを組んだままの状態でコンロッドを動かしてみると縦方向、横方向共に過大なガタも無く違和感はありません。そこでコンロッドを取り外そうとコンロッドボルトを緩めると、片側のコンロッドの動きが悪くなりました。

DSC00108 コンロッドを取り外してみるとこのような状況になっていました。動きが悪くなった方(前側気筒)のメタルにトラブルが発生しています。コンロッドボルトが締まっている状態ではコンロッド大端部の締め付けによってメタルの内径は真円を保っていたのですが、ボルトを緩めてそのタガが外された瞬間にメタルが焼けた内側に反ってコンロッドの動きが悪くなったということです。


DSC00109 メタルを観察すると大きめの異物の混入がトラブルの原因ではないかと疑われます。異物は先述のクラッチカバーのブッシュもしくはオイルシールの破片でしょう。問題無いもう片方のコンロッドのメタルの状態は特に問題ありません。
 こうなるとトラブルが発生した方のコンロッドが再使用可能かどうかが問題ですが、今回は問題無いと判断しました。経験上メタルがコンロッド大端の中で回転してしまうとコンロッド側も摩耗してしまいNGですが、今回はそうなっていませんでした。

 そして何より一番の懸念はクランクシャフトのクランクピン部分です。1098Rのクランクシャフトは既に入手不可という状況になっていますので、既にお金で解決できる問題ではありません。
  
Posted by cpiblog00738 at 10:19

2022年08月15日

工具

DSC00104 たまには工具の話です。これは片目片口スパナ、コンビネーションスパナなどと呼ばれているもので、サイズは10mmです。Snap-on製のOEXM10というモデルです。現在においては所謂旧ロゴと呼ばれるようになっている旧タイプですが、私が入手した当時の新品はこのタイプでした。少しでも自分でバイクを触る人であれば、このタイプのこのサイズは非常に使用頻度が高い工具であると解りますね。


DSC00105 全ての工具にという訳ではないですが、スナップオンの工具には製造年が記されている場合があります。この2本のスパナの場合、文字列の中央に上のスパナには「2」、下には「4」という数字が見えます。これの意味するところは1982年製と1984年製ということです。年代によって数字の字体が決まっていて、画像のこの数字の場合は1980年代の数字ということになります。例えば1990年代であればまた別の字体で数字が記されているのでそれと判別できます。ネットで調べてみると詳しい解説を目にすることが出来ると思います。
 例えば「2」の方は自分がこの業界に入ったばかりの時に購入した工具のうちの一つです。値段も覚えていますが、確か1本¥5,500-だったと記憶しています。今考えても非常に高価ですね。当時のスナップオンのスパナは小さいサイズでも¥5,000-くらい、大きいサイズだと大雑把に言って1万円くらいというイメージでした。10mmサイズは使用頻度が非常に高いのでスペアが必要と考えて2年後に追加購入したのが「4」の方です。
 使用し始めてから40年、そう考えると凄いですね。このサイズは仕事をしていればほぼ毎日必ず使用します。ピカピカだったメッキもそれなりに曇り始めてはいますが機能的に全く問題無いままですし、メッキの剥がれなどは皆無です。この頃のメッキは材質が良いのでしょうね。裏を返せば非常に環境に対して悪影響を及ぼすようなメッキ処理が許されていた時代だったということもあるのでしょうか?自分的にはこういった類のものが本当に良いモノ、本物と呼べるもの、だと思います。面白いのはこの時代のスパナに関して言えば同じ品番でも一つ一つ微妙に形状が異なります。職人さんが一つ一つを手作業で削って整形していたのだと思われます。手持ちの中にも中央のバーの部分が極端に薄く仕上げられていてやたら細身でスマートな個体等もあり、とても興味深いです。
  
Posted by cpiblog00738 at 13:50